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全知の脇役令嬢は不幸な未来をぶっ壊す  作者: 楠ノ木雫


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第二十八話 遊戯 ②


 今回参加していない貴族達は、私が知っている中では2組。両親であるアルベール子爵夫妻と、今騒がれている密輸事件の犯人とされているイシス子爵家達。ブランシス大公邸に滞在している兄妹達には参加せず待機しているよう言ってある。


 そして、私の両親達が来ていないことを喜ぶ人がいる。それは……



「これはこれは、ご機嫌麗しゅう、大公殿下。それと……夫人」


「ごきげんよう」



 白薔薇の茶会で私に喧嘩を売った夫人、ワレトミー夫人と、ワレトミー侯爵。一体どの面下げて話しかけてきたのかしら。周りの目がなければ、もうすでに夫人の顔面をぶん殴っているところね。もしそうなっていたとしたら、きっとお隣の旦那様は便乗して悪乗りするでしょうけど。


 そして、周りは私達から距離を取るようゆっくりとそれとなく離れていく。あのお茶会の事が社交界で噂になっているのだから、飛び火しないよう離れるのは当たり前の事ね。


 けれど、声をかけてくる勇者が一人。



「大公殿下、大公妃殿下にご挨拶申し上げます。ご機嫌麗しゅう。そして……ワレトミー侯爵、ご夫人、こんばんは」



 ニコニコとした笑みでこちらを見る、ラユース辺境伯。今日も紳士服がとてもよく似合ってるわ。


 それよりも、こんばんは、ですか。確かに辺境伯と侯爵は同じような地位ではあるけれど……さすがね。


 こうして談話をしているけれど、辺境伯と侯爵の仲は表向きは良好のように見える。そう、表向きは。



「そういえば……イシス子爵の姿が見えないのですが、今日は不参加なのですか?」



 それを言い出したのは、ラユース辺境伯。それを分かっていてのこの発言なのだから、一体何を思っているのかしら。


 そして、その問いにさも内緒話を得意げにするかのような様子で答えたのは、ワレトミー侯爵。



「おや、ご存じないのですか。今とある事件の犯人として取り調べ中なのですよ」


「取り調べとあっては参加は難しいでしょう。あら、そういえばもう一組顔が見られない方がいらっしゃいますね。確か……アルベール子爵夫妻、かしら」



 ワレトミー夫人は、そう言いつつ私に視線を向けた。あのお茶会同様、勝ち誇ったかのような視線を向けてくる。まさか王太子殿下主催のパーティー中に、しかも変人大公殿下の見ているところで私を馬鹿にするような事をするとは……呆れを通り越して賞賛を贈りたいわ。


 あとは、この危機感のなさね。怖いもの知らずにもほどがある。



「大公妃殿下のご実家なのですから、さすがにイシス子爵のように事件を起こして取り調べをされているなんて事は……ないわよね?」


「あぁ、実は父がぎっくり腰をしてしまったようなのです」



 その一言で、まるで時間が止まったかのようにその場が静まった。このやり取りを周りも聞いていた事は分かってる。


 あの噂があったのだから、アルベール子爵夫妻が来ない理由はもしや……と思っているでしょうが、ぎっくり腰だなんて思いもしなかったでしょうね。


 まぁ、ぎっくり腰、とまではいかないけれど、腰が痛い事は嘘ではない。その原因も、私は嫌というほど分かってる。



「さすがに、王太子殿下方の目の前でよろけた姿をお見せするのは忍びないと欠席なさったそうですよ。はぁ、昔から無理や無茶をしていらしたから、本当に心配で心配で。実は、絶対に出席すると言い出してしまったから止めてくれと母からお願いされて、私がようやく止めたのですよ」


「へぇ、ぎっくり腰……本当に? ぎっくり腰と言うけれ……」


「お義父上は本当に努力家で尊敬するほどだが、頑張りすぎるところが心配だと思っていたんだ」


「っ……」



 いきなりディオンが言葉を遮った事に、ワレトミー夫人は驚いていた。ここにいらっしゃるのだから話し出す可能性はあったでしょうに。そこまでビックリするようなことかしら。



「そうですね。最近も色々とストレスが溜まってしまっていて、胃薬を買ったらしくって……本当に心配だわ……」


「っ……」



 一体そのストレスとは? とでも言いたげな視線を、ワレトミー夫人に向けた。これで分かっただろう。この噂の元凶はお前だと分かってるぞ、とバレていることが。



「だから言っただろう、私がお義父上のところに行って仕事を肩代わりすると」


「それはダメですよ。お父様が気を遣ってしまいます。新婚なんだから、と耳に胼胝(たこ)が出来るほど聞かされたではありませんか」


「それもそうだが……」



 こんな私達の会話に、ワレトミー夫妻はもちろん、周りの貴族達も驚愕している。それもそうだ、あの大公殿下が誰かを心配するだなんて、絶対にないと思い込んでいたはずだから。現に私もそう思っている。


 まさかの、嫁の父親を心配する変人大公の出来上がりね。



「私も、アルベール子爵が体調不良という事はお聞きしていましたよ。ですがまさか、ぎっくり腰とはねぇ。私も子爵と同じような歳ですから、気持ちは分かりますな」


「もう歳なのだから、と何度言った事か……本当に困ってしまいますわ」


「はは、ですが心配してくださる方がいる事は嬉しい事でもありますよ。これも一つの家族愛、と言ったところでしょうね」



 これについても、ワレトミー侯爵は驚いた事だろう。私の父であるアルベール子爵が、ラユース辺境伯と友好関係を築いているのではないかと匂わせる会話だったからだ。何故、ラユース辺境伯がアルベール子爵の体調不良を知っているのか、と思った事でしょうね。



「ワレトミー侯爵もお気を付け下さい。もう若いわけではないのですから。ぎっくり腰、結構堪えますからな」


「そ、そうですな……」


「あら、ラユース卿も?」


「お恥ずかしながら何回かやってしまって、そのたびに息子に怒られてしまいましてな。はっはっはっ」


「ラユース卿はまだまだ現役でいて下さらないと困りますよ。お体にはお気を付け下さい」


「大公妃殿下にそう言ってくださるとは光栄ですな」



 ただの元下位貴族令嬢が、上位貴族の中でも重要な爵位となる辺境伯の当主とここまで仲良く話が出来ている。このままでは、マズいのではないだろうか。そう思っているのかしら。



「ですが、困りごとは尽きないものではないですか。聞きましたよ、ワレトミー侯爵。そちらの領地では海賊船(・・・)の件でお困りだと」


「あ、あぁ、そうなのですよ。頭を悩ませておりまして……」



 あら? 海賊船?


 私達が話している最中に入ってきたかと思ったら……流石、仕事が早いわね(・・・・・・・)



「貿易業を営んでいる私にはよく分かります。品物に手を出されでもしたら一大事ですからな。もしよろしければ、微力ではありますがお手伝いいたしましょうか」


「っ……いえいえ、ラユース卿のお手を煩わせるようなことは……」


「まぁまぁそう言わずに」



 ワレトミー侯爵領は海に面していて、たびたび海賊が荷を積んでいる船を狙っては荷を奪われてしまうらしい。そう……らしい(・・)



「まぁ、そうでしょうね。海賊船の中を見られてしまえば大変ですからねぇ」



 ラユース卿のその一言で、ワレトミー侯爵は顔をひきつらせた。けれど、さすが長年上位貴族のご当主を務めてきた方。すぐに落ち着きを取り戻したように見え、静かに一言ラユース卿に返した。



「……どういう事ですかな」


「イシス子爵の取り調べで、まだ分かっていない事が一つございましてな。それは、もう一つの密輸ルート」


「……」


「子爵家ではあっても他より資産のある一族ですから、密輸ルートを確保するなどの費用は用意出来るでしょう。ですが、見つかっているルートは、密輸ルートにしてはあまりにも単純。調べればすぐに分かってしまう。まるでわざとしているようなものだ。なら、そちらはダミーで他にもルートがあるのでは?」


「……」


「たとえば……――海」



 周りがざわつき始める。それもそうだ、この国で港があるのはワレトミー侯爵領くらいで、イシス子爵領と隣り合わせなのだから。



「……何が言いたいのですか」


「取り調べを受けるべきは、イシス子爵ではなく貴方だという事です」


「それだけで私が容疑者にあげられるとは、困ったものですね」



 ワレトミー侯爵はしらを切るつもりのようだけれど、ラユース卿が逃がしてくれるとでもお思いなのかしら。


 王太子主催の婚約祝いパーティーの会場でこの話を出してくるのだから、そんなわけないでしょう。



「それだけではありませんよ。もうすでに海賊船を一隻取り押さえていますからね」


「っ!?」


「とても素敵な〝エリサベト〟がいくつも入った荷が見つかりましたよ」



 〝エリサベト〟


 その宝石の名が出たことにより、周りはどよめき出した。


 エリサベトは赤く光沢のある美しい宝石ではあるけれど、加熱すると有毒物質が出てくるため採掘する事を禁じられている宝石の一つ。それが理由で希少価値が高く、外国の宝石コレクターの中で密かに人気を誇っている。



「今、関税の見直しが始まりましたからね。焦ってしまいましたか。ですが、身分が下の家に押し付けるのは上位貴族としては褒められるものではございませんな」


「い、一体何の……」


「しらを切るつもりですか。ですが、その言い訳は私ではなく……」



 そう言いつつも、ラユース辺境伯は視線を別方向に向けた。同じようにワレトミー侯爵も視線をその方向に向けると、顔を強張らせ苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべていた。



「ワレトミー侯爵、夫人。ご同行願えますか」



 近づいてくる足音の主が、私達の話に割り込みそう言った。ガタイのいい、我が国の近衛騎士団の制服にマントを付けた男性。それは……近衛騎士団長。ラユース辺境伯があらかじめ話を付けていたのね。


 彼の登場に驚愕したのか、身震いをさせているお二人。けれど、ご夫人は何かに気が付いたらしい。私をキッと睨みつけては……



「こ、この……下位貴族の小娘がっ!!」



 その荒げた言葉を、この広い会場に響かせた。これは、私の仕業だとすぐに分かったようね。


 まぁ、少し考えれば分かる事よね。イシス子爵家のご令嬢は、メルリアナ嬢の脇役。結婚する前だった子爵令嬢の私と、同じ立場だったのだから。


 どうせ仲間意識から来るものだとでも思っているのでしょうね。


 小説では、同じようにワレトミー侯爵はお縄に付いた。けれど、婚約祝いパーティーよりもっと先で行われる。それまでイシス子爵家家族はありもしない罪を背負わされ、子爵は牢屋に、その他の家族は社交界から消える事になる。


 これが無実だと証明されても、彼女達は二度と社交界に出てくる事はなくなった。


 彼女達がどうなったのかは書かれていなかったけれど、きっと幸せとは程遠い人生だったはずよ。


 同情心があったわけではない。この罪のせいで私の方にも影響が及んでしまうと判断したからだ。それに、その相手がワレトミー夫妻だった。理由なんてそれくらいだ。


 知っているのだから助けてあげなきゃという正義感なんて、私は持ち合わせていない。



「小娘? 小娘とは、私の事かしら」



 コツ、コツ、と靴を鳴らし夫人の前に歩み寄った。そして、にっこりと微笑む。



「ここまで来てまだ懲りないとは、驚きだわ。……あぁ、もしかして、三歩歩いて忘れる鶏なのかしら」


「なっ!?」


「では、お元気で。鶏さん」



 ざわつく会場内で、ワレトミー夫妻は近衛騎士団長達によって退場させられてしまった。


 これで、今度は社交界にワレトミー夫妻のうわさが飛び交うでしょうね。リトナ夫人の顔が見られないわ。


 ラユース卿は、このパーティーの主催者である王太子に謝罪を入れているけれど、私は入れるつもりはさらさらない。私はただイシス子爵家の子息達にラユース卿を会わせただけだもの。まぁ、ワレトミー夫人の行動を見て私の仕業だと気が付いた貴族達はいるでしょうけど、ね。



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