↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/135

番外編 作者、海を渡る(ので少し休載)

「――というわけで」


 良樹は、妙に真面目な顔で腕を組んでいた。


「しばらく、本編の更新を休むらしい」


「いきなり何よ」


 リシアが半眼になる。


「今回はそういう回だ」


「どういう回よ」


「お知らせ回」


「また?」


「まただ」


 カレンが、おずおずと手を上げた。


「あ、あの……」

「どうして、お休みするんですか?」


「作者がマレーシアに行く」


「まれーしあ?」


 カレンが首を傾げる。


 クラリスも聞き覚えのない言葉らしく、静かに良樹を見る。


「また、私たちの知らない地名ですね」


「ああ」

「俺がいた世界の国だ」


 良樹は頷いた。


「仕事で、しばらく向こうへ行くらしい」


 リシアが眉を上げる。


「仕事?」


「仕事」


「作者に本業なんてあったの?」


「あるわ!」


 良樹が即座に突っ込んだ。


「趣味で百万文字以上書いてるだけで、普通に働いてんだよ!」


「普通に働いてる人は、趣味で百万文字以上書かないと思うわ」


「そこは俺も否定しづらい」


 良樹は咳払いをした。


「とにかく」

「八月末からしばらく海外出張だ」

「再開は九月下旬の頭くらいを予定してる」


「半月くらい?」


「まあ、そんなところだな」


 カレンが少しだけ心配そうにする。


「では、その間……」

「私たちは、どうなるのでしょう?」


「止まる」


「止まるんですか!?」


「たぶんな」


 良樹はカレンを見る。


「このまま」


「このまま!?」


 カレンが自分の姿勢を確認する。


「そ、そんな……」

「もう少し楽な姿勢にしてから止めてもらえませんか?」


「知らねえよ」


 クラリスが静かに手を上げた。


「良樹くん」


「何だ」


「止まっている間も、私たちの意識はあるのでしょうか」


「その設定を掘るな」

「怖くなる」


「もし意識があるのでしたら」

「その間、良樹くんとゆっくり過ごせるということでしょうか」


「俺も止まるんだって」


「…………」


「クラリス?」


「作者さん」


 クラリスは真顔になった。


「なるべく早く帰ってきてください」


「理由が個人的すぎるだろ」



   ◇



「でも」


 リシアが腕を組み直した。


「作者、話は書き溜めてるんでしょう?」


「ああ」


「だったら、それを投稿すればいいじゃない」


「そういうわけにもいかねえらしい」


「なんで?」


「挿絵だ」


 三人が良樹を見る。


「本文のストック自体はある」

「それなりにな」


「ただ、出張前の仕事や準備もある」

「その上で、いつものように一話ずつ挿絵を作って、投稿できる形まで持っていく時間が取れねえ」


 カレンが小さく頷いた。


「お話だけなら、あるんですね」


「ああ」


「書けなくなったとか」

「続きがなくなったとかじゃねえ」


「だったら、文章だけ先に出したら?」


 リシアが言う。


「本人が嫌なんだと」


「面倒くさいわね」


「俺に言うな」


 クラリスが少し考える。


「いつもと同じ形で、皆さんに読んでいただきたいということですね」


「まあ、そういうことだ」


 良樹は頷いた。


「だから、話も挿絵も揃った状態でまた出せるようになるまで」

「いったん投稿そのものを止める」


「なるほど」


 カレンがほっとしたように微笑んだ。


「では、続きはちゃんとあるんですね」


「ある」


「結構ある」


「そこは安心していい」



   ◇



「…………」


 リシアが良樹を見ていた。


「何だよ」


「いや」


「本当に、挿絵を作る時間がないの?」


「ああ」


「本当に?」


「本当だって」


 クラリスが静かに口を開いた。


「ですが」


「最近、作者さんは別の絵を作っていませんでしたか?」


 良樹の目が、一瞬だけ泳いだ。


「…………」


 カレンがそれを見逃さなかった。


「良樹さん?」


「何だ」


「今、目を逸らしました」


「逸らしてねえ」


「逸らしました」


「気のせいだ」


 リシアの目が細くなる。


「何作ってるのよ」


「……里帰り編の」


「里帰り編の?」


「仮想番外編」


 三人が首を傾げる。


「仮想?」


「ああ」


「本編で実際に起きたことじゃねえ」

「もし、こういうこともあったら、みてえな遊びだ」


「それで?」


「……水着」


 沈黙。


「水着?」


 リシアが聞き返した。


「三人の」


 さらに沈黙。


 カレンの顔が、じわじわと赤くなっていく。


「わ、私たち三人の……?」


「ああ」


「水着姿を……?」


「ああ」


 クラリスは比較的冷静だった。


「以前の里帰りを元にした、仮想の番外編ということですね」


「そういうことだ」


「で」


 リシアが続ける。


「それだけ?」


「…………」


「良樹?」


「気に入ったらしい」


「何を」


「その水着のやつを」


「それで?」


「三人それぞれの」

「グラビアみてえなもんまで作り始めた」


「挿絵を作る時間は?」


「ない」


「グラビアを作る時間は?」


「……息抜きくらい必要だろ」


「なんであんたが作者の肩を持つのよ」


「持ってねえよ」


「持ってるじゃない」


「出張前なんだから、そのくらい――」


「あの」


 カレンの声だった。


 良樹が振り向く。


「何だ?」


 カレンは、じっと良樹を見ていた。


 普段なら少し伏せられている青い瞳が。


 今日は妙に真っ直ぐ良樹を捉えている。


「良樹さん」


「お、おう」


「先ほどから」

「作者さんのことを、随分とかばっていませんか?」


「…………」


「そういえば」


 クラリスも良樹を見る。


「不自然ですね」


「別に不自然じゃ――」


「何かあるわね」


 リシアまで一歩近づいた。


 三方向から視線が刺さる。


 良樹は少しだけ後ずさった。


「いや」


「まあ」


「何というかだな」


「何よ」


「…………」


 良樹は観念したように息を吐いた。


「三人の水着グラビアが完成したら」


「したら?」


「いの一番に」

「俺が貰うことになってる」


「「「…………」」」


 沈黙。


「買収されてるじゃない!!」


「人聞き悪いな!」


 良樹は反射的に言い返した。


「取引だ!」


「もっと悪いわよ!」


「違う!」


 良樹は胸を張った。


「俺は夫として貰う権利――」


 一瞬。


 考える。


「いや」


「受け取る義務があるだろうが!」


「ないわよ!!」


「ぎ、義務なんですか!?」


 カレンまで目を丸くする。


「当たり前だ!」


「俺の妻三人の水着グラビアだぞ!」


「完成したのに夫の俺が受け取らねえでどうする!」


「それは――」


 カレンが言葉に詰まる。


「…………」


「カレン!」


 リシアが振り向いた。


「納得しかけないで!」


「で、でも」

「良樹さんが、私たちの水着姿をそんなに欲しいと思ってくださるのは……」


 顔を赤くして俯く。


「少し、嬉しいというか……」


「カレン!」


 クラリスも静かに頷いた。


「私も、そこについては同意します」


「クラリスまで!?」


「夫が妻の姿を欲しがってくださること自体は」

「喜ばしいことだと思います」


「そうだぞ!」


 良樹が勢いづいた。


「もっと言ってやれ!」


「ただし」


 クラリスが良樹を見る。


「それと、作者さんの肩を持つための取引をしていたことは別問題です」


「…………」


「ほら!」


 リシアが勝ち誇ったように指を突きつけた。


「やっぱり買収されてるじゃない!」


「だから違うって!」


 良樹が一歩下がった。


 その時だった。


 懐から。


 何かが滑り落ちた。


 ――はらり。


 一枚。


 ――ではなかった。


 二枚。


 三枚。


 良樹の懐から、色鮮やかな三枚の写真が床へ散った。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 四人の視線が。


 床へ落ちたそれに集まる。


 そこには。


 水着姿で海辺の岩場に腰掛け、こちらを見つめる――


 リシア。


 カレン。


 クラリス。


 三人それぞれの姿があった。



【挿絵】



「待て」


 良樹が言った。


 誰も何も言っていないのに。


「まず説明させろ」


 リシアの目が、ゆっくり良樹へ向いた。


「……何を?」


「サンプルだ」


「まだ何も聞いてないわよ」


「…………」


 カレンが、おそるおそる写真を覗き込む。


 そして。


 一瞬で顔を真っ赤にした。


「こ、これ……!」


 クラリスも一枚を拾い上げる。


「なるほど」


「何がなるほどだ」


「先ほどから良樹くんが作者さんをかばっていた理由が」

「大変よく分かりました」


「違う!」


 クラリスは写真へ視線を戻す。


「良樹くん」


「何だ」


「こちらは、仮想番外編の挿絵なのですよね?」


「……元はな」


「では」


 クラリスは写真を少し傾ける。


「どうして三人とも」

「こちらを見て、明確にポーズを取っているのでしょう」


「…………」


「物語の途中というより」

「完全に撮影されることを意識していますね」


「クラリス」


「はい」


「そういうところに気づくな」


「事実確認です」


「何が違うのよ!」


 リシアが残りの写真を拾い上げる。


「これ、もう番外編の挿絵じゃなくて撮影会じゃない!」


「だから途中からグラビアになったって言っただろ!」


「開き直るな!」


 カレンが赤い顔のまま三枚を見比べる。


 挿絵(By みてみん)


「あの……」


「何だ」


「これ」


 カレンが良樹を見る。


「作者さんが横道に逸れた、というより……」


 一拍。


「かなり楽しんで作ってませんか?」


「…………」


「良樹さん?」


「俺を見るな」


 リシアが写真を良樹の眼前へ突きつけた。


「しかも、もう貰ってるじゃない!」


「だからサンプルだって!」


「完成したら、いの一番に貰うんじゃなかったの!?」


「完成品はだ!」


「これは試作品!」


「もっと駄目じゃない!!」


「何でだよ!」


「作者とどこまで話を詰めてるのよ!」


 カレンが赤い顔のまま良樹を見る。


「良樹さん……」


「何だ」


「これを……」

「ずっと持っていたんですか?」


「…………」


「良樹さん?」


「資料として」


「何の資料よ!!」


 リシアの声が響いた。



   ◇



「……まあ」


 少しして。


 ようやく騒ぎが収まった。


 良樹は少し乱れた服を直しながら、咳払いをする。


「そういう仮想番外編とか」

「今みてえな水着の絵とか」


 三人の視線がまだ痛い。


「いくらかは、Xの方にも上がってる」


「急に宣伝を始めたわね」


「休んでる間、暇だったらそっちもよろしくな!」


「良樹さんが宣伝するんですか!?」


「いいだろ別に」


「俺も楽しみにしてる」


「でしょうね!」


 リシアが即答した。



   ◇



「それから」


 良樹が、今度こそ少し真面目な顔になった。


「再開した後の話だ」


 三人が良樹を見る。


「もう少し先になるらしいが」


「俺が、また何か作る」


 リシアが眉を上げる。


「また?」


「また」


 カレンは少し楽しそうに首を傾げた。


「今度は何を作るんですか?」


「知らん」


「良樹くんにも?」


「俺にも」


 クラリスが微笑む。


「ずいぶん曖昧な予告ですね」


「仕方ねえだろ」


「まだ読者に言えねえんだから」


 良樹は腕を組んだ。


「ただ」


「作者が最近、ちょっと気にしてることがあるらしい」


「何を?」


「FA要素が薄い」


「…………」


 リシアが首を傾げた。


「えふえー?」


「俺が元いた世界でやってた仕事みてえなもんだ」


「ああ」


「最近、そういう要素が薄くなってきたから」

「そろそろ何とかしたい、と」


「それで良樹くんが何かを作るのですね」


「ああ」


「起死回生の一案らしい」


 リシアが眉を寄せた。


「起死回生って」

「そんなに追い詰められてるの?」


「知らん」


「作者に聞け」


「今、その作者がマレーシアへ行くんでしょう?」


「出張だ!」


 良樹は即座に訂正した。


「逃げるみたいに言うな!」


 そして。


 少しだけ笑った。


「まあ」


「何を作るのかは、その時まで待っててくれ」


「俺が作るっていうなら」


 一拍。


「たぶん、ろくでもねえもんだ」


「そこだけは分かるわ」


「ひでえな」



   ◇



「そんなわけで」


 良樹は改めて前を向いた。


「しばらく休みになる」


「九月下旬の頭くらいまでには」

「また投稿を再開する予定だ」


 リシアが続ける。


「話がなくなったわけでも」


 カレンが続ける。


「書くのをやめてしまうわけでも、ありません」


 クラリスが柔らかく微笑んだ。


「少しだけ、お待ちいただければ嬉しいです」


「ああ」


 良樹は頷いた。


「作者が仕事で海の向こうへ行くだけだ」


「帰ってきたら」


「また続きをやろう」


 少しだけ間が空いた。


 リシアが手を上げる。


「ところで」


「何だ」


「マレーシアって暑いの?」


「暑い」


「じゃあ、あんたが前に作った魔導空調服」

「あれ持っていけばいいじゃない」


「持っていけるか!」


「便利なんでしょう?」


「税関で説明できねえだろうが!」


「魔導具です、って言えば?」


「余計止められるわ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。