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1章 第3話

「なんだ、どういうことなんだ!」

 魔術師に引きずられ木々の隙間を抜けた俺は、ため息と共にそう言葉を吐き出した。

 

「あいつの狙いは俺にも分からない、考えようとする方が無駄だろう」

 彼は袖についた葉を落とす。

「――愚者」

 改まったその声と共に、魔術師は俺へと視線を向けた。


「……お前は、本当に自分の能力を知らないのか」

「――能力?」

 口を開けることしかできない俺に、彼は少し目を見開いた。

「無罪、も本当か」


 ――無罪。

 世界からの釈放。


 頭の中をあの声が駆け巡って、俺の鼓動が乱れる。

「なにも分からない!」

「大きな声を出すな」

 頭を抱える魔術師と、首を傾げる俺。


「お前の他の二十一人は、有罪というお告げをくらっている――教皇がお前を狙ったのはそのせいだろう」

 ――有罪?


「じゃあ、魔術師たちはみんな罪を犯したのか?」

 彼は少し黙った。その顔に陰りが差して、空気が重くなるのを肌で感じる。

「違うとも言えるし、そうとも言える」

「……分からない」

 意味の分からない話。

 そう一言で片づけて仕舞えば簡単だけど、俺にはその勇気がなかった。


「とりあえず行くぞ、愚者。無罪のお前を巻き込んだのは申し訳ないが、お前の力も必要だ」

「なぁ」

 俺に背を向けていた彼に、ぼんやりとした呼びかけを投げる。

 彼は微かに振り向いた。


「……お前は、後悔してる?」

 魔術師は黙った。

 一瞬俺の顔を見て、少し遠くを見たような。


「自分が犯した罪は償う。――俺はお前と違って善人じゃない」

 二十一人。

 彼らは皆、これを抱えているんだろうか。


 行くぞ、と早足で歩きだした彼に、小走りで追いつく。

 俺たちは、街の方へと歩みを進めることにした。



 *恋人視点*


 教皇に言われてとぼとぼと歩いていた彼――「恋人」は、小さくため息をついた。

「そんなことを言われても、ねぇ……」


 彼は「恋人」。

 そう言われるだけの理由がある。


 目の前を通りかかった女性に、彼はふっと顔を向けた。

「こんにちは、お姉さん」

 先ほどとは違う艶めいた声に、彼女は顔をあげる。


「少し僕とお茶、してくれません?」

 首を傾げた恋人は、別人のような微笑みとともに「ね」と添えた。


  ☆


「……これでいいでしょう、しばらく整理でもしましょうか」

 少々胡散臭い方法だったが、数人と文字通りお茶会をした恋人のもとには、続々と情報が集まっていた。


「人が消えている原因を解決しようとする宗教、ねぇ……」

 どうやら新しくできた宗教の団体が、失踪事件を追っているらしい。

 あの話と関係があるか定かではないが、と考え込む。

 口元に手を添えて小さく呟いた恋人は、教皇のことを思い出した。


 ――まぁ、あの人は今頃、愚者さんにいちゃもんでもつけているでしょうね。

 一人で行くしかないんですかねぇ、と、彼は地図を取り出して歩き出した。


 その時だった。

「失踪事件、追ってるんですか」

 後ろ――それも下の方からかけられた声に、恋人ははっとして振り返る。


 灰色の髪を緩くまとめた、背の小さい少女だった。

「案内、します。来て」

 小さく、でもはっきりしたその声に、恋人はゆっくりと足取りを預ける。


「お姉さんは、その団体の関係者なんですか」

「はい。私の仕事は、神を信じること」

 不思議な少女だ、と恋人は目を細める。少したどたどしいような話し方と、決して鋭くはないのにどこか冷えたような目つき。


「あなたは、誰ですか」

「僕ですか?しがない吟遊詩人ですよ」

 手を開いて笑いかける恋人に、少女はさらに問いを重ねる。


「信仰に、興味がありますか」

「ええ。最近の事件のこともありますし、その解決策を探しているとか」


 少しだけ視線を左にずらす。

 ――前を行く彼女の正体を、話しながらでも見抜かなければ。

 

「はい。神を、信じるつもりはあるんですね」

「もちろん。そうでなければこうやって声をかけていませんよ」


 そのまま数十分の時が過ぎた。

 少女が質問をし、恋人がそれに答えるだけ。あまりにも歪でアンバランスな会話だ。


「……ここまで、ありがとう」

「いえ。こちらこそ。着いたみたいですね」

 小さめの教会は少し暗くて、森の中では異質だった。


「承認、します。中へ」

 一歩中に入ると、そこはさらに暗い空間だった。

「すごいですね、初めて見ました」


 あたりをゆっくりと見回す恋人に、少女の声が降ってくる。

 

「今のだけです」

「……え?」

 その暗闇が、青く光る少女の瞳に照らされる。


「恋人さん。あなたは二十六個、嘘をついた」

 

 思わず一歩後ずさりをするも、そこにあるのは冷たい壁。

「……なんのつもりですか」

「嘘をつく人は、信仰なんてできない」

 少女は手を掲げる。


「はじめまして。私は『女教皇』。――あなたを、裁きます」

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