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1章 第2話

 「女教皇がなぜここにいないのか。それが、今回私たちが集められた理由でもあるわけですね」

 教皇は口元に手を当てて、歌うようにそう口にした。

 「そうだな。その件については俺から」

 魔術師が一歩前に進み、羊皮紙を広げる。


 「これが、今回皇帝から渡された文書だ」

 「……ツミのことか?」

 「ああ」

 一気に、苦いものを食べたような不快感に襲われる。俺が「うげ」という顔をしているのを見て、魔術師は小さく目くばせしてきた。

 「教皇はもう聞いていると思うが、直近で二人、それから先月には三人。人が、消えている」

 「は?それって大事件なんじゃないの」

 静かにため息をつく教皇の前で、俺は思わず大声をあげてしまった。

 

 「そうだ。だが今回それが大事になっていない――これをあの皇帝は怪しんでいる。裏があるのではないかとな」

 魔術師が広げた紙には、細かな文字で命令ばかりが書いてあった。

 あいつがそもそも裏側だろ、と言いたい気持ちを押し殺し、俺は教皇に視線を送る。

 「ええ。失踪事件とかかわりがあるのは、どこかの宗教団体だと言われています。私たちはそれを探さなければならない」

 「うん。それと関係があるのが女教皇さん、ということですね?」

 なるほど!察しがいいなお前!と恋人を見ると、彼の笑顔だけが目に入る。


 「そうですね。女教皇さんは、その宗教団体とつながりがありそうでして。――恋人さん、調査」

 「……え?」

 「お願いしますね」

 にこりとした教皇に、一瞬で恋人の笑顔が崩れ落ちる。

 「ひとり、ですか?」

 「ええ」

 魔術師はため息をついた。なるほど、この様子を見るに、二人はあんまり仲が良くないのかもしれない。


 とぼとぼと去っていった恋人を見送ると、教皇は俺たち二人に向き直った。

 「さて、それでは『能力』の話をしましょうか」

 「……能力?」

 「ええ。正確には『罰則』――我々の不幸を握る、私たちだけが持つ力の話です」

 その白い肌が少し、ほんの少しだけ暗くなる。


 「愚者さん。貴方は例外の可能性もありますが、神のお告げに触れたことがありますね?」

 「ああ、ある!」

 ずっと気になっていた話題に食らいつくようにして、俺は目を見開いた。

 「その時になんと言われたか、それは聞きません。ですが、二つ言葉を受け取ったと思います」


 ――無罪。

 ――世界からの釈放。


 「……ああ、うん」

 思い出したくなかったものに、俺の背筋が少し冷える。

 「それが貴方の能力。何が起こるかは理解しているはずですが、使うことで悪い影響もあるらしいのでご注意を」

 「ちょっと待て、俺は全然分からないんだが」


 その一瞬、教皇の目が曇ったような気がした。

 彼の笑顔は一瞬で元に戻るが、うすぼんやりとした恐怖だけが残る。

 「……だって、無罪って」

 「――それ以上言うな愚者!」


 俺の前に飛び出してきた魔術師は、両手を掲げて教皇の前に立ちはだかる。

 「は、そんな欺瞞で私が怒るとでも?随分短絡的だと思われているのですね。残念です」

 手を伸ばしていた教皇は、俺の方に向かって鋭い一瞥を投げた。

 「貴方が神を冒涜するような人だと知って、私は悲しい」


 一歩ずつ、彼が近づいてくる。

 足元の石が音を立て、呼吸が細くなるような緊張だけが辺りを覆った。

 「逃げるぞ、愚者」

 一瞬振り返った魔術師は、俺に耳打ちする。

 「なんでこんな――おい!」

 手首を掴まれた俺は、魔術師によって森の奥へと引きずり込まれた。

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