1章 第1話
その知らせが届いたのは、俺が牢を出てから半月後の午後だった。
「……は」
処刑されたのは、元勇者の青年だったという。
新聞を片手に、俺は頭を押さえて蹲る。
「正義……」
思い当たる節は、彼しかない。
俺は、一歩も外を出られない生活に染まっていった。
*
コン、コン。
「……引き取ってくれ」
ノックされた扉の向こうにいる相手が誰だろうと、俺にとって関係ない。
「――この状態じゃあ、人に迷惑かけるだろうしなあ」
小さく呟くと、そこにいるらしい誰かから声がした。
「悪いがそのつもりはない。出て来てくれ」
「……誰」
「迷惑をかけるのは、お前が出てこないときに限る問題だ」
「……なんで聞こえてるんだ!」
驚きのあまり立ち上がり、勢いよく扉を開ける。
「ああ」と素早くのけぞった相手のすれすれを描いて、曲線が止まる。
「誰、だ」
俺の前に立っていたのは、背の高い茶髪の青年だった。
赤い服を羽織り、頭の上には何か天使の輪のようなものが揺れている。
「囚人番号一番、魔術師」
そう聞いた瞬間、全身が固まって冷たくなる。
――また、あの世界に巻き込まれるのか?
「帰れ、頼むから」
口をついた言葉に顔を顰めた彼は、手のひらが見えないくらい長い袖を揺らした。
「生憎そうもいかないんだ、今の皇帝の思し召しでな」
「――ツミか」
彼の名前を口に出すだけで、思わず涙が出そうになる。
「お前も色々大変だっただろうが、これはお前のためでもあるんだ」
「……知らない」
「――友人の最期を知らなくていいのか」
彼が口にした一言に、俺の呼吸が浅くなる。
「お前に何が」
「それが、もし最期じゃなかったとしてもか?」
「――は」
「魔術師」と名乗る彼は、俺の顔をじっと見つめる。
「そいつの死体は見つかってない――まだ、生きている可能性はある」
その言葉は、俺の体を動かすのに十分だった。
「来い、『愚者』。正義を見つけたかったら、お前が動くんだ」
*
魔術師の話を聞いて、しばらく経った後。
正義の生死は分からないままだが、魔術師の話から、彼の死んだという証拠は見当たらないと知った。
――それを希望に、俺は少しずつ笑えるようになっていった。
「――で、俺たちが集められた理由についてなんだが」
指定されたのは、大きな森の外れだった。
閑散としているそこは少し肌寒く、魔術師の声だけが響く。
俺の周りには、彼の他に二人の男が立っている。
「任務についての説明はあとだ。まずは自己紹介、愚者」
「ああ!俺はノア――あ、ここでは『愚者』。好き嫌いはしないでなんでも食べる!」
「……お前は第一印象がそれで平気なのか」
魔術師の言葉に俺が首を傾げていると、白髪の青年がくすくすと笑った。
「ふふ、愉快なお方ですね。私のことは『教皇』と呼んでください――呼び名の通りの仕事をしております。救いが必要ならいつでもお声がけくださいね」
背中まである髪をふわりとさせた彼は、声を聴かなければ男性か分からないような顔をしている。
「――救いをくれるのか!お前が?」
「あまりツッコむな、愚者」
「次は僕、でしょうか?」
俺たちの会話を遮って手を挙げたのは、ピンクの髪をお団子にまとめた青年だった。両目を布で隠していて、こちら側からは顔が分からない。
「僕は『恋人』。吟遊詩人をしています。どうぞよろしく」
「ああ、だからそんな寒そうな恰好をしているのか!」
彼の服は、なんだろう……胸に穴が開いていて、見たことのないデザインだった。
「確かに肌寒いですね。まぁ、たいしたことありませんよ」
「……どうでもいいな。なぜ俺が仕切っているのかも分からないが、本題に進もう」
魔術師の言葉に、俺は口をはさんだ。
「ちょっと待て!俺を呼んだとき、もう一人いるって言わなかったか?確か――」
「『女教皇』、でしょう?」
教皇は口を開く。
「……説明しましょう。さぁ、みなさんどうぞこちらへ」
俺たちは彼に連れられて、森の奥深くへと足を踏み入れた。




