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1章 第4話

一章 第四話

 女教皇が手をあげると、周囲から数人が姿を現した。

「……最初からこうするつもりでしたね?」

 恋人の問いかけに彼女は答えることなく、ただ踵を返した。


「さよなら、恋人さん」

「なかなか考えましたね、お嬢さん」


 彼を暗闇が襲う。

 どこまでも続く黒の中、恋人は自身を嘲笑った。


 ーー出口がない。


 ☆


 僕の本職は、吟遊詩人ではない。

 生活を担っているのは、画家としての僕だ。


「ミレ、最近どう?友達とはうまくやってる?」

 姉がいた。

 快活な人だった。

 医者も知らない病にかかった彼女に、僕は毎日話をした。


「うん、今日も遊びに行ったんだ。そういえば学園で特待生になれたんだよ」

 そんな事実は、本当はどこにもない。

 ただ、姉の幸せそうな顔が見られるならどうでもよかった。


 学園で負う傷は次第に増えていった。

 僕を囲って拳を振るう奴らはこぞって成績に固執するから、僕はそれに興味を持てなくなった。


「今日は数学のテストで満点をとったんだ」

 ーー赤点だった。

「先生が褒めてくれて」

 ーー教師は暴力を無視していた。


「ミレはほんとにえらいのね」

 僕と同じ、桃色の髪が揺れていた。


 そのころ、芸術が好きになった。

 筆を動かすたび、どうでもいいことが塗りつぶされていく。その感覚に夢中になった。

 嘘をついていることが、次第に後ろめたくなっていった。

 姉を笑わせたいけれど、絵の話だってしたかった。


「姉さん。……僕、本当は絵の道に進みたいんだ」

 その言葉を絞り出した僕に、姉はいつもと変わらず笑っていた。

「いいね、向いてると思う。ミレなら優しい絵が描ける」


 その顔があまりにも幸せそうで、僕はつい口走ってしまった。

「ごめん、姉さん!――今までの話は、ほんとは」

 姉は、最後まで僕の話を聞いていた。

「大変だったね……ミレ」

「ごめん、姉さん、ごめん」

「私はミレが心配だよ」


 大丈夫だよと笑いかけたけれど、姉の笑顔はいつもより少し小さかった。

 病室を出た僕は、やってしまった、と思った。

 罪悪感に身を任せたのが正しかったのか、嘘をつくことで何かを守るのが正しかったのか。


 答えはすぐに分かった。

 姉さんは、その日息を引き取った。


 それから、僕は嘘をつくようになった。

 ――本当のことは、誰かを傷つけるから。


 画家として生計を立てることはあまり難しくなかった。

 絵が虚構だったから、それだけの話なんじゃないかと思う。


 卑劣な貴族がいた。

 絵の師匠はそいつに目を潰されたらしく、勿論そいつは僕にも手を出してきた。


 残念ながら僕は嘘がバレないように目隠しをしていたし、噂を流せばそいつは呆気なく失脚した。

 ――そのはずだった。


 その日男たちに囲まれた僕は、監獄に囚われることになった。

 お告げでもらった僕の罪名。

 虚偽。

 それ以外にないでしょ?


 暗闇の中で一人笑う。

 これでいい、天罰がくだっただけ。

 そう、僕の能力は――バレない嘘をつけることだ。

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