第七話 かすみさん(駄菓子屋のおばあちゃん)
ガタガタ
今どきちょっと見ない古い引き戸で特徴的な音を立てながら戸が開き人が入ってきた。わが娘である。
「おかあさん。ただいま。あら、武蔵くんと立花君もこんにちは!」
昨日来たばかりであったが、今日はマッテオを連れて来ていた。マッテオはイタリア人で娘の夫だが実に日本のことをよく理解しており、性格も私が思っている明るくて女好きのイタリア人のイメージとは違っていた。(見た目もかっこいいので)短期間で打ち解けることとなった。とはいえ、日本に帰ってきたからのほんの数か月で今の関係性ができたわけではない。
さつきには内緒だがマッテオはイタリアから時々私に連絡をくれていた。最初はイタリアに移住してから一か月歩と経った頃、手紙が来た。急に娘をイタリアに連れていくことをわびた上で、さつきもそれを気にしていたこと。また、イタリア語を猛勉強しながらアルバイト先を探していること等が書かれていた。
そして手紙でやり取りすると、さつきにばれてしまう可能性があるとのことで、インスタのチャットでやり取りしましょう、とのこと。自分も駄菓子屋のインスタページを作っているのでインスタの操作方法はわかっているし、たまに動画も投稿してしまうほどのデジタル対応可能な希少種の後期高齢者なのだ。
さて、そんなこんなでイタリアでのさつきの状況とかを教えてくれていた。さつきが昔からお母さんに反抗的な態度をとっていたことを後悔していることも教えてくれた。
けれど私は知っている。さつきは表現がへたくそなだけで本当にやさしい子だ。自分ではそっけない態度をとっているつもりだと思うが、私の作ったご飯は本当においしそうに食べてくれるし、大きめの弁当もいつも米粒一つ残さず食べてくれる。だから本人が気にしているようなことは何もないのだ。
それに私も長女と次女があまりに聞き分けが良いので、末っ子のさつきも同じだと勝手に思い込んでしまっていた。親子でも兄弟でもひとはそれぞれ違うのに。さつきが表面上とはいえそうゆう態度をとっていたのは私にも原因がある。
そんなわけでマッテオとは来日前からある程度の信頼関係はあった。さつきも私がマッテオと仲良くなるのが早かったのをビックリしていたが、もちろん悪いことではないので安心していたようだった。
「今日はマッテオと一緒なの? 二人で私の隠居を説得しに来たってことかしら? てゆうか、どうでもいいけどあんたはいつもも立花君がいるときに来るよねえ」
いつものように軽口を返しつつ、先ほどの立花君の提案について考えていた。
私は確かに最近こども食堂なるものに興味を持ち出した。元々ぼんやりではあるが、こうゆうのが出来たらいいなあとは思っていたが、簡単に出来るものではないことも理解していた。
本気で考えだしたきっかけは最近だ。店を閉めた後、仕入の相談でお菓子の卸問屋を訪ねた帰りのこと。ちょっと古びた喫茶店のようなところでやたらと子供が入っている店を見つけたのだ。看板を見ると“今日はこども食堂の日“と書いてある。横にカレンダーがあって毎月第二、第四土曜日はこども食堂として営業しているみたいだ。
外から中をのぞくと子供たちがおいしそうにカレー(サラダ付き)を食べている。テレビなどでみたことはあるのが実物を見るのは初めてだ。中を覗いていると挙動不審な老人を怪しく思ったのか店主らしき人が声をかけてくれた。
「こんにちは。大人の方は三百円いただきますが、よかったら食べていかれますか?」
「あ、いえ、食事はもう済ましているので、ちょっと興味があったので覗いてしまいました。前からやってらっしゃるんですか?」
私は話しかけられて、少し焦りながら質問を返す。
「五年ほど前からですかね。ここは元喫茶店だったんですが、今は商店街が運営するレンタルスペースとして活用されているんです。ちなみにこども食堂のときは物件所有者である会長さんのご厚意で無料で貸してもらえるんです」
「そんな感じでもこども食堂ってできるんですね。テレビで見た感じだと毎日のようにやっててもっと大変なものかと思っていました」
「私もやる前はもっとおおげさにに考えていたのですが、色々調べてみると、同じような感じで有料と無料を分けて運営されているところも多くあるようですよ」
その後も色々会話していると、実は共通の友達がいることが判明し、思いのほか会話が盛り上がり、連絡先を交換して「またよかったら一度お手伝いさせてください」という話をしてその日はお別れした。
これが縁となり、こども食堂するときは時々ではあるが私もお手伝いさせていただくようになっていた。そしていつか自分自身でもこれであれば自分でもやってみたいと思うようになっていたところで、さつきの話だった。
昔から店に来てくれている立花君とさつきが学生時代仲が良かったことは知っていた。なんなら付き合っているのではないかと疑ったこともあったが、どうも二人とも完全に体育会的なノリの先輩後輩の関係らしく、どうもお互い異性としては見ていないようだった。
そんな二人はさつきが日本に変えてきて以降付き合いが復活しているらしく、さつきは立花君が来るタイミングを計ったように家にやってくる。理由はわかっている私と二人きりになりたくないのだ。
今日も立花君からくる予定を教えてもらって時間を合わせてきたのであろう。しかし今日は少し妙な気がした。確かに私は立花君(時々むーちゃんにも)に愚痴話をよくするが、それに対して立花君は共感しながら聞いてくれているだけで今回のような提案は初めてであった。なので私は少しきょとんとしてしまったのだ。
昨日は勢いでさつきの話を断りはしたが、カフェの話聞いたとき、こども食堂につなげることは私も考えてなかったわけではない。ただ、それを立花君に指摘されるとは思わなかったのだ。
さつきは準備万端とばかりに今にも話を切り出しそうである。
私は小さく「まどろっこしいことするもんだね」とつぶやき、
「ま、立ち話もなんだから、座んなよ。お茶入れてくるから」
私はそう言って、休憩用のテーブルに三人を促したが、立花君は自分の役割は終わったといわんばかりに、
「あ、武蔵のご飯もありますし俺はこの辺で……」
といい残しそそくさと店を後にした。やっぱりそっちの方が普段の立花君らしい姿だと思いクスリとわらった。
続く




