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第六話 さつき(後編)

挿絵(By みてみん)

「もしかして立花君?」

 その男性は黒い柴犬を連れて広めの歩道を歩いていた。一瞬顔に「?」の文字が浮かんでいたがすぐに

「さつき先輩? ずいぶん久しぶり、というか、結婚してイタリアに住んでいらっしゃると聞いていましたが?」

 彼は高校時代の一年後輩で野球部に所属していた。うちの高校はグラウンドが狭く野球とソフトボールのグラウンドが背中合わせのようになっており、外野手はどっちの部の選手かわからなくなることもあった。なので、バッター方向よりも後ろから飛んでくる打球に注意しながら守らなければならないほどであった。

 そんな状況でお互いセンターを守っていたため、守備練習中に雑談をするなどしていつしか気安い友達のようになっていた人物がこの立花辰巳である。


 彼は細身で顔も穏やか、どこか中性的な雰囲気を持っていたので私は女友達が出来たような感覚でコミュニケーションをとっていた。聞くと彼は三人姉弟の末っ子で、二人の姉からは女の子のようにかわいがられてきたらしい。彼も高校になり自分がちょっとそうゆう目で見られていることに焦り急に自分のことを「俺」と言い出すようになったそうだ。それもまたかわいい(笑)。

 私が三年で部活を引退するときには当時はまだ少なかった高級ハンバーガーショップで千二百円のハンバーガーをおごってくれた。アンガスビーフを使った肉汁たっぷりのハンバーガーで今でもその美味しさは覚えている。

 それ以降大学も違ったし疎遠にしていたが母親の駄菓子屋にはずっと通っていたこともあり、結婚式には祝電をくれた。外国にも電報を送ることができることを知ったのはこのときである。


 お互いにいい年になっていたが、彼はあまり変わっておらず。見た瞬間に気が付くことができた。ウチの野球部では丸刈りは任意だったので彼は当時から彼の髪形はセンター分けであったためイメージも変わっていなかった。「センター分けのセンター」そう言ってからかっていたのを思い出し、ちょっと笑いそうになりながら答える。

「つい最近だけど夫と一緒に日本に戻ってきたのよ。立花君の家ってこの近所だったっけ?」

「実家はもう少し西の方ですけど、結婚してからここから歩いて十分くらいのところに住んでいます。この辺は武蔵、あ、この柴犬のことですけどここはいつもの散歩道ですね。ちなみに先輩のおかあさんのやっている駄菓子屋の前も通るのでいつも雑談してますよ。でもさつきさんが帰ってきたことは聞いてなかったですけどね」

「何の予告もなく急に帰ってきたからね。まだおかあさんも半信半疑というかまだ消化しきれていないんだと思う、立花君はいつもこの時間に散歩しているの?」

「そうですね。多少時間は前後しますけど。武蔵は結構暑さに強いんで、夏場でも平気で外にでたがるんですよ」

「そうなんだ。あまりにも久しぶりで友達もここを離れてる子が多いから昔馴染みに会えてうれしいよ」

 社交辞令ではなく本当にうれしかった。日本にしかも地元に帰ってきたのに知人も少なくて少し孤独を感じ始めていたからだ。また立花君が自分の母親ともいまだに仲が良いこともうれしかった。とりあえず連絡先を交換してその日は別れた。


 恥ずかしながら昔から母親の言うことはあまり聞かず生きてきた。二人の姉は素直で母親とも仲が良かったから、中々その輪に入れなかったことへの悔しさもあったのかもしれない。

 それでもそんな反抗的な私に学生時代、毎日栄養バランスの取れた弁当を作り続けてくれ、さして強くなかったソフトボール部の試合にも毎回応援に来てくれたし、大学まで行かせてくれた。心の中でも感謝しているもののそれを表現できない自分がもどかしかった。常々母親からは

「こんな気の強い子結婚してくれる人いるのかねえ。あたしゃ心配だよ」

 などど、某漫画の主人公のような口調で言われていたものだ。

 結婚を決めたときも、なんだかんだ言っても母親は喜んでくれると思っていたが、それは自分の甘えであり、見事に裏目に出てしまった。

 懐かしさもあって話も弾み、連絡先を交換してやがて数か月後には、家族ぐるみでご飯を食べに行くような関係になっていた。

 私が母親に会いに駄菓子屋に行きたいときも、今日いつ頃散歩に行くかなどLINEで聞いてからわざと一緒になるように調整していた。その方が彼がクッションになって場が和むのだ。

 そんな中ある重要な情報を私はつかむ。あるときまた武蔵と散歩中の立花君に会って雑談していた時の話である。


「かすみさん、こども食堂の手伝いにも時々行ってますよ」

 初耳である。確かに母は料理が上手く、高校のときも弁当を持っていくと見た目、栄養バランスとも素晴らしいと友達から賛辞を得ていた。特に母が得意だったのは肉巻き野菜で、色とりどりの野菜や山芋、キノコなどを豚肉できれいに巻かれたそれは弁当箱をカラフルに彩っていた。

 特に美味しかったのが試合の前日などに入っている、“クレソンの牛肉巻き”で、すき焼き風に甘く味付けした逸品であった。私はそんな弁当へ賛辞を言葉で贈る代わりに、毎回米粒ひとつ残さずに食べていた。


「お好み焼き屋を一人でやるのは難しいから駄菓子屋にしたけど、本来は料理作るのが大好きな上に、こどもも大好きな人ですからね。こども食堂は前から興味はあったみたいだけど、たまたま友達の友達がこども食堂をやっていて、その手伝いに行っているそうです」

「うーん、確かにうちの母親ならそうゆうこと言い出しても不思議ではないけど、実際にやるのって大変じゃないの? お金とか体力的なこととか」

 私の母親は年の割には元気ではあるが七十五歳ともなると体力的にも落ちては来ているし、元々貯蓄とかに興味がない人なので、生活以外のことに使うまとまった貯蓄があるとも思えない。

「確かに沢山の人数分料理を作るのは大変だけど、本人も毎日やるわけじゃなくて、隔週とか多くても週一回とかで考えているみたい。でも、確かに今の駄菓子屋でやるにもう店は椅子やテーブルもないし、調理設備も処分してしまっているので新しく改装するには結構お金がかかりますね」


「そうかあ……」

 私の頭にある考えがぼんやり浮かんでいた。もしかしたらこれは私が親孝行するための大きなとっかかりになるかもしれない。

「ねえ、ちょっと協力してほしいことがあるんだけど」

 私は口角を吊り上げ、にこやかに立花君に話し始めた。私がこうゆう顔をするときは、面倒なことを頼むときであり、そのことを知っている彼は眉間にしわを寄せ警戒の色を隠さなかった。

「そんな顔しないで、人助けだと思ってさ」

 私は両手をすりすりしながら私が考えている作戦を伝えた。

                                           続く


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