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第三話 飼い主は立花君

挿絵(By みてみん)

 俺は急ぎ足で歩いていた。犬の散歩中になじみの駄菓子屋のかすみさんと雑談している途中で緊急の用事を思い出し、一旦、かすみさんに愛犬の武蔵を預けて、用事を済ましてきたところだった。

 明日、実家の墓参りに行く予定だったのにお供えを買うのを忘れていたのだ。ヤバい、妻に怒られる。明日の朝は早く家を出ないと間に合わないので、買う暇がない。考えた挙句、今この散歩中に近くのショッピングセンターにある和菓子屋で買うことにしたのだ。花は毎年、母親が先に飾っているので買う必要はない。しかし武蔵はショッピングセンターに連れて入れないので、駄菓子屋の中で待機させてもらうことにした。


「なんで、もうちょっと近くに和菓子屋の一件くらいないかなあ」

 俺は愚痴りながら駄菓子屋へ向かっている。

 さほど遠くないショッピングセンターなのでニ十分ほどで戻って来られるかと思っていたが、もうお盆の時期ということもあり、いつも空いているはずの和菓子屋は非常に混んでいて、長蛇のレジに並ぶことになった。今回は母親が好きな薄皮の饅頭にすることにした。

 ふと見るとレジの横に並んでいるガラスケースの上に和菓子屋特有の一口ゼリーや金平糖など魅力的なラインナップ並んでいる。こうゆうのが目に入ってしまうとつい手が伸びてしまうのがいつものパターンなのだが、今日は少しでも会計を早く済ませるため我慢して並んでいた。それでも結局駄菓子屋を出てからもう三十分くらい経っている。とりあえず時間が少し遅れる旨をあの人に連絡しておかないと。

 俺は足を一度止め、往来の邪魔にならないよう電柱の陰で携帯からLINEで短く連絡を入れた。


 かすみさんの駄菓子屋はショッピングセンターを抜けたちょっと先、住宅が並んでいる区域にある。元々住居であった一軒家の一階を店舗としているからだ。

 いかにおしゃべりなかすみさんでも柴犬相手では限界があるだろう。そう考えているうちに駄菓子屋に到着し入口の引き戸を開けると。かすみさんの前に武蔵がちょこんと座り、なにやら話を聞いているような感じで見上げていた。俺はゆっくりと近づき、かすみさんに声をかける。

「かすみさん、すみません。戻るのが遅くなってしまいました」

 一声かけると武蔵は嬉しそうに尻尾を振って俺の足に抱きついてきた。俺は武蔵の頭を包むようになでながら、留守中どのように過ごしていたかをかすみさんに聞いたところ、末娘であるさつきさんとのいざこざについて、武蔵に愚痴として吐き出していたそうだ。俺が帰ってきたとき、妙に武蔵のテンションが高いと思ったがそうゆうことかと腑に落ちた。


 武蔵は黒の柴犬で、九州の大分県に住んでいる叔父の家からまだ赤ちゃんの頃に譲り受けた犬である。豆芝ではないが体はやや小さめで、散歩中で会う人に豆柴に間違えられることもよくあり、武蔵はその度に不服そうな表情をしていたので、俺は毎回「普通の柴犬なんですよ」と訂正していた。

 武蔵が家族になってからもう十年になるので若いときほどテンションは高くなく、最近は家族に対するリアクションも落ち着いていた。

 フルテンションでまとわりついていたパピーの頃は一日中後をついてきて休日の朝も早く起こされたので、ちょっとしんどく感じることもあったが、そうゆうことがなくなるとそれはそれで寂しいものである。なので、先ほどテンション高く抱きついてきてくれてちょっとうれしかった。

 親バカだと思われるだろうが、俺が思うに武蔵は頭がよく、いわゆる空気を読むことができる犬である。

 とはいっても曲芸を覚えたりするのが得意なわけではなく、例えば周囲の人間がワイワイしているときは嬉しそうにうろうろしているが、静かな場面では伏せの体制になるか、先ほどのようにちょこんと座って「スン」としている。人間でいうと勉強の偏差値は普通だがEQが高い(=こころの知能指数:共感力や柔軟性に優れている)のである。今回はおばあちゃんが話を聞いてほしいのだろうと思い、静かに聞いていたのではないかと推察した。やはり、出来る犬である。


 その後、おそらく武蔵にした話と同じ内容であろう話をかすみさんが手短に話してくれた。俺は初めて聞いたような態度でうなずいていたが、かすみさんから話を聞く前にこの話は別の人から聞いてすでに知っていた。もちろん他人様の家族の問題であり、本来は部外者の俺がどうこう言うような案件ではないのだが、今回はちょっと首を突っ込まざるを得ない事情があった。一通り話しを終えたかすみさんに話しかける。


「かすみさんまだまだ元気ですからねえ。引退はちょっと早すぎますよね」

 とりあえず共感から入ってみる。かすみさんは嬉しそうに反応する。

 しかし俺は頭の中では別のことを考えていた。ここ一年くらいのことだが、かすみさんはこども食堂なるものに興味を持っていた。実際に知り合いがこども食堂を定期的にやっているのを聞いて手伝いにも行っているらしい。


 手伝いに行ったその場所では子供は無料だが大人は有料にする代わりに基本どんな家庭の子供でもおおらかに受け入れており、こども食堂だからと言って貧困家庭を救うとか、そこまできっちりとした使命感がなくても、とりあえずやってみてもよいかも、と考えているそうだ。

 俺はかすみさんの様子を見ながら少し緊張しつつ、こう切り出した。

「そういえば、かすみさんこども食堂をやってみたいって言っていましたよね?」

 さらにその後、カフェの話が子ども食堂にもつながるという話をする俺にかすみさんは一瞬虚を突かれたような表情になったが、娘の勝手な申し出に腹を立てた感情的なモードがいったん裏に回り、打算的なモードに頭が切り替わったようで、何やら考えはじめた。

 そんな中、良いタイミングで、見慣れた人物が駄菓子屋の扉を開けて入ってきた。

 さつき先輩である。

 そして、そして今度は夫のマッテオが間の悪いギャグで入って来た

                                         続く

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