ひとりぼっち
次に、私と田村優花の関係が変わったのは、文化祭の時だった。
私にとって文化祭は、決して楽しみなイベントではなかった。文化祭の時期特有の学校の浮ついたムードにつられて、少し気持ちが浮つきはするものの、ほとんどそれは勘違いで、友達が少ない私にとって文化祭は、一歩間違えたら、最悪のイベントになる。
例えばそれは一緒にまわる友達が1人も居ない状況だ。私も全く友達がいない訳ではない。私にもクラスで所属している3人グループがあった。しかし彼女たちとは、ほとんど教室内でしか話すことはなく、放課後や休みの日に遊んだりした事は一度もなかった。そして彼女達には、他のクラスに私なんかよりも本当に仲の良い友達がそれぞれ居ることを知っていた。
彼女達から文化祭一緒にまわろうと誘われることは当日までなかったし、私から誘うこともなかった。本来全く必要も無く、的はずれなプライドが邪魔をして、誘えなかったのだ。こんな事を今まで何度も繰り返して来た。その度本に情けない気持ちになる。そして当然、田村優花から誘われる事も無かった。少しそれを期待していた自分に呆れていた。一体どうやって2日間もある文化祭を一人で過ごせばいののか分からないまま、気づけば文化祭当日になっていた。
文化祭1日目は、貴重な青春時代をドブに捨てているような感覚に襲われた。
1日目の朝は、クラスのシフトに割り当てられていた。私のクラスでは、マカロンを売っており、私はその会計を担当していた。マカロンは予想以上に学生たちに受けたようで、かなり繁盛し、必死で会計をしてるうちにシフトの時間はおわっていた。次のシフトの人が来て、「もうお店まわってきて大丈夫だよ、お疲れ様」と言われ、私はありがとうと返した。
私は改めて絶望した。クラスでのシフトの間は、必死になって会計をこなしていて、忘れてしまっていた。教室から廊下に出ると、一人で歩いている人はみわたす限り誰も居なかった。自分が激しく場違いであると感じ、頭の中が真っ白になった。少しの間、誰かを探しているような素振りで廊下を歩いた。とにかく1人になれる場所を見つけたかった。クラスメイトや知り合いに一人でいる所を見られたくなかった。田村優花にも。体育館の裏や屋上階の階段、いつもは人がいない場所にも文化祭では、恋人が2人の時間を過ごしていたり、男子たちが座り込んでスマホゲームをしていたりして、1人になれそうな場所などどこにもなかった。1人になるのは諦めて、図書館に向かったが、図書館でも出し物をしており、とても一人で居れる空気ではなかった。本当は私の頭の中に、1人に確実になれる場所は最初から浮かんでいた。しかしその選択肢はできるだけ取りたくなかったが、行き場を無くした私は最終的にそこへ向かった。
トイレの個室には、当然エアコンは付いておらず、10月とはいえ少し暑く、不快な匂いが常に鼻についてきた。イヤフォンをつけ、目を瞑って、とにかく時間が過ぎるのを待っていた。
去年の文化祭は、風邪を引いて休んでいたし、中学には文化祭はなかったので、文化祭を一人で過ごすことがこんなにも難しいことだとは知らなかった。徐々に私は虚無感に襲われることになった。トイレの外の方からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。こんな事なら休むんだった。
私は、自分の高校生活は全て間違っているように思えた。自分に腹が立ってから、涙が出そうになった。この時間は無限に終わらないような気がした。
しばらくするとチャイムがなり、教室に戻った。少しづつ教室内に人が戻ってくる。最後の方に田村優花が所属しているグループが戻って来た、しかしそこに田村優花はいなかった。少ししてから担任が名簿を取り始め、田村優花がいないことに気がついた。
「あれ?田村は?」
そう言うと田村優花の友達が
「優花ダンス部のミーティングで遅れるって言ってたじゃーん」と呆れたように言った。
担任は、あそっか。と少し笑って安心したように言った。
名簿をとりおえてから、帰りの許可が出たので、私は、足早に教室のドアに向かった。とにかく早く帰りたい気分だった。
教室を出ようとドアを開けた時、目の前にいる田村優花と目があった。
「あっ森田ちゃん。びっくりした。」
彼女は目を丸くして、笑顔で言った。
私は動揺し、何も返せずに、彼女の目を少し見てから、何も言わずに彼女から離れ、下を向いて早足で帰宅した。
帰り道、心臓がとてもうるさかった。




