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しらないところで Annex  作者: 南 紅夏


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11/12

ニートエルフ、翻弄される 前編

昔々、学校を出て間もない頃のレビの話です。

 どんどんどん、と大きな音で部屋の扉が打ち鳴らされた。

 私は読んでいた本に栞を挟むと、嫌々ながら席を立った。


 ドアをたたいているのが誰かなんて、とっくに分かっている。

「どうしたのです、クラウスおじい様」

 扉を開けると、予想通り900歳を超えてなお元気な高祖父が立っていた。


 我が家を代表する「ご当主様」で、町中にある孤児院と基礎塾の責任者、孤児院長で、塾長でもある。

 久しぶりにこの近距離で見ると、皴が増えているのに気づき、少なからず胸がざわついた。




「レビは、まだやりたいことは見つからないのか」

 屋敷3階の右側通路にある部屋は、独り者か夫婦のみの家族が使う部屋で、左側通路にある家族部屋よりはるかに狭い。私は中等教育を終えたところで親から離れて右通路側に移ったのだが、入ってすぐの応接室を狭めな部屋にしてもらっていたので、クラウスのような巨漢の来訪があると、とても窮屈に感じた。


 クラウスが来て間もなく、メイドのマルティナが紅茶とケーキを運んできた。

「…トルテの店のケーキか…」

 マルティナが運んできたのは、柑橘のジュレが乗った涼やかなレアチーズのケーキだった。最近は母と姉が切り盛りしている洋菓子店で、ケーキ類はほぼ甥のトルテが手掛けるようになってきた、と聞いている。

「私は細やかな飾りつけが出来ないが、トルテはとても上手いのだ」

 誇らしげに笑っていた姉の笑顔を思い出し、良かったな、と思うのと同時に若干の焦りも感じていた。


 2つ下の甥は、もう店で活躍している。

 8つ下の姪は、巫女代理としてつい先日、星の塔樹へ行ってしまった。

 先代巫女の玄孫で、トルテと同い年のフィオレも巫女の専属メイドとして星の塔樹へ行った。


 同世代で、私だけがここに残った。しかし、困ったことに私はやりたいことが未だに見つからないのだ。




「本を…読んでいたのか」

 ソファに座る私のすぐ横に置かれている本に目をやり、クラウスは穏やかに笑った。

「はい」

 本ばかり読んで!と、私の事を怒るのは祖母のシモーネだけだ。

 父も母も、私が本を読んでいて怒ることはない。姉と兄から時々

「少しは体を動かせ」

 と言われる程度だ。


「今はどんな本を読んでいるんだ」

「ダァシンガリルの内戦の歴史です」

 高祖父は別に怒る人ではなさそうだったので、安心して答えた。


「そうか、面白いか?」

「戦争なので面白いと言うのとはちょっと違いますが、戦争の原因とこじれた要因は少しだけ面白いです。どうしてここまでになってしまったのか、とか、自分だったらどう解決するだろう、と考察していると時間があっという間に過ぎて行きます」


 私の話を笑顔で聞いていたクラウスは、短く揃えた顎髭に手をやると、ふんっと鼻息を吐いた。

「レビは、本は書けるか?」

 ケーキ皿を手に取ると、クラウスはしげしげとケーキをいろいろな方向から眺めはじめた。

「書く…のは、やったことがないです…」

 突然の質問に、言葉に詰まってしまった。

 各学校の卒業時に提出したレポートくらいしか、長い文章を書いた記憶はない。


「では、書いてみるんだ」

 ケーキをフォークで切りながら、事もなげにクラウスは言い放った。


「書く、とは具体的に何を?家からほとんど出ない私に、書けるものなどありません。パトリシアのように旅に出ていたわけでもありませんし、私には実際に目で見て経験した、書けるような情報は何もありません」

「妄想でいいんだよ。どちらかというと、面白さはどうでもいい。人に伝わる、分かる文章が書けるかということが知りたいんだよ」

 反論しても、彼の中には「書かなくていい」という選択肢がないようだ。


「じゃあ、こうしよう」

 クラウスの前に画面が立ち上がった。

 彼はいくつかの文章ファイルをまとめると、私の顔をちらりと見た。

 そして私の目の前に画面が開く。どうやら彼は複数の文書を私に送り付けてきたようだ。


「今送ったファイルは箇条書きのメモだ。これらのキーワードをまとめて一つの物語を作成してくれ」

「物語…ですか?」


 ファイルを一つ開いてみた。本当に乱雑な短い文章ばかりの箇条書きだった。


「ん?」


 キーワードに、巫女、イリス、代理巫女などが並ぶ。

「これは…つい先日出た『森に隠された巫女』の内容ではありませんか、おじいさまが執筆なさった」


「おお、良く知っていたな。その通り、代理巫女が必要になった理由を、大衆が同情しやすいように作った話だ…だが、若干固い。レビにはこれを、子供でも読めるような『物語』にして欲しいんだ」

 クラウスが嬉しそうに膝を叩いた。


「書けるなら、これは立派な仕事だ。レビには報酬が出るし、もうシモーネから怒られることもない」

 高祖父の言葉を咀嚼するのに時間がかかった。私はしばらくぽかんとクラウスの顔を眺めていた。

「うん?まだきっかけが足りないか?本を書くのが仕事ならば、本を読む事も必要なインプットとして許されるようになる。資料収集、自己研鑽だ。はっはっは」


「本を読むのが許される…?」

 クラウスの言葉が頭の中にこだまする。それはとても魅力的で、甘美な響きだった。


「やってみます、どれくらい時間をいただけますか?」

「うん?そうだな、50日もあればできるか?」

 年寄エルフあるあるなのだが、期日などを決めさせると、びっくりするくらい遠い先を設定をされることがある。

 10日もあればできる、と思ったが、ここではあえて口にすることは避けた。


「分かりました、ではなるべく早めに書き上げます」




 子供向けの本は、確かに小さい頃何度も読んだ。しかし記憶は薄れるもので、書けと言われるとどういう風に書けばいいのか分からない。語感のいい繰り返し言葉などが多用されていた印象もある。あれはもっと幼い子供向けの絵本だっただろうか。

「初等教育学校の年くらいを対象にするなら、絵本も違うな…」

 子供向けがどのようなものか分からなくなってしまった。


「初等教育学校くらいの子供に人気の本を」

『これなどはどうでしょう』

 グノメが複数の種類の本を提示してきた。

 高学年向けは、もう大人が読んでもいいくらいの文章のものもある。

「たぶん、おじいさまが言う『子供向け』はこっちじゃないはずなんだ…」


 クライアントの要求を理解しろ!まずは目の前のクラウス、そしてその先にいる子供たちを。

 降りてこい、何か!


「うああああ…」

 代理巫女就任と同時に出された短編と、今回もらった箇条書きを何度も読み直す。省かれたキーワード、足された要素はなんだ?

 頭をがしがしと掻きむしりながら、頭の中で構成を考えていく。




「お前は一体何を一人で百面相しているのだ」

「うわあ、びっくりした」

 眉間にしわを寄せ、変なものでも見る目で姉が私の顔を見ていた。


「一体いつの間に…」

 私は他に人がいないか、きょろきょろと周りを見回した。気配も探るが、どうやら姉一人のようだ。

「ノックはしたぞ?丸一日部屋から出てこなかったから、食事を持ってきたのだ」

 メイド権限を持つ姉は、私の部屋など自在に入ることができる。

 ずいぶん前からそこにいたらしい姉は、目の前のソファに座り込み、じいっとこちらを見ていた。


「何をしていた?そんなに一人で転がり回って」

 いつから見られていたのだろう、かなり恥ずかしい。

「ずいぶん集中していたようだ。ノックどころか私が入ってきたのも、ここに座って見ている事にも気付かないなんて」

 食事が乗ったカートもそこに運ばれてきているのに、それすら気付いていなかった。


「言いたくないならいい。でも、食事の時くらいは下りてきてくれ」

「…無理だ、今は集中したい」

 今、私の頭の中はイリスを憑依させた状態だ。(※レビの勝手な妄想です。)

 あの変に個性的な連中と呑気に食事など摂ってしまうと、彼女の孤独や辛さが理解できなくなってしまう。


「事情を話せない、食事もとらないと言うならジークかシモーネを連れて来るけど」

「いや、それは…それだけはやめて下さい、お願いします」

 そこでふと、姉が運んできたカートに目が行った。

 日に一回、イリスの父親が食事を運んでいたという内容を思い出し、これは今の状況が似ている事に気づいた。


「あの…姉上さま、日に一度だけ、このような形でお食事を届けていただくことは可能でしょうか…?」

 言い終わるや否や、ぼふっとクッションが投げつけられた。

「引きこもりのガキか!?姉上様とか気持ち悪い!いい年してアホなこと言うな!」


 久々に姉に怒られた気がする。

 それはそうだ、姉はメイドもしながら洋菓子屋で働いているのだ。

 この家で一番暇を持て余しているように見える私が、他のまっとうに働いている人に対して頼んでいいことではない。


「でも…あと2日、いや明日だけでいい!お願いします!」

 しばらく黙ってこちらを睨み続けていた姉は、最後は根負けしたようにため息をついた。

「分かった、明日だけだぞ?それ以降出てこなかったら、引きずり出す。今、私はレビより力がある自信があるから」

「ありがとうございます…」

 私は心からの感謝を述べ、食事に手を付けた。




 それからは、「イリスと同じ環境にいる」という謎の自信に背中を押され、一気に書き上げた。


 書き上げた後、推敲の段階で一番悩んだのは「イリスの父親」の存在だ。最初は悪者として書いていたのだが、ほかの事情を足してやむを得ず娘を売った不幸な人にするべきなのか。いっそさらりと流してしまうか?

 子供というのは存外鋭いものだ。下手なごまかしは良くない気もした。


「逆に想像する余地を与えるのもアリか!?」


 要素を吟味して自分で書いた文章と、全要素を食わせてグノメに書かせた文章を見比べたりして、トータル三日三晩のたうち回って何とか完成させた。




「…よし、クラウスに送信」

 恐らく3日目、書きあがった文を高祖父に送った直後、姉が食事を持ってきた。

 元々私は一人でも平気な人間だと思っていたが、こうも誰にも会わない時間が長いと、世間に取り残されたような不安感が湧いてきていたところだった。


 食事を運んでくれる姉に感謝しかない。きっと、イリスもこんな気持ちだったのかと思った時

「一日に一回だけ運ばれてくる食事なんて、昔のイリス様のような生活だな」

 と姉がポツリと漏らした。


 姉もどうやら「森に隠された巫女」を読んでいたらしい。

「もうクラウスおじいさまが書いた『森に隠された巫女』読んだの?」

 昔から、姉がゆっくりと本を読んでいる姿を見た記憶はない。珍しいな、と思ったのだ。


「今、本を読む時間も余裕もないよ」

 こちらを見ずに、カートから皿を次々に取り出して卓上へ並べながら、姉はそう呟いた。

 娘が巫女代理になり、急に夫婦二人だけになった姉の気持ちは分からなくもない。きょうだいのように育った4人のうち、残っていた2人が一気に出ていったのだ。置いて行かれた寂しさは私も一緒だ。


「じゃあなぜ、イリス様が一日一回の食事だと?あの本で初めて公開された話だと思ったんけど…ニュースソースから?」

「いや…昔、ここに戻ってこられたばかりのリューリ様から聞いた」


 ばくん、と心音が跳ね上がった。自分の記憶にあるリューリは、歴史書の内容と現実との違いの事をよく話してくれていたのだが…。

「私は…彼女から、イリスの話を聞いた記憶はない…」

「あの子と、フィオレの女子二人には、よく話していた」

 スープの準備を終えると姉は立ち上がり、文机の上に乱雑に積まれた空き皿をカートに回収していく。


「レビの興味ありそうな話だけ、選んで話してくれていたのだろう」

 汚れた皿を全て回収し終えると、

「約束のルームサービスは終わったぞ?明日からはちゃんと、食堂へ来るように」

 と言い残し、部屋を出ようとした。


「ま、待って待って!?他に、イリスに関してリューリから何か聞いてた!?」

「…聞いた、というか映像を見た。…色々」


 こんなところに、詳細を知っている人がいた。

 これならばもっと詳しく取材できたのに。


 送ってしまった原稿を取り戻そうにも、すでにクラウスによって開封済みとなっていた。

「そう…か、また今度話を聞かせてほしい」

 とりあえず今は、もう食事を摂って眠ってしまいたい。

「ん、分かった」

 出ていく姉を見送った後、私はすぐに食事をかき込んで風呂に入り、その後は泥のように眠った。




 どんどんどん、とまた大きな音で、部屋の扉が殴られている。

 寝不足の重い体を引きずりながら、私は扉へ向かった。

「おはようございます、おじいさま」

 ドアを開くと予想通り、この元気なノックの音は高祖父のクラウスだった。


「おはようじゃないよレビ、もう夕方だよ」

 高祖父は方眉を歪めて苦笑していた。

「…そうですか」

 昨日なのか今日なのか、クレアが食事を持ってきたのも、自分が食べたのも何時なのか分っていない、私は一体どれくらい眠っていたのだろう。


「今朝送ってくれたヤツ、いいんじゃない?出版社の人もこれで行きましょうって、挿絵、絵師さんに発注かけたそうだから」

 クラウスはニコニコ顔で入ってくると、どっかりとソファに腰を下ろした。いつの間にか、皿は下げられていて部屋も奇麗になっていた。


「失礼します」

 優しいノックの音と共に、エルサというメイドが入ってきた。巫女代理と共に星の塔樹へ行ったフィオレの母親で、先代巫女リューリのひ孫でもある。

 彼女は紅茶と、姉の作であると思われる焼き菓子をテーブルに並べると、静かにカートを押して部屋を出ていった。


 しばらく寝起きの頭のまま、ぼんやりとクラウスの言葉を反芻していたが、エルサが出ていきパタンとドアが閉まった音で、頭が急に覚醒した。

「え?…出版するんですか?あれを?」


 そしてあれは今朝の出来事で、自分が夕方まで眠っていたことも今判明した。しかし今は時間の事はどうでもいい。

「出版って…本になるってことですか…」

 なんとなく乗せられて、出された課題をクリアするだけのつもりだったが、いきなり出版する話になるのは予想外すぎた。


「そう、これでレビは私の後を継ぐ第一の壁を突破した」

「…何の後ですって?」

 急に嫌な予感がして、私は眉根を寄せつつ高祖父の顔を見返した。


「レビに次期当主をお願いする」

「…は?当主!?」

「当主になれば、巫女に関することを書き残すのは仕事だ、レビなら出来ると思うんだが」


 つまり『物語を書け』というのは適性検査だったというわけか。

「…ちょっと待ってください、今この屋敷の中で一番年上はクラウスおじいさまですが、逆に一番若いのは私です。それがいきなり当主はさすがにおかしいでしょう!?」

「まあ、それはそうなんだけどね。困ったことにみんな忙しいんだよ」

「う…」

 それを言われると、返す言葉などない。


「それにもう私も体力的に厳しくなってきていてね。もうちょっと頑張れると思っていたんだけど…孤児院の方もイレーヌに任せようと思う」

 私の祖母シモーネの妹で、今現在孤児院の副長をやっている大伯母に立場を譲るつもりらしい。陽気で力自慢だったクラウスの衰えを目の当たりにし、この人がいなくなる未来が近いことを感じて腹の奥の方に嫌な重さを感じた。




「しかし、当主は本を書けないとまずいのでね。それと…今度の代理巫女は、片手間で相手できるお方ではない。仕事がある者より、いつでも動ける人間の方が好ましいんだよ」

「あの子が…姪が代理になってから、そんなに変わったのですか」

 私の知る姪は、どちらかというとかなり普通の女の子、といった印象だった。小さい頃は2つ上のフィオレに振り回されて、色々なところに連れまわされていた記憶がある。どちらかと言うと真面目で、アクティブに動き回るフィオレのストッパー的な役回りの子だった。


 あの子が、巫女の立場になったからと言って我儘放題になるとは思えない。優しくて、どちらかというと大人しいタイプの子だったからだ。


「うん。私が今まで担当した二人…リューリもイリスも、どちらも定期連絡と情報共有もちゃんとしていたし、星様ときちんと話し合える巫女だった。用があるときはちゃんと先触れが来て、急に呼びつけるようなこともしなかった。…でも、あれは…あの子は、巫女ですらない」

 我が家には異様に筋肉のついた軍人が一人いるが、クラウスはそれに次ぐ筋骨隆々のイメージだった。しかし、そう言いつつため息をつく今の姿は、随分小さく見えた。


「巫女じゃない?では、あの子は一体どういう状態なのですか」

「星に体を乗っ取られている…多分ね。私の知っているあの子は、今、どこにもいない」

「は…?」

 姪がどこにもいない、と言われても意味が分からない。


「前例がないんだ、乗っ取られるというのは。レビは読んだことがあるかもしれんが、巫女というのは脳の一部を星に貸し与えている状態だ。自己の中で対話し、星の意志や意見を私に伝える。しかしあれはダメだ、脳のほぼすべてを星に渡してしまっている。自己と星との住み分けが出来ていない。

 生前リューリが『あの子は力が足りないが星様には誰よりも近い。自己と星との意志の両立が出来ないかもしれない』と言っていたのだが、その時の私には意味が分からなかった。…こういう事だったんだよ」


「力は足りないが、親和性が高いから完全に乗っ取られた、と?」

「…まとめるのが上手いな。そうらしい」

「では、今当主は巫女とではなく『星様』と直接話している状態ということですか」

「そうだ、姿かたちはあの子だが、中身は完全に別人だ」


 焼き菓子を齧り、紅茶を一口飲むと、クラウスはふうっと息を吐いた。

「あれはいわゆる『受肉した』状態なんだろうな。ほかの星にはああいうタイプの橋渡し役もたまにいるが…。この星では前例がない。

 勝手に動き回ってお住まいを飛び出すこともしばしば。フィオレが制御できんと言って嘆いているよ」


 公式の式典の時など、巫女は普通に洞の外に出ることがあるが、それ以外、巫女は基本星の塔樹から出ることはない。飛び出すというのはどういう状態なんだろう。星が憑依した状態の姪を、ちょっと見てみたくなった。


「自由に動ける体を得て楽しくて仕方がないといったところかな。代理なので宿主の正体がバレるのは困るんだが、覆面もせずに出回るのでこっちも大変困っているんだよ。話は全てグラーティア家当主を通すというルールも無視して、用があるところに勝手にひょいひょい出向いてしまう。竜たちも当たり前のように彼女を乗せて飛んで行ってしまう」


 巫女はドラゴンに乗れるというのは聞いたことがあるが、実際に乗っているのを見たことはない。それはそうだ、龍に乗って飛べるなんて楽しそうだと子供のころは思っていたが、大人になってよくよく考えると想像しただけで怖い。

 昔の巫女で乗っていたという人もいたようだが、自分が見た限りの二人の巫女、リューリもイリスも乗っているのを見たことがなかった。


「用があるなら出向くから呼んでくれ、と言っているのに、仕事中のヤツを待っておれんと言われるし。…つまり、いつでも動ける者の方がいいんだよ」

 それで私か、とクラウスの意図するところを理解した。


 冷静に考えると、私が一番適任に思えてきた。残念ながら。

 自慢にはならないが、巫女が何時いかなる時呼び出したとしても、すぐ動けるのは間違いなく私しかいない。悔しいけど。


 巫女に合わせて便利に動かせる駒は、私しかいないのだ。


「当主になるなら、色々教えていかないとな。5年ぐらいでサクッと引継ぎを終わらせよう」

 やはり、「サクッと」の感覚がおかしい。私もあれくらいの年になるとそういう時間感覚になるのだろうか。

 20年ちょっとしか生きていない私がその域に達するには、まだまだ時間がかかりそうだ。


 クラウスのところに、緊急連絡が入った。

「ん?フィオレか、どうした」

『クラウスおじさま!アステリア様がそちらへ向けて飛び出していきました!』

「またか!」

 900歳を超えているとは思えない身のこなしで、高祖父は素早く立ち上がった。

「…行くぞ。レビも来るんだ」

「えっ?あっ、はい」


 星が憑依した姪を見てみたいとは思ってたが、こんなにすぐ見れるのは予想外だった。

 私はクラウスの後に続いて、急いで部屋を飛び出した。


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