大切なこと・後編
「なんでお前なんかにプロポーズの言葉言わなきゃなんねぇんだよ」
「いいじゃん。教えてよ」
お酒のせいか、それとも普通に恥ずかしいのか。よくわからないけど涼の顔が赤くなっていく。
「わかったよ...」
なんか渋々って感じがするな。
「俺、蕨とこれからを共に過ごしたい。そして蕨を1番な幸せ者にしたい。だから俺と結婚して欲しい」
僕は思った。
「いいじゃん」
「あ、ほんと?」
「うん。恥ずかしがることなかったのに」
「そうか。ならよかったわ」
酔いのせいなのか恥ずかしいのかわからないが、涼の頬が少し赤かった。
「それで?OKもらえたの?」
「そりゃもちろん」
「で?それと今日が最後には何が関係あるんだい?」
「俺この街を出るんだ。結婚したからね。仕事終わりにここに来れなくなったんだ」
「そっかぁ。そういうことだったのか」
僕は酒を呷った。
「お前と酒を飲めなくなるのは悲しいな」
「ちょっと遠く行くけど、お前も遊びにこいよ」
「時間あったら行くよ」
「あと、家族サービスはしっかりするんだぞ」
「そうだな」
「お兄さんたち。もうそろそろ店閉めるからね」
「えっ。もうそんな時間ですか」
僕と涼の腕時計を見る動作がシンクロした。
針は1時前を指していた。
「じゃあお開きにしますか」
「そうだな。新天地行っても頑張れよ」
「お前もな」
お金を払ってお店を出た。
じゃあな。
手を振って家までの帰路についた。
思い返せばただの惚気話だったが、涼が伝えたかったことが、あの話の中に散りばめられてる気がした。
それになぜ今まで気がつかなかったのだろう。
* * * * *
家に着いた。時計は12時42分。
子供も嫁も寝ていた。
僕は担当の家事と寝支度を済ませて寝床についた。
* * * * *
目を覚ますと朝の7時だった。
休日の割には早く起きた。
「おはよう」
先に起きた妻はリビングのソファに座っている。
「うん」
そんな返事が返ってきた。
僕は口を濯いで妻の隣に座った。
「金曜日に飲みに行くのやめる」
「なんで?」
「涼が結婚してもう一緒に飲めなくなるみたいだから」
「涼さん?あの人結婚したんだ」
「うん」
子供はぐっすり眠っている。
この家は子供がいないと静かだ。
「いつもごめん。僕のそばにいてくれてありがとう」
「何急に。冗談かなんか?」
「いや。本気だよ」
「そう」
妻はいつもそっけない。
僕もそっけなかったかもしれない。
「お前のこと嫌いだよ。殺してやりたいことも多々ある」
朝から重たい。
「でも愛してるよ」
カーテンの隙間から射した光が時を止めているような気がした。いや、僕が止めている可能性もある。
春の顔を見た。隙間から差し込んだ光が照り返して、春の顔を照らす。そのせいで少し赤くなっている。
この横顔を見た時、なぜか懐かしく感じられて、それが妙な胸騒ぎを引き起こさせる。
「照れてる?」
「うるせぇ」
少し揶揄ったら脇腹を蹴られた。
この痛みを忘れた時、殺されても構わないと心の底から思った。
「僕も愛してるよ」
「お前だって照れてんじゃねぇか」
久しぶりに2人で笑った気がした。
こんばんわ。雨樋です。
最後まで見ていただきありがとうございました。
この作品は僕の友人がモデルとなっているのですが、初めて彼のエピソードを聞いてからもう随分と経つので、いつの間にか彼は別れていたし、いつの間にか新しい相手を見つけていました。これが5話で終わった理由です。まあ、他にも理由はあるんですけどね。
5話だけで1年もかかってるんですよねこれ。
もっと投稿ペースを上げないとね。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう。
雨樋でした。




