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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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来年の夏まで

作者: 雨樋 朔
掲載日:2025/10/27

いつも通り、屋上でくつろいでたら、僕の好きな人が、飛び降りようとしていた。

フェンスを超えて、屋上の淵に立っていた。

足の半分は宙に浮いていた。


「蛍!」


僕は蛍を呼び止めた。


「あれ?湊じゃん。どうしたの」

「どうしたのってこっちのセリフだよ」

「どうしたのって、見ればわかるでしょ?今から飛び降りるつもりだったんだけど...」


僕の目には水たまりができていた。


「え?死ぬの?」

「もう、飽きたし、いいかなって」


蛍は笑顔で僕を見る。死ぬ前にそんな顔見せないでくれよ。

僕の頭の中は真っ白になった。目の前で人が死ぬ。その人は僕の好きな人。


「ほ、蛍が飛び降りるなら、僕も一緒に飛ぶ」


考えるよりも先に言葉が出た。


「なんでだよ。湊には関係ないだろ?」

「か、関係あるから。僕も飛ぶ」

「わかった。じゃあ飛ぶか」


向こうは覚悟を決めているようだが、僕には今飛ぶ勇気はなかった。


「まて。その前にやりたいことがあるから、来年まで待ってくれない?」

「来年ね。いいよ」

「待ってくれるの?」

「まつよ。一緒に飛んでくれるんだからね」

「じゃあまずこっちにきてくれない?」


蛍はフェンスを軽々と超えた。

そして僕を見て笑顔で言った。


「やりたいことって何?」


僕は包み隠さずに本音を言った。


「蛍といろんなことがしたい」

「俺と?」

「僕、蛍くんのこと好きなんだ」


蛍はキョトンとしていた。


「ごめん。気持ち悪いよね。男が男を好きになるなんて」

「奇遇だね。俺も湊好きだよ」

「え?蛍、僕のこと好きなの?」

「うん。好きだよ。俺たち付き合おうよ」

「もちろんだよ。僕、蛍と付き合えてすごく嬉しいよ」


そういうと、蛍は僕の頭を撫でてくれた。

僕はこの頭の感覚が忘れられない。


* * * * *


夏。

この一年はあっという間だった。

とても充実した一年であった。

2人でいろんな場所に行ったし、いろんな経験をした。


「もう、今日でおしまいだね」


蛍は小さくつぶやいた。


「どう?これでもっと生きたくなったでしょ」

「いや、全然。もう今日で一緒に死ぬつもりだよ?」

「え?」


僕の考えでは、楽しくなって死にたくなった自分が馬鹿馬鹿しいと思わせるための作戦だったのに、全く作戦が効いてない。


「俺は飛び降りる覚悟があるから、一緒に飛び降りるって言ったのかと思ったよ。せっかく好きな人と一緒に死ねると思ったのに」


食い止めるどころか、重い愛となって、より一層死にたい欲を高めてしまった。


「一緒に飛ぶって言ったら僕が飛ぶのをやめるとでも思った?甘いんだよ。そんな簡単に気持ちは変わらないんだよ」


僕に棘のついた言葉が刺さる。


「俺がそんな簡単なことでやめる訳ないじゃん。こっちは覚悟してんだよ」


熱くなって口数が増えてきた。


まあ、十分楽しめたし、こんなとこでいいだろ。一年かけた茶番も今日でおしまい。


「蛍さ。心に『シニタガリ』が住んでるよ」

「は?何言ってんの?」

「僕、実はさ。ここに来た人の心に住み着くシニタガリ追い払ってるんだよね」

「シニタガリってなんだよ」

「しらばっくれなくていいよ?蛍の体乗っ取っておいて、よくそんなことが言えるよね。今喋ってんのも、シニタガリ。お前だろ?」

「なんなんだお前。今までずっと俺がこいつの体乗っ取ってたの知ってたのか?」

「当たり前だ。この学校の屋上から飛び降りようとするやつ、みんなシニタガリが体乗っ取ってんだよ。だからわかるの」

「なんだよ。バレてたのかよ。この一年なんだったんだよ」

「実を言うと、この世界は、君たちがいる世界とは別の世界だから、ここで過ごした一年の記憶も、実は現世からしたら5分も立っていないんだよ」

「は?」

「『創られた記憶』だよ。僕がいいから創り出した記憶を、君の脳内にインプットさせたんだよ。だからさっきまでの行動や会話は全て、僕のシナリオ通りに進んでいるってわけ。僕の芝居が上手で気づかなかったかもしれないけど」

「創られた...記憶...。意味わかんねぇ。まあいい。死ぬことに変わりはないんだ」


蛍の体を乗っ取ったシニタガリは、屋上のフェンスを駆け上がろうとした。


「無駄だよ」


僕はシニタガリに向けて指をさした。


「死にたけりゃ殺してやる。離れろ。シニタガリ」


ばん。


「せっかく一年分の楽しい記憶を作ってやったのに。勝手にシニタガリがどっかに行くなんて思ってた自分が悪かったなぁ」


僕の指から放たれた特殊な球で、シニタガリを撃ち抜いた。


「く...そが...。せっかくいい...獲物を...捕まえたと...思ったの...に...」


シニタガリは苦しみ悶えながら灰になった。


蛍の脳内を弄り、この場所や僕との思い出、体を乗っ取られていたときの記憶など、全ての記憶を消した。

その後はちゃんと現世に送り返す。


たまに、またシニタガリが住み着いて、戻ってくる人とかいるけど、毎回僕が止めてあげている。


今回は実験で芝居をして止めようとしてみたけど、あまり効果はなかったみたい。なんなら助長してたかもしれない。


* * * * *


僕は現世に戻って、平凡な生活の続きを始めた。シニタガリを駆除しながら、高校生をやっていくのも大変だな。

シニタガリが心に宿る人間は、僕よりも大変かもしれない。

シニタガリが住み着いたら僕のとこに来ればいい。

救ってあげる。

こんにちは。雨樋です。

初めてBL色の濃いものを書かせていただきましたが、意外と楽しかったです。

この作品はOmoi様の「君が飛び降りるのならば」を参考に書かせていただきました。知らない方は素敵な楽曲なのでぜひ聴いていただきたいです。

物語の序盤、2人とも今までずっと友達だったかのように話し始めますが、もうこの時点で湊によって創られた記憶が蛍の頭にインプットされていました。その後に出てくる一年間の記憶も、追加で湊によって創られた記憶です。

シニタガリは誰の心にも住み着くらしいです。しかし湊は全員を助けられるほどの力がないみたいなので、そういう時は大切で信用できる人に吐き出すと、言葉と一緒にシニタガリも吐き出されるらしいですよ。(湊曰く)


ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

以上。雨樋でした。

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