↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/153

気の緩みと油断、これによって訪れるものなーんだ?

やったね!お風呂回だ!

『落ち着けクソマッド。全員ドン引きしてんじゃねえか』


『あびっ!?』


突如モニターの向こうからそんな声と共に、ゴンッと痛そうな音が聞こえ博士の高笑いが聞こえなくなった。


続いて、


『うるせぇですぅ!あっちで寝てろですぅ!!』


『うへへへへぇぇ~~~二徹の脳に効いちゃうぅぅ~~』


可愛らしい声に似つかわない乱暴な言葉と共に、ヤバイ目になった博士がモニターから消え失せる。


消えた博士の代わりにモニターに映ったのは、大剣を逆手に持つ(アインス)近衛を侍らせたロイドと、植物の蔓を荒ぶらせるミモザだった。どうやらアインスの剣の柄で博士をぶん殴って黙らせ、ミモザの香で眠らせ部屋の隅にぶん投げたらしい。


過激すぎる退場劇にぽかんとしているとモニター越しにロイドと目が合った。僕の顔を見た彼は盛大にため息をついては頭をがりがりとかきむしった。


『……そういう案も少し出たってだけだ。真に受けんじゃねえぞ、ラウ』


『そうですよぉ。そもそもその勇者の個々の特性っていうのも、あのマッドが言ってるだけでちゃんとしたエビデンスがある訳じゃないですぅ。気にしないでくださいねぇ』


「あ、う、うん?」


何故か研究員ふたりに慰められ、困惑しながら頷く。どうやら僕を勇者にしようとしているのは博士だけであって、第零研究室の方針という訳では無いらしい。

嫌そうに博士を見下ろすロイドと鼻息荒いミモザの様子にホッと安堵を覚えつつも、でもほんの僅かな疑惑ももたげてしまう。


何と返すべきか悩んでいると、この気まずい雰囲気の発端となった質問を投げかけてしまったアジェルが少し焦ったような声を上げた。


『な、なにはともあれ今回の資料の重大さは理解したでござる。とりあえずもう共有事項が無ければ一旦お開きにするでござるよ。もう遅いでござるし』


『そうですね。……大使、大丈夫ですか?』


「えっ!?はい!大丈夫だよ!」


心配そうな顔のユリナに慌てて手を振ってメンタル大丈夫ですのサインを送り、もう解散で構わないと頷く。

二、三軽く言葉を交わした後、第零研究室とカルベン主要街のホテル、そして聖霊教会を繋ぐビデオ会議は終了された。


「……」


途端に静かになった部屋の中でぼんやりと宙を見上げる。


なんだろう、ショック……ではないが、なんだかモヤモヤした気持ちが胸の中で渦を巻いていて、それが上手く言語化できなくて気持ち悪い。


別に博士がぶっ飛んでるのも、倫理観が無いのもちゃんと理解しているし、正直博士は僕の事溺愛しているように見えてその実『ユウキエネルギーに適合した実験体』としか僕を見ていないのも薄々分かっている。


そんな博士だから勇者という強い存在が作れるなら作りたいと思うことも、モンスターにとって有利になりそうな勇者の特性を旨い事使えないか画策するであろうことも理解できる。

だから別にショックではない。「まあ博士ならそうするでしょうね」という心境だ。


だけど……何かもやもやしてしょうがない。


「……あ゛ー、もういいや……」


考えていてもしょうがない、というかもう疲れすぎてちゃんと頭が働いていない。こんなコンディションでうじうじ悩んでいたってまともな考えが浮かぶわけも無いのだ。


思考を放棄した僕はデスクの上のマフォコンを閉じては、大きなベッドに飛び込んだ。


「んぁぁ……お風呂……」


客室には風呂が備え付けられていないので、教会最上階にあるらしい大浴場に行かねばならない。だがしかし住み込みの神官と共同らしいので行くなら全員が入浴し終えるのを待つべきだろう。今の時刻は22時過ぎ、あと一時間もすれば使用者も居なくなるだろう、から……。


うと、と瞼が落ちる。やばい、化粧も落としてないし、服も制服のままだ。このまま寝たら終わる。そう思いつつも疲れ果てた体はずるずると睡魔に引き摺られ───







──────────


──────


──……






「はっ!」


あかん落ちてた!うっそもう日付越えてるじゃん!

やばいやばい、確か2時くらいには大浴場の清掃が入るって言ってた気がする。その前にはお風呂終わらせて置かないと終わるぞ!流石に教皇とお会いするのに風呂キャン親善大使はまずい!纏まるものも纏まらんて!


ワタワタとベッドから飛び起きた僕は、ベルが持たせてくれた化粧品一式が詰められたポーチを引っ掴んでは部屋を飛び出した。






聖霊教会大聖堂は、例に漏れずカルベン独自の建築方法で建てられた石造りの城であり、リライヴェッジ研究所とは真逆のサイエンティフィックの欠片も無い古き良き建造物という面をしている───が、しかしその内部は、具体的に言うと巡礼に参る信徒達の目に触れない、教会運営や都市庁舎業務を担う実務エリアでは中々に近代化が進んでいる。


上下階移動式魔道具、有体に申し上げるならばエレベーターもその一つだ。昂然たる城において少々場違い感のある箱に乗り込み、最上階を目指すべくボタンを押し込む。


途中どこからか銀矢が飛んできたり銀の鎖で簀巻きにされたりせんだろうな、とドキドキしながらも待つこと少し。幸いにも誰にも会うことなくチーンという小気味いい音と共に最上階へとたどり着いた。


「おー、大きい大きい」


誰も無い脱衣所を覗き、次いで大浴場の扉を開け放つ。

だだっ広い空間に何本も立てられた白亜の柱によって支えられるドーム状の天井には、この教会内の至る所におわす三対六翼の女性のモチーフが彫刻されており、揺らめく橙の灯りによって全体が照らされている。

湯気を立てるお湯は浴場中央の柱から流れ込んでおり、トポトポと心地よい水音が響いている。

すごい、リゾートのお風呂みたいだ。こういう感じのお風呂ニンゲン界にもあったあった。


やはり日付も変わる深夜にお風呂に入りにくる変わり者はいないようで、大浴場にもモンスターの影は無い。これなら狐面を取って問題なさそうと判断した僕は、ウキウキと沸き立つ心を抱えて早速服に手を掛けた。


「んー、ふふふーん、ふーむむ~」


疲れやモヤモヤを流すには風呂に限るね。しかもこんな大きいお風呂で、しかも貸し切りともなればご機嫌にもなっちゃうってもんよ。誰も居ないことを良いことに鼻歌まで歌っちゃうもんね。

寝落ちしたときは終わったーと思ったけど、逆にひとりで気兼ねなく入れるからむしろ正解だったまであるなぁ!


狐面を棚に放り込み、ジャケットもスラックスも脱ぎ去ってワイシャツのボタンを外していく。おっと、このバイタル計測器も取らないと。高温多湿には弱いって話だし───





ガチャリ、と出入り口から音がした。


「………………は?」


「あ?」


次いで、驚いたような声が聞こえた。思わず服を脱ぐ手を止めて、出入り口へと視線を向ける。





……いやまぁ確かにね、大きなお風呂を前に気が緩んでいました。こんな深夜に風呂入りに来る奴なんていないだろうと油断もしていました。正直に認めます、はい。ごめんなさい。




でもさぁ、だからってさあ?




「…………………シ、シエル、リーファ、さま……?」


「………ニ、ニ、ニン………ッ!?」


目の前のモンスター……ニンゲン絶許を掲げ、ニンゲンを聖敵と定め、滅さんと立ち向かう聖霊教会大聖堂担当枢機卿、聖女シエルリーファは、デフォルト固定されていた無表情を大きく歪め、真っ青な顔でワナワナ震える。


大きく見開かれた薔薇色の瞳が向く先は、狐面を外し、ワイシャツ一枚姿のアンデッド。


それ即ち、認識阻害が外れた素顔を晒す僕であり───





「ニンゲン────ッ!?」




…………いやぁもう今どきこんなラッキースケベ(致死トラップ)は流行らんて……。



突如訪れた今世紀最大の危機を前に、僕は死を覚悟したのだった。







◆







目の前に立つイキモノの正体を悟った聖女の行動は早かった。


胸元に掛けた、中央に真珠のような光沢を持つ宝石が嵌め込まれた美しい意匠のロザリオを両手で握りこみ、早口で何かを唱える。


その瞬間、彼女の背中に生える翼が銀色に輝き、頭上の天環が眩しい位に光を放ち始めた。

聖女を中心に脱衣所の床に巨大な幾何学模様の陣が広がり、発生した魔力圧が法衣とワイシャツがバタバタとはためくほど暴風となって吹き荒れる。


感じたことも無い強烈なプレッシャーに襲われ魂消て体が硬直する。

しかし聖女の背後に三重の銀の円環が現れ、その円環より銀色の氷柱のような先の尖った結晶体が無数に発生し、全ての切っ先が自分に向いたのを見てようやく我に返った。


「二、ニンゲン!お前の好きにはさせません……っ!今この場で、刺し違えてでも私が滅して……」


「わああああっ!!シエルリーファ様待って待って待って!!ニンゲンじゃないです!僕です!親善大使です!!」


「はっ!?」


大慌てで投げ捨てた狐面を装着して正体を明かす。いや正体を明かしてしまったせいで暴走聖女になっているのでこれは正しくないか?いや今そんなこと考えている場合じゃなくて!


やめてー!落ち着いてー!!と下着にワイシャツしか纏っていないということも忘れて必死にわちゃわちゃと無害アピール。


すると聖女は憎き仇敵と思っていた存在が、来賓として招いていた親善大使になったという事態に驚愕に目を見開いた。


「なっ……ど、どういうことです!?今、確かにここにはニンゲンが……」


「あ、う、ううん……ニンゲンだけどニンゲンじゃないというか、そのぉ……」


とりあえずあのヤバそうな魔法は発動前にキャンセルできたみたいだけど、いやこれなんて説明すれば……。

ごにょごにょごにょ~と口籠り、冷や汗をかき、視線をさ迷わせる。


今にも逃げ出したい様子の僕を見て何かを悟ったのか、シエルリーファ様はツカツカと僕に無言で歩み寄っては据わった目で僕の顔の横に勢いよく手を付いた。

ドゴォッと細腕から繰り出されたとは思えない威力の張り手に壁にヒビが入り、思わず「ぎゃああっ!?」と悲鳴をあげる。


「……説明しなさい。今すぐに」


「おおおおおお仰せのままにィィイイッ」



至近距離で僕を見上げる笑ってない笑顔に、ガクガクブルブルと震えながら何度も何度も頷くのだった。







答え:死

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。