↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/153

え!?この状況から入れる保険があるんですか!?

前話のラストを今回初登場のキャラの登場演出の為に僅かに変えました。一体ラウを待ち受けるのは何エル何ーファ枢機卿なんだ……!?

その光を見た瞬間、ギクリと体が一瞬強張った。

あれは精神干渉系の魔法だ。恐らく洗脳などではなく対象者の内面を覗く精神鑑定系であろうが……しかしその事実は何にも安心する材料にはなり得ない。

僕の正体がバレかねない。非常にまずい。


このモンスターの精神魔法の精度がいかほどのものであるかは分からないが、もし魔導士団きっての精神魔法のエキスパートと呼ばれるベルリアナと同格なのであれば、僕がアンデッドモンスターであることも、場合によっては元ニンゲンであることも知られてしまうかもしれない。


そうなれば冗談抜きでこの場で殺されることも───


「ラウ」


怖気づいて足を止めそうになった瞬間、アジェルにそっと背中を押される。緊張する親善大使をエスコートする騎士の体裁を装って僕の顔を覗き込んだアジェルと目を合わせれば、焦り一つない落ち着いた表情で小さく頷かれた。


進め、ということだ。あのモンスターの精神魔法では僕の狐面に掛けられている認識阻害の魔術は突破できていないと手の力で伝えてくるアジェルに、震えそうになった口元を引き結んだ。


今日まで魔法界を守る為に研鑽を積んできた王国騎士団・王国魔導士団の名前は伊達ではない。王国騎士団の騎士や王国魔導士団の魔導士は精神魔法に耐性をつける訓練も行っており、自分に向けられた魔法がどの程度のものか判断する術に長けている。


その王国騎士団の騎士であるアジェルが焦った様子もなく歩みを促してくるのなら大丈夫だ。

正体バレの恐怖に未だザワザワと落ち着かない腹の底に力を籠め、平静に見えるよう表情を取り繕う。


ここで僅かにでも足を止めようものならやましいことがあると言うも同義になってしまう。焦っている内心を悟られないよう、ゆっくり息を吸って吐いた。


「ご案内します。どうぞこちらへ」


「はい、ありがとうございます」


僕が気を取り直したのをチラリと確認し、何事も無かったように前を向くアジェルにこっそり胸の中でお礼を告げる。

同じく僕の様子をしばらく観察していた妖精族の神官も、やがて満足したように視線を切ってコツコツと歩き出した。


身近にベルリアナという精神干渉魔法を容赦なく多用するモンスターが居るので麻痺しがちだが、実際精神干渉魔法というのは非常に高度な魔法の為、会得しているモンスターというのはかなり少ない。

貴重な魔法を使用できるモンスターを僕の出迎えに採用するとは、なるほど平然としているようで教会もこちらをかなり警戒しているようだ。隙を見せれば容赦なく突くつもりだろう。


気を引き締めねば、とようやく冷静さを取り戻した頭で状況を分析する。


磨き抜かれた大理石調の床を踏みしめ、無言のまま教会の奥へ進む。壁に等間隔に掛けられた燭台と小さな天窓から取り込まれる陽光によって照らされる廊下は、日中にもかかわらず若干薄暗く感じる。


至る所に配置された石像や宗教画は審美眼のない僕から見ても貴重なものであることが伺えた。宗教的価値の高そうな美術品を横目にそっと右の二の腕に触れ、服の上からそ(・)れ(・)の感触を確かめながら進む。


「到着いたしました。中で枢機卿がお待ちです」


「ここは……」


やがてたどり着いたのは通路の最奥、巨大な青銅の扉の前だった。僕らの背丈の倍はある両開きの扉を口を開けて見上げる。


こんな大きな扉、『豪脚』使ったアジェルくらいの膂力が無いと開けられないんじゃ……?と、開閉方法に悩んでいると、案内の神官は徐に扉の脇に取り付けられた小さなベルに手を掛けた。


扉と同じ青銅製の小さなベルを鳴らすと、カランカランと控えめな鐘声と共に扉の表面を黄色い光のラインが走る。よくよく見ればそのラインはびっしりと書き込まれた文字列だった。ミモザに前見せてもらったことがある、魔道具を起動するために施される魔術である。


どうやらこの扉自体が大きな魔道具のようだ。ベルを鳴らせば自動的に開閉するらしいそれは、ゴゴゴ……と厳かな音を立ててゆっくりと開き始めた。




まず最初に見えたのは大きな円形のステンドグラスだった。咲き誇る薔薇とそれに囲まれる翼を生やした女性の絵が様々な色合いのガラスで神々しく表現されており、太陽の光を透かしては床に美しい光の波紋を作っている。

ステンドグラスの手前にはこれまた見上げるほどに大きい白亜の石像が鎮座していた。いくつもの円環を背負う三対六翼の女性を模した石像と、その石像へと捧げるように大量の花々が祭壇の上に備えられている。


異様なまでに静かな空気と、石像と祭壇の方を向くようにぐるりと円形に配置された長椅子を見て、ここが宗教的に重要な空間───即ち聖霊へと祈りを捧げるための礼拝堂であることを悟る。


てっきり応接間かどこかに通されると思っていたのだが。教会の関係者ではない僕らがこんな場所に入っていいのかとためらっていると、ここまで僕らを連れてきた神官が音もなく扉の脇に控え、手で入室を促してきた。

僅かに躊躇しながらも、意を決して礼拝堂の中へと足を踏み入れる。


床に敷かれた石柱まで続く黄色いカーペットが僕らの靴音を消す。かなり天井が高い部屋だ。ドーム状に伸びる天井は細部にまで精緻な彫刻が施されており、天辺には大きな天窓が嵌め込まれている。


廊下と打って変わって明るい礼拝堂をキョロキョロと見回すと、祭壇の前に跪くモンスターを見つけた。同時に背後で扉がゴトンと音を立てて閉まる。

こちらに背を向け一心に祈りを捧げていたそのモンスターは、その音に徐に顔を上げた。


「────っ!!!」


はらりと背中を滑るのは、陽光を受けて煌めく銀の長髪。そしてその髪を払うのは穢れ一つない真っ白な一対の翼。ゆっくりと立ち上がる彼女の頭上には、どういう原理で浮いてるのかさっぱり分からない光でできた天環。


後ろ姿だけで自らをここまで呼び込んだ枢機卿の正体を察した僕は、サアッと顔からエネルギーを引かせ口の端を引き攣らせた。


信じられない状況に狼狽え、わなわなと震えながら彼女の名を呼ぶ。


「せ、聖女……シエルリーファ、枢機卿……っ」


「………お待ちしておりました、親善大使殿」


応えるように振り返った彼女は怯える僕とは対照的に、非常に落ち着き払った態度で法衣の裾をはためかせては教会式の礼を取る。

何度も何度も僕をメディアの前でこき下ろしたげに恐ろしき天使は、美術品と見紛うほどに美しい容貌で、そして感情の乗らない薔薇色の瞳で真っすぐに僕を射貫いた。


なななななんで聖女!?聖女ナンデ!?聖女がなんで僕をお待ちしてるの!?いやぁ怖い!!何言われるか分かんなくて怖い!!無表情怖いいいいいい!!!


内心でパニックに陥る。すみません怖すぎです無理ですちょっとこの場を辞する許可を下さい!!と後ずさるも、背後に控えるアジェルに「何してんだお主」みたいな顔で見下ろされて退路を断たれる。

それどころか挨拶しろとでも言うように両肩を掴んでは僕を聖女の前に差し出した。


「うっ……ぐっ……は、初めまして、モンスター・ニンゲン友好条約締結対策対応委員会おもてなし本部、親善大使のラウと申します……こ、この度はお忙しいところお時間いただき、ありがとうございます……」


逃げられない。抵抗しても無駄と理解した僕は、せめて面と向かって暴言を吐かれないようにと本心とは180度違うことを口にしながらにこりと笑顔を張り付ける。いやもはやに゛こ゛り゛って感じの冷や汗だらだらの笑顔だったかもしれないが、何とか面会のお礼を口にすることにも成功した。


「ご丁寧に。聖霊教会大聖堂担当枢機卿、当代の聖女の任を仰せつかっております、シエルリーファです。本日はわざわざお越しいただいたにも関わらず、大変申し訳ございませんでした」


対する聖女は一切笑顔を浮かべることなく僅かに目礼を返してくるのみ。本当に謝意と歓待の意を示そうとしてるとは思えない無表情に泣きそうになる。

いやもう本当に歓待とかそんなのいいから、とりあえず僕をここから出してくれ───



そう願った瞬間、何の前触れもなく、目の前の聖女は懐から取り出した小瓶の中身を僕の顔面目掛けてぶちまけた。



パッシャァッと軽い音が礼拝堂に響く。

強張った笑顔が謎の液体によりびっしゃびしゃに濡れ、狐面と顎からポタポタと冷たい雫がしたたり落ちる。アジェルの「ホワァァァッ!?」と驚きの絶叫を上げる声がなんだか酷く遠くの方で聞こえた。


何が起こったか分からず停止する僕の目の前で、そんなとんでも奇行をとった聖女シエルリーファはその無表情をこてんと傾けた。


「……おかしいですね、最高級の聖水ですのに滅されないなんて」


「…………え゛っ………とぉ、ししししシエルリーファ様?こ、これはどういう……?」


「聖女殿ォ!?なにしてるでござるかぁ!?」


自分の身に(物理的に)降りかかった何かに驚きつつも再起動した僕は、慌てふためくアジェルが差し出してくれたハンカチを受け取りながら、何とか、何とか辛うじて保った笑顔で聖女に真意を尋ねる。

すると聖女は一切悪びれた様子もなく「いえ、大したことでは」と首を振った。


そして両手を胸の前で祈りの形に組んだかと思えば、突如空中に銀色の光輝く司教杖を生み出した。

光が集まってできたようなその長杖を迷いなく手に取り、ひゅんっと音を立てて目を剥く僕の鼻先に突きつける。

太陽と翼を象った切っ先鋭い杖を向けられ「ヒィッ!?」と恐怖に喉を詰まらた僕を、無表情ながらもどこか冷え冷えとした眼光で捉える聖女は、極寒の声色で吐き捨てるようにこう言った。


「ただ、目障りなアンデッドをこの手で滅そうとしただけです」


「「ばばばばばーーーーッ!?」」


バレてるーーッ!?


恐怖のあまりアジェルと手を取り合ってその場に飛び跳ねる。な、なんで!?なんでバレた!?まさか聖女も精神魔法の使い手……!?と薔薇色の瞳を見返すが、しかしながら精神魔法行使の痕跡である金色の光はどこにも見えない。

も、もしかして実はさっきの妖精族の神官さん認識阻害の魔術突破してたとか!?その報告を受けて直々に殺してやるぁっ!って僕のことを呼び寄せたとか!?


分からない。しかしながらここで正直に白状してはいけない。今にも僕の目玉を貫かんばかりに迫る司教杖にハンズアップしながらぶんぶんと首を振る。


「なななな何を言っているかわわわわわ分からないでござるぅ!!拙者ただの狐のモンスター也!」


「ちょっ、動揺しすぎでござる!拙者のアイデンティーを奪うのはやめろ!あ、いや、聖女殿!こ、この者はアンデッドなどでは決して、決して……っ!!」


僕と同じく大焦りするアジェルと共にワタワタと否定する。しかしながら何かを確信している様子の聖女は、無表情のままふんっと鼻を鳴らした。


「聖女を舐めないでください。貴女がただのモンスターでないことは一目でわかりました。何やら認識を誤魔化す術式を張っているようですが……誤魔化しても無駄です」


そう言って翼をバサリと大きくはためかせた聖女シエルリーファ。彼女はまるで裁定を下す神が如く神々しく、慈悲の無い言葉を言い放った。


「何を企んでいるかは知りませんが……聖霊教会が聖敵と定めているアンデッドの分際で、聖霊教会の本拠地であるこの大聖堂に足を踏み入れるなど───勿論、滅される覚悟があってのことでしょうね?」


「ありませんんんんんんっ!!!」


ヒイイイッ!!と恐怖に涙しながらぶんぶんぶんぶんっ!と首を振る。だが僕の言葉をまるっと無視した聖女はいよいよ頭上の天環を光り輝かせ、突きつけた司教杖から銀の魔力光とプレッシャーを放ち始めた。

流石に不味いと判断したかアジェルが僕と聖女の間に体を割り込ませ、そして滅茶苦茶焦った顔で冷や汗を流しながら聖女に相対した。


「せ、聖女殿!シエルリーファ殿!!落ち着いてくだされ!た、確かにラウはアンデッドモンスターでござるが!」


「なっ、ちょ、バッ!!?」


「が!アンデッドだからって即刻殺害はやりすぎでござる!!彼女はアンデッドモンスターである故……」


「いいえ」


早々に白状したアジェルをギョッと見上げるが、僕の言葉を遮り必死に説得に当たるアジェル。どうやら確信持って僕を滅そうとする聖女に僕の正体を隠し立てするのは無理と悟ったようだ。話を『聖霊教会が聖敵と定めるアンデッドモ(・)ヴ(・)とは違う』という方向に話をシフトさせようとしているらしい。

僕を守ろうと司教杖の切っ先を自分に向けさせた彼は、話を聞こうとしない聖女をキッと強い意志のこもった目で見返した。


流石に協力関係にある王国騎士団所属の騎士を傷つけることは本意ではないのか、聖女は突きつけていた司教杖を軽く振るっては胸の前で両手で持ち直したものの、否定を口にしながら頭を振った。


「やりすぎなものですか。この世界を創りたもうた聖霊様の僕は皆ハネ有るもの。対して地より這い出て輪廻の輪を侵す不浄なる存在は聖霊様が創造せし生命を脅かす。そう、例えばアンデッド」


凶器が消えてホッと胸を撫で下ろすのも束の間、彼女は自分の背後に突如無数の銀の矢を生み出した。

キリキリ、と音を立てて僕へと照準を向ける矢に顔が強張る。


「聖霊教会はこれをニンゲンと同じく聖敵と定めています。モヴであろうとなかろうと、輪廻の輪から抜けた死者という点では同じ。という訳で滅します。退いてください騎士様」


「イヤアアア死にたくなあああああい!!」


「しっ、シエルリーファ殿!!ラウ親善大使は此度の陛下の遣い!陛下の遣いを殺すなど王城への敵対行為として見做されるでござるぞ!教会としても王城と事を構えるのを良しとは思わんでござろう!?」


「…………」


聖敵滅する慈悲は無い、と告げる聖女を止めるべくアジェルが必死に言葉を募る。

いいぞアジェル頑張れ!なんとか説得して!背中に隠れながらガクガクブルブルと必死に応援する。


するとアジェルの言葉に今にも司教杖を振い銀の矢で聖敵を貫かんとしていた聖女は、ぴたりとその動きを止めた。

そして僅かな逡巡の末、無表情ながら渋々なのが分かる動きで展開していた銀の矢を消す。それによって僕を潰さんとしていたプレッシャーが霧散し、今度こそほーっと胸を撫で下ろした。


「……失礼いたしました。仰る通りです。我々聖霊教会は王城との協力体制を崩すつもりはありません。……例え王城が聖敵であるニンゲンと手を結ぶなどという愚行を犯すとしても、それは揺ぎありません」


聖女はそう言いながら、アジェルの後ろに隠れる僕を心底軽蔑したような目で見つめては「命拾いしたな」と言わんばかりにペッと吐き捨てる。


この聖女怖すぎるよぉ……。聖女あるまじき態度に戦々恐々としていると、司教杖も虚空に消し無手となった聖女は、この間一貫して変わらなかった無表情を僅かに笑みの形に歪ませた。


それはさながら、哀れな子羊を前にどう料理をしてやろうかと舌なめずりする肉食獣が如き狂気に満ちており───。


「そうですね、枢機卿が直々に手を下したと知れれば王城との関係悪化は必至。ただまあ……事故であれば致し方ありません、よね?」


「ひいい……」


夜道と背後には(事故装ってぶっ)気をつけろよ(殺してやんよ)、と言外で語る聖女に、僕は心から帰宅を望むのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。