二度目の謁見
私は地獄の14連勤に打ち勝ったぞ!ジョジ●ーッ!!
という訳で喜びの朝投稿です。遅くなってすみません。
この世界における貴族という存在は、かつて『私』が暮らしていたニンゲン界でのそれとは少し異なる。
ニンゲン界でいう貴族や異世界ファンタジーもので語られる貴族とは、地方に領土を持ち、国王や君主の代わりにその地を治める者───すなわち『地方領主』であることがほとんどだが、この魔法界における貴族はそうでは無く、立法機関そのものだ。
貴族とは、基本的に自らが治める領土というものは持たず、王都にて国王と共に政治を行う存在である。
勿論国王陛下と並び立って国家運営を行うために、その血筋というのは遥か昔より連綿と受け継がれることによって保たれる高貴性が重視され、国家運営における発言力もその高貴性がものをいうらしいという点はよくある話であるが、『〇〇地方を収める領主様』は貴族とは全く別のものである。
では地方を治めているのは誰かと言えば、それこそがこの国におけるNo.2たる六大領主様方だ。
国家運営の総責任者である国王陛下に対して赤、青、黄、緑、紫、灰の六色を冠する六大領主は各都市の総責任者であり、各都市主要街にある都市庁舎や各都市内に点在する都市庁舎地方支部を取り纏めて都市運営を行っている。
まあつまり、あの僕と陛下にコテンパンにされてしまった『緑の都市』領主様も、ああ見えて滅茶苦茶偉いモンスターであると言うことだ。
───なぜ突然この世界における貴族制度や国家運営について再確認をしているかというと、そんな一般モンスターであれば祭典などでない限りお目に掛ることすら難しい滅茶苦茶偉い国家運営と都市運営の総責任者たちが、跪く僕の目の前に揃い踏みしているからである。
「顔を上げていいよ、親善大使」
「……は、」
できれば上げたくありません、という本音は押し留めて、静かに目線を真紅のカーペットから数段上の玉座に向ける。
謁見の間に控える国家の要たる貴族たち、そして今日も豪奢な王族衣装に身を纏う黒狼クロード国王とその両脇に並び立つ4名のモンスターを視界に収めて、ごくりと僅かに喉を鳴らした。
陛下に最も近くで控えるのは、着物のようなゆったりとした灰色の服を纏う強面の兎獣人『灰の都市』領主様と、品のいい高級スーツを纏って濃い青のネクタイを締める耳の長い森人族『青の都市』領主様。
その更に隣に並ぶのはド派手な赤色の民族衣装をまとう色黒な肌の『赤の都市』領主様、そして『灰の都市』領主様の隣にビクビクと怯えた顔で並ぶのは緑ネクタイを締めるお馴染み狸『緑の都市』領主様だ。
六大領主様のうち、まさかの過半数が揃って僕を見下ろしているという異常事態に冷や汗が止まらない。威圧感すごい。何なのこれ。僕今から何言われるの?何も詳細も聞かされずに謁見の場に放り出された僕は狸領主様を笑えないくらい怯えながら陛下の言葉を待った。
「改めて、『緑の都市』活性化事業ご苦労だったね。君が考案した水上パレードのお陰で『緑の都市』は多額の興行収入を得ることができ、問題視されていた深刻な都市過疎化も食い止められそうだ。上々だよ、ねえ『緑の都市』領主?」
僕を労う体で狸領主に水を向ける陛下。まさかいきなりパスが来るとは思っていなかったのか、狸領主ははた目にも分かるほどにびくびくーんっと肩を跳ねさせ、そして青い顔で何度も首を縦に振った。
「え、ええ!それはもう!!先月の水上パレードの興行収入は私が領主になってから……いえ、ここ数十年に得た収益を優に超えます。ラウ親善大使が考案したニンゲン界発祥のスイーツ、ティラミスは早くもうちの特産になりつつありますし、水上パレードの都市として今後注目間違いなしの『緑の都市』に移住したいという声も多く今や都市庁舎は嬉しい悲鳴が飛び交っておりますよ!いやはや親善大使様々ですなぁ!」
「勿体ないお言葉でございます」
過剰なくらいに僕をよいしょしてくれる領主様にお礼を口にしながら頭を下げる。あの尋常じゃない冷や汗具合、きっと陛下から前もって話合わせるように滅茶苦茶圧掛けられてたんだろうなぁ。
決して良いモンスターではないけれどもどこか憎みきれない哀れな『緑の都市』領主にこっそり内心で苦笑いをする。
僕が考案した『緑の都市』活性化事業水上パレードの興行収入は予想を遥かに上回り、無事当初の構想通り月一の定期開催が決定した。
求人ならぬ求モンスター効果も奏をなし、輝かしいパレードスタッフとして働きたいと着々と就職希望者も増えているらしい。
このまま『緑の都市』で働きたいモンスターが増えれば本格的な活性化に繋がる。あとはいかにマンネリ化させないかが重要だが、それは『緑の都市』領主様と都市庁舎のモンスター達の腕の見せ所だ。
碌に機能していなかったとはいえ腐っても都市運営の要組織である。なんとかするだろう。
しばらくはおもてなし本部からも支援を続ける予定であるし、そこまで心配する必要は無いと思われる。
パレード定期開催決定に伴って、目玉であったゴンドラレースもパレード都度開催することに相成った。
とはいえ毎度あの規模を行うのは大変である為、半年に一度大きなレースを開催することにし、パレード都度その年に二度行う大きな大会に向けての予選レースを開催するようにドルニカさん率いるゴンドラ協会が都市庁舎と連携して調整している。
「大使さんに怒られない程度のギリギリの武装を攻め続けるぜ!」と輝く笑顔で宣ったドルニカさん達に一抹の不安を抱かないでもないが……うん、とりあえず頑張れ都市庁舎。
そして領主様が言うニンゲン界発祥のスイーツとは、実はモデルにしたニンゲン界の都市国家で有名スイーツだったティラミスを新しい『緑の都市』の特産にできないかとこっそり画策していたものだ。
『緑の都市』は基本的に田舎で牧草地が多く、チーズの生産量も多かったためチーズを使うスイーツは上手く嵌るのではと思い、我らがスイーツづくりの巨匠パーシーに言って試作してもらっていたのだ。
そしてレシピを共有したドルニカさんの奥様が経営するカフェを始め、『緑の都市』主要街各所で売り出してもらっていた。
パレード最中はそこまで売り上げは振るわなかったものの、あの濃厚でありながら控えめな甘さを大層お気に召していたらしいベルリアナが各メディアで紹介したため、現在『あの世界的モデルベルリアナが愛したスイーツ』として世界各地から求める声が多く上がっており、それ目当てで『緑の都市』に訪れるモンスターも増えている。
『緑の都市』に活気が戻ってきて喜ぶ領民達の弛まぬ研鑽と努力の甲斐あって、今やティラミスはシュークリームの中身になっていたりアイスになっていたりと独特な進化を遂げ人気を伸ばしているそうだ。僕もその内食べに行きたい。
「どうやら聞くところによると、水上パレードで披露した水上劇の演目も早速『青の都市』の劇場で取り入れられているそうじゃないか。いいね、上映の暁には是非私も観に行こう」
優し気に目を細めた国王陛下の言葉に、左隣で控えるエルフの特徴を持つ若々しい見た目の美丈夫である『青の都市』領主様はゆったりと笑んだ。
そう、驚いたことに水上パレードの開催すぐ後、パレードへの全面協力を快く申し出てくれたベルリアナが懇意にしている劇場のオーナー経由で、アルバストス領主様が「パレードで披露した演目を是非うちの都市でも上演したいから許可を」と打診してきたのだ。
正直切羽詰まって藁にも縋りたい状況であったウェルデならいざ知れず、世界一の歓楽街として栄えるアルバストスが仇敵であるニンゲンの文化をすんなりと受け入れる姿勢を見せたことに何か企んでいるのではないかと少々懐疑的になってしまいはしたものの、ニンゲン文化が広がることは願っても無い事だと二つ返事で許可を出したのは記憶に新しい。
流行の発信源と言われる『青の都市』であるから、きっと陛下が目を掛けるニンゲン文化に将来性を見出してくれたのであろうと思っている。それは本当に願っても無い事だ。
しかも、お礼を兼ねて『青の都市』の都市庁舎に打ち合わせに行った折、お会いできなかったものの領主様がわざわざ「今後ともよろしく頼む」と言付けを残してくれていたのだ。
滅茶苦茶良いひとやんけ……っ!!と感動に打ち震えてしまったのも致し方無い事だろう。
その節はありがとうございますという気持ちを込めて微笑みを携える『青の都市』領主様にも僅かに頭を下げれば、その隣の『赤の都市』領主様が僅かに眉を上げ、『灰の都市』領主様は静かに瞑目した。
分かり易く僕に接触を図ってきた『青の都市』領主様に対して、このふたり……というかここに居ない『黄の都市』領主様と『紫の都市』領主様も含む残り4名は今のところ一切の関りが無い為、おもてなし政策に対しどういう感情を抱いているかは皆目見当がついていないというのが現状だ。
陛下曰く「『緑の都市』の例があるからね、表立って批判したりはしてこないよ」とのことだが、前向きに検討しようという姿勢でないことは確かだろう。何となく様子見に徹しているような雰囲気は感じてはいるが、碌に話したことも無いので正直分からない。
果たして今後関わることは……まあ間違いなくあるだろうけど、どうかそちらの都市に事業案持ってご挨拶に行くことになっても「モンスターを裏切る不届き者め、死ね!」と切捨て御免だけはしてくれるなよ、と祈るばかりである。
「我々の最終目標は長きに渡るニンゲンとの戦争に終止符を打ち、不戦条約を含む友好条約を締結させること。我々の方から歩み寄りを、友好の姿勢を示していけばきっと魔法界への侵攻を未だ主張しているというニンゲンの一派の勢いを削ぐことができる。この政策はモンスターとの和平を望む親魔王派のニンゲンの後押しとなるだろう。どうか、他の都市も協力してくれたまえ」
そう言って傍に控える領主様方を───特に、険しい表情を崩さない『灰の都市』領主様と、何を考えているか分からない『赤の都市』領主様をじっくりと眺めた陛下。ピリッとした空気に僕と狸領主様の肩が跳ねる。
政策を推し進めたい陛下との間にバチバチと火花が飛んでいるように見えて仕方がない。
ひーん怖いよう。権力者と権力者の間で板挟みにされる僕可哀そう。
っていうかこんな話ならわざわざ僕呼ばなくてもよくない?と痛む胃をそっと押さえて撫でていると、領主様たちから目を離した陛下が再び口を開いた。
改めて陛下に意識を向け直して───ひゅっと息を飲んだ。
「それでね、今日君を呼んだのは少しお願いがあってなんだ」
細められた目の形はそのまま、しかしながら先ほどまでの柔らかさは皆無。静かでありながらどこと無く怒りを含んでいるような目に見つめられて体が強張った。
怒られる!?なんで!?何か悪いことしましたか!?と表情は崩さないまでも内心でオロオロオロオロと狼狽える。
余りにも剣呑な気配に、まさか「やっぱり不穏分子でしかないから殺します☆」とか言わないでしょうね!?と物騒な想像を巡らすが、しかし告げられた言葉は予想を大きく裏切る内容であった。
「最近『黄の都市』領主がよく会議を休むんだよ。今日も招集掛けたのにお腹痛いからって断られてしまってね……心配だよね」
「は?……い」
突拍子もない発言に疑問符が口から飛び出てしまい、実は後ろで同じように跪いていたアジェルが咎めるように小さく咳払いをした。
その音に我に返り慌てて取り繕う。陛下はそんな僕の様子に気付いているんだかいないんだか、気にした様子もなくゆったりと腰かけたまま鷹揚に頷いた。
魔法界北西部に位置する都市『黄の都市』
この都市はモンスターが信仰しこの国の国教として定められている『聖霊教』の本拠地である聖霊教会大聖堂が置かれている宗教都市で、『黄の都市』領主様は代々聖霊教の教皇も兼任しているそうな。
都市庁舎も聖霊教の大聖堂に併設されているらしい。
今代の領主様及び教皇様は天使族のモンスターで、領主業に教皇業にと忙しくされていると聞いている。
そう言えば聖霊教会は、丁度来月に年に一度の大きなお祭りを開催予定だったはずだ。確か復活祭という名前のお祭りで、かなり大々的にやるそうなのでもしかしたらその準備に追われて体調を崩してしまっているのかもしれない。
そうであれば確かに心配なところである……
「おもてなし政策関連の議題の時だけ休むなんて、真面目な彼女に限ってあり得ないしね。きっと体調が芳しくないのだろう」
「……」
あーはいはい、なるほど仮病ですね。ちくしょう普通に騙されたわ。ようやく陛下が怒っている理由に合点がいき思わず半目になる。
どうやら『黄の都市』領主様は招集やら会議やらをボイコットすることで全力でおもてなし政策に異を唱えているらしい。陛下の招集に応じないなんて相当である。余りにもあからさますぎる拒否に陛下もピキピキしている、と。
横目で謁見の間に視線を巡らせると、玉座からほど近いところに冷や汗をかき身を震わせる老齢のモンスターが見えた。
顔に深い皺が刻まれたそのモンスターは、白地に黄色の刺繍が施された丈の長い法衣を纏っており、首には重厚な意匠が施されておる数珠状のネックレスがかかっている。
これぞ聖職者な服装をした彼の所属は明らかだ。どうやらあのモンスターが招集に応じなかった『黄の都市』領主様の代理なのだろう。陛下に視線を向けられて居心地悪そうにしている。
何となくこの後に続くであろう言葉が読めて口元が引き攣る。
「お見舞いに行きたいところなんだが何分私は忙しくてね。という訳で代わりに行ってくれないかな?ラウ親善大使。『黄の都市』領主が喜びそうな土産話と一緒に、ね」
そら来た。つまりカチコミつつ新事業をねじ込んで来いというお願いですね。無茶言うな。陛下の招集すら躱すNo.2に僕がどうしろと。
本当マジでこの真っ黒国王、僕に無茶ぶりすることに何の抵抗もないな。実は僕の事嫌い?突き出された無理難題に静かに嘆息する。
しかしながらこんな大勢のお偉いさんの前で嫌ですと言えるほど僕の心臓は強くは無い。止まってるし。
僕と陛下のやり取りを見守っていた貴族たちがざわざわと騒めく中、僕は徐に頭を垂れた。
「……謹んでお受けいたします」
成功したら今度こそ高級焼肉食べ放題連れてってもらうからな。
『黄の都市』編プロローグって感じです。ようやっとな。
もしかしたら後で書き直すかもしれません。




