剣を振るう覚悟
大変お待たせいたしました。ようやく執筆していた現代恋愛もの中編が完結したので再開です。更新ペースも戻していきますよ〜!
よろしければその中編も是非ご覧ください!
『コンビニでたまに会う人と100話後××××する話』
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ハナガタミ流剣術───……
それはかつてこの世界を単騎で蹂躙せしめたニンゲンが使用していた剣術を元に、モンスター用に改良が為された剣術である。
特徴的な『刀』と呼ばれる片刃の剣と、独特な歩法を用いるそれは『守り』に一切の重きを置かず、ただひたすらに対象を屠り続けることだけに特化した必殺の剣術。
必要であれば自分自身の身すら顧みずに技を繰り出し続けることを是とするそれは、5つの属性技と4つの奥義で構成されている。
真のハナガタミ流……正しくは『華形見流』と表記されるこの流派の祖4代目勇者は、ニンゲンでありながら5つの魔法を駆使して戦場を駆けたとされ、その戦いぶりを再現するためハナガタミ流剣術は多くの剣術家によって日夜研究がなされていた。
しかし───
「僕が読み取った記録によると、ハナガタミ流ってバーサーカー戦法とってもある程度動き続けられる頑丈な体と、高度な身体強化魔法の制御、あと火・風・土・水・氷の5属性の魔法適正が要求されるんだ。ぶっちゃけハードルが高い上に、ひとりで魔法剣士的な立ち回りするよりも魔導士隊と連携した方が強くない?ってなって最終的に匙投げられちゃった忘れ去られた剣術らしいんだよね。正直僕も完全な習得は無理だと思う」
「はああなるほど……基本的にモンスターは適性のある1属性の魔法しか使用できないでござるからなぁ。ハードルが高いというのもうなずけるでござる」
「っていうかマジでちゃんと知識が頭に入ってるんだな……この資料と寸分違わない内容だぞ、今の」
「とんでもない技術ですぅ……あまりにもショッキングすぎる光景でしたがぁ」
『エイデル、正直トラウマ……』
そう思うならあんな蛮行が為される前に止めてくれてもよくない?
リライヴェッジ研究所地上一階の医務室のベッドの上で上体を起こす僕は、最低最悪マッドサイエンティストの部下ふたりに怒りを込めてにっこりと笑いかける。
すると未だにエイデルと抱き合って怯えるミモザと、やけに慣れた手つきで追加のポーション点滴を用意するロイドは揃って目を逸らした。
脳改造により限界を迎えて気絶しこの医務室に担ぎ込まれた僕は、ゲームでも出てきたポーションを点滴で与えられたことによってきっかり一時間後に意識を取り戻した。
相変わらず頭はズキズキ痛むし車酔いのような気分の悪さは抜けてはいないものの、肩や足の脱臼は完全に元通りに治っている。
ポーション様様であるな、とベッドの傍に立つ緑の液体が入ったパックが下がる点滴棒を見上げた。
このポーション、ゲーム『リリィの聖剣』ではその辺のアイテムやでも販売しているお馴染みアイテムであったのだが、現実では一本当たりの金額が大体一般的なサラリーマンの平均月収並という超高級品であるらしい。
しかしながらあのブルーハワイ味の魔力回復ポーションと違い超高級な金額に見合った回復力を服用者にもたらす優れ物だ。
そんな超高級品ポーションだが、流石にリライヴェッジと言えども医務室に常備できるようなものでは無い。
ということは誰かの私物であるのだが、その持ち主とは誰かというと……。
「ラウぅぅぅぅ~~~~無視しないでおくれよぉぉ」
「…………」
僕が寝ているベッドの足に縋りついておいおい泣く白衣の蜘蛛男を侮蔑の目で見下ろす。
汚ねえ体液が布団に付着するんで触らないでもらっていいですか?
今現在僕に投与されているポーションはこのクソマッドの私物である。今にも死にそうな僕を救うべく、ロイドとミモザがこのクソマッドのデスクをひっくり返して強奪してきてくれたらしい。
流石に魔法界一の権威である、超高級品のポーションの一つや二つ持っていてもおかしくはないということらしいが……このマッドの私物というだけで嫌な気分になっています。
まあそれのお陰で一命をとりとめた訳なのだが、エイデルへの狼藉から舌の音も乾かぬ内に行われた暴挙に目覚めた僕は遂にキレた。もはや口も利かずにいないものとして完全無視を決め込んでいる。
実験体と言えども命と意志あるモンスターにあんなことするなんて、倫理観欠如とかもはやそういう次元じゃないと思うんだよ。
やはり出会った初日に僕が感じた危機感は間違いじゃなかったんだ。このモンスターの娘辞めたくなってきたな、すごく。
めそめそと情けなく泣くクソマッド。あまりにも喚くのでそろそろ煩わしくなってきた。つまみ出せとアジェルに目で訴えるが、困った顔で首を振られる。なんでじゃい。
「えーっと、それで、知識は無事……無事?ついたようだが、ものにできそうか?ラウ」
「練習しないと無理。どういう技かとか、どう動くかってのは頭では分かってるけど体が付いていかないんだよね。結局さっき見せた『チリツバキ』って奥義も、本当は5連撃加えながら敵をかち上げて空中で首を切るって技だったんだけど、一撃目で肩脱臼して跳躍したときに足首もイッたから不完全も不完全だったし」
肩と右足を中心に体中に走った激痛を思い出して顔を顰める。正しい力の入れ方も剣の振り方も体に馴染んでいないから知識通りに無理に動こうとしたら体が自壊してしまうのだ。流石にゲームのように覚えたからはい即使用可!とはならない。
元々自分の身も顧みずに剣を振るうというとんでも狂戦士剣術だ、基礎も会得していない状態で好き放題振るえば敵を倒す前に自分が死ぬであろう。間違いなく。
何故よりにもよってこんな恐ろしい剣術をチョイスしてきやがったこのマッド、と思わないでもないが……しかしながらこの世界を救うための『最終手段』であることを課せられている僕はひたすら強くならなくてはいけない。
ひいてはそれが自分が生き残る為の道となる。たとえそれがクソマッドの手の平であるとしても。
何でもやると言ったのだ。嫌でもやらなくちゃいけない。
そう自分に言い聞かせて、怯えや恐怖といった負の感情は飲み込んで、目の前の戦う術を習得している虎獣人に僕はベッドの上で頭を下げた。
「アジェル、お願いします。僕に訓練をつけてください」
「……まあ、拙者は構わないでござる。フリント博士から騎士団長には話をつけてくれているようでござるし。ただ……」
アジェルはチラリとロイドとミモザを伺い見た。ロイドは非常に苦々しい顔で僕を見ており、ミモザは僕とアジェルを不安そうな顔で交互に見比べている。
きっとこのふたりも、何故僕がそこまでする必要がと思っているのだろう。
元々このふたりは、博士が提唱する勇者発生時における『最終防衛ライン:ラウ』案に反対していたから。
騎士団も魔導士団も憲兵隊もいるのだから、なにも僕ひとりに押し付けなくてもいいと言ってくれていたモンスター達なので、僕が本格的に敵との戦闘を、勇者との激突を想定した技術を身に着けることに難色を示しているのだろう。
ロイドも日々僕に訓練をつけていると言っても、その実彼が僕に教えているのは基本的な魔法の使い方とモヴに襲われたときの身の守り方だ。
あくまで魔力枯渇による最大内包魔力量の増量を目的として僕をこってり絞っているだけなので、訓練相手であるアンデッドモヴの攻撃を避けきれなくて本当に危なくなれば止めてくれている。
しかし剣術指南となれば話は別だ。これは身を守る術ではなく敵を殺す術である。会得して振るえば相手は多少なりとも傷つくし、その責は剣を振るった僕が負うことになる。
きっと、博士によって望まぬ生き返りをさせられただけの僕がそこまでする必要はないのに、と同情と心配をしてくれているのだ。
そしてそれはアジェルも同じであるから、彼は逡巡している。
まだ出会って数カ月の僕をそこまで思ってくれるのはすごくありがたい。そう思ってくれて本当に嬉しい。だけど、
「大丈夫。生きる為なら何でもやるって言ったから」
勇者となったサーシャがどれだけ恐ろしい存在であるか知っているのは僕だけだ。ゲームじゃ騎士団も魔導士団もあの凶行を止めることはできなかった。博士の言葉ではないが、状況を打開できるのはイレギュラーである僕だけ、なのかもしれない。
しかし今の僕じゃ勇者に羽虫のごとく殺されるのは目に見えている。きっと無様に、なんの痛痒も与えられないまま死んでいくのだろう。それは嫌だ。
マジでやり方はどうかと思うが、しかしながらマッドもきっと僕の感情や勇者の脅威を正しく想定しているため今回の蛮行を起こしたのだろう。本当にやり方はどうかと思うけど。
『死にたくない』という気持ちは僕にとって強い原動力だ。チリチリと心臓が僅かに熱を発するのを感じながらアジェルを真っすぐに見つめ返した。
「…………」
僕とアジェルの視線が交差する。アジェルは騎士であり、命のやりとりを生業としている者だ。生半可な気持ちで剣を握ればどうなるか、一番理解している彼は僕に本当にその覚悟があるか見極めようとしている。
僕の内面を覗き込もうとするその目を負けじと見つめる。
「大丈夫だよアジェルくん。ラウは強くなるからねぇ」
と、さっきまでベッドに縋りついて泣いていたフリント博士がそう言ってふらりと立ち上がった。そして感情の見えない黒い目でアジェルに微笑み、馴れ馴れしく僕の肩にポンと手を置いた。
「この子を強くすることは魔法界の存続に大きく関わってくる。改めて私からも頼むよ」
「触んなクソマッド。『チリツバキ』すんぞ」
「ヒッ!?医務室で刃物の使用はご遠慮ください!!」
自信の身も顧みず奥義出すぞコラ。右手に剣を転送させてブウンッと片手で振るうと博士は悲鳴を上げて飛びのいた。あ、勢い余って前髪ちょっと切れちゃった。まあいいかマッドのだし。
床に落ちる黒髪を見て尻もちをついては「む、娘が怖い……」とガクガク震える博士にため息をつく。
全く、このモンスターに乗っかっている僕が言えた話ではないが、何を根拠に僕が勇者に対抗しうる存在になると確信しているのだろうか。
余りにも寄せられる期待が重すぎて、期待に応えられないと用無しと切り捨てられるのではないかと内心びくびくしているこっちの身にもなってほしい。
「ああ、もう……分かったでござる。シフト通り来週からでいいでござるな?」
「!うん、よろしくお願いします!」
僕と博士のやりとりを見ていたアジェルは非常に気の抜けた顔をしていたが、やがて諦めた様に頷いた。その言葉にほっと安堵の息をついてロイドとミモザも見遣れば、こちらも疲れた様にため息をついている。
心配かけ通しで申し訳ない。でも、これが僕が決めた道だからどうか見守っててほしい。
「さてさて、話も纏まったところで君らに一つお使いをお願いしたいんだが」
「は?」
志し新たにやる気を充填させていると、早々に立ち直った博士が喜色満面で手を叩いた。
その言葉に非常に不穏な気配を感じ取った僕は、非常に、ひっじょーに嫌な表情を浮かべたのだった。
◆
「いやマジここどこ!?!暑い!死ぬ!!なんでこんなところにいるの!?」
結局午後も仕事を休んで静養した結果、今日起きた時には頭痛も吐き気も完治したのだが、何故か僕は今度は朝っぱらからただっ広い草原へと連れて来られていた。
真夏の太陽光を遮るものが一切ない広大な草原のそのど真ん中。
ジリジリと焼き殺されそうになる僕の傍らに立つのは、暑苦しい騎士甲冑を纏うアジェル。彼は大声で文句を垂れる僕に苦笑いを浮かべて疑問の一つに声答えてくれた。
「ここは『緑の都市』郊外、『黄の都市』との都市境でござるよ。遠目に大きな建物が見えるでござろう?あれがかつての王族が暮らしていた古城でござる」
「え!?」
アジェルの指さす方に慌てて視線を向ける。古城と言えば篠原優の死体が発見された場所であり、来年の春サーシャが現れるポイントである。
まさかここが!?と何にもない草原をぐるぐると見渡した。
あんまりにも軽い調子で連れて来られたので、感慨深く感じるべきなのか哀愁漂わせるべきなのか分からない。し、死体の跡とかないよね……?と恐る恐る地面見ちゃったりして。
こんな曰く付きの場所で一体何をしろというのだ博士は。詳細を知らされなかった『お使い』に混乱していると、背後から「おーい」と呼びかけられた。
「遺跡側の木立の方に反応ありだ。行くぞ~」
「ラウちゃん、目的地は森の中なのでまだ少し涼しい筈ですよぉ。行きましょぉ」
とことこと歩いてくるのは何やら重たそうな機材を近衛に持たせる白衣姿のロイドと、ランチボックスのようなものを両手に抱えるこれまた白衣姿のミモザだった。こいこいと手招きされるがまま、困惑を顔に張り付けた僕はアジェルと共にふたりの後に付いていく。
「ねえ、これなにする会なの?」
「足りなくなったエネルギーの補充の会だよ」
「うんん?」
エネルギーと言われて咄嗟に思いつくのは、僕のこの体に流れる血液代わりの生命維持エネルギー『ユウキエネルギー』である。それの補充とは?
さくさくと草原を横断する一行の中で首を傾げる。
とりあえず先導するロイドとミモザの後を付いて歩いていると、事情を知っているらしいアジェルがふむ、と顎を摩った。
「この所多いでござるなぁ。今日は何体くらいでござる?」
「反応的に20体くらいだな。まあラウの訓練かねてなら丁度いい数だろ」
「うーむ、まあお主の近衛もおるし平気でござるか。だが……そ、その、ミ、ミモザは、あああ危ないからちゃんと安全な場所にいるでござるよ!?」
「えっ!あ、は、はいぃ!ももも勿論ですぅ!で、でも危なくなったらアジェルに助けてほしいですけどぉ……」
真面目な雰囲気から一転、突然展開された甘々もじもじイチャイチャ空間にロイドとふたり目が死んでしまう。エイデルいたら多分大暴れしてただろうなぁ。
なんでこんな雰囲気出してるくせにまだ付き合ってないんだか。頭に飛んでくるハートを払いのけながらロイドの隣に並ぶ。
前方には草原の中に突然現れたようにポツンと広がる小さい森が見えて来ていた。
「あそこ行くの?」
「ああ、あの森の中に前に博士が行った遺跡があるんだ。今日はそこまで深いところにはいかないけど」
「へええ、ウェルデの遺跡ってあそこにあるんだ!」
「そうそう」
なるほど、ゲームと風景が微妙に異なる為にピンと来なかったが確かに『緑の都市』の遺跡は古城からほど近い場所にあった。遠目に見えた古城の位置と歩いてきた方向からしてきっと今僕らが今居るのはここらへんか、と脳内で記憶しているリリ剣のマップを開く。
くう……事前にマップさえ見れればきっと言われずともここがどこだか分かったのに……っ!リリ剣オタクを自負する内なるオタクが悔し気に唇を噛む。
そんな僕を他所にここへと僕とアジェルを連れてきたロイドは、近衛に持たせた機械をポン、と叩いてニヤリと笑った。
「今日はある意味、お前さんの里帰りかもな?」
「え?」
「え?????」
───数十分後。何故か僕は、木立の中でフラフラと揺らめく多数の不気味な人型の影たちと対峙させられていた。
ハナガタミ流について、大ガバが発覚いたしましたので訂正いたしました。
ハナガタミ流属性技は火・風・土・水・氷とします。雷くんはご縁が無かったということで……ごめんね……。
また技の名前も訂正します。
奥義は『花が朽ちる様を表す言葉+花の名前』で表記され、属性技は花の名前を捩ったものになります。
華形見流の祖、4代目勇者のヒナギクさんはお花を愛する心優しい人で剣術も花の名前で飾る雅な人。
正直者で曲がったことが大嫌いで大変忠義に厚いお手本ように素晴らしい方でした。
だから最終的に真実を知って絶望し、贖罪のためわざと罠にかかって死んじゃったんですけどね。
ある意味自殺。




