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幕間【緑】兄と妹のしょうもないある日の話。

誤魔化しの幕間もう一本投稿です。5/3より新編投稿予定です。

『緑の都市』活性化事業水上パレードの初回開催が無事に終わって一週間半経った。


主催者側である親善大使が疲労と睡眠不足によって閉会式を残してぶっ倒れるという失態こそあったものの、おおむね成功という形で幕を閉じた水上パレード。


予想を大幅に上回る興行収入を得られたことにより、構想段階の時から話をしていた通り月一回開催が前向きに検討されている。


おもてなし本部としても水上パレードの定着は政策の意義や興行収入の一部納付的な期待から旨味が多い事業だとして、次回以降しばらくはモンスター材・魔道具のレンタルは行っていく予定だ。


その辺りの打ち合わせについても都市庁舎(とついでに領主様も交えて)この一週間半で行っており、ようやくこの事業について引継ぎが行えそうな段階に来ていた。


そんなこんなで終わりが見えてきてほっと荷が下りたような感覚を覚える今日この頃。

僕は水上パレードの準備期間に当てていた一か月間行えていなかったパーシーのお料理教室を再開しようと、仕事終わりに久しぶりにロイド家に足を運んでいた。


「っていうかさぁ、僕が来る前とかこの一か月とかご飯どうしてたの?ふたり共」


懐かしさすら感じるウッドハウスの台所にて。冷蔵庫を物色して本日の晩御飯の献立を考えていた僕は、続きのダイニングでだらけるアンデッドに尋ねた。


僕が親善大使に任命される前は言わずもがなこの家に入り浸ってはお料理教室と称して昼・晩とパーシーと共に僕が作っていたし、親善大使任命後も三日にいっぺんと頻度こそ下がったものの夜には大使室を抜け出してロイド家に一時帰宅していたので、その時についでに数日分のおかずを作って置いといたりもしていた。


しかし水上パレード事業が本格化した後は、とても大使室から離れられるような状況でなかった為に、全くと言っていいほどこの家に来れていなかった。


まあロイドのことだし何やかんや上手くやってたとは思うけど。そもそも僕がこの世界に来る前もどうしていたのだろう。


パーシーはお菓子作りのセンスはピカ一だが料理のセンスは壊滅的だ。

この間ハンバーグを焼いてみようと作ったタネをフライパンで焼くように指示したところ、目を離したうちに氷漬けにした上に天井まですっ飛ばしていたしね。なにしてんねんマジで。


そして兄は兄で台所に立っている所を見たことがない。今も僕に全てを託してのんびりしてるし。


積極的に通っていた僕が言えたことじゃないかもしれないが、出会って数カ月のモンスターに台所預けるとかちょっと信用寄せすぎじゃ無いかな。


思わず目を向けるとダイニングテーブルに突っ伏してマギホを弄るロイドが「んぁー」とだらけ切った声を上げた。


「てきとー。出前取ったり外食いに言ったりパーシーが作ったの食べたり、時間あれば俺が作ったり」

「えっ!?ロイド料理できるの!?じゃあ手伝ってよ!!」

「嫌です~。あとはまぁそいつ」


そいつ?ロイドの指につられて視線を向ければ、そこには主が脱ぎ散らかした靴下やら白衣やらを咥えて洗面所に持っていこうとする献身的な頭蓋骨───ロイドの近衛がいた。


視線に気づいたのか、うん?とばかりにこちらを振り返るニンゲンのそれに近い頭蓋骨。予想外の答えにギョッと目を剥く。


「近衛って料理できるの!?!?」

「そいつだけな。昔何となくやらせてみたらできた。から今はそいつが家事当番」

「大変だねアインス……っ!!こんな横暴な主人に振り回されて……っ!」

「横暴じゃね……待て、なんか今変な呼称が聞こえたんだけど」


母親のように献身的にロイドを世話しようとする頭蓋骨にひしっと抱き着く。僕の言葉に反論を口にしようとしたロイドは、頭の痛そうな顔で待ったをかけた。


胡乱気な眼差しを向けられた僕は、えへんと得意げに胸を張る。


「だってロイドったら近衛たちの事『おい』だとか『なあ』だとか一昔前の関白な夫みたいに呼ぶんだもん。見てられなかったので先日僭越ながら名前を付けさせていただきました」

「僭越すぎる」


集合~と呼びかけると、わらわらと好き勝手家中に散らばっていた頭蓋骨たちが集まってくる。僕とロイドの前に一列に並んだ5つ……5体?の近衛たちを僕は右から順に指さした。


「こちらから、アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フィフです」

「勝手な事すんなや……っていうか見分けついてんの?」

「勿論」


非顕現状態では頭蓋骨でしかない近衛たちだが、よくよく観察してみるとそれぞれ特徴がある。


例えば先ほど甲斐甲斐しくロイドの世話を焼いていたアインスはニンゲンに近い形で、ツヴァイはイヌ科っぽく鼻が長く鋭い牙がある。ドライは恐竜みたいな感じだし、フィーアにはヤギっぽい角、フィフにはシカっぽい角がそれぞれ生えているのだ。見分けるのは簡単である。


しかしながら僕が勝手に呼んでいるわけではなく、一応本人(?)達にも意見は聞いてみた上での名づけである。

僕が「名づけにおけるメリット・デメリット」なる資料と候補一覧を作ってプレゼンテーションを行い、三日間もの熱い議論を交わした上で双方納得した末での名づけなので文句を言われる筋合いはない。


まあ最も僕は彼らと言語による意思疎通はできないので、縦揺れ、横揺れによる肯定否定の意思表示によって意思疎通を図っていたので熱かったのは僕だけだと思うけど。


ちなみにロイドは何となく何言ってるか分かるらしい。すごいね。


ねー?と近衛たちに首を傾げると、彼らも「ねー?」と言わんばかりに頭を傾けた。


認めたくはないが、アンデッドレクスの配下同士ということで彼らとは何となく仲間意識が芽生えているのだ。自分が奴の配下とは認めたくないけどもな!!


「はぁ……もういいや。ちなみに名前の元ネタは?」

「ニンゲン界のとある国の数の数え方だね。かっこよくない?」

「……そうね……」


ドヤ顔で答えると、何故かロイドにすごく生暖かい目で見られた。なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言えや。戦争も辞さない気持ちで身構える。


しかしながらロイドはやりあうつもりは無いのか鼻で笑うだけに留め、そして徐にダイニングチェアから降りて台所に入ってきた。


「なに?手伝ってくれるの?」

「いや?違うけど」

「平然と言うな。手伝え」


寄ってきた怠けアンデッドを睨みつけるも、柳に風とばかりに受け流された挙句「カレーがいいなぁ」とぬけぬけと要望を口にされる始末。はいはい肉じゃがかカレーどっちにしようかなって思ってたのでカレーにしますよ!


ニンジーなるニンゲン界で言うニンジン的な根菜と、ポテジャと呼ばれるジャガイモ風の芋を冷蔵庫から取り出す。


っていうかロイドといいパーシーといい、文句もなく僕の作ったご飯食べてるけど本当に美味しいって思ってるのかな。いや口では美味しいって言ってくれてるんだけど。無理に押し付けてるだけなら申し訳ないな、と今更ながらに思い始める。


「え?いや普通に美味いけど」

「……そっすか」


不安になって聞けば何を今更という顔で首を傾げられる。まあうん、食べてくれる方が満足してくださってるならいいんですがね。毎回残さず食べてくれるので料理人冥利に尽きますし。


何となく照れ臭さのようなものを覚えてしまい、誤魔化すように隣に立つロイドにニンジーと皮むき器を差し出す。


「はいどうぞ」

「えー、手際見に来ただけなんだけど」

「どういうことやねん」


そう言いながらも渋々と受け取ったロイドは、手を洗っては慣れた手つきで根菜の皮を剥き始めた。危なげないその様子に眉を上げる。


「本当に料理できるんだ」

「って言っても簡単なもんしか作んねーよ。パスタとか。それに俺が作るとパーシーがしょんぼりするし」

「ああ……」


僕とロイドの溺愛対象であるパーシーはロイドの執事になるべく日々努力をしている。

何をどう思えばこの怠けアンデッドの執事になろうなんて考えになったのかだけは甚だ理解ができないが、しかしながら彼はその夢を叶えるため料理以外の家事はほぼマスターしていると言っても過言ではない。

パーシーが淹れたお茶めっちゃ美味しいし。


そんな彼は唯一出来ないできないことである料理に対して非常に苦く思っている。恐らく仕えるべき相手であるロイドにご飯を作ってもらうのはあまり許容できない事なのだろう。


「まあ、しょんぼりするパーシーも可愛いんだけどさ」

「……」


恍惚とここにいないパーシーを愛でる変態から無言で目を逸らす。

僕こんなのと似てるって思われてんだ……ちょっとどころかかなり嫌だな……。


黙ってほしくて取り合えず危ない表情をしている変態に追加のニンジーを渡す。すると途端に嫌そうな顔になった。


悪いけど僕はパーシーと違って立ってるものは親でも使えと教わって生きて来たんでね。親はもういないが世話役にして種族の王をこき使うことに何の抵抗はないのだ。さっさと剥きたまえよ。


話題の中心であるパーシーはと言えば、今日は王国魔導師団の訓練日なので留守にしている。あと数時間もすれば帰ってくるだろう。


それまでに下拵えを終わらせて副菜まで作ってしまうことにする。メインはパーシーが帰ってきたら一緒に作ろう。


「…………ん?」

「なに?」

「ああ、いや……」


ふと気付く。パーシーが不在ということは必然的に今僕はロイドとふたりきりということだ。一つ屋根の下で、年頃の男女が。

今更過ぎるその事実に何となく葉物野菜を湯がいていた手が止まる。


いや別にロイドとはちょっと前まで四六時中一緒にいたからふたりきりという状況には何度もなっている。何だったら訓練もふたりだし。


でもロイドの家でふたりきりになったことは無いのだ。僕のお目当てはパーシーみたいなところがあるので、パーシーが居ないときは基本的にロイドの家行かないし、ロイドの家に行かないときは大体第零にいるし。

第零には博士もミモザもエイデルもいるのでふたりということは無いし。


ということは、実はロイドの家でロイドとふたりって状況は初なのでは。……男の家で。


あれ、今結構、アレがそれしてる感じ、か?


自覚した瞬間何となく居心地の悪さのようなものを感じ始めてしまう。

作業を再開しながらもどことなく落ち着かなくてチラリと傍らのロイドを伺い見てしまったりして。


色素の薄い茶色の髪、長いまつげ、目つきがいいとは言えないものの、綺麗な色の瞳。


ともすれば女の子のように綺麗な容姿は、モンスター的美観はともかくとしてニンゲン的美観意識が根付いている僕から見れば幼いながらもまあ、その、悔しいけどもイケメンと呼ばれるもの、なのかななんて考えてしまい口を引き結ぶ。


っていうか普通にかつての推しだわ。中身がゲームの時と違いすぎて忘れがちだけど。


いやいや待てラウ。落ち着けよ。こんなんだけど中身は鬼畜ブラコンアンデッドじゃん?今日だって僕に「俺流200体組手~」とか言ってバカみたいな量のスケルトン差し向けてくるような鬼畜だったじゃないの。


リリ剣のなんだかんだ面倒見のいい皮肉屋モンスターとは全く別物じゃない。うんうんそうそう。


そう自分を諫めてもう一度ロイドをチラ見する。


「…………いやぁ、無いな」

「今すげー失礼なこと考えてんな」

「気のせいだろうね。僕は基本的に崇高なことしか考えてないから。……どっかに色気溢れるワイルドダンディーなおじさま落ちてないかな……」

「ほう?今どきの女は下心しか無い妄想を崇高と捉えるのか。勉強になるなぁ」

「減らず口……」

「お前さんも大概だぞ」


ジロリと睨めばへっと嘲笑が返ってくる。全くこの捻くれものめ。僕も大概だとは思うけど。


練りごまっぽいペースト状と調味料に醤油っぽい調味料を混ぜ合わせ、湯がいて水気を切った葉物と合わせる。手早く和え物を作っていると傍らから視線を感じた。


「……なんです?」

「いや別に?……ないない」


気になって傍らを見れば、ニンジーの皮を剝いていた筈のロイドが何故が僕を見上げては首を振っていた。既視感のある行動にひくりと口の端が引き攣る。


「今すごい失礼なこと考えてなかった?」

「気のせいだろ。俺は基本的に世の中の為になることしか考えてないし。……小さくてゆるふわで可愛い女子どっかにいねえかなぁ……」

「へえ、変態的な思考が魔法界の為になるんだ。いい学びを得たよ」

「生意気な……」

「変態に言われたくないですぅ」


お互い何となく何を考えていたのかを察する。すみませんね小さくもゆるふわでもなくて。


ムカつくのでその足をぎゅむっと踏みつぶすとどすっとわき腹を肘で突かれる。

しばらく無言で攻防を続けていたが、しょうもなさすぎてどちらからともなく噴き出した。


全く悲しいかな、ロイドとこんなことするのが楽しくてしょうがない自分がいる。一応兄的立場であり、世話係で同僚という複雑な関係である彼だが僕の中では悪友的ポジションに落ち着いてしまっているので、ついついちょっかいをかけにいってしまう。


知り合って数カ月でこんな感情抱くのは馴れ馴れしいのかもしれないが、まあ知り合ってこの方ずっと一緒にいるし数カ月が濃すぎたので致し方ないと開き直っている。

向こうも似たようなこと考えてそうだし。


とはいえ、同じ悪友ポジにいるベルとはまたちょっと違うんだよなぁ。言語化が難しいのだが、なんというか安心感があると言うか……うーん癪だな。


「はい、手伝い終わり」

「まだ有りますが?」

「あとは任せたぞ我が家のシェフよ。資金係の兄は休憩に入る」

「限界稼働時間15分かい。そして材料費は僕も払ってるよ一応」


早々に皮むき器を置いたロイドに残っている芋やら何やらを指さすが、ひらひらと手を振ってさっさと離れていく。その背中に盛大なため息をついた。


親善大使に任命され給与が発生してからというもの、僕はロイド家に生活費として毎月まとまったお金を納めている。


ロイドからはいらないと言われてはいたが、そうは言ってももはやこの家には研究所内の自室以上に入浸っているし、燃費の悪い僕の食費はバカにならない。どうせ使う場もないのでロイドの口座に勝手にぶち込んでいるのだ。

渋々ロイドはそれを受け取ってくれている。


とりあえず出来上がった副菜をタッパーに詰めておこうと頭上の吊り戸に手を伸ばす。

しかしお目当ての丁度いいサイズの容れ物は遥か上の方に仕舞われてしまっている。ギリギリ僕でも手が届かない位置だ。


仕方ない、と踏み台に乗って背伸びをした。どこだろうと背中を逸らした瞬間、がくんっと右足を踏み外す。


「う、おっ!?」


ぐらりと傾く体。やばい落ちる……っと来る衝撃に思わず目を瞑る。


───しかし待てども僕の体が床に転がることは無かった。


「……あぶねー。ちゃんと足元見ろ」


背中に自分のものよりも僅かにしっかりした腕が回る。きょとんと落ちてきた声に目を瞬かせると、少しばかり焦ったような顔をしたロイドと目が合った。

横抱きにされる自分の状況に驚いてあわあわと焦る。


「うわわ!?ご、ごめ……ありが」

「前々から思ってたけどお前さんもっと可愛い悲鳴上げられねーの?」


僕のお礼を遮って、やれやれと自分の所感を述べるロイド。その言葉に床に降ろされながらうぐっと喉を詰まらせた。


「……僕がか弱い悲鳴上げたらそれはそれでなんか言うくせに」

「まあ変なもん食ったかなとは思う」


普段の訓練でも「おわっ!?」とか「ぎゃあああっ」とか女の子らしくない悲鳴を上げているのを知られているので反論できない。


それにしても細身に見えて結構しっかりしているのは組手をしているので知っていたが、ここまで力持ちだとは思わなかった。


軽々僕の体を抱えて見せたロイドに素直に称賛とお礼を口にしようとして───視界の端に映った青い魔力の残滓に、僕はダイニングに戻ろうとする肩をガッシと掴んだ。


「ねえ、まさかとは思うんだけど……今、身体強化使った?」

「何言ってるか分からねえな」

「ねえ、素の力じゃ僕の体重くて抱えられないって判断して使った?ねぇ」

「被害妄想はやめろ。なんも言ってねえだろ」

「身体強化なしで僕の体抱えられないとかないよね?ね?」

「……………………ノーコメント」


強化したい部分に魔力を流して腕力を上げたり防御力を上げたりする身体強化を今使ったか?と血走った目で問う僕と、絶対に僕の方を見ないロイドの間に沈黙が流れる。


おい、何か言え、と肩を掴んだまま圧をかけ続けると、気まずげに口をもごもごさせていたロイドはキッと僕を睨みつけた。


「重いもん持つと腰がやべーんだよ!!年長者は敬え!」

「重い!?重いって言った!?」

「俺よりでけーんだから重いに決まってんだろうが!」

「ひ、酷いっ!?デリカシーってもんは無いの!?重くないし!!ロイドがバカみたいに軽いだけじゃん!」

「かっ!?軽くねえよ!!」


ギャーギャーと子供のように言い争う。ノンデリだとはずっと思ってたけどここまでとは思わなかった!女の子に向かって何てこと言うんだこら!!

次第に言い争いは取っ組み合いに発展し───







「ただいま戻りまし……何してんだ?ラウ。兄様も」

「あ!パーシー!!ねえ僕重くないよね!?」

「重えよ……っ!くそ、こ、腰が……っ!!」


玄関からひょっこり顔をのぞかせたパーシーが一番初めに目撃したのは、身体強化なしで僕をお姫様抱っこしプルプル震えるロイドと、どこまでも失礼な兄に怒り狂う僕の姿なのだった。




ちなみに、僕は身体強化を使わずともロイドもパーシーもお姫様抱っこできました。ロイドかっる。




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