『緑の都市』水上パレード 其の九
ようやっと戦闘シーンです!
未だウェルデ主要街のメイン運河の熱狂は冷めやらない。
凄まじい戦いを繰り広げたドルニカさんとパーシーを讃える声や口笛、何やら財布が軽くなってしまった者の涙の叫びで混沌とする会場に出て、ロイドと共に『移動』でゴール付近のアーチ橋に先んじて移動していた陛下の後ろに控える。
見事優勝を勝ち取ったドルニカさんは、顔色こそ悪いもののゴンドラの上にしっかりと己の足で立ち観衆へ大きく手を振っていた。堂々とした立ち振る舞いだ、まるでヒーローのようである。
パーシーは大丈夫かと遠目で見守っていると魔力枯渇で意識はあるものの疲労困憊のため、船酔いでえらいことになっている博士と共に治療院のスタッフに救護室へ連れていかれるのが見えた。エイデルも一緒だ。
今すぐにでも容体を身に行きたいところだが、しかしながら僕は親善大使である。このイベントを立ち上げたものとして観衆に姿を見せてこの後の進行を見守らなくてはならない。
パーシーを救助したゴンドラ班からも問題はなさそうと報告が上がっているので、とりあえずお見舞いはこのレースが閉会してからにしよう。
選手たちに拍手を送り司会者からコメントを求められた陛下の傍らで、はんなりとした笑みを浮かべていたベルが僕らを見て片眉を上げた。
「アンタこんな所で何してるのよ、ロイド」
「ラウに捕まった」
「モンスター聞きの悪いことを言うんじゃない。サボってた罰として公衆の面前に晒してるだけだよ」
「紛うことなく悪いじゃねえか。サボってないし」
パーシーの事見舞いに行きたかったのに、とぶつくさ文句を言うロイドに小声で反論する。眷属に仕事丸投げしてパーシーとイチャイチャしてたでしょうが。僕だってパーシーとお祭りデートしたかったけど仕事だからって泣く泣く我慢してたのに。これ以上抜け駆けされてたまるか。
嫉妬も混ぜた怒気を向けるが、ぷーいっと顔を逸らされた。ほんっとムカつくわぁこのアンデッド。
「……やっぱ似てきたわね」
「おい、まさか俺とラウのことじゃねえだろうな。俺をこんな燃費悪すぎ凶暴大使と一緒にするな」
「ぶっ飛ばすぞ」
凶暴になった一端は間違いなく君にあるぞ。公衆の面前でなきゃ間違いなく取っ組み合いしている僕とロイドの剣幕に、ベルは呆れたようなため息をついた。
「仲が良くて結構ですこと。……それにしてもパーシーは戻ったらお説教ね」
「ええ?滅茶苦茶頑張ってたじゃん」
「魔力にムラが有りすぎよ。ただただ放出すればいいってもんじゃないの。この怠け者みたいにバカほど魔力有り余ってる訳じゃないんだから。アホみたいに余らせてる奴はともかく」
「ポンポン悪口出てくるなお前」
コソコソとした小声ながら切り口が鋭すぎるベルの言葉に、切られたロイドが顔を引き攣らせる。しかし異を唱えるようなその視線はベルのジロリとした睨みによって叩き返された。
「はームカつく。あんな魔力量あるくせに魔導士にならないとか、必死にトレーニングしたり魔力やりくりして何とかやってるアタシ達魔導士への当てつけだわ」
「まだ言うか……」
何やらぷんぷん怒り始めたベルと気まずげにするロイド。
そういえばパーシーから聞いたことある。王国魔導士団には保有魔力量を計測する魔道具があって、たまたま博士の付き添いで魔導士団に顔を出したロイドがお試し感覚でやってみたらとんでもない数値を叩きだし、団員の心を悉くへし折ったことがあるとかなんとか。
なるほどね、そりゃベルの怒りももっともだ。全く天才はいつだって秀才の心を悪気なく打ち砕くんだよなぁ、分かるよベルの気持ち。ラノベの主人公かよってね。
ベルの恨みがましい視線に心底共感して頷く。するとまるで標的を逸らそうとするかの如くロイドが親指で僕を指し示した。
「ちなみにコイツもこんな顔してるがどっちかって言うと俺側だからな」
「はあ?いくつ?」
「数値的には4はある。生後2か月で」
「死ねばいいわ」
「突然罵倒するのやめて。どういうこと?」
心底軽蔑したような目をベルから向けられてたじろぐ。なんでよ、さっきまで分かりあってる感じだったじゃないですか。そんな目を向けられる理由が分からない僕の肩を叩くロイドが指を立てた。
「基本的にモンスターの保有魔力ってのはレベル1から8までで表される。数値が大きいほど魔力量が多くて、一般モンスターが大体1か2。魔導士になるには3以上必要って言われてるな」
「5以上になると滅茶苦茶多い扱いね。そしてアタシは6よ。崇めなさい」
「え、普通に凄い」
トップモデルアンバサダーの笑みにドヤを滲ませるベルを素直に賞賛する。ロイドのは聞かない。ベルより多いってことはどうせ7とか8なんでしょ。知ってます。
微妙な顔をするロイドを無視してこっそり小さくぱちぱちと拍手する。
ん?待てよ?魔導士になるにはレベル3は必要で、僕は今レベル4くらいって言った?え?ってことは僕魔導士になれるポテンシャルがあるってこと?
はわわ、もしかして魔力量多いからスカウト来ちゃう?ええーそんなぁ親善大使の仕事も大変なのに魔導士と二足のわらじは無理だよぉ~困っちゃう~どうしよ~っ。
めくるめく魔導士ライフにもじもじしながら思いを馳せていたら、傍らのロイドが酷く滑稽なものを見る目で「魔力量多くても魔力操作が下手くそだから無理だよ」と鼻で笑った。心を読むなバカ。
僕を褒めることをしないロイドを親善大使の笑みを浮かべながら睨みつける。
しかしそんな馬鹿なやり取りをしていたのを聞かれたのか、コメントを終わらせた陛下がゆったりと僕らを振り返り微笑んだ。
少し静かにしようねということですねすみません。絶対的支配者である上司の凄みに3にん笑顔でビシッと背筋を伸ばす。
『栄えある第一回ゴンドラレースのトロフィー授与は、アンバサダーであるベルリアナ様より行われます!』
「出番ね。行ってくるわ」
「いってら~」
自信満々な歩みならぬ滑りで前に出るベルを見送る。えーと、この後はゴール付近で待機してるドルニカさんの所までベルがトロフィー持って別のゴンドラで行って、一緒にレースコース凱旋だったな。ゴンドラ凱旋僕の役目じゃなくて本当に良かったなぁ。ゴンドラの揺れを思い出して若干気分を悪くなりため息をつく。もう酔うのは勘弁……
───そんな事を考えていると、突如思考を切り裂くようなパァンッという大きな破裂音が会場に響き渡った。
次いで巨大なガラスが割れた音がし、耳元のインカムが警告音を発する。緊急通信だ。
「は?何……」
『ラウちゃぁん!?聞こえますかぁ!?ミモザですぅ!!大変ですぅ!!』
「ミモザ!?今の音は……」
緊急時用の優先回線が自動で繋がる。結界装置の修理に向かっていた筈のミモザの絶叫のような声に、謎の音の出所を視線を巡らせ探りながら応答した。
突然の大きな音に観衆が騒めき出す。陛下が僕らを振り返り、緊急回線を共有しているロイドとベルの目が細くなる。尋常じゃない様子のミモザが声を上げた。
『モヴ避けの結界装置が何者かによって破壊されましたぁ!遠距離で狙撃されて……負傷者一名!犯人は逃走!至急応援寄越してくださ……』
『憲兵隊より緊急通達!破壊された結界付近に巨大なモヴ反応です!直ちに緊急避難を!』
ミモザの報告を割り込むように、ウェルデ憲兵隊からの通信が繋がる。信じられない状況報告に呆気に取られていると、更に目の前で状況が動いた。
ゴール付近、運河と海が繋がる拓けた場所。破壊されたというモヴ避け結界のすぐ近くで、ドルニカさんと同乗員が訝し気に顔を顰める。その背後の水面に大きな黒い影が蠢いた。
気づいた観客から悲鳴が上がる。陛下の近衛が陛下を守るように前に出るのと共に、僕とロイドもアーチ橋から身を乗り出した。
「う、そでしょ……」
目を疑うような光景に声が震える。
白い船のようなものが水面に見えたと思った瞬間、水面が大きく盛り上がった。ザッバァァァッ!と大量の水を持ち上げて姿を現したそれは、ぬめりを帯びる10本の触手を水面から天に向かって伸ばす。
赤色の斑点模様が浮かぶ白い外套膜。とても理性があるとは思えない、狂気に満ちた金色の光が浮かぶ黒目。
先ほどドルニカさんが創り出した水ドラゴンに匹敵する大きさの、まさしくダイオウと称されるにふさわしい巨躯のイカが、突如水面に現れた。
「クラーケン!?なんでこんなところに───ラウッ!」
あまりの巨大さに呆気に取られる僕の鼓膜を、ロイドの叱咤するような声が叩いた。ハッと我に返りインカムに向かって叫ぶ。
「各員通達!ゴンドラレース会場にて緊急事態発生!海上にモヴ発生、各自速やかに来場客の避難誘導に当たってください!避難指示アナウンスもかけて!C地区の本部員は憲兵隊と治療院と連携して結界装置設置場所に急行してください!避難経路、避難場所は手筈通り……」
「キャアアアアアッ!」
指示途中で会場内から悲鳴が上がる。息を呑んで顔を上げれば巨大イカ……ロイドがクラーケンと称した怪物が動き出すところだった。
触手、否、足を震わせたクラーケンは、自らから離れようとするドルニカさん達のゴンドラを睨めつける。そして魔力不足で碌にスピードが出せないゴンドラめがけて、その巨大な足を振り下ろす───
「させっかああああああっ!」
───寸前で、地を蹴って宙に踊り出た僕の足が横合いから迫る触手足をぶち抜いた。
身体強化魔法を掛けた蹴りは何倍ものあるクラーケンの足にめり込み、そのまま弾き飛ばす。
流石に本体まで衝撃は通らなかったものの、金色の光が浮かぶ濁った黒目をゴンドラから逸らすことには成功した。攻撃を弾かれたクラーケンが忌々し気に僕を補足する。
「おいイカお前何パレード台無しにしようとしてくれてんの!?ぶっ飛ばすぞコラァッ!」
「もうぶっ飛ばしてるぜ大使さん!」
ドルニカ号に着地した僕は怒りで沸騰する頭のままビシィッとクラーケンに指を突きつけた。
折角成功で終わりそうだったパレードに余計な茶々入れやがって!気力と睡眠と命削って作った僕の努力の結晶に何すんじゃイカァァッ!!
怒髪天を衝く勢いでクラーケンを罵倒する。
制止振り切って飛び出した僕にブチ切れるロイドの声とか、ベルの『何してんのアンターッ!?』っていう絶叫とか、陛下の恐ろしいため息とか博士の『何気にラウの魔法初見だねぇ』という呑気な声とかがインカムから聞こえるが知らん!滅茶苦茶頑張ったのに!もうこのイカボコボコにしてタタキにしないと気が済まないんだよ!!
とりあえず責任者である博士に「みんなに指示出しよろしく!」とだけ返してこちらの通信を切る。
「ドルニカさん達、急いで避難を!ベル……リアナが迎えに来ると思うので指示に従ってください!」
「はあ!?大使さん残る気か!?ひとりじゃ無理だろ!」
ドルニカさんが信じられないものを見る目でクラーケンと対峙する僕の腕を引く。しかしその手を振り払った僕は問題ないと言うように頷いた。
「倒すのは絶対無理ですけど時間稼ぎなら何とか。その内に憲兵隊も到着すると思うんで!」
別に勝算とかはない、とりあえず僕はあの憎きイカに一太刀ならぬ一拳入れたいだけですので!ドルニカさん達には早々に非難してもらってベルに応援要請をしてもらいた……
と、突然右足首がグンッと強い力で引っ張られた。次いでぐるんっと視界が回り、感じたこともない浮遊感を覚える。
「お、わあああああ!?」
「大使さんんんんん!?」
悲鳴を上げるドルニカさんとぐんぐん距離が離され、あっという間にゴンドラがはるか下方に遠ざかった。
ま、まさか今宙吊りにされてる!?上下逆さまの状態で足に絡むイカの触手足を剝がそうとジタバタと藻掻く。しかし太いだけあって力が強く剥がせない。身体強化を掛けていなければ一瞬で砕かれていたであろう締め付けに歯噛みする。
こなくそ、と苦し紛れに魔法を発動した。ゴオッと音を立ててイカの足が瞬く間に紫炎に包まれ、僕を掴む足が苦しそうに振るわれる。
ブレる視界と全身を襲う凄まじい遠心力に歯を食いしばって耐えていると、突如ふわりと浮くような感覚に襲われ、次の瞬間すごい勢いで体が水面に叩きつけられた。
「ぐ、ごぼ……っ!?」
背中に強い衝撃を受ける。咄嗟に全力で身体強化を掛けたお陰で体がバラバラにはならずに済んだものの、あちこちが痛みで軋む。沈む体に凄まじい水圧が襲い、体内の酸素が口から吐き出された。
死ぬ、と思った瞬間、クラーケンの足が右足首から離れた。所々黒ずんだ足を逃がすかとばかりに今度は僕がしがみつく。噛みつかんばかりに全身でホールドしながら全力全開で魔法を行使した。
「ごぼぼぼぼっ!ごぼぉっ!」
水中では紫炎は発現できない。しかし膨大な熱に変換される僕の魔力が周囲の水の温度をぐんぐんと上げていく。自身も焼かれるような熱さに襲われながらも、僕を引き剝がそうとする足に根性でしがみつく。
しばらく水中で暴れる足と格闘するが、しかしそれもすぐに終わりを迎える。もう息が続かない。がぼっと残った空気も吐き出され、酸素不足で視界が明滅する。
……やばい、もう無理かも……。
ずる、と手から力が抜けた。体がクラーケンの足から離れ、引きずり込まれるように水中に沈んでいく。
こんな所で死ぬのか。死にたくない。
手を水面に向かって伸ばすも、どんどんと離れていく。徐々に周りが黒くなっていく。水深が深くなるせいか、僕の意識が落ちそうだからか。
結局何も成し遂げてない。悔しい。あともう少しで成功で終わりそうだったのに。あんなに頑張ったのに。超高級焼肉も食べてない。
ロイドの言うこと聞いておけばよかった。このまま死んだら絶対化けて出る。でも、もう体に力が入らない───。
ゆらゆら揺れる視界の中でクラーケンの足がギクリ、と震えるのが見えた。薄れゆく意識でそれを認識した瞬間、誰かの手が僕の腕を掴んだ。
「───生きてるでござるか?ラウ」
ザバッと水面から引き上げられる。飲んだ水を咳き込んで吐き出す僕の頭上にそんな声が降ってきて、必死に呼吸をしながら見上げる。
逆光によって顔は見えない。しかしその特徴的な丸い小さな虎耳と特徴的な語尾はよく知ったもので。
ふざけんなよ、と僕は自らを見下ろすそのモンスターを涙が滲む目でギンッと睨みつけた。
「おっっっっっっっっそいわアジェル!!何してんねん今まで!!!」
「うおお!?す、すまぬ。ちょっとアクセサリー作りの武者修行をだな……」
引き上げてくれた虎獣人の騎士、二か月間も行方知らずであった大うつけ者エセ侍アジェルに噛みつく。助けた側なのに謝罪をさせられるアジェルに更に文句を募ろうとするが、彼が跨るモノの大興奮な咆哮によって僕の声は搔き消された。
『ラウ!!アジェー来た!!アジェーエイデルに乗ってる!!サイコーぉぉぉッ!!』
「おふ……っ」
がおおおおんっ!と嬉しそうなエイデルの咆哮を間近で食らい目を回す。どうどうとエイデルを宥めたアジェルがそんな僕をひょいっと自分の後ろに座らせた。
「げっほ、マジ、ほんま、ごほ……もう!お礼は言わないんだからね!げほおえっ」
「なんかお主キャラ崩壊してないか?お礼は後でいいでござる。とりあえずこれ飲むでござるよ」
「ごほむげぇっ!?」
咳き込む僕の口に細長い容器がぶち込まれる。おい今咳してんでしょうが!反射で吐き出しそうになるブルーハワイ味の液体を何とか飲み込むと、僅かにご飯を食べた後の魔力が回復していく時の感覚を覚えた。
魔力回復ポーションのようだ。こんな味なんだコレ……。
服の袖で口元を拭う僕にアジェルが振り返る。
「もう行けるでござるか?ラウ。あのイカぶっ飛ばすのでござろう?」
「……勿論!!ぶっ飛ばす!」
てっきり戦闘員ではない僕は戻れと言われるのかと思ったが、アジェルは当然のごとく僕の継戦の意思を確かめてきた。僕の怒りの声を聞いていたらしい。
問うような目に再び戦意を漲らせた僕は、上等、と口の端を上げた。そんな僕を見てアジェルはふっと笑う。
「よし、ならばまずは小手調べと行くでござる。エイデル」
『りょ!!!!』
アジェルの短い呼びかけにエイデルがハイテンションで応じる。軽やかに宙を蹴った彼女は、僕らを乗せたままクラーケンの眼前に浮かび上がった。
自分よりもはるかに巨大なクラーケンに、しかし臆することなく駆けるエイデル。ジェットコースターさながらの途轍もないスピードに驚いて振り落とされないようアジェルの背中にしがみついた。
「ふうむ、このサイズはいささか食い辛そうでござるな」
鍛え上げられた体幹で全く体を揺らさず悠々とエイデルを乗りこなすアジェルは、鞘から抜き去った騎士剣をすれ違いざまに蠢く触手足に叩きつけた。ザキュッと聞きなれない音と共に太い足に切れ込みが入る。
しかし両断には程遠い。
「ぬう、固い肉質でござるな。美味しくなさそうだ」
「もしかしてお腹空いてる?アジェル」
「『豪脚』が使えないのがネックでござるなぁ。エイデル、右から2本目の足に『風刃』いけるでござるか?」
『まかせろし!!』
先程からクラーケンを食材としてしか見てなさそうなアジェルにジト目を送るも、意に返さない虎はエイデルに攻撃の指示を出す。
意気揚々と魔力を練り上げたエイデルは周囲に複数風の刃を創り出し、咆哮と共に射出した。
アジェルが指し示した足以外にもヒットする風の刃。しかしやはりどれも両断はできず、切れ込みを入れるにとどまった。
一本以外は。
「……アジェル、あれ」
「ああ。きっとそういうことでござるな」
ザバァンッと音を立てて海面に落ちていったクラーケンの足。怒り狂って僕らに向かって滅茶苦茶に足を叩きつけようとするクラーケンの攻撃を避けながらアジェルと推測を交わし、他の足との違いと攻略方法を検討する。
すると奇跡的に耳に嵌ったままだったインカムからピピッと通信を知らせてきた。
「は……」
『おいこらラウぅ……』
「ヒィッッ!?」
通信をつないだ瞬間地を這うような低音が聞こえて思わずびくんと飛び上がる。インカムの向こうの怒れるアンデッド、ロイドは悲鳴を上げる僕に静かに説教を始めた。
『勝手に動くなって言ってんだろうが。俺止めたよな、お前さんは行くなって。なんで世話係の言うこと聞かねえんだ?おい聞いてんのかラウてめーこら』
「ひぇ……す、すみませ……」
『死にてえのか?アジェルが間に合ったから良かったものの、一歩間違ってたら死んでただろうが』
「はい……」
ド正論で叱られてしょもんと肩を落とす。怒りもさることながら、ロイドの声色に心配も混じっていることに気が付いてしまい、反論を口にすることができない。しゅるしゅるとエイデルの背の上で小さく縮こまる。
「ラウ」
こんこんと説教を食らう僕を、アジェルが肩越しに振り返った。話したい、というジェスチャーを受けて僕はインカムのスピーカー機能を起動させる。
「まあまあロイド。ラウの特攻のお陰で攻略の糸口が見えてきたでござるから、そう叱ってやるなでござるよ」
『ああ?アジェルか。お前さんは甘すぎるんだよ。……そんで?見てたがあのクラーケンの足、だいぶ物理にも魔法にも耐性ありそうだが何とかなるのか?お前さんそこじゃ『豪脚』使えないだろ』
ロイドの言う通り、アジェルを騎士団のエースたらしめる土系統の強化魔法『豪脚』は、地面に足をつけている限り地面の魔力を吸い上げて術者の身体を強化するという魔法だ。身体強化魔法に更にこの魔法を重ね掛けすることで、日々の訓練により素の状態でも獣人トップクラスの身体能力を持つアジェルが更に強化される。
上限まで強化されたアジェルの身体能力は凄まじい。ゲームの中では正拳突きで巨大な岩に風穴開けていたし、自分の身の丈以上の巨躯を持つモヴも一刀両断の下切り伏せていた。
……のだが、ここは水上、もっと言うなら宙を駆けるエイデルの背中。つまり接する地面がないので『豪脚』の範囲外だ。アジェルの強化は望めない。
そしてエイデルの『風刃』でもあまり効果は見込めなかった。正直絶体絶命な状態ではある。
「ううむ、まあ一か八かみたいなところではあるが……試してみたいことがあるでござる」
しかしながら、間近でクラーケンを観察していた僕とアジェルにはこの状況の突破口が見えていた。
ウェルデの街には目もくれず、ただひたすらに僕らを叩き潰さんと暴れるクラーケンを前に、僕とアジェルは頷きあった。
次話でウェルデ編終了です。明日投稿予定です。




