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ノンデリ研究者と燃費悪親善大使と尊き犠牲の執事羊

「という訳でガキ大将の家のカフェ行きたいんだけど。どこ?」


「いきなりなんだよ!メインストリート沿いの黄色い屋根の店だよ!」


今日も今日とて凶悪な水鉄砲を持ってウェルデ主要街のメインストリート付近を走りまわっていたガキンチョ隊を捕まえた僕は、そのリーダー確たる魚の特徴を持つ少年に家の場所を聞くべく仁王立ちで立ちふさがっていた。

魚なのに犬のようにガルガル唸りながら僕に突撃しようとするガキ大将の頭を押さえつけ止める。はっはっはっ不意打ちじゃなきゃ食らわんわバカめ。


「あー、その店知ってるな。前にパーシーが行きたいって言ってた店じゃねーか?」


「そうですね。前にMonMonのスイーツ特集に載っていました。シュークリームが人気だそうですよ」


わちゃわちゃとガキ大将を始め少年たちに囲まれる僕の後ろで、ロイドとパーシー兄弟がのんびりと会話をしている。


今日のパーシーの服装はいつもの執事服ではなく、まさかのおもてなし本部の制服であった。燕尾服のような形の黒を基調とした制服は長身の彼にとてもよく似合っている。僕は新品の制服を纏うパーシーを振り返って、しみじみと数時間前の出来事を振り返った。




あの領主様がリライヴェッジ研究所から逃げ帰った日の翌日の朝。つまり今日の午前中なのだが、僕はロイド立ち合いの元、遂にパーシーに本当の自分の素性と勇者関連の諸々を明かした。


テレビや新聞、雑誌で僕が新政策の親善大使に任命された話は嫌でも知ることになるから、とそれだけは前もって話はしていたのだが、実際なぜその新政策が施行されたのか、そして本当の狙いについての説明は今日初めてしたのだ。


この一か月、親善大使のあれそれでバタバタであったもののパーシーとのお料理教室は欠かさず開催しており、姉弟(一説によると兄妹)としてもうすっかり仲良くなった今ならそこまで大騒ぎされることもなく受け入れられるのではないか、と踏んでのことである。


いよいよおもてなし本部も本格始動と相成ったわけだし、いつまでも黙っているわけにはいかないという事情もあった。陛下からも早く話せとせっつかれてたし。


ということで、緊張の走るロイド家のリビングにて。制服の配達がてら「実は僕、狐じゃなくて元ニンゲンのアンデッドです☆」と改めて自己紹介をしたのだが……しかしパーシーは拍子抜けするくらい特に騒ぐこともなく納得してくれた。むしろここ数カ月のロイドの忙しさに合点がいった様子であった。


勿論驚いてはいたし、勇者関係の話をしたときは度肝抜いて頭から煙上げてたけど、懸念していたロイド家及びレードの町氷漬けや僕氷漬けという事態に発展することはなく、終始穏やかに説明は進んだ。


狐のモンスターと偽ってた理由も、アンデッドモンスターが正体を晒す苦労はロイドから以前聞いていたらしく理解を示してくれたし、僕がニンゲンであった事実も「元ニンゲンだとしてもラウは悪い奴じゃないってわかってるから」と微笑んでくれた。


感動やら照れ笑いしながら言うパーシーが可愛いやらで思わず飛びついてふもふしてしまったのはしょうがない話である。ブラコン兄貴の顔がメロンになっていたがまあそれはいつものことなので放置した。


という訳で本日はパーシーも僕の護衛という名目で同行だ。ああ、初任務に張り切る制服パーシー可愛すぎる。暇さえあればロイドとふたり超激写会を開催しているので、ウェルデにたどり着くまでにいつもの倍の時間が掛かったのはご愛敬。

マギホのアルバムに保存されていくパーシーの激かわ写真に僕らはほくほく顔であった。


ちなみにロイドはもはや制服どころか白衣すら着ていない。また身ぐるみ剥がされたらたまったもんじゃないとのことだが、パーカーのみってそれもうただの私服じゃない?仕事中なんですけど。




「サンキューガキ大将。ちなみに今日お父さんいる?」


閑話休題。視線をガキ大将に戻した僕は本日の本題、というかお目当てのモンスターの所在を尋ねる。

しかし問いかけられた本モンスターは、僕の言葉に一気に顔を暗くした。


「…………毎日いるよ」


「……そ」


俯いたガキ大将の頭にポン、と手を載せる。わしわしわしと乱暴に撫でると嫌そうに振り払われた。


「なんだよ!やめろよ!!」


「あらまあ思春期。ねえ、お父さんがゴンドラ乗ってる姿、好きだった?」


「!あ、当たり前だろ!父ちゃんすげえんだぞ!波も何もないのにぎゅーんってゴンドラ進めるし、まるで自分の体みたいに動かすんだ!……でも今の父ちゃんにゴンドラの話すると怒るんだよ……」


顔をキラキラ輝かせたと思いきや、途端に肩を落とすガキ大将。インテリくん含む周りの少年たちも、「あいつの父ちゃんすごかったよなー!」「俺の母ちゃんもよく使ってたぞ」とワイワイガキ大将のお父さんとの思い出を語り始める。


……ふむ、息子はもちろんのこと、住民達からの信頼も厚い。

前情報通りだと僕は満足げ気に頷いた。


「そんじゃ、とりあえず僕らはシュークリーム食べに行ってくるわ。じゃあね少年共」


「ええ!?ラウ遊べよ!ひまだろー!」


「暇ちゃうわ、仕事だ仕事!僕の代わりに今日はそこの羊のお兄ちゃんが遊んでくれるから」


「メェェエ!?」


突然の白羽の矢にパーシーは驚きの声を上げた。目を白黒させる長身の羊にワッと群がる少年たち。


「いやぼくには兄様の護衛という超大事な任務があるのだ!離れるわけには……」


「僕の護衛ね?この最強アンデッドに護衛はいらないよ?」


何かを履き違えているパーシーに胡乱気な眼差しを向けるが、しかし子供たちに纏わりつかれるパーシーには聞こえていないらしい。

と、静かに成り行きを見守っていたロイドが弟の肘をぽんと叩いた。


「悪いなパーシー、ここは頼むな。シュークリーム買ってくるからさ」


「お任せください兄様!さあ子供たちよ!このアンデッドの王の執事たるぼくが相手をしてちょっと待てなんだその物騒な水鉄砲はアーーーーッ!?」


甘えるようなロイドの上目遣いに手の平くるっくるで笑顔を弾けさせるパーシー。

しかし次の瞬間にはいやにサマになっている射撃姿勢を取る少年たちに包囲されていた。

ガトリングやらアサルトライフルっぽい本格的な水鉄砲を構えて「総攻撃開始ー!!」という慈悲もない合図を放つガキ大将。ついでとんでもない質量の水がぶっ放される音が響き渡る。


僕とロイドは静かに胸の前で十字を切り、パーシーの悲鳴を背にさっさとその場から退散するのであった。













「いらっしゃいませ!お好きな席へどうぞ!」


転移門広場から都市庁舎へと向かう主要街で一番大きなメインストリートを歩くこと少し。可愛らしいパラソルが立てられたテラス席を設ける黄色い屋根のカフェの扉を押し開く。

中で暇そうにグラスを拭いていた耳の長いヒト型の少女がぱっと明るい笑顔で店内へと誘ってくれた。


これまた可愛らしい内装の店内の隅のボックス席にロイドと共に掛ける。するとすぐさま厨房から出てきた恰幅のいいおばちゃんが、にこにこと水の入ったグラスを僕とロイドの前に置いた。


「いらっしゃいませ。見ない顔ねぇ。デート?」


「ははは、勘弁してくれ」


間髪入れず否定を口にするロイドの向う脛を蹴りながら苦笑いで手を振る。


「残念ながらそんないいもんじゃないです。仕事で来まして」


「あらあら、お若そうなのに大変ねぇ。見ての通り客もいないからのんびり休憩していってね」


モンスターの良さそうな顔で頬に手を当てるおばちゃんに「ありがとうございます」とこちらもにこやかに答える。

確かに店内に客の姿は僕ら以外皆無だ。昼をとうに越えた時間ということもあるが、しかしそれにしたってやっぱり少なすぎる気がする。


「あ、ここってシュークリームが看板メニューなんですよね?なんか前に雑誌に載ったって……」


「おや!ずいぶん前の特集なのによく知ってるねぇ!クリームにこだわってるんだ、美味しいよ。飲み物や食事とセットにするとお得だけどどうだい?」


「じゃあ僕飲み物とセットで頼もうかな。ロイドはどうする?」


「俺この日替わりランチのセットで。飲み物はアイスコーヒー」


「はいはい、すぐ用意するからね」


客入りが少なくとも商魂たくましいウインクにまんまと乗せられ、シュークリーム以外のものを頼む。機嫌よく厨房へ取って返したおばちゃんの背中を見守り、次いで地味にまだ蹴られた脛を気にしているロイドに目を向けた。


「……なんだよ」


「いやぁ?コーヒー好きだなぁって思って。タバコも吸うんだっけ?」


「時々な。博士の無茶ぶりにうまく付き合うコツはカフェインと適度なニコチン……」


「うわぁ……」


死んだ目で虚空に視線を投げるロイドにドン引きする。子供舌ゆえにコーヒーはブラックじゃ飲めず、タバコもニンゲン時代気管がそんなに強くなかったためついぞ吸わずにここまで来たが、いつか僕も陛下と博士の無茶ぶりに耐えきれなくなったらこうなってしまうのだろうか。こうはなりたくないなぁ……。戦々恐々と身震いする。


「それで、大将のお父さんはどこかなっと」


「奥で洗い物してる魚人族のおっさんがひとりいる。それじゃねーかな」


「それっぽいね。はてさてどう声掛けたものかなぁ」


近衛頭蓋骨を一体こっそり厨房付近に飛ばしたロイドの報告に頭を悩ませる。客は僕らしかいないので奥で皿洗いをしている店員がフロアに出てくるタイミングは少なそうだ。もう直接声を掛けるべきだろうか。


うーん、と唸っていると、先程僕らを出迎えてくれた耳長の少女が元気いっぱいにテーブルの上にランチプレートを置いた。


「日替わりランチとお飲み物二つ、お待たせしましたー!シュークリームはもう少々お待ちくださいね!」


「どーも」


「ええ、ランチ美味しそう……お腹空いてきちゃった」


パーシーへの説明会の後僕とパーシーは軽くご飯を食べて来ていたので飲み物とシュークリームしか頼まなかったのだが、ロイドの前に置かれたホットサンドにオムレツ、ミートスパゲティにハムカツと美味しいものだらけのプレートを見て目が輝く。


「頼めば?どうせ急いでねーし」


「ランチセットへの変更はプラス500イェルでできますよ!」


アイスコーヒーをかき混ぜるロイドが僕の欲求を肯定し、追加注文取る気満々でメモを用意している店員さんが満面の笑みで頷く。外堀を埋められてしまった僕は少々悩んで見せたものの、湧いてきた食欲と催促する腹の音に負けて頷いた。


「……同じのお願いします!」


「はぁい、かしこまりましたぁ。シュークリームはミニサイズに変更できますが?」


「普通のサイズで!」


「うふふ、かしこまりました!少々おまちくださいね」


これまた上機嫌に厨房へと戻っていく店員さんへの僅かな敗北感と、ランチプレートへの期待に胸を躍らせていると正面のロイドが苦笑いを浮かべた。


「頼めばって言っておいてアレだが、よく食うなぁお前さん。給料全部食料に使い切っちまうんじゃねーの?」


「うぐ……しょうがないじゃん、この体になってから燃費悪いんだよ……」


生きていたころに比べて格段にエネルギーを欲する現在の体に口を尖らす。確かに食べすぎだとは僕も思うけど。

先日ロイドとパーシーとミモザの4にんでご飯を食べに行ったのだが、なんとこの体ミモザの5倍の量の食事を食べ切ったのだ。あの時のみんなの顔が忘れられない。


でも別に体重が増えているわけでもないし、むしろ毎日の訓練で引き締まってきているので体調的な面は問題はない。のだが、大食いの女って女子力的にどうなのだろうか。やはり僕の女子力は死滅しているのか。


実は家でご飯を作っている最中に博士に呼び出され、昼食を食いっぱぐれていたロイドがオムレツを口に運びながら首をかしげる。


「んー、まあまだ一か月だしなぁ。まだ体が効率よくエネルギーを変換できてない、とかかな。まあ数値的には別に問題ないしとりあえず様子見だな」


「そういえば普通に僕の体重毎日見てるよねぇロイドくん。その辺デリカシー意識的にどうお考えで?」


「お前さん実験体、俺研究者。以上」


「ムカつくぅ……」


大変バカにしたような顔で僕をあしらうデリカシーのデの字もない研究者に歯噛みする。食ってやろうかそのハムカツ、とアイスティーをストローで啜っていると「お待たせしました」と僕の前にもプレートがコトンと置かれた。


「ありが……おう!?」


てっきり先ほどの店員さんが運んできてくれたと思いきや、目の前に現れたその腕はごつく太い。思わず見上げた僕は驚きの声を上げた。


ガキ大将と同じ、魚のヒレのような耳と鱗を持つガタイのいいおっさんだ。きょとんとした顔で僕を見下ろしている。


「?……じゃあごゆっくり」


「わ、ま、待ってください!」


「うお!?な、なんですかお客さん!?」


さっさと席を離れようとする魚人族のおじさんの腕を咄嗟に掴む。

逃がしてたまるか、まさしく彼こそが僕らが本日この店まで足を運んだ主目的なのだから。


慌てて懐から所属を表すバッジを取り出した僕は、客からの突然のセクハラに驚くおじさんの眼前に印籠のごとくそれを突きつけた。


「今日僕らは貴方に用があって来たんです。少々お話伺ってもよろしいですか?────ウェルデゴンドラ協会の元協会長、ドルニカさん」


王城と研究所のロゴが組み合わさった、真新しい金色のバッジが僕の眼光と共にキラリと反射した。




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