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『緑の都市』活性化事業草案

【急募】章タイトル

この章の良いタイトルが思い浮かばない……。

リライヴェッジ研究所地下一階。第零研究室専用訓練室。

もはや第零のフロアに用意されている自室よりも慣れ親しんでしまったこの訓練室で、僕は必死に飛んでくるロイドの攻撃を捌いていた。


「ほら、また左半身の強化が甘くなった。利き手じゃない方にこそ意識を向けろ」


「くっ……」


冷静にダメ出しをするロイドから放たれる拳を左手で弾き、お返しとばかりに右足で蹴りを入れる。

しかしそれすら冷静に受け止められ、顔面めがけて振るった腕はひょいっと軽々避けられた。僕はギリッと歯噛みする。


「攻撃一つ一つを目で追うな。視界を広く持て」


「んな、簡単に言いますけどね……っ!」


攻撃を避け、捌きながら言われた通りに体の左側へ魔力を通す。体を流れる魔力量が右と左で大体同じくらいになるように調整できたところで、ロイドの攻撃が頬を掠めた。

ジリッと微かに傷んだ頬に肝を冷やし、咄嗟に距離を取るべく足に力を入れる。が、


「こら、逃げるな」


僕の体を追うロイドに腕を掴まれ引き寄せられる。

ムカつくほど整った顔が至近距離に迫る。しかし僕の口から出たのは可愛さの欠片もない「げっ!?」という声であり、ロイドの行動によってもたらされた結果は色気どころか慈悲すら無いものであった。


掴んだ腕を起点に体を反転させたロイドに背負い投げの要領で床から背中に叩きつけられる。ズダァンッと音を立てて落ちた僕は衝撃に目を回した。


「くぉ……っ……後頭部……っ」


「あほ。負けたと思っても諦めんな。最後身体強化切れてたぞ」


「あい……すみません……」


痛みと容赦のない評価に後頭部を抑えながら悶える。

かれこれ訓練室に入って2時間。僕はずっとロイドとこうやって組み手をしては床に転がされていた。


魔法界で生き返ってこの方、ずっとロイドが召喚するスケルトンたちと死闘という名の鬼ごっこ訓練をしていた僕だが、数日前より新たな魔法の訓練に着手していた。


その名も身体強化魔法。名の通り身体能力を向上させる魔法であり、魔力を全身に漲らせることで筋力を増強する。最大強化すれば理論上普段の僕の数倍の身体能力を得ることが可能らしいのだが、しかしその訓練は正直うまくいっている気がしなかった。


「筋はいいんだけどなぁ。躊躇いなく攻撃する度胸もあるし、攻撃を見極める目もあるんだがいかんせん集中力がない。身体強化がすぐ甘くなる」


「くう……」


初日にも集中力がないと言われた気がする。荒い呼吸を繰り返しながらごろりと寝返りを打つ。

この身体強化、常に体に意識を向けていないとすぐに魔力が体から剝がれていってしまうのだ。特にロイドに指摘された通り、利き手側じゃない左半身や背中側が甘くなりがちだ。


自分でも自覚しているところではあるのだが、頭でわかっていても体がついていかないというか。……強くなったつもりだったが、まだまだ未熟だと突きつけられた気分だな。

折角骨櫓から鬼畜が降りてきたのに一本も取れない現状に悔しさが募る。というかあのアンデッドやっぱりチートすぎる。なんで近接戦も強いんだよ。


「まあこればっかりは慣れだ。しばらくは組手を続けて無意識でも発動できるように癖付けするぞ。おら休憩終わりだ立て」


ぐいぐいと僕の腕を掴んで起き上がらせようとするロイドに「いででででっ」と悲鳴を上げる。


「まってまって、休憩短い!寝不足で連戦はきついって……」


「あー?俺だってどっかの親善大使様の手伝いして寝不足だわ。魔力まだ枯渇してねえだろうが知ってんだよ。さっさと起きろや」


「ひえぇぇ鬼畜ぅぅぅ!」


疲労でガックガクな体がスケルトンによって無理やり抱き起される。

悪魔のような極悪な笑顔を浮かべるロイドの顔をよく見れば、目の下に薄っすらクマができていた。そして多分そのクマは僕にもできている。


夜明け近くまで本日使用する資料やら何やらを一緒に作ってもらっていたのだが、寝不足でフラフラな僕と違いロイドは割かし元気そうだ。徹夜に慣れているからということだが、それは果たして褒められたことなのだろうか。


解せぬ気持ちでスケルトンに引き摺られていると、訓練室の入り口に救いのが天使が舞い降りた。


「まあまあロイくん、そろそろお時間ですのでそれくらいでぇ」


「ミモザ……っ!!」


訓練室の扉からひょっこり顔を出したのは、若草色のふわふわミディアムボブを揺らすアルラウネ、第零研究室所属の研究員ミモザだった。

おっとりとした口調で鬼畜悪魔アンデッドを諫めるミモザに僕はヒシッと縋りつく。


「天使や……アンタは天使やほんま……っ」


「うふふ、天使はラウちゃんですよぉ。ちなみにこの天使コスチュームを着ればもっと天使さんになれると思うんですがぁ?」


「遠慮する」


危ない表情ではあはあし始めた通常運転アルラウネにすんっとする。フリルがふんだんにあしらわれた羽根つきの白いコスチュームからジリジリと距離を取っていると、ロイドがチッと舌打ちした。


「命拾いしたな」


「ねえ??ロイドって実は僕のこと嫌い??なんか恨みある??」


「あ?可愛い教え子のことを一番に考えてるだけだが?」


教え子のこと考えて出た言葉がそれなら先生向いてないよ君。そしてアンタが一番に考えてるのはパーシーのことでしょうが。

危ない表情でメンチ切り始めた僕にすんっとするロイド。纏わりつくが一向に無きものとして扱われるので諦めて離れる。


「はあ……とりあえずシャワー浴びて制服着替えてくる。場所は研究所一階の応接室だっけ?」


「そうですねぇ。準備できたら最終打ち合わせしましょぉ。頑張りましょうねぇ」


「はいはい。あーねむ……」


これからの予定を思ってがっくり項垂れる僕と、張り切るミモザ。そして欠伸をかみしめるロイド。

三者三様の反応を示しながら訓練室を出る。チラリと時計に目をやれば時刻は丁度13時、約束の時間まであと1時間だ。


2日前にお会いしたあの緑ネクタイの狸を思い浮かべた僕は、それはもう重たい気を逃がすように盛大にため息をつくのであった。


















「わざわざ足を運んでもらってすみません。領主様」


ジャージから一転、黒を基調としたおもてなし本部の制服に身を包んだ僕は、約束の時間ぴったりに研究所を訪れた狸獣人に軽く頭を下げた。


先ほどまで無様に鬼畜アンデッドにころころ床に転がされていたことなど微塵も感じさせないよう、メイクも髪も服も綺麗に整えソファーに腰かけ足を組む。


僕の後ろには、無表情のロイドと愛想よく笑うミモザがSPよろしく控えている。いやぁわざとそういう()()しているとはいえ、これ威圧感すごいだろうなぁ。


微笑む僕の言葉に、今日も今日とてハンカチを手放さずそわそわと落ち着けなさげな様子のウェルデ領主様は、びくりと体を震わせた後、取り繕うようにへらりと気弱そうな笑みを浮かべた。


「い、いえいえ。こんな早々にお呼びいただけるとは思っていませんで少し慌てましたが」


「双方のためにもお早めに話をした方がいいと思いまして」


にこ、と笑いかける。すると何故かウェルデ領主様は冷や汗のようなものを浮かべ、素早く手のハンカチでそれを拭った。

なんとも落ち着きのない様子だ。今すぐにでも帰りたいという気持ちが透けて見える。自分で持ってきた案件だろうに、何故そんなに逃げ腰なのだろうか。

内心で疑問を覚えながらも、一先ず話を進めるべきと判断して僕は領主様に用意した資料を差し出した。


「本日お呼びしたのは他でもありません。ご相談いただいた『緑の都市(ウェルデ)』都市おこし案の草案が出来上がったのでご説明したく」


「なんと!さ、流石はあのフリント博士のご息女ですな……こんなにすぐに解決策を用意していただけるとは!」


「ハハハアリガトウゴザイマス。とはいえあくまで草案です。僕が知っているニンゲン文化の中で、ウェルデの現状に合いそうなものをモンスター受けしやすいよう落とし込んだってだけのものですから、あまり期待しないでくださいね?」


「いえいえいえ!今は藁にも縋る気持ちですから……!それにしてもウェルデの現状に合いそうなニンゲン文化、ですか。親善大使殿がフリント博士の下でニンゲン文化について学び、第一モン者といわれる程にまで精通しているという話は本当なのですね!」


ペラペラと僕をよいしょするウェルデ領主様。彼が語ったのは僕の()()()の設定だ。


いくら貴族たちが「ああフリント……」とあきらめの境地で納得したとしても、フリント博士のモンスターとなりを詳しく知らない国民からすれば、この度フリント博士の娘として紹介され親善大使となった『ラウ』というモンスターは依然得体のしれないモンスターである。

正体不明のモンスターの考えた事業など、いくら陛下の後ろ盾があるといっても乗り気にはなれないだろう。


という訳で僕の素性は、今ウェルデ領主様が語った内容────即ち、狐のモンスター『ラウ』は、フリント博士から直々に教えと支援を受けたニンゲン文化の研究を専攻している研究者であり、過去の史実等から独自の研究を進めてきたモンスターで、この度陛下のお眼鏡に叶いニンゲンとの和平を結ぶための親善大使に選ばれた才女として語られることになった。


いくら本当のことが語れないからと言っても流石にこれは盛りすぎだと反対したのだが、表舞台に出るにはこの位のバックボーンが必要らしい、政界って怖い。


この身に重すぎる捏造された過去を背負う羽目になった僕は、ウェルデ領主の言葉に否定も肯定も口にせずただ微笑んだ。


困ったときは曖昧に笑っていろ、とは僕の演技指導担当のベルの言だ。大体の場合においてただ曖昧に微笑んでいれば、相手は勝手に「謙遜している」と判断するらしい。


ウェルデ領主もその口のようだ。言葉もなく微笑んだ僕に手ごたえを勝手に感じたようで、満足げに頷いてくれた。

こんな小娘の笑顔に騙されるなんて……。それでいいのか領主、と思うが、しかしそのくらい御しやすい方が都合がいい。どうかそのままコロコロされててくれ。


というか6大領主の中で彼が一番御しやすいから、陛下は僕に初回の事業ネタとして話を持ってきたのだろうということは薄々察している。陛下もなかなか悪いお方である。これだから腹黒国王は。


この世界においてクロード陛下の次に偉い6大都市の領主様くらいには、勇者の話を含めて本当のことを伝えていいのでは無いか、と思うのだが陛下も博士も反対した。


なんでも6大領主達は、なんというか全員曲者ぞろいで実はそこまで仲が良くないらしい。勇者来訪なんて火種になりそうな話題を投下したら混乱に乗じて何をしでかすか分からない、というのがふたりの見解であった。


権力者ってのは……と思ってしまったのは仕方のない話だと思う。その点、仲がいいかは分からないが一応魔法界のためを思い同じ方向を向いている博士と陛下は、お互いを信頼できる相手として認識しているということだろう。


明後日の方向に飛んでいってしまった思考を、用意した資料の角を揃えることで現実に引き戻す。目の前には依然緊張した面持ちの領主様。

哀れにも陛下の毒牙にかかり、そして既に博士の蜘蛛の糸によって雁字絡めにされている事に悲しいかな彼は気付いていない。


「それでは、早速発表させていただきますね。今回僕が提出します『緑の都市』活性化事業草案ですが」


さあ驚け。貴方が望んだんだ、同じ道を歩いてもらうぞウェルデ領主。僕はもう腹を括ったよ。


渡した資料に目を通し、顔色を悪くする狸ににこやかに笑う。僕と領主の間に置かれたテーブル上に、ホログラム化されたウェルデの街並みと僕が掲げる活性化案の表題が浮かび上がった。



「その名も────『ウェルデ水上パレード』です」



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