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セレモニー

本日より再開です。どうぞよろしくお願いします。

多種多様のモンスター達が住まう魔法を動力とする世界、通称魔法界。


その魔法界において、立地的そして政治・商業的にも中心部である王都アルヴ。

その更に中央に座する王城の一室……いや部屋と言うのも烏滸がましいほどに広々とした大広間は、かつて僕が暮らしていた世界の、中世ヨーロッパの貴族の社交場の様な様相を呈していた。


会場内はそこかしこに絢爛豪華な装飾がなされており、頭上には煌びやかなクリスタル製のシャンデリアが煌めいている。


端から終点が見えないほどに長い机には所狭しと趣向を凝らした料理やスイーツが並び置かれており、給仕達が洗練された動きで迅速に会場内を巡り歩く。

淑女が纏うドレスがまるで咲き乱れる花のように会場を彩る中、格式高い正装で背筋を伸ばす紳士たちが壇上を見上げる。


そんな空間の隅っこ。『モンスター・ニンゲン友好条約締結対応政策対策委員会おもてなし本部の設立発表セレモニー』と題された幕が掛る壇上後ろ、カーテンに隠された控えのスペースにて僕ことアンデッドモンスターのラウはうぷっと口を押さえていた。


「無理……無理だって」


「ちょっとラウ。シャキッとしなさいよ。一番緊張する挨拶はもう終わったでしょうが」


「そうだけど……こんな注目浴びた後に堂々としてるなんて一般庶民の僕には無理です……」


陛下が朗々と演説を行う裏側。緊張やらなにやらで胃に壮絶なダメージを負った僕は、今にも吐きそうになりながら隣の赤毛の女────今日も今日とて苛烈な炎のような美貌を持つモンスター、ラミアのベルリアナの肩を掴む。


深くスリットの入ったパンツドレスのウエストベルトが苦しい。アップに纏められた髪が重い。久しぶりの7㎝ピンヒールを履いた足がつらい……っ!ご機嫌麗しいところが何もない。体調不良ということで棄権させてくれないですか?

僕は期待の眼差しでベルを見上げる。しかし視線を受けたベルは、偉そうに鼻で笑うと容赦なく僕の頬をその蛇の尾で打ち据えた。


「無理とか言うんじゃないわよ。隣にそんなオドオドした奴がいたらアタシの美貌に影が落ちるでしょうが。ブッ飛ばすわよ」


「ヒイイスパルタ……もうブッ飛ばしてます……」


張られた頬を抑えながらよよよっと泣く。

何故こんなことになっているのか。貴族でもない僕がドレスを纏ってこんな煌びやかな会場にいる理由とは。

それはあの一か月前にリライヴェッジ研究所第零研究室が草案として王城に提出し、そしてそれを元にこの度魔法界の君主たるクロード陛下が国民に向けて発表したとある政策のせいであった。


「ほら、そろそろ陛下の挨拶が終わるわ。覚悟決めなさい親善大使様」


「荷が重すぎて心も重たい……」


大きなため息をつく。しかし嫌だ嫌だとごねていても事態が好転する訳もないということも分かっているので腹をくくる。

ペペペッと頬を叩いて大きく深呼吸。その場で屈伸して猫背になっていた背中をぐっと逸らすストレッチを行う。そしてここ一か月ノイローゼになりそうなほどに教え込まれた『余裕のある笑み』を浮かべた僕は、背筋を伸ばしてベルの隣に並び立った。


『────我々はこの好機を逃してはいけない。今までの禍根を忘れることはできないとしても、我々はそれを乗り越えていかねばならない。この意志を、これから先何百、何千年とモンスターが繁栄をし続ける為の礎とするべきなのだ』


「行くわよ」


陛下の演説が終わる。

拍手と共に開け放たれたカーテンの向こう、この魔法界に置いて上層部に位置する権力者のモンスター達がまるで獲物を見定めるかのような目で僕らを出迎える。


意識を切り替えろ。ここがこれからの僕の戦場だ。

ただのラウとしてではなく『偉大なる研究者フリント・オールディスの娘』であり、この度施行された政策の旗頭たれと陛下から役職を賜った『親善大使』として、ベルリアナの隣に並び立った僕はニッコリと普段は浮かべないような淑女の笑みを浮かべた。







『サーシャを勇者とさせない。戦わずに、サーシャをニンゲン界へと帰還させる』

その理念のもと打ち出された勇者侵攻対策案、正式名称『モンスター・ニンゲン友好条約締結対応政策』通称『おもてなし政策』の内容は、一言で言ってしまえば目には目を、歯には歯をというものだった。


僕らモンスターは、このままだとニンゲン側が用意した最悪なシナリオ、『リリィの聖剣』のシナリオ通り世界の滅亡を迎えることとなる。


サーシャにモンスターへの負の感情を持たせてしまえば、モンスターを憎む勇者に変じてモンスターを皆殺しにされ魔法界が滅亡する。

かといって、先手必勝とモンスター側が無害なサーシャを害せば、女神と言うカメラを通してこちらをモニタリングしているかもしれないニンゲン達に「モンスターは卑劣で残虐な存在だ」と認識され戦争を仕掛けられる可能性がある。


僕らは何としてでもこのシナリオに対抗しなくてはならない。

では対抗とは、僕らはその為に何をすればいいのだろうか。────僕らが考えたのは、こちらもモンスターにとって都合のいいシナリオを作って対応するということだった。


そのシナリオとは、ずばり「この度陛下はニンゲンと不戦条約を主目的とした友好条約を結ぼうとしており、一年後現れるニンゲンは条約締結に向けてニンゲン側が派遣した親善大使で、魔法界側が招いた客人である」という内容だった。


このシナリオを魔法界全体に流布し、魔法界全体でニンゲンを、サーシャを歓迎するムードを作ってしまおう。それが僕らが考えた侵攻対策だ。


僕と言う情報アドバンテージをフルに活用して、先んじてサーシャの立ち位置とニンゲン界のスタンスを定義してしまう。そしてその上で、モンスターみんなでニンゲンをおもてなししちゃえばいいじゃない、と言うのが今回の政策の発端である。


このシナリオが魔法界全体に上手く浸透すれば、サーシャが現れた後にニンゲンだからと攻撃するモンスターもゼロとは言えなくとも限りなくゼロ近くまで減るだろうし、いくらモンスターを皆殺しにしたいニンゲンによってサーシャの旅の様子が中継されたとしても、プロパカンダとしての意味は為さなくなる。友好的な姿勢を見せるモンスターを「卑劣で残虐な存在」と思わせるのは無理があるだろう。


幸いサーシャは記憶喪失だ。そしてリリィの聖剣通りであれば一人で魔法界に訪れるので、否と言う者はいない。勇者として目覚めなければサーシャはただ12歳の少女だ、右も左も分かっていない内に「お待ちしておりました親善大使様」と迎えて祭り上げてしまえばために丸め込むのは容易い。


しかしこの作戦において問題なのは、国民感情……モンスター達の意識だ。

今まで散々侵略行為を行われてきたモンスター達に「実はニンゲンって悪い存在じゃなかったから仲良くしてね」と言っても信用される訳がない。


モンスターの平均寿命は150歳くらいで、最後の侵攻が200年前のため当時を知るモンスターはすでにいないと言っても、ニンゲンがモンスターにしてきた仕打ちと言うのは魔法界全体で語り継がれており、ニンゲンは蛮族と言うのが国民の共通認識なのだ。


事情を知らない国民からすれば、突然ニンゲンに与し始めた国王なぞ不信以外の何者でもないし、ニンゲンに洗脳されたように見えるだろう。

最悪ニンゲンに国民を売る売国奴だと反旗を翻され打ち首処刑だ。


となれば、必要になってくるのは国民が納得できるストーリーだ。国王がそう考えるに至った経緯を用意する必要がある。


そこで名前が挙がるのが我らがフリント博士だ。

博士のネームバリューと今まで成し遂げてきた偉業をフルに使って、僕らはこんなストーリーを魔法界に発信した。


この度、偉大なるリライヴェッジ研究所所長にして魔法界の技術革新を何度も起こしてきたフリント・オールディス博士が長らく不可能とされてきたニンゲン界との『異世界間交信』に成功した。


交信元のニンゲン───自らを『親モンスター派』と名乗るニンゲンが、モンスターへ敵対心を持っていないと表明したかの存在が語る内容は、以下の通りだった。


曰く。かつて魔法界へ度々戦争を仕掛けてきていたのは、ニンゲンの中でもモンスターは殲滅すべしと主張する『勇者派』と呼ばれる派閥の者達であった。


曰く。今ニンゲン界はその『勇者派』と、モンスターと武力抗争ではなく一つの意志のある知的生命体として文化交流をし、友好的に魔法界の技術や資源の交易を行おうと考える『親モンスター派』に二分されている。


曰く。『親モンスター派』のニンゲンとしては、戦争により双方の人的・モンスター的資源の消費や国力ならぬ世界力の消耗は何の利にもならないと理解している。それでも戦争を主張する『勇者派』を止める為、『親モンスター派』はモンスターとの接触の機会を伺っていた。


曰く。先んじて『親モンスター派』がモンスター及び魔法界と友好条約を締結することができれば、不戦条約を理由に『勇者派』の侵攻を食い止めることができる。今後一切の魔法界への侵攻を禁止することも可能。何としてでも『勇者派』のニンゲンに気付かれる前に友好関係を築き、条約締結に向けた交流を行っていきたい。


この話を受けた陛下は、全面的に信頼するわけではないが来年の都市間サミットに親モンスター派のニンゲンが派遣するニンゲンを参加させ、検討を重ねることを表明。

友好条約に前向きではあるという意思表示のため、ニンゲン文化を取り入れる政策を施行するに至った────と言うものだ。


何故ニンゲン界に二派閥があると語ることにしたのかと言えば、モンスターの共通の敵であるニンゲンを完全に取り上げるのは危険だという考えの元だった。

魔法界には現在内紛は発生していない。それどころか、内紛らしい内紛と言うのは今まで起こっておらず、歴史を見ても種族間の小競り合い程度の軽いものしか今まで確認されていないのだ。


何故かと言えば、勿論それは陛下並びに各都市領主がこまめに調整を図っているからではあるのだが、それ以前にモンスター共通認識としてニンゲンという大きな敵がいることが一番の理由だった。それを丸ごと取り上げてしまえば今まで起こっていなかった都市間内紛等が発生する危険性がある。


そのような理由から、僕らは仮想敵である『勇者派のニンゲン』という存在を作り出し、モンスターと親モンスター派のニンゲン対勇者派のニンゲンという構図を生み出した。

モンスター的感情から見ても、ニンゲンを全て信じろと言うよりは一部のニンゲンを信じろと言った方がまだ飲み込みやすいだろうという考えもある。


そして施行された『モンスター・ニンゲン友好条約締結対応政策』の実働部隊として設立されたのが、『モンスター・ニンゲン友好条約締結対応政策対策委員会おもてなし本部』通称『おもてなし本部』であり、リリィの聖剣に登場するモンスター達は全員このおもてなし本部の幹部として所属している。


そして僕はと言えば────何故かその幹部たちのさらに上、実働部隊の長である『モンスター側の親善大使』としてこの設立発表記念セレモニー会場に立っていた。





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