勇者侵攻対策おもてなし本部
昨日は投稿できずすみません。終電帰りでそのままソファーで寝落ちました……。
「……ま、あくまで推論ですがね。戦争のプロパカンダというのもあくまでそうじゃないかな~って思ってるってだけです。確証は有りません。……ただまあ、我々リライヴェッジがニンゲンを害したくないと考える理由はご理解いただけたかと」
そう言って博士は椅子にギィ、と腰掛けた。
そう、あくまでこれは僕らの推測だ。もしかしたらサーシャの記憶喪失はおまぬけさんにもこの世界に来るまでに落っことしちゃっただけの可能性もあるし、何らか勇者チェンジができない理由があってサーシャが続投されている可能性もある。女神は本当にただの女神で、サーシャの可愛さに充てられてあれこれ助言しているだけの通りすがり神かもしれないのだ。通りすがり神って何。
ただ最悪が起こる可能性がある以上、僕らはその可能性を見据えて対策を取らなくてはならない。
それが僕らの───これから起きる未来を知る僕がここにいる意味だと思うから。
「この話を聞いても、まだこれから来るニンゲンを殺したいと思うかね?騎士団長、魔導士団長」
「……いえ」
「悔しいですが、理解しましたニャ……」
俯く騎士団長と魔導士団長は、陛下の問いに絞り出すような声で否定をした。ふたりには申し訳ないが、その答えに僕は内心でほっと胸を撫で下ろした。
「さて、それでは我々リライヴェッジ研究所が提案する対策案の具体的な内容についてご説明させていただきます。お配りした資料をご覧ください」
パラパラと資料をめくる音が聞こえる。皆が該当のページを開いたことを確認した博士は、満を持してその対策案の名を口にした。
「我々が掲げる対策案とは、即ち────『勇者侵攻対策おもてなし本部』の設立です」
────『紫の都市』郊外、リライヴェッジ研究所第一研究室にて。
「おい!所長がニンゲン界との交信に成功したって……っ!」
「はあ!?世界間交信ってことか!?」
「今王城にその報告言ってるらしいんだが……」
「ちょ、ちょっと詳細は!?ロイドとミモザちゃん呼び出せ!!」
色めき立った研究者たちは、偉大なる研究者の所業を一目見るために研究室を飛び出していった。
────『青の都市』主要街、とある劇場の支配人室にて。
「『モンスター・ニンゲン間友好条約締結に向けたおもてなし政策』……!?ニンゲン文化を広める!?何を……」
「……いや、ある意味……確かに魔法界の娯楽は……この機に……」
「くくく……ニンゲンなんぞに阿るのは業腹だが、これは好機だ……っ!」
派手なスーツを纏ったエルフ族の男は、新聞を片手にひとりあくどい笑みを浮かべた。
────『赤の都市』主要街裏路地、とあるマフィアの拠点にて。
「親魔王派のニンゲンと和平交渉、ねぇ……」
「どこまで本気なんでしょうか」
「あの食わせ物の国王の事だァ。徹頭徹尾本気だろうよォ。……ま、ここで反対勢力の……なんだっけか」
「ああそうそう、勇者派とかいう派閥にオレがついたら……どうなるかなァ?」
ヤギの角を持つマフィアの首領は、マギホを放り投げると狂ったような引き攣り笑いを上げた。
────『黄の都市』聖霊教会大聖堂、聖女の私室にて。
「……親善、大使……?ニンゲンとの和平の道標……?」
「この女……何故ベルリアナ様と……?」
「……許せません。ニンゲンに下る王も、愚かなリライヴェッジの所長も、ベルリアナ様を汚す女狐も……っ!」
輝く羽根で雑誌を無残に切り刻んだ聖女は、憂いと怒りをたずさえた目に涙を浮かべた。
────『灰の都市』主要街、都市領主の館にて。
「……静観、じゃな」
「しかし長様……」
「誤解するな。陛下の出方を伺うというだけの話じゃ。……まあ、問題なければ上手く使こうてやろう」
畳が敷かれた大広間の中央、キセルで灰皿を叩いた兎耳の老人は口の端をゆがめた。
────『緑の都市』郊外、とある小さな村の一軒家にて。
「ママ~?この字何て読むの?」
「んー?ああこれはね、『しんぜんたいし』って読むのよ」
「しんぜんたいし?」
「そう、王様からニンゲンと仲良くするために、色々頑張りなさいってお願いされたモンスターなんだって。えーっと、お名前はたしか……」
「────ラウ」
研究所の廊下をせかせかと歩いていた僕は、もういい加減耳に聞き馴染んだ声に振り返った。
「ロイド、お疲れ様。どうしたの?」
「博士が呼んでる。来週の発表セレモニーで着るドレス用意したから見ろってさ」
世話係兼、兄(非公認)であり、そしてこの度同僚ともなったアンデッドモンスターがそう言って僕に並び立つ。
幾分低い位置にある色素の薄い茶髪の男の言葉に、僕は盛大に顔を顰めた。
「げえ……やっぱ着なきゃダメ?しかも博士が選んだの……?」
「まあ着なくちゃダメだろうなぁ。一応ドレス自体はベルが選んだみたいだから大丈夫だと思うけど。……にしても」
わざわざ言葉を切って僕を見上げたロイドは、トントンと自らの胸元を指し示してニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。
「いいねぇ。似合ってるじゃねーかそのバッジ。『モンスター・ニンゲン間友好条約締結対応委員会おもてなし本部』幹部サン?」
「うるさいよ、ロイドだって幹部バッジつけてるでしょうが」
「お前さんには負けますよ。なんていったって親善大使様ですし?」
「む・か・つ・く~!みんなで僕に押し付けたくせに……」
飄々と言ってのける同僚への怒りを堪えるべく、ギリギリッと歯を食い縛りながら胸元のバッジを手で弄る。
王城とリライヴェッジのロゴを組み合わせたような全く新しいデザインが施された金色のバッジは、今の僕の所属を表す大事なものであった。
「いやはや、まさか実験体で無職だ~って嘆いてたお前さんがまさか陛下直属の組織の現場トップになるとはなぁ。モンスター生何があるか分かんねーな?」
「本当にね……はああ、一般庶民にこんな大役無理って僕何回も断ったのに」
「元ニンゲンのお前さんが一番ニンゲンの事知ってるからな。魔法界にニンゲンの文化を押し広めるって政策なのに、お前さん差し置いて誰が成れるって話だろ」
「くう……来週から憂鬱だよ……。セレモニーで話す原稿も早く完成させなきゃ……。……ロイドもセレモニーでない?」
「ぜってーやだね」
べ、と舌を出すアンデッドを睨みつける。
大役への緊張やらこれから待ち受けるであろう苦難やらを想像して滅入りそうになる気持ちをため息とともに吐き出し、僕は第零研究室へと足を踏み出した。
王城での『勇者侵攻対策会議』から一か月。
僕らは、王城とリライヴェッジ研究所共同で新たな組織を発足させた。
その名も『モンスター・ニンゲン間友好条約締結対応委員会おもてなし本部』
表向きはモンスターに友好的なニンゲンとの和平を結び、金輪際ニンゲンとの戦争が起きないよう条約の締結を目指す陛下直属の新組織。
その実態は、来年春のサーシャの発生に向けて、魔法界を守るべく動く勇者侵攻への対策対応最前線組織である。
そして僕はと言うと────何故かその組織における現場トップ、『親善大使』の役目を仰せつかったのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
これにてようやく第零章完結です。プロローグ的な話で20万字越えはイかれている……っ。
次話より親善大使編です。ラウ率いるおもてなし本部のみんなが魔法界を東方西走します。
プロットはできているんですが書き溜めが出来ていないので、少々投稿お休みを頂きます。更新再開は一週間後の1/25夕方です!よろしくお願いし申す!
あ、お休み期間中に幕間話を投稿できたらします。SSは死ぬほどストックあるんで多分します。
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