身内の恥は場合により自分自身の恥よりもダメージがデカいもの
昨日は更新できず申し訳ございません……本日も二話更新です。
────僕らは一体何を見せられているのだろうか。
壇上からロイドの隣の席に戻った僕は、他の参加者と共に博士がプロジェクターに映し出した『勇者発生予兆実地調査報告書』なるものを、非常に白けた目で見ていた。
『フンフンフーン!ハローマジチューブ!リライヴェッジ研究所所長のフリントでぇ~す!さぁ今この偉大なる科学者フリント博士がいるのは~?イエスッ!勿論 ウェルデ郊外にあるウェルデ遺跡でぇ~す!今日はここの調査を行っていきますよ~!!』
会議室にフリント博士のテンション高い喚き声が響く。誰もが……否、この調査報告書を作成しこの場に自信満々に出した本モンスター以外の全員が、冷たい目でプロジェクターに映し出される奇行を眺めていた。
何でこんなことに……ああこんなことなら「物的証拠の段になったら私に任せておいて!とっておきの証拠用意してあるから!」と事前打ち合わせで自信満々だった博士を殴ってでも止めておくべきだった。後悔先に立たず。
開始5分で早々に耐え切れなくなった僕は、ワッと両手で顔を覆って泣き出した。
「なんでっ……なんで僕はこんなのを父に……っ!」
「ああラウちゃん……お労しい……」
「だから俺はあの時言ったんだ、あんなの父親にして本当にいいのかって」
「あ、あの……アンタも大変だニャ、あんなのが父親だなんて……心中お察しするニャ」
「フリント……?これは一体……流石に見るに堪えんぞ……」
「いやぁ~前々からヤバいヤバいとは思っていたけどここまでとはねぇ」
研究所組が僕の背中を撫で、初めて魔導士団長が僕に警戒以外の目を向け、騎士団長が呻き、陛下が朗らかに笑う。とりあえず共通しているのは、全員こんな記録を意気揚々と提出した博士に対して狂ってる……と目を向けていることだ。
カオスすぎる会議室で、しかしカオスの原因であり元凶たるフリント博士はぷんぷんと頬を膨らませる。
「いいじゃないですか!私だってやってみたかったんです、マギチューバ―!」
「きっつい……きっついよ……心臓痛い……」
マギチューバ―とはマギチューブと呼ばれる動画配信サイトで活動する動画配信者の事らしい。いい年したおっさんが……いやおっさんが動画配信することを否定するわけではないが、こんなハイテンションで、それも会議資料として提出するという蛮行を起こしてるのが父と言う事実がキツイ。うう心臓痛いよぉ。
現在も垂れ流しになっているプロジェクターの映像こそが、ここ二週間弱博士が留守にしていた理由である。
なんでも過去の文献に、勇者やニンゲンがこの魔法界に発生する際に魔法界各地で起きる予兆について言及されていたらしく、博士はその予兆の確認で各地を巡っていたらしい。
プロジェクターに映る博士が向かった先、各都市の郊外にある遺跡にも予兆が発生するらしくこれはその記録なのだとか。
「王城の禁書庫に保存されていた文献によると、勇者が発生する前触れとして数年から数か月前から『ソウルレスの活性化および大量発生』『各地にて地盤沈下』『空の一部欠損』『異常気象』そして『各遺跡の開放』が見られるそうです。この記録は最後の『遺跡の開放』について調査した記録となりますね」
「ううむ……。確かに騎士団でも各地のソウルレスの大量発生や活性化は確認している。『青の都市』の鉱山地帯や『灰の都市』の山岳部で確認されたという地盤沈下による地割れも、現在騎士団で調査隊を組んで調査に当たっている」
「そういえばアジェルくんがいませんね?彼も調査隊に?」
「グルブシッ」
「ミモザ!?」
アジェルの名を聞いた途端、ミモザ乙女が出してはいけない奇声を出して机に頭を打ち据えた。くっ、まだ完治していなかったか……っ!
鼻血を噴いて息を引き取ったミモザの頭を膝の上に載せて介抱していると、非っっっ常に頭の痛そうな表情をした騎士団長が苦々し気に口を開いた。
「…………ああ。アジェルも…………その……調査隊と合流して、アルバストスの鉱山地帯の調査に当たっている………と思う。多分、きっと、恐らく…………」
ハアアアアと頭を抱えて盛大なため息をついた騎士団長の言葉に全てを察する。まだ行方不明なんかいあの虎侍。
一応騎士団のエースであり、一個小隊の隊長も務めているらしいエリートなアジェルだが、彼の暴走には騎士団長も手を焼いているようだった。ミモザが絡まず方向音痴さえ発揮しなければまともなんだがなぁ。
「魔気象庁からも異常気象や空の欠損について報告がきているよ。なかなか阿鼻叫喚な様子だったね、天変地異の前触れだーとか世界滅亡の予兆だーとかいってたなぁ……まああながち間違いじゃないのが笑えないんだけど」
陛下の言葉に資料をめくる。砂漠の都市である『赤の都市』で雨季でもないのに年間降水量に匹敵する豪雨が発生したり、通年穏やかな気候を保つはずの『緑の都市』や『黄の都市』でこの時期に降雪があったりとおかしな気象現象が起こっているという記録が記載されている。
中でも異常なのが、約1か月前に古城付近の草原上空で確認されたという空の一部欠損だ。まるで夜空が一部歪に切り取られたかのように真っ暗闇になっている現象が写真に残されていた。数分で元に戻ったようだが不気味で仕方がない。
「とりあえず遺跡の調査のところまで記録飛ばしてほしいニャ~。ウェルデの美味しい定食屋さんの話はもういいニャ~」
「ええっ!?ここからが大事なところですよ!?」
「ロイド研究員、飛ばして」
調査前に食べたという定食屋の揚げ物がいかに美味しかったかを熱弁する博士の映像が、陛下の鶴の一声によって大幅カットされた。映像が植物の蔦やコケに覆われた石造りの遺跡の映像に切り替わる。
リリ剣でも語られていたが、各都市の郊外にあるというこの遺跡、通常何をどうしても開かれないものらしい。押しても引いてもピクリとも動かず、崩落覚悟で建設機械や戦車で特攻かけても、極大魔法をぶちかましてもヒビ一つ入らない謎に満ちた建造物。その為モンスターはこの中に何があるのかを知らない。文献にも記されていない様だ。
唯一この扉が開くのは開く資格を持つ者、すなわち勇者が現れた時だけなのだ。
映像の中のフリント博士は、相変わらずのハイテンションで遺跡に触れる。
『過去の文献に勇者発生前の予兆として『遺跡の開放』が記されていたのでやってきました~!さーてさて?本来ここは何をしても開かない筈なのですが、今日はどうかな~?』
そう言って懐を弄り、例の赤い結晶『ユウキエネルギー』の結晶体を扉にかざす博士。
すると何をしても開かない筈の扉の装飾に緑光が宿り────やがてゴゴゴゴッと音を立てて扉が振動した。
『……おやおや。大正解のようだね?』
映像の中の博士がわくわくとした表情で顎に手をやる。陛下以外の会議参加者がざわめいた。
「なあ!?」
「ひ、開くニャ!?」
「いやぁ~ダメですねぇ」
苦笑いする現実世界の博士の言葉通り、扉は振動こそしたもののしばらくするとバッテリー切れを起こしたようにふっと止まってしまった。
団長ふたりのため息が、緑光が消えた扉に触れる映像の博士のものとリンクする。
『ああ~残念、開きはしなかったかぁ。でも今までこんな反応見せたことは無いですねぇ!よしそれじゃ次はカルベンの遺跡に向かいま~す!レッツ☆ゴー!』
「ちなみにこの後、道中出ていた出店の食レポしていたら端末の充電がなくなっちゃって……残念ながらカルベン以降の動画は有りません。なので資料でご説明させていただきます、ゴメンネ!」
むしろ無くてよかった。身内の奇行をこれ以上見なくて済むと研究所組一同心の底から安堵する。
騎士団長が博士が弄ぶユウキエネルギーの結晶をじっと見つめた。
「そのエネルギー体……ユウキエネルギーだったか。つまりそれが遺跡解放の鍵なのか?」
「まあそう言うことになりますね。ただし、実は以前にも同じようにユウキエネルギーを持って遺跡調査に行ったことがあったのですが、その時は何の反応も示さなかったのです。つまり遺跡解放には時期がある。そしてその時期とは、過去文献より勇者の発生である────これこそが、ラウが語る勇者発生の根拠になると思うのですが、いかがです?」
各地で確認されている異常現象、今まで古城付近でしか目撃されていなかった残留思念体ソウルレスの活性化、そして今になってユウキエネルギーに反応を示した遺跡。
これをもって博士は僕の言うことを本当であると王城側に示しているのだ。すなわち9代目勇者の発生は必然であり、その発生はもう間近まで迫っていると。
ここまで証拠を揃えられたら、流石に懐疑的であった団長ふたりも納得せざるを得ないようだ。難しい顔で頷いている。
陛下は相変わらずニコニコと何を考えているか分からない場違いな笑顔を浮かべていた。
っていうかじゃあ最初からこれ出しておけば僕が無駄に殺されかけることも無かったのでは……?と思わず胡乱気な眼差しで博士を見る。するとすごく嬉しそうな顔で見つめ返された。
まあ言っても詮無い事である。僕は盛大にため息をついてそう自分を納得させるのであった。




