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『ユウキエネルギー』

昨日は投稿できず申し訳ございません……っ!プロットを練り直していたら間に合わなんだ……本日もう一話夜投稿します。

開かれたドアの向こう。玉座の間から姿を現したのはふたりのモンスターだった。


「陛下、外にまでお声が響いておりますよ……」


「また女王様思い出し泣きですかニャー?」


ひとりはアジェルが着ていた騎士服よりも少し装飾の多い騎士服を纏う、頬に爬虫類のような青い鱗が見える壮年の男性だ。ため息をつきながら陛下を嗜めている。


もうひとりは、隣の男性の腰辺りまでしかない背丈の魔女のようなつば広の帽子から猫の耳を生やす猫だった。きゃらきゃらと可愛らしく笑う猫は二本の後ろ脚で立っている。僕は思わずガタッと立ち上がりかけるが、ロイドによって頭を抑え込まれて強制着席させられた。


「落ち着け」


「だって……っ!あれケットシーでしょ!?やばい可愛いマジ可愛い」


「魔導士団長さんですよぉ。お隣のドラゴン族の男性は騎士団長ですぅ」


「ドドドドドドラゴン……っ!?」


創作物でしか見た事のない存在に心が高鳴る。しかし小声でわちゃわちゃとしていると、ドラゴン族だという騎士団長の酷く冷めた視線が飛んできた。思わずヒエッを身を竦める。

なんか凄い敵視されてるっ!?なんで!?と目を白黒させている間に、騎士団長と魔導士団長は陛下の隣の席に着席した。


議長席に座る陛下の右手側に騎士団長と魔導士団長が並び座り、左手にフリント博士率いるリライヴェッジ研究所組が座する会議室に緊張のような空気が立ち込めた。

悲しみを乗り越え優し気に笑う陛下が皆の顔を見渡した。


「よく来てくれたね。今日の会議はリライヴェッジ研究所第零研究室の面々と私の腹心である騎士団長と魔導士団長しか呼んでいない。気を楽にしてくれたまえ」


そう言って手をぽん、と叩いた陛下の目は────優しい言葉とは裏腹に、油断ならない為政者のそれであった。


「さて、それじゃあ始めようか。第一回、勇者侵攻対策会議を」







ピリついた空気の中、フラリと立ち上がったのはフリント博士であった。


「それでは、会議に先立ちましてまず私から皆様へ一点ご報告をさせていただきます。この度私、フリント・オールディスですが……」


カツカツと靴底を鳴らし壇上に上がる。相変わらずの死んだ魚のような目で参加者をぐるりと見渡した博士は、勿体付けるように言葉を切った。


遂に始まった、とごくりと喉を鳴らす。

この会議の如何で魔法界の今後が、つまりは僕の今後が決まると言っても過言ではない。緊張感で手がじっとりと湿る。


騎士団長と魔導士団長をチラリと伺い見ると、真剣な表情で壇上のフリント博士を見据えていた。流石陛下の腹心、『勇者』という言葉に疑問を覚えたような素振りは無い。勇者がどういったものかは知っているようだ。


そしてリライヴェッジ研究所が、200年ぶりに勇者が発生する可能性を察知したということも知らされているらしい。


あらかじめ陛下は博士から僕の正体やゲームの内容含め詳細を聞いているようではあるが、しかし未だ警戒心たっぷりな騎士団長や何を考えているか分からない可愛い魔導士団長がどう出てくるかは分かったものではない。


一応謁見の日が決まってから、第零のみんなとは会議をどう進めるか流れのようなものは打合せしているが、しかし不安が無い訳ではない。震えそうになる手をギュッと膝の上で握りしめる。


誰もが息をひそめて博士の言葉を待った。やがてたっぷり時間を置いた後、ようやく博士は口を開いた。


そう、迫りくる勇者の発生について……


「娘ができましたっ☆」


「…………」


会議室の温度が10℃くらい下がった気がした。


「そこにいる狐面のきゃわいい女の子、ラウというんですが、いやもう目に入れても痛くないとはこの事なんですねぇ!最近生まれたばかりなんですがこの私に噛みついてくるわ脱走するわでお転婆さんでしてね!まあそれもまた可愛いんですけどぉ~~??ようやく私も子を持つ親の気持ちが分かりましたよ!娘可愛いーーーっ!!!!」


博士は壇上できゃぴっと横ピースし、あろうことか僕に熱い視線を送ってきた。早速の博士の暴走に僕は両手で顔を覆い、ロイドは膝に肘をついて項垂れ、ミモザは穏やかな顔で両目を閉じた。


初手から想定していた流れと違う……っ!何してくれとんねんあのサイコパス……!

ギリィッと歯を食い縛っていると、博士が非常にうざったい動きで僕を手招きした。嘘だろ、この状況で僕に前に出ろというのか!?


寒さを感じにくいはずの体でもひしひしと感じる極寒の空気の中、助けを求めるようにロイドとミモザを見る。しかしふたりはそっと僕から目を逸らした。こ、この裏切者……っ!


内心で血涙を流しながら渋々立ち上がり、博士の隣に並び立つ。気まずげに「ラウと申します……」とぺこりと会釈をすると、騎士団長が盛大なため息をついた。


「はあ……。陛下から前もって聞いてはいたが……まさか本当だったとは」


「トチ狂ったかと思ったニャ……いや元々か」


頭が痛そうにこめかみを揉む騎士団長と、可愛い顔して結構なことを言う魔導士団長に僕は静かに頷いた。陛下が困ったように笑う。

大きく深呼吸して気持ちを切り替えた騎士団長は、ギシ、と椅子を軋ませて「それで」と改めて口を開いた。

その目は僕を油断なく見据えており、ぐっと口を引き結んだ。


「教えてもらおうか。その娘の正体を。まさかどこぞの女との愛の結晶とは言うまい?」


「いやですねぇ、そんな怖い顔しないでくださいよ騎士団長!愛が結晶化してできた娘ではないですが可愛い娘ではありますってば。……まあもっとも」


場に似つかわしくないハイテンションで騎士団長の問いに返答する博士は、突如スウッと目の温度を下げた。

ゾリ、と右目の下の蜘蛛の巣を象った紋様を軽く指でなぞりながら、緩く弧を描く口元がゆっくりと言葉を形作る。


「────元、ニンゲンですけどね?」








その言葉が響くや否や、僕の首には騎士団長の剣と魔導士団長の杖が付きつけられていた。


「……っ、」


強化された視覚でも捉えられない速さ。静かに殺意を湛える両名の視線に突き刺され、恐怖にぐ、と喉を鳴らす。僅かにでも身動きを取れば首を断たれるか、魔法で木っ端微塵にされるであろうことは容易く想像ができた。


「やめたまえ」


静かな陛下の声が会議室に響く。

その命に、騎士団長と魔導士団長は何の抵抗もなく己の獲物を下ろした。去った命の危機に止めていた息を吐く。


「ロイドくん、ミモザも落ち着きなさい」


傍らの博士の言葉にリライヴェッジ研究所側の席を見れば、こちらも騎士団長達に負けず劣らずな剣呑な眼差しのふたりの姿があった。ロイドの右手は近衛たる頭蓋骨に添えられておりいつでも顕現できる状態で、ミモザも自らの蔦を背後に展開している。


両者一触即発な雰囲気だ。思わず体が強張る。




────しかし、そんな空気をいともたやすくぶち壊す者がいた。


「んもう!ラウがビックリして泣いちゃうでしょうが!落ち着いてくださいよおふたりとも!」


「この空気でふざけられる博士にビックリしてるよ僕は……」


まあ我らが所長である。ぷんぷんっとばかりに怒る博士に、僕はげんなりとため息をついた。よくもまあこんな空気の中いつも通りでいられるな……。

流石は頭のネジがダース単位でぶっ飛んでいると部下から称されるモンスターだ。


しかし最高責任者たる陛下も博士と同意見であったようで「そうだよ~」となんとも緩い語尾で騎士団長と魔導士団長が蹴倒した椅子をよいしょ、と直していた。


「ちゃんと話を聞き給え。フリント博士は元と言っている。……今の彼女はれっきとしたモンスターだよ」


「……失礼いたしました」


騎士団と魔導士団は常にニンゲンを警戒し、そして自分たちがニンゲンから陛下や国民を守る盾であることを一番に理解し訓練している。かつて魔法界を蹂躙したニンゲンの恐ろしさを、そしてその残忍さ、容赦のなさをよくよく理解しているのだろう。

そんな彼らの前に「ニンゲンです」と差し出そうものなら、誰何する前に殺そうとするのも当然である。最も差し出された僕としては、それで殺されたらたまったもんではないが。


マジで言い方考えてほしい……と博士をジト目で見上げていると、僕から視線を博士に移した騎士団長が博士に問うた。


「しかし、今はモンスターとは一体どういうことか?」


フリント博士は目を細めて口を笑みの形に歪めると、僕以外の参加者に席に着席するよう身振りで指示した。


「ええ、ええ。ご説明しましょうとも。まずは我々、エネルギー変換システム開発設計特務研究室……通称第零研究室が研究している内容から説明した方が理解しやすいでしょう。こちらの資料をご覧ください」


蜘蛛糸で器用に陛下を始めとする王城側のメンバーに今回の会議の概要を配るフリント博士。無事行き渡ったのを確認し、博士は口を開いた。


「我々第零は、陛下の命より『勇者』の研究をしています。もっと具体的に申し上げると……勇者を勇者たらしめる未知なるエネルギー、『ユウキエネルギー』の研究を行っているのです」


僕らの背後のプロジェクターに『ユウキエネルギー』の概要が投影される。

モンスターよりも脆弱であり、モンスターと違い魔法を行使できない筈のニンゲンでありながら、モンスターを歯牙にもかけない身体能力や超能力を有する『勇者』が『勇者』たる所以。

それは勇者が保有する『ユウキエネルギー』という未知のエネルギーの恩恵によるものだった。


勇者本人、そしてその配下に分け与えられるこのエネルギーは、只人の体を超人のそれに強化する力がある。


王城の地下深く、何百年もの間『保存』の魔法を掛け続けられて秘密裏に安置されている第6代目勇者の遺体や不気味な生命体────ソウルレスから抽出できるというそのエネルギーは、何代にも渡ってリライヴェッジ研究所の所長が研究を重ねてきた。


「このエネルギーがモンスターに付与できるようになれば、理論上勇者と遜色ない力をモンスターも得ることができる。しかしながらリライヴェッジ研究所が設立されてから、もっと言うのならその前身の組織の時代から、このエネルギーのモンスターへの付与技術は確立できていない。何故ならこのエネルギーはモンスターを拒絶する。モンスターに付与しようものなら、たちまち負荷に耐え切れずその体は崩壊してしまうという代物なのですよ」


そう言って、博士は懐から真珠大の赤い石を取り出した。人差し指と親指で摘まんで掲げるそれは僅かに透き通っており、また金色の光も帯びていた。その色味を僕はよく知っている。無意識のうちに左腕を右手で握る。


『ユウキエネルギー』

クロード陛下の命の下、フリント博士率いる第零研究室が研究する勇者原産の未知なるエネルギー。

通常モンスターが投与しようものならその体を爆発四散させてしまう、モンスターにとっては不倶戴天の仇であるニンゲンにのみ恩恵を与える赤いエネルギー体。


そう、それこそが────


「我々も中々苦戦を強いられていましてね。考えつくアプローチは全て検証し、それでも安全にモンスターへ付与する理論が確立できなかった。……そんな折、私は『緑の都市(ウェルデ)』と『黄の都市(カルベン)』の境界、古城付近に突如発生したニンゲンの死体を拾いました。そして、その死体に『ユウキエネルギー』を投与した」


「まさかっ」


騎士団長が目を見開いてガタンッと立ち上がった。魔導士団長も魔女帽子のつばを握り締めて博士と僕を驚いた眼で見つめる。

博士は表情を変えないままその視線を受け止めた。


「ええ。彼女は、ラウの体は見事エネルギーに適合しました。損壊の激しかった遺体はほぼほぼ生前の状態まで修復され、意識を取り戻すまでに至りました。現在、彼女は投与した『ユウキエネルギー』によって生命を維持させています」


博士は手に持った赤い石を────僕から採取したという『ユウキエネルギー』を凝固させた結晶体を弄びながら言い切った。


会議室が沈黙に包まれる。

今回の謁見の日程を知らせる通知が届いた際、僕は前もって自分に流れる『超エネルギー』の正体を聞かされていた。

まさか勇者原産であるとは思っていなかったし、僕に投与されたエネルギーはあの不気味な残留思念体、ソウルレスから抽出されたものであったと聞かされた時は正直失神しかけた。

しかし納得したところもあった。


何故モンスターを拒絶するエネルギーが僕にだけ適合したのか……それは、投与された死体がニンゲンのものであったからだ。適合出来て当然である。


いや、過去のリライヴェッジ研究所の所長の研究資料によると、全てのニンゲンに適合するわけではないというデータもあったので当然ではなかったみたいだが。

しかしモンスターに投与するよりも成功する確率が高いのは確かだった。フリント博士としてもそれを狙って投与したらしい。


問題は、というかイレギュラーだったのが、過去リライヴェッジ研究所の所長たちは何度も戦争で発生したニンゲンの死体に抽出したエネルギーを投与して経過を見ていたようなのだが、その実験の中に僕のように完全な蘇生にまで至った例はゼロだったということだ。

ましてはその体をモンスターに変質させるなど、理論上説明できない事態らしい。博士大歓喜事態である。


一体僕の体ってなんなんだろうか。もう散々驚いて気絶して怯えた後なので今更取り乱すことはしないが、なんとも気味の悪い……。


「待て!」


僕の思考は、突如上がった騎士団長の声によって中断された。

未だ立ち上がったままの騎士団長は、博士と僕を睨みつけると机をバンッと叩いた。思わず体がびくりと震える。


「ニンゲンの死体に勇者のエネルギーを投与し、蘇生させただとっ!?しかもそのエネルギーは彼女の体の中を流れ続けている!?ふざけるな、ならば彼女は、そいつは────」


明らかな敵意を滲ませる騎士団長は、僕を指さし、そして言い放った。


「────勇者と、同義じゃないかっ!」




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