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突撃乙女系犬ガルム、言い逃げ逃走系女子ミモザ

怒れるアジェルに怯えるガルムはすぐに腹を見せ服従のポーズを取った。

必死だ。全然微動だにしていない。「マジ反省しています」という表情でアジェルの顔を見つめている。目めっちゃうるませてる。


しかし愛しのミモザを襲われたアジェルの怒りはその程度では鎮まらない。すうっと右手の剣を高く振り上げた。

しょ、処刑ですか……っ!?目の前で展開されるであろう凄惨な図を想像した僕とパーシーが顔をヒエエッと青褪めさせる。


「ちょ、ちょっと待ってください!アジェル!」


しかしそこに待ったをかける声が。ミモザだ。

僕の腕から抜け出したミモザが、今まさに剣を振り下ろそうとしたアジェルの腰に抱き着いた。


「うぉぉわああ!?ミミミミミミミモザ!?ああああ危ない……っ!」


「傷つけちゃダメですぅ!その子博士の実験体ですから……っ!」


まさかミモザが腰に抱き着いてくるとは思っていなかったのか、突然の密着に怒りを保てず奇声を上げるアジェル。その隙にミモザがアジェルの全身を蔦で絡め捉えた。

ちょミモザさんそれ緊ば……っ!!あんまり未成年にお見せできない状態……っ!咄嗟に僕とロイドは完璧な連携でパーシーの目を塞いだ。


「わ、分かった!分かったから離れて……というか拘束を解いてくれ!」


「ほ、本当に殺しませんかぁ……?」


「殺さない!殺さないと誓うでござるぅぅ!」


肩越しにミモザを振り返ったアジェルの顔は真っ赤だった。まあそりゃそう、と僕とロイドは頷いたが、しかしミモザはその赤面を怒りゆえと勘違いしたらしく更に抱き着く力を強めた。

しかも上目遣いで見つめられ、遂に許容量を超えたアジェルは────鼻血を噴いてぶっ倒れた。


「きゃあああ!!アジェル!?どうしたんですかぁ!?」


「過剰摂取……」


「いや耐性無さすぎでは……?」


「なんだ!?なんでぼくは目を塞がれているのです!?兄様!?ラウ!?」


悲鳴を上げたミモザに、それぞれパーシーの目を塞ぎながらドン引きする僕とロイド。

混沌とした場に、パーシーの疑問の声が響くのだった───














とりあえずぶっ倒れたアジェルはミモザに任せ、僕とロイドは大人しくなったガルムを改めて魔道具で拘束した。パーシーは羊スーツを脱ぎに行った。


「ロイド、コイツ睡眠薬で眠らせたほうが良くない?」


「うーん、どうしたもんかな」


暴れはしなくなったものの、僕らには未だに敵意剝き出しでガルルッと牙を剥くガルム。網と口輪で襲いかかってこれないようにはしたが、いつまたあの移動術で逃げ出すか分かったもんじゃない。一定距離を保ったまましゃがんでガルムを監視する僕は隣のロイドにそう提案するが、しかしロイドは難しい顔だ。


「実験体だからなぁ……無闇に薬投与するのもあんまよくねーんだよ」


「あーなるほど?……それにしてもコイツ、なんでさっきミモザの場所分かったんだろう?」


姿を隠していた筈なのに、ピンポイントでミモザの後ろに現れたガルムに首を傾げる。実はファブローズの効果時間が切れていたのかとも思ったが、僕やロイドの姿は見えていなかったようだ。


「……もしかしたらガルムの特性かもな。ガルムは執念深い性質で、絶対に狩ると決めた獲物に対しては異常な感知能力を発揮することがある。いわゆるマーキングってやつだな」


「え?って言うことはこのガルム。ミモザを狙ってたってこと?」


「んー……まあそういうことになる」


マーキングするならアジェルかパーシーに対してではないのだろうか。何故ミモザに?

ますますガルムの行動の意味が分からなくなりロイドとふたりで頭を捻っていると、復活したものの顔が未だに真っ赤のアジェルと、真っ赤な顔を両手で隠すミモザと、憮然とした表情の執事服のパーシーが戻ってきた。


「もう、兄様もラウもぼくの目隠して!なにが起きたか分からなかったじゃないですか!」


「それいいんだパーシー……それでいいんだよ……」


「ごめん、余りにも未成年には刺激が強すぎる光景だったから……」


ぷんぷん怒るパーシーに、しかし僕とロイドは悟りを開いた顔で頷いた。アジェルとミモザが「ごめんなさいっ」と蹲る。


「ガルルルァッ!!」


「ひゃ……っ」


ガルムがミモザを見て更に激しく唸り始めた。体を竦ませるミモザを背に庇う。

しかしアジェルに冷たい目を向けられ途端に静かになった。気まずげに目を逸らしている。怖いならやらなきゃいいのに……。

何だかガルムが飼い主に頭が上がらないやんちゃ犬に見えてきて呆れた目をしていると、一連の出来事をしゃがんで観察していたロイドがポケットをごそごそと漁りながら口を開いた。


「今ラウと話してたんだが、コイツミモザにマーキングしてる可能性がある」


「わ。私ですかぁ!?この子と会ったことないですけどぉ……?」


「何故ミモザに……?やはり殺すか」


「やめろ、また鼻血噴いて倒れることになるぞ。……お、あったあった」


剣呑な目をガルムに向けるアジェルを一蹴し、探し物をポケットの中から探り当てたロイドは「テレレッテッテレー!」と高々にそれを掲げた。


「ガールーリーンーガールー!」


「ねえなんでそのネタ知ってるの?ねえ?なんで?ねえってば」


思わぬ所で某ネコ型ロボットネタを披露された僕は動揺が抑えられずロイドの肩をがくがくと揺さぶった。しかしロイドは無視してガルリンガルとやらを起動する。電源が入ったガルリンガルからジジジッとノイズが聞こえた。


「これはガルムを始めとした犬系モヴの言葉を翻訳できる魔道具だ。精度は大体65%くらい」


「微妙に信用できない数字ですね……」


「まあ大体ニュアンスが分かればいいさ。これでなんでミモザを狙っていたのかとか研究所で暴れた理由を聞いてみよう。えーっと?大型犬用に設定して、と」


犬の肉球が背面に描かれた両手持ちのタブレットを操作しガルムに向けたロイドが、タブレットに向かって喋る。


「どうしてお前さんはここに来た?」

キャンッキャンキャン!キャワン!


「……あの、犬語への翻訳が小型犬の鳴き声なのですが」


「お静かにっ」


ロイドの言葉の後にタブレットから再生された犬の鳴き声に思わずツッコミを入れるが「シッ!」と人差し指を立てられ黙らされる。

腑に落ちない気持ちで見守っていると、ガルムが「グルル……」と唸った。


『つがい、おってきた』


「番……?そこの虎獣人の事か?」


『そう、かっこいい。つよい。わがつがい』


タブレットから再生されるガルムの言葉に、一同アジェルを振り返る。ミモザの目からハイライトが消えた。

必死にアジェルが首をブンブンブンッと振った。


「し、知らないでござる……!番になんてなってないでござる!」


「うわ、認知しないんだ……」


「そういうの良くないと思うぞ、アジェル」


「本当に違うっ!お主ら分かってて言ってるでござるな!?面白がるな!」


僕とロイドがこそこそと「ひどいねー」「ねー」と耳打ちし合っているとアジェルがグルァッ!と唸った。まあまあとミモザとパーシーが宥めにかかる。

気を取り直して何故そう思ったのかガルムに問うと『さばくでみた。つよかった、すき』と返ってきた。

どうやら博士と一緒にロシェにいるときに戦うアジェルを見て一目惚れしたらしい。突撃乙女系ガルムちゃんであったか。


「どうして研究所を荒らした?」


ロイドの問いに、途端に牙を剥くガルム。グルルァッ!と激しい鳴き声がガルリンガルによって翻訳される。


『そこのおんな、さがす。かみころす』


「う……」


強い殺意を向けられたミモザが怯えたように僕の服を握る。同じ研究者でもミモザはロイドと違いほぼ非戦闘員だ。戦闘が出来ない訳ではないが、どちらかというと回復や状態異常の付与、あとは固定砲台としての技しか持ち合わせていないため、こんな殺意を向けられる事などあまり無いのだろう。怖がるミモザを僕とアジェルがガルムの視線から隠す。

ちなみに生後一週間の僕が耐えられてる理由は推して図るべし。ロイドスケルトン達最近容赦ないんだよなぁ……。


「なんでミモザを……アルラウネを殺そうとしてる?」


『つがい、そのおんな、キラキラわたす、ゆるさない』


「キ、キラキラ……?なんですぅ……?」


「いや、その……」


分かっていないミモザ(とパーシー)の疑問に口ごもるアジェル。状況が読めた僕とロイドはあーと天を仰いだ。

キラキラとは恐らく髪飾りの事だ。どういう経緯を経てかは分からないが、アジェルストーキング中にその髪飾りの贈り相手がミモザであることを知ったガルムは、渡させてたまるかとミモザを殺すべく研究所を訪れた。しかしそのお目当てのミモザは強固なオートロック扉で守られた第零研究室におり、ガルムが目撃された後も僕らが到着するまでそこで待機していたために出会えず、結果としてガルムは研究所内を荒らし探し回る羽目になったのだろう。


ミモザが首を傾げている理由は、アジェルは無くした髪飾りが贈り物として購入したものであることは説明したものの、きっとミモザ宛とまでは説明できなかった為だろう。

ヘタレめ、とは思うもののしかしここでネタバラになるのは流石に可哀そうに思った僕は、話を逸らすべくアジェルを見上げた。


「アジェル。この押しかけ女房ちゃんと説得しないと地の果てまでミモザ追われるんじゃ……?」


「う、そ、そうでござるな……。ガルム」


ガルリンガルをロイドから受け取ったアジェルが、そっと横たわるガルムの傍らに跪く。

ガルムは唸るのを止め、静かな目でアジェルを見上げた。


「すまない、拙者なんかを好いてくれたその気持ちはとても嬉しい。ありがとう。……だがお前と番になることはできない」


『……なんで』


弱弱しく唸ったガルム。アジェルはその白い体毛に覆われた体を網越しにそっと撫でた。


「その……拙者には大事なモンスターがいるでござる。だからお前のその気持ちには答えられない」


明らかにしょんぼりとした様子でガルムが耳を伏せた。アジェルはガルムを撫で続けながら「だが、」と続けた。


「お前さえよければ友達になってはくれないか?……お前はフリント博士の実験体なのでござろう?であればここに住むようになる筈だ。ここに住むなら会いに来ることもできる。……できるだけ顔を見せるようにすると誓うでござる」


『……つがい』


「その髪飾りもよければそのままつけていてくれ。……友となった証として」


暫く黙っていアジェルを見つめていたガルム。不意に、横たわったまま前足をちょいちょいと動かした。

ガルリンガルを指していることに気が付いたアジェルが静かに差し出すと、ガルムは画面に前足をちょん、と乗せた。ガルリンガルが肉球に反応して起動する。


『つがい、そこのおんな、ころす、いや?』


「えっあっああ……その、ミモザ……以外も!ここにいるみんな拙者にとって大事なモンスターでござる。仲良くしてほしいでござるよ」


「ここにきてヘタレてんじゃねえぞ……」


ぺっと吐き捨てるように呟いたロイドの口を「しーっ!」と塞ぐ。気持ちは分かるけども!今いい雰囲気だから堪えて!

幸か不幸か、ロイドの呟きはアジェルとガルム、そしてミモザには届いていなかったようだ。ガルムは器用にため息のような唸りを上げた。


『つがい、あきらめない』


「っ、」


『でも』


網の中でのっそり体勢を変えたガルムは、真っすぐにミモザを見上げた。さりげなく脇に退くと、不安げに胸元を握り締めるミモザとガルムの間には遮るものが無くなる。

両者の視線が交差する。


『つがい、かなしい……いや。だから、なかよくする。……けど、いつか、かつ』


「────っ」


「つまりライバル……っ!」


「堂々の恋敵宣言ですよ!どうするミモザ選手!!」


「お前さんら楽しそうだな……」


ミモザが息を飲む。

その後ろで僕とパーシーは少女漫画のような少女漫画的展開にきゃーっと手を取り合ってはしゃぎ、そんな僕らをロイドが呆れたよう見て、アジェルが「ここここ恋敵……っ!?」と顔を爆発させた。カオス。


「あ、あのっ!その……あっ、アジェルをそんな、わ、わわわわわわたし……っ!」


言い逃れができない状況に追い込まれたミモザは、顔を真っ赤にしてワタワタと慌てている。しかしガルムの目はミモザを逃がさない。泣きそうな顔になったミモザだが、しかしキッとその目に強い意志を宿してガルムを睨み返した。そして────


「う、う、う……受けて立ちますうううううう!!!」


そう叫びながら、物凄いスピードで明後日の方向へ走り去っていった。


「逃げたぁ!?ちょ、どこへ……っ」


「言葉と行動が一致してない!どこいくのミモザ―!?」


ばびゅんっという効果音が聞こえそうな勢いで消えたミモザの後を、僕とパーシーが慌てて追いかける。

その場に残されたアジェルとガルムは呆然のその後ろ姿を眺めていた。


「……え、ミモ、え……?逃げ……」


『……かち?』


「どっちかって言うとアジェルのひとり負けかな……」


跪いた状態で所在なさげに腕を伸ばし放心するアジェルと、ロイドを見上げるガルム。

立ち上がったロイドが、流石に憐れむようにアジェルの肩を叩いた







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