表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/141

ガルム捕獲大作戦

パーシーが特に強く視線を感じると指さした方角は、実験棟の中庭であった。

とりあえず中庭へ移動しながら、僕は思いついたストーカー(?)ガルム捕獲作戦をみんなに語る。


その内訳とは────


「なんだこれは……っ!」


「パーシー(feat.もこもこ羊スーツ)」


「なんでぼくだけ!?」


規制線を張り他の研究員が立ち入らないようにした中庭にて。

着ぐるみ型のもっこもこ四つ脚羊スーツを身に纏ったパーシーは、野生の羊らしく四つん這い状態で前足をドンドンと踏み鳴らして抗議の声を上げた。

遠目で見たらマジで羊にしか見えないな、ちょっとスケールおかしいけど。まあ相手のスケールもバグってるし丁度いいか。


「なんでって……ストーカーガルムはアジェルとパーシーを狙ってるんでしょ?じゃあ目の前にお出しすれば寄ってくるかなって」


「ちっがーう!!なんでコレ着させたって聞いてるんだ!!」


「それはまあ……より美味しそうに見えるように?あと可愛さ?」


「野生の羊感が出るように毛皮の材質にこだわりましたぁ。我ながらいい仕事ですぅ」


スーツを急ピッチで仕立てたミモザと共に、自らの創作品の出来に満足げなため息をつく。唯一スーツの外に出ているパーシーの顔は非常に不満げに歪んでいるが。


ちなみに犬にストーカーされている騎士はそんなパーシーを悲壮な目で見ていた。いやアジェル、憐れ……って顔で見てるけど君が連れてきたストーカーのせい説あるからね?


僕が提案した作戦とは、まあ何の捻りも無いのだがストーカーが欲しているものを囮として用意してやり、夢中になっているところを後ろから捕獲するというものだった。


そしてガルムが欲しているものと言えばアジェルとパーシー。ふたりをガルムが隠れているであろう中庭に待機させた上で、僕・ロイド・ミモザの研究所チームが隠れ潜む。そしてガルムが現れたらすかさず捕獲するという手順である。


聞けば短時間ではあるものの姿を完全に消せる魔道具や捕獲用の魔道具は研究所にあるとのことなので、それはロイドに用意してもらった。雑な作戦だし準備時間も大して取れなかったが、試す価値はあるだろう。


無言でひたすらにもこもこパーシーを撮影していたロイドは、マギホのアルバムに収められた写真を確認しながら頷いた。


「なるほどな。目的こそ分からないがガルムはパーシーを狙いつつアジェルに何らかの感情を抱いている。なら逆手にとってパーシーとアジェルを餌におびき寄せようってか。いい案だな。パーシーを使う以外は」


「十分もこもこパーシーを堪能したくせに僕に怒りを向けるんじゃなぁぁい!!ぐあああ頭割れるぅぅ!」


毎度おなじみのヘッドロックを食らいながら叫ぶ。ロイドだって賛同したくせに今更文句言うな!っていうかアジェルはいいのかアジェルは!


「アジェルはいいんだよ。自分の身は自分で守れるし、元凶は博士でも事態を引き起こしたのはアイツの可能性があるからな」


「う、ぐ……拙者が悪いのだろうか……腑に落ちないでござる」


「でもパーシーはあの格好じゃ逃げることもままならないだろうが」


「そこはロイドが対策するって言ったんじゃん」


なんとかヘッドロックから逃れた僕は痛む頭を抱えながら文句を言う。この作戦を実行するにあたり最もネックだったのはパーシーの身の安全だったが、そこはロイドがカバーするから大丈夫という話になったのだ。ならば全力でやるかとミモザと共にもこもこスーツを作ったというのに。


ブーブーとブーイングを飛ばしていると、ロイドは盛大なため息をつき頭蓋骨の一体を呼び寄せた。


「全身……まではしなくていいか、上半身までな」


頭蓋骨に触れた手から青い魔力が波紋のように広がる。すると突如、()()()()()()()()()()()()()()()()が何もない宙から現れた。


次いで胴に纏うブレストプレートが、そして金属製の腕当てと手甲が生み出される。現れた手甲に壮麗な衣装が施された大剣が握られたところで、ロイドの手から魔力の流入が止まる。


上半身だけの鎧姿になった頭蓋骨は、騎士の礼を取った後にロイドの後ろに侍った。

ただの浮遊するペットだと思っていたそれが強そうな兵士(上半身のみ)の姿になったのを見て、僕は驚きの声を上げる。


「な、な、な、何それぇぇぇ!?」


「ロイドの『近衛顕現』でござるよ。あの浮遊する5体の頭蓋骨はロイドを最も近くで守る『近衛兵』で、与えた魔力の量によって元の姿に戻るでござる。あれがまた強くてなぁ……」


「勝手に俺の手の内喋るなよ」


「目の前で見せておいて何を……」


パーカーのポケットに手を突っ込んで不満そうな顔をするロイドにアジェルがため息をつく。


そ、そんなとんでも技能知らない……!リリ剣でも出てこなかったと思うんだけど!?もういい加減手の内全て晒したと思っていたのに、まだ隠し玉持っていたのかこのチート鬼畜アンデッド!


心なしか「わーい」って感じで上半身を跳ねさせながらブンブン剣を振る上半身だけの近衛兵さんと、「いいなー」って感じでその周りをふよふよ浮遊する残りの頭蓋骨達にワナワナと震えていると、ロイドがふふんとドヤ顔で僕を見上げた。


「どうだ?少しは先生を見直したか?ラウちゃん?」


「は、腹立つぅ~~~」


その得意げな顔燃やしてやりたい……!でも正直見直したしちょっと厨二心擽られてカッコいいって思ってもいる。悔しい……っ!僕もなんか厨二心踊るような技欲しい……っ!


ギリギリ歯噛みしていると、ミモザが「はいはぁい」と手を叩いた。


「準備もできたところで始めましょうかぁ?とりあえずアジェルとパーくんはここに立ってくださいねぇ」


「う、うむ」


「はい……」


場を仕切り直したミモザの指示に従って、アジェルとパーシーが指さされた場所に立つ。

そのふたりを守るように、ロイドが顕現させた上半身近衛が前に出た。


「何としてでもパーシーを守れ。アジェルは……別にいいや」


「なんでぇ!」


最後が投げやりになった命令に近衛は無言で礼を取る。その後ろで吠えていたアジェルも、疲れたようにため息をついては腰に携えた鞘から剣を引き抜いた。


歩く以外の身動きが取れないパーシーを二振りの剣が守る様は、守られる対象がもこもこ羊と言うことを加味してもカッコいい。思わずおおおっと手を叩く。もしかしてアジェルの技が見れたりするのだろうか……と内心でソワソワしてしまった。


「さて、それでは私たちは隠れましょうかぁ。不自然にならないように建物内に戻るフリをしつつ、これを使って潜伏ポイントに移動しますよぉ」


そういってミモザがふりふりするのは、元の世界でよく見たスプレー型の消臭芳香剤だった。

マジマジと見つめた僕は、とっても見覚えのあるそれに首を傾げる。


「ファブリー……」


「ファブ()()()な。効果時間10分と短時間しか使えないが、姿も匂いも気配も一時的に消し去るとんでも魔道具」


「あまりにも使用用途が犯罪にしか使えなさ過ぎて世に出すことができないヤバ魔道具ですぅ。研究所内での使用しか許可されてませんので持ち出し厳禁ですよぉ?」


「ヤバローズ……」


ちなみに開発者は博士だった。さもありなん。

研究所の入り口まで移動し、何故か薔薇が描かれているピンクのスプレーをミモザが僕らに振りかける。

すると振りかけられた端から僕の体が宙に溶けていった。隣に立っていた筈のロイドの姿も見えなくなる。


「薔薇の匂いはしないんだなぁ……」


「姿消したいのにフローラルな匂い付けてどうすんだよ」


ミモザにも振りかけてやりながら呟くと至極全うなツッコミをロイドから飛んできた。その通りだけどじゃあなんでローズなんて名前つけた?


「声は消えませんからねぇ。ここからは大声でのおしゃべりは厳禁ですよぉ。……それじゃ行きましょうか、潜伏ポイントへ」


返事代わりにミモザの手があったであろう部分とロイドのパーカーの裾を握る。僕らはこっそり移動を開始した。












潜伏ポイントについて5分が経過した。

植え込みからひょっこり顔をのぞかせる僕らの視線の先には、怯えるパーシーと油断なく周囲に目を向けるアジェルがいる。


「……こないね」


「ファブローズの効果が切れる前にかけ直さないとまずいかもな」


コソコソと小声でロイドと会話する。餌だけになったらすぐに食いつくかと思われたが、意外にもストーカーは冷静であった。

もしかして相手が食いつく餌を読み間違えたかと心配になる。


しかし、その時は直後に訪れた。


「……っ!来ます!後ろ!」


「っ!」


悲鳴のようなパーシーの鋭い声に、アジェルが瞬時に反応する。

雪を踏みしめ反転したアジェル。その目の前で起こった現象に、アジェルも見ていた僕らも目を見開いた。

パーシーとアジェルの背後の景色がぐにゃりと歪んた、と思った瞬間、歪みの中心に開いた暗闇からガルムが凄まじい勢いで飛び出してくる。

咄嗟に前に構えたアジェルの剣に食らいついた。


「グルァアアアアッ!」


「ぐ、重い……っ!」


ガチガチッと交差する剣と牙が鳴る。歯を食いしばり押し返そうとするアジェルだが、しかしガルムは巨体だ。いくらアジェルが大柄の虎獣人といえども自分より二回り以上も大きい体を腕力だけで押し返すことはできない。

咄嗟にパーシーが氷魔法を行使しようと口を開く────しかし、その行為はアジェルの視線によって止められた。


「『豪脚(ごうきゃく)』!」


気合一閃、大きく踏み込んだアジェルの足を中心に雪が吹き飛ぶ。見えた地面には蜘蛛の巣状にひびが入った。強引に剣を振りぬくとガルムの体がまるでトラックにぶつかったかのように吹っ飛ぶ。

ふおおおおっ!と興奮し目を輝かし身を乗り出しかけた僕の頭をロイドが押し戻した。いやだって!今アジェル『豪脚』使った!『豪脚』って言ったよね!?


『豪脚』とは、アジェルが使用する身体能力を大幅に強化する魔法だ。脚という字が使われているが、身体能力の強化は全身に及ぶ。何故豪脚なのかと言うと、アジェルは土魔法に適性があり脚から地面の魔力を吸い上げて身体強化を行うからだ。


つまりアジェルは地面に足を付けている限り最強なのである。きゃーかっこいい!ただの方向音痴虎侍じゃなかった!

自分の中のリリ剣オタク魂が顔を出し叫び出しそうになるのを必死に抑える。


そんなこんなしている内に事態は急速に動いていた。吹き飛ばされたもののしっかり四本の足で地面に着地したガルム。しかしロイドの近衛兵が隙を見逃がさずに接近し、大剣をガルムに振り下ろした。

それを再び景色を歪ませ、生まれた暗闇に飛び込むことで避ける。やはり瞬間移動持ちだ、ロイドの『移動』とはちょっと様子が違うが……。


「厄介だな……」


アジェルが顔を顰める。パーシーもキョロキョロと辺りを見渡しているが、気配がつかめない様だ。

まずい、僕ら捕獲隊のファブローズ効果時間もそろそろ切れそう。かけ直しをした方がいいだろう……そう思ってミモザがいるであろう辺りを振り返った時だった。


「は……ミモザッ!」


「……っジかよ!」


「え?」


ミモザがいたであろう辺りの景色が歪む。僕は咄嗟にミモザの服を掴み後ろに投げ、ロイドがもう一体近衛を顕現させ歪みに差し向けた。

突然のことで腕だけしか顕現ができなかった近衛は腕をクロスさせ衝撃に耐えようとしたが、飛び出してきたガルムの勢いに負け吹き飛んだ。


「ラウ!」


「っらぁ!」


間髪入れずに飛んだロイドの合図と共にガルムの鼻面目掛けて右足を振りぬく。何故かミモザの位置は分かったようだが、まだ僕やロイドの姿は見えていない様でノーガードの鼻に僕の蹴りが入る。


「ぎゃうんっ」と痛そうに鳴くガルム。上体をのけ反らし怯んだところをパーシーの氷の枷とロイドのスケルトンによってその体は拘束された。


「ミモザ大丈夫!?ごめん超ぶん投げちゃった!」


「だ、大丈夫ですぅ……助けていただいてありがとうございますぅ」


ガルムが拘束されたのと同時にファブローズの効果が切れる。僕は地面に尻餅ついて目を回すミモザを助け起こした。特に怪我はしていないようでほっと胸を撫で下ろす。


ガルムはジタバタと拘束を解こうともがいた。その抵抗の激しさにロイドが眉を顰めてスケルトンを更に召喚し、パーシーが苦しそうに喘ぐ。

やばい。すぐに拘束用の魔道具を……!そう思い懐を漁った瞬間、突如ドゴォォッと地面を抉るとんでもない衝撃が走った。


「……ガルム。貴様がどういう目的で拙者を付け回していたのかは知らん。……が、」


見れば、地面に倒れるガルムの顔面すぐ傍に『豪脚』で強化しているであろう足を振り落とすアジェルがいた。

鼻先で地面が爆ぜたガルムはピタリと抵抗を止め、そしてアジェルの顔をチラッと見上げた後────突如怯えた顔でガタガタガタガタと体を震わせ始める。


アジェルの顔は、背を向けられているので見えない。が……。


「ミモザを傷つけようとしたこと。……万死に値すると知れ」


死刑宣告のようなその声色は、非常に、ひっじょーに冷え切っており。


────やっべー、ミモザぶん投げた僕もガルムと一緒に殺されるんじゃ……?


ミモザの体を抱きしめる僕も、怯えた顔でガタガタガタガタと震えるのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ