虎侍、あらぬ誤解を自分で産む。
今日はもう一話前に更新しています!
ギリッギリセーフ!まだ正月!
「いやデカすぎでしょ!?なにあれ!?」
「ヒエエエエ!お、オオカミぃぃ!!?」
腰を抜かしたパーシーの横で窓から身を乗り出す。犬っていうかオオカミっていうか、いやマジでなんじゃあれ!?スケールバグってる!
どこから取り出したのか望遠鏡のようなもので巨大四つ脚獣を観察していたミモザが、焦った顔でマギホを操作し始めた。
「耳の形的にガルムっぽいですけどぉ……流石に大きすぎますぅ」
「ガルム!?ウェルデ郊外にしか生息しないモヴが何でこんな所にいるでござる……?」
「えっていうかそもそもモヴなの!?いやまあアレ野生動物って言われたら困るけど……モヴって結界があるから街には来ないんじゃないの!?」
ミモザの言葉にギョッとアジェルが振り向き、アジェルの言葉に僕がギョッと振り向く。
この間ロイドから聞いた話では、基本的に街にはモヴ避けの結界が張られているから遭遇しないって話だったと思うけど……!?
驚いてロイドを見ると、流石にスケルトンから降りたロイドが「あー」と宙を仰いでいた。
「いやぁ……そんなすぐに遭遇するようなことは無いと思ってたから説明端折ってたんだが、特殊個体って呼ばれる通常種よりも力が強かったり知能が高いような個体は、稀に結界を破ってくることがあるんだよ」
「はあああ!?じゃああれ結界ぶち破ってきた特殊個体ってこと!?」
「うんん、それがそうでもなさそうなんだよなぁ。……まあいいや、取り合えず」
突然、ロイドに肩をポンと叩かれる。え?と振り向くと、滅茶苦茶いい顔のロイドがどこからともなく取り出した巨大な手持ち網を僕に差し出した。
反射的に受け取る。そしてえ?とロイドの顔を見て、そしてみんなの顔を見渡した。
「ミモザの蔦は届かない、パーシーの魔法も飛距離的に微妙、アジェルは重騎士だから動きが鈍い。……ということで頼んだぞ、ラウ。アレ捕まえてこい」
「なんでやぁーーっ!!ロイドが『移動』で行けばいいでしょうが!!」
「あんな場所行ったことある訳無いだろ。大丈夫大丈夫、成長著しいお前さんならいけるって。援護するから」
「にしたって初モヴ戦が特殊個体はおかしいだろうがっ!生後1週間に期待寄せすぎ……っ」
手持ち網をぐぐぐっとロイドと押し付け合ってると、突如窓の外から大音量の咆哮が響いた。思わず窓の外に視線を戻す。
見れば、尖塔の頂点に立っていた推定特殊個体のガルムとやらが鬼のような形相でこちらを見ていた。
「げ、気付かれたか?」
「ひい……っ!なんか怒ってます……!?」
「やばい、逃げられる!?」
ええい、女は度胸じゃい!とりあえず気を引くだけ引いてこっちにおびき寄せよう!
手持ち網を肩に担いで窓枠に足を掛ける。と、傍らのアジェルが「あ?」と変な声を上げた。
「待てよ、アイツ……この間フリント博士が連れてたガルムか……!?」
「は!?おいちょっと待てラウ!『伏せ!』」
「うぎゃんっ!」
窓枠を蹴って宙に飛び出す……寸前で、体が勝手に地面にダイブする。窓の向こうに消えていった僕を見て、ミモザが「ラウちゃん!?」と悲鳴を上げた。
しかしロイドが僕を助け出そうとするミモザを制止する。
「ミモザ!アイツの耳辺り望遠鏡でズームして写真撮ってくれ!」
「へっ!?はい!?」
「パーシー!アイツの足止めできるか!?」
「は、はい!やってみます!」
ロイドの指示にそれぞれが動き出す。
ミモザが望遠鏡を覗き込んではパシャパシャと備え付けのシャッターボタンを押し、パーシーがパキパキと周囲の空気を凍てつかせ始める。
集中するように瞑目し内包魔力を魔法に昇華させるパーシーは、やがてカッと目を見開いた。
「いっけー!『氷枷』!」
氷で作られた十数個のトラバサミがガルム目掛けて飛んでいく。いくつかは飛距離が届かずに地面に落ちたものの、十個近くのトラバサミはガルムの体に命中した。
ガルムは痛がる素振りは見せないものの、体に当たった途端ビキビキと自分の体毛を凍らせ始めた攻撃に苛立ったように体を捩った。
「やりました!兄様!」
「いやまだだ……っ!」
パーシーの報告を否定するように、そしてロイドの言葉を肯定するように、再びガルムが咆哮を響かせる。
「オオォォォン!」
「う、ぬう!」
「きゃあっ!」
「ひ、ひいい……っ」
「うるっせえぇ!どんだけ俺の耳にダメージ追わせりゃ気が済むんだよ……っ!」
四者四様の反応で耳を塞ぐモンスター達。先ほどの咆哮よりも更に大きいそれによって、ガルムを捉えていた氷の枷は全て破壊された。
そしてこちらに射殺さんばかりの視線を送ったガルムは────驚いたように目を見開いた後、誰の目で見ても明らかな満面の笑みを浮かべた。
「え?」
その疑問の声は誰のものだったのか。
敵対的な表情から一変したガルムは、しかしそのまま忽然と姿を消してしまった。
「な、なんですか?今の……」
「…………ミモザ、さっきの写真見せてくれ」
「あ、はいですぅ」
言われた通りミモザはマギホを操作し、望遠鏡から転送した画像を空間投影する。映し出されたのはガルムの顔画像……もっと言えば顔の上半分を映したものだった。
「……はああ……やっぱりかよ……」
「ええ……これマジですかぁ……?」
画像を覗き込んだ第零研究室所属のふたりが盛大なため息をついた。そのため息の意味が分からないアジェルとパーシーは顔を見合わせて首を傾げる。
ガルムの耳のあたりには小さく黒いタグのようなものがついている。どうやらそれを見てふたりは項垂れているようだが。
と、突然アジェルが「ああ!?」と声を上げた。
「待て!コイツが首元につけてるもの……っ!拙者が買った髪飾りじゃないか!」
「「「え?」」」
写真をスライドしてもう少し引きの写真を映し出す。確かに、ガルムの首元には一部欠けてはいるものの花と分かる意匠が施された可愛らしい銀細工の飾りがついていた。
「えっ?これアジェルのなんですかぁ?なんかすごい……可愛い……女物っぽい……髪飾り……?」
マジマジと写真の中の髪飾りを見つめるミモザの目に困惑の色が浮かぶ。慌ててアジェルが弁明を口にした。
「いやあのっ、拙者のではあるのだが!拙者のではなくてだな!?その、ええっと」
「アジェルのですがアジェルのでは無い……?……そういえば最近ロシェで恋人同士がお互いの装飾品を交換し合うのが流行っているってベルちゃんが言ってましたが……そうですかぁ、そういえばアジェルの遠征先ロシェでしたねぇ……?こんな可愛い髪飾り、そうとしか思えませんねぇ……」
「いやちがっ!別に誰かと交換したとかそういうことではなくっ!だから、その……」
しどろもどろになるアジェルの言葉に、ミモザの目からどんどんとハイライトが消えていく。
ロイドは完全に観戦モードで、骨で作った椅子に座っては「おもしれー」とどこに隠し持っていたのか取り出したスナック菓子を頬張りだし、パーシーはその後ろでオロオロオロオロとアジェル以上に困った顔をして両者の顔を交互に見ていた。
ぐううと喉を鳴らし、視線を彷徨わせるアジェル。そして遂に観念したようにグルァッ!と声を上げた。
「その、それは……っ!拙者の趣味でござるゥゥゥアアア!!!」
大音量で研究所内に響き渡ったカミングアウト。
思わぬ回答にロイドが吹き出し、パーシーがああやっぱり……と手で顔を覆い、ミモザの顔から表情が抜け落ちた。
ロイドの爆笑だけが響く研究所の廊下に気まずい空気が満ちる。
そして床をバンバン叩いて笑い転げるアンデッドレクス以外誰もが声を出せずに俯く中、僕はというと────
「あのぉ。お取込み中申し訳ないんですどぉ……そろそろ助けてもらってもいいですかねぇ」
何故か窓の外で大量に生成されていたウサギ型の雪ゴーレム十数匹のマウント行動により、着々と動かぬ体を雪の中に埋められていた。
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