いざ抱えよ、我らが王を。駆けよ研究所。
すみません、昨日3話目は更新できませんでした…。
本日夜もう一話更新します。
僕とパーシ―そしてロイドは、頭蓋骨が指し示した雪原の一角、見つけた『痕跡』とやらを囲ってうーんと首を捻っていた。
「痕跡……だね、まあ確かに」
「いやな予感しかしねえ痕跡だな」
「もう帰りたいです……」
僕らが見下ろす先。深く積もった雪を抉るように残るのは、大きな獣の足跡。
そしてその傍らには、小さな黄色の宝石が付いた銀細工の花のモチーフが落ちていた。
怯えたように帰宅を望むパーシーに大いに賛同しながらも、僕は足跡をマジマジと観察する。
かなり大型な動物の足跡だ。僕の手のひらよりも二回りは大きい。クマとかだろうか……いやしかし、こんな常に雪が積もっているような地域に居るクマってなんだ。ホッキョクグマ?ここ北極じゃないけど。
とりあえずいくら身体能力が上がったとはいえクマ相手に善戦できるか微妙なところなのでさっさと退却を申し出ようとしたが、しかし同じように足跡を観察していたロイドが驚くようなことを言った。
「これ犬だな。もしくはオオカミ」
「は!?んなバナナ!クマとかでしょ!?」
「バナナが何かは分からんから置いておくが、ほらよく見ろ。指の跡が4つしかないだろ?クマの場合は足跡に残る指の数が5つだから違う。でもって爪の跡もあるからネコ科でもねーな」
「に、兄様……流石博識です」
きゅんきゅんと敬愛する兄の知識量にときめくパーシー。いやいや確かにロイドすげーただの怠け鬼畜研究者じゃなかったんだーって見直しポイントではあるんだけど、そんなのんびりしてる場合じゃない気がする。
クマじゃなくてクマ並みの大きさの犬かオオカミでしたってそれなんも状況好転してないよね?危険に変わりはないよね?
「…犬やオオカミ系統の野生動物でござろうか……とりあえず一旦この場は離れたほうがいいでござるな……はあ」
僕の気持ちを代弁してくれたのは、落ち込んで雪に埋もれていたアジェルだ。どうやらというかまあそうだろうなって感じだが、あの足跡と一緒に残っていた銀細工のお花はアジェルが購入した髪飾りの一部だったらしい。
件の大型動物に踏まれたか弄ばれたか……どちらにせよ恐らくもうとても贈り物としてモンスターに渡せない状態になっているであろう髪飾りにどよんと落ち込んでいる。
とりあえず僕とパーシーでその大きな背中をポンポンと叩いてあげた。
新しいの買いに行こう、元気出してください等、口々にアジェルを慰めていると、不意に軽快な電子音が雪原に響き渡った。ロイドのマギホの着信音だ。
「ん?……ミモザ?」
「ミモザぁ!?」
ロイドが着信の主の名前を読み上げると、突然アジェルが雪から立ち上がった。余りの勢いに背中を撫でていた僕とパーシーが「ぎゃーっ!?」と吹っ飛ばされる。
「ロ、ロイド!?ミ、ミ、ミミミミ!?」
「うるせえ黙ってろ。……はい、どうしたミモ『ロイくん今どこに居ますかーーーーーーーっ!!??』
鼻息荒いアジェルの脳天に頭蓋骨を落とし沈め、マギホを耳に当てるロイド。しかしマギホの向こうから響いた大声にすぐに耳を離した。
余りの大きさにキーンッとマギホがハウリングする。しかし電話の向こうのミモザは気付いていないのか、構わず焦った様子でまくし立てていた。
「うるっせ……なに?もう一回言って」
大音量を浴びせられた耳が痛いのか、顔を顰めるロイドが返事をしながら通話をスピーカーモード切り替えた。尋常じゃない様子になんだなんだと雪に塗れていた僕らもロイドの傍に寄っていく。
マギホの向こう側からは何やらガシャーンッだとかバリバリッだとか、もしくはモンスターの悲鳴らしきものが聞こえてくる。
『大変なんですぅ!早く戻ってきてくださぁい!なんか今研究所で犬?オオカミ?みたいなのが大暴れしているんですぅ!』
「「「「……犬?」」」」
非常にタイムリーな単語に、僕ら一同は顔を見合わせるのだった。
「ああよかったぁ!ロイくんもラウちゃんもありがとうございますぅ!パーくんも……えっ!?あああああアジェル!?どどどどどどうしてここにっ!?」
「いや、その……ちょ、丁度遠征終わりにロイドの家に寄っててだな……その、成り行きで。め、迷惑でござったか……?」
「い、いえ、モンスター手は多い方が、い、良いですしぃ……ありがたいですけどぉ……」
ロイドの『移動』で研究所に戻ってきた僕らを出迎えたミモザは、予想外のモン物に目を見開いた。そしてアジェルとふたり、目も合わせずもじもじごにょごにょと声を掛け合っている。
緊急事態なんて関係ないと言わんばかりに突如展開された桃色展開に、流石の僕も色々と悟る。
「あー、ロイド兄様?アジェルの髪飾りの贈り相手ってもしかして」
「その通り。お前さんの兄ではねえけども」
「……あれデキてる?」
「いや。かれこれもう5年くらいあんな感じ。いい加減まどろっこしい」
傍らの兄にこそこそ耳打ちして尋ねると、荒んだ目で肯定される。ご、5年すか……。それはまた年季の入ったことで。
ちなみにパーシーは何も分かっていない顔で首を傾げていたので、ロイドとふたりでほっこりしておいた。君にはまだ早い話だよ……。
「さて、そのもじもじ空間もその辺にしておいてもらおうか。ミモザ状況は?」
「ハッ!はい!とりあえず現場に案内しながら説明しますぅ!」
我に返ったミモザを先頭に僕らは研究所に足を踏み入れた。
研究所は酷い有様であった。窓ガラスは滅茶苦茶に割り壊され、棚やら機材やらが至る所でなぎ倒されている。ザッと見る限り怪我をしたモンスターは居なさそうだが、この分だと物的被害がかなり出ているだろう。足早に駆け抜けながら僕は事態の大きさに眉を顰めた。
「現場は研究本棟ですぅ。お昼過ぎに第一と第三の研究員が『研究室が荒らされている』とウチに飛び込んできたんですよぉ。目撃者によると白くて大きい四本足の犬のような獣が、突然研究室の扉を破って入ってきては何かを探すような素振りで研究室を滅茶苦茶にしては猛スピードで走り去っていったとかぁ」
「第零は?荒らされてないのか?」
「ウチは研究本棟の地下フロアですし、ラウちゃんの脱走事件から猛省した博士が超強力生体認証付オートロックドアに新調しているのでひとまずは無事ですぅ。魔道具使って簡易結界も張っていましたしぃ」
「脱走!?ラウお前何してるんだ!?」
「ハハハ……」
ギョッと目をむくパーシーの視線から逃げながら一週間前の目覚めてすぐに起こした脱走事件を思い出す。そんなこともありましたねぇ……。
確かにその数日後、突然博士が手配したというドア業者さんによって第零研究室のフロアのドアはゴッテゴテの認証機器が付いたドアに入れ替えられていた。解錠するには登録している顔・指紋・虹彩・静脈データと適合させた上で、ロイドやミモザが持つ第零研究室研究者ライセンスカードを読み込ませないといけないというヤバい代物だ。
二度と脱走などさせないという博士の圧力を感じてロイドとミモザとさんにんでドン引きしたのは記憶に新しい。
「とりあえず、その後も犬は至る場所で出没しては部屋を荒らすという行為を繰り返しているようでして……今職員総出で捜索中ですぅ」
「とんでもない奴でござるな。……しかし、職員総出で捜してて今まで捕獲できないなんてことあるのか?」
「なんでも近づくと忽然と姿を消すそうなんです。まるでロイくんの『移動』みたいに……」
そう言ってじっとロイドを見るミモザ。思わず僕らも走りながらじっとロイドを見る。
「……」
「……」
「……」
「いや俺関係ねーよ」
そんなこと言いましても……ねぇ?そんな瞬間移動持ちがほいほい居る訳ないんだから、なんかしら関係ありそうですけど。
しかし本当に心当たりが無さそうなロイドの様子から、とりあえずその件は置いておくことにする。
そんなことよりも、僕は気になってしょうがないことがあるのだ……ギッと傍らのロイドを睨む。
「ロイド!いい加減自分の足で走りなさい!」
「え~やだぁ。もう探し物して疲れたし~」
「やだぁじゃない!!スケルトンさんも困ってるでしょ!」
スケルトンにお姫様抱っこされた状態でだらーんと体を弛緩させてるロイドに、僕はギャーギャーと抗議の声を上げた。
全く、さっき運動不足(とパーシーの悪意なき暴言)によって死にかけたくせにこのアンデッドは……!舌の根も乾かぬうちにとはこのことだな!
王の命令と怒る僕に挟まれて若干気まずそうなスケルトンの横に、パーシーが「兄様!」と並ぶ。
「兄様、走るのが大変でしたらぼくが抱えて……!」
「おっと、言わせねーぞ。パーシー」
「え?」
何故か嬉しそうな顔のパーシー。しかしロイドはピッと手を前に出してその言葉を遮った。
そして王の風格を感じさせるような微笑を浮かべ、腕を組む。
「俺だって兄としての矜持があるんだ。弟に抱えられて走るなんて……そんなことになったら俺は俺を許せなくなっちまう」
「よくもまあそんな体勢でプライド語れるな。この怠けアンデッド」
「ロイド……もう少し動いた方がいいと拙者も思う」
白けた目でぺっと吐き捨てる僕と、呆れた目をするアジェル。しかしパーシーには効果覿面だったようで「兄様……カッコいいです……」とかなんとか言っている。もうダメかもしれないなこの兄弟。
「ラウちゃんは私が抱えて走りますよぉ!ハァハァ!」
「ありがとうミモザ。でもミモザより背が高い僕が抱えられて走るのもアレと同レベルに酷い絵面になりそうだから気持ちだけ受け取っておくね」
走っているせいか、それとも僕の体に興奮しているせいかは知らないが、やけに息が荒いミモザの申し出を丁寧に固辞する。
いくらロイドを先生とか先輩とか言って師事していても、スケルトンにお姫様抱っこされて走るアンデッドと同レベルは嫌なんだわ。
っていうか君は愛しのアジェルに抱っこされてなさいよ。なんで僕を抱っこしようとしてる?
「……っ!止まれ!」
突然、前を入るアジェルが窓の外を指さし、鋭く静止の号令をかけた。
言われるままに急ブレーキをかけ咄嗟に指さされた方角を見た僕は、ひく、と口の端を引き攣らせた。
「いや、……アレ、犬……じゃなくない……?」
僕らがいる研究本棟の隣、実験棟と呼ばれる建物の尖塔にて僕らを見下ろしていたのは─────真っ白な体毛の、全長2mは有ろうかという巨大な四本足の獣だった。
星街すいせいさんの『ビビデバ』を聞いていたらなんか滾ってしまい、時系列的に一章終わりにしか入れられないであろうSSを書いてたら寝落ちしました。そして起きたらこの時間でした……。まだ零章すら終わっていないのに馬鹿か?
しかしいい出来でしたので多分本編に差し込みます。いつか。




