ソウルレス
本日はこの話の前にもう一話投稿しています
そんなこんなで各々アジェルへ制裁を加えた僕らは、言ってても仕方がないと気を取り直してパーシー先導の元落とし物の捜索を再開した訳なのだが。
「全っっっっ然見つかんない!」
何を目指して、というか何を避けて歩いてたの?って言うレベルで蛇行するアジェルの匂いの痕跡に、僕はぜえはあっと膝に手をついた。
並木道の脇、雪原の積雪はおよそ50㎝程の高さがあるため、歩くためには大股でかき分けるようにして歩かないと進めないのだ。いくら体力が大幅に上がっているとはいえ、一時間も休みなしに雪の中を歩くのは流石に疲れる。っていうかアジェルはよう歩いてきたな!?体力お化け過ぎないか?
「いや本当に……こんな見晴らしの良さしかない雪原で何を迷ったん……!?」
「ラウ……諦めろ。アジェルの方向音痴は……もはや理屈じゃ説明できな……い……」
「に、兄様ーーー!?しっかりしてください!!」
「ロ、ロイド―――!?」
言いながら、遂に体力が尽きたロイドが雪の上に倒れ込んだ。アジェルの荷物を検分していたパーシーが絶叫しながらすっ飛んでくる。
「いかん、『移動』ばっか使って自分の足で歩かないおじいちゃんにこの長時間運動は負荷が高すぎたんだ!この運動不足め!」
「ラウ!兄様をおじいちゃんと愚弄することだけはお前がいくら妹でも許さんぞ!」
「なにおう!?おじいちゃん並みの体力しかないモンスターをおじいちゃんと呼んで何が悪い!僕との訓練もずっと眷属とさせて!高みの見物決め込んでるから運動不足になるんだ!」
瀕死のロイドを囲んで言い合いし始める僕とパーシー。アジェルはどちらを止めるべきか測りかねているようで、オロオロとこちらを見ていた。
大体なあ!今日も午前中いつものように訓練だったけど、あの鬼畜自分はアイス食べながら監督してたんだぞ!僕がスケルトンにチョークスリーパー決められてるときはシェイクみたいなの飲んでたし!寒がりなくせに体冷えるもの食べすぎなんだよ!そろそろあの櫓みたいな高層骨椅子から降りて僕と戦え!
ぷんすかと怒る僕に、しかしパーシーは更に声を荒げる。
「ラウー!!それ以上の兄様の悪口は許さんぞ!確かに兄様は普段は自ら動かないし、休みの日がソファーから降りないし、ぼくがいない時の家事も自分でやらず眷属にやらせてて正直『これ兄様だから許せるけど他モンスターだったらキレちゃうな』ってくらい動かないが!兄様はそれでいいのだ!何故ならそれがアンデッドの王として正しい姿だからだ!」
「んな訳あるか―!!パーシーが甘やかすからロイドがあんなんになっちゃうんでしょうが!甘やかすな兄狂い!」
ぎゃんぎゃんと言い合いをする僕とパーシー。しかし一番に傷を負うことになったのは、特等席で何の心の準備もなくパーシーの本音を叩きつけられることになったロイドだった。
「はは……俺、一回死んで生まれ直してこようかな……次はもう少しちゃんと、家事するモンスターに……生まれ変わって……」
「ロ、ロイドォォ!!すまないっ!拙者が、拙者が方向音痴なばかりにこんなっ……こんな惨い……っ!ウッ!すまない……!」
一筋の涙を流して天に召されていくロイド。アジェルはそんなロイドを抱きかかえ、くううっと男泣きしながら自らの行いを後悔したのだった────
いやアジェル、君はマジでよくよく反省せえよ。
「……にしても、ソウルレスが『赤の都市』でも発生するとはな」
「いやな予感しかしないでござるな。リライヴェッジ側では何か異変を察知していたりしないのか?」
しばしの休憩後、髪飾りの捜索を再開したロイドとアジェルは雪をザクザクとかき分けながら先程の話の続きをしていた。
気になった僕はすすす、と無言でロイドの隣に移動する。僕に聞かれて都合の悪い話であれば遠ざけられるだろうと思っての行動だったが、ロイドはチラと僕を横目で見ただけで何も言わなかった。
聞いていい、という意味だと受け取った僕は、髪飾りの捜索を続けながら耳を澄ます。
「あーうーん……まあ個モン的な心当たりなら。確証は無いけど」
「そうなのか?」
「お前さんに遠征後研究所に来るよう言ったのと関係してる話。……ただまあ、あんまり外で軽々しく言える話ではないから」
ロイドが言葉を濁す。言い辛そうに「後で詳しく話すよ」と言ったロイドにアジェルは心得たとばかりに頷いた。
すかさず僕は自らの疑問を口にする。
「ねえ、そのソウルレス?って何?モヴとは違うの?」
「モヴとは違う存在でござる。なんとも説明が難しいのだが……」
顎をすりすり撫でながら、アジェルが傍らのロイドに目を向ける。どう話したものか、という悩みと僕に話してもいいのか、という確認を込めた視線だ。
その視線を受けたロイドは一つ頷いて僕に向き直った。
「お前さんにも無関係な話じゃないからな、ザックリ説明してやろう。この間、この世界には二種類の生き物がいると説明したな?」
「うん、モンスターとモヴだね」
「そう。でもより詳細に言うのなら、実はもう一種類この世界には生き物が存在する。……と言っても、生き物と言えるかどうか微妙な存在なんだが」
そう言ってロイドはマギホを操作し、一つの画像を僕の前に映し出した。
森林に佇む人影のようなものが映っている。目も口も見えない、ただただ真っ黒なだけの人影だ。
背景が薄暗い森林ということもあり、中々にホラーチックな画像である。思わず僕は息を飲んだ。
「これがソウルレス。いわば残留思念体ってやつで、無機物に憑りついてモンスターを襲う存在だ」
「こっわ……残留思念体ってことは幽霊とかゴーストとかそういうものってこと?」
「まあ……厳密には違うんだが、とりあえずそう考えてもらって構わない。こいつ等は今まで『緑の都市』と『黄の都市』の境界にある古城付近にしか発生しなかったんだが、最近至る所で発生していて問題になっているんだ。今回のアジェルの遠征も、今まで目撃されていなかった『赤の都市』での発生を確認したから対処に追われて長引いたって話だ」
「ソウルレスの行動原理は謎でなぁ……モヴと違って思念体だから魔力の摂取は必要無いはずなのに、モンスターを見かけると必ず襲ってくるのでござる。憑りついた無機物によってはかなり危険ゆえ、騎士団や魔導士団は遠征先で発生を確認したら必ず討伐と決まっているのでござるよ。しかも今回は数が多くて……」
ロイドとアジェルの説明になるほどと頷く。
ソウルレスか……リリィの聖剣にはこんな真っ黒い影のようなどろおどろしい存在は出てこなかった。
しかしロイドが『僕も無関係じゃない』と言ったということは、きっと勇者と何か関係がある存在なのだろう。
とりあえずモヴ避けの結界が効くらしく、結界の中にいれば襲われることはまず無いらしいと聞いてひとまず安心だ。もし夜間にこんなホラーな存在に襲われたら恐怖過ぎる。
うす暗い道であの不気味なソウルレスに囲まれる想像をして身を震わせていると、不意にロイドのペット頭蓋骨がロイドのコートをくいくいっと引っ張った。
「うん?……ふーん、よくやった」
頭蓋骨と視線を交わすロイド。何か情報を得たのか、ロイドは頭蓋骨へと称賛の言葉を口にする。
ふよふよと嬉しそうに少し宙で弾んだ頭蓋骨は、先導するように僕らの前に控えた。
「おいみんな。なんかそれっぽいの見つけたぞ」
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短いのでもしかしたら夜にもう一話更新するかもです




