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まあ虎だから帰巣本能とかはない。

後程もう一話投稿します

とりあえずいつまでも雪の上にいたら体が冷えると、パーシーにしがみつく大虎をロイドと共に引き剥がしリビングへ通す。

少しぬるい位まで冷まされた飲み物を一口すすった騎士服の虎獣人────アジェルは、申し訳なさそうに口を開いた。


「うう……すまない。取り乱した所を見せてしまったでござる。来客がいるとは露知らず……。拙者の名はアジェル。騎士団に所属している。どうぞ良しなに」


「あ、ご丁寧にどうも。ラウです。ロイドの妹でパーシーの姉です」


「違う。真顔で場を掻き乱そうとするんじゃねえ」


「ラウ!だからぼくがお前の兄だと言っているだろう!」


ぺこりと丁寧に頭を下げたアジェルに挨拶を返す。余計なことを言ったせいで早速場が混沌とし始めたが、年長者であるロイドのため息によって静められた。

ソファーの肘掛で頬杖をつくロイドが「んで?」と偉そうに改めてアジェルに問いかける。


「話を聞かせてもらおうか?なんで来るや否やパーシーをモフモフしていたのか。ついでに何で俺のメッセージを未だに無視し続けているのかもな」


「う、す、すまない……」


にっこりと笑みを浮かべているが、ロイドの後ろに怒りの般若が浮かんでいる。

いやー怒ってますね。多分理由はメッセージ無視されたことじゃなくてパーシーをモフモフしていたことだろうけど。相変わらず狭量なブラコンだな。

正面から怒りの波動を余すことなく浴びたアジェルは、その大きな体をソファーの上で限界まで縮こまらせた。


とりあえずアジェルが委縮して話が進まなそうだったので、僕はロイドの後ろに立って控えるパーシーの腕を取ってロイドの顎と頭を撫でさせた。

途端に弛緩する場の雰囲気。チョロすぎるなこのブラコン。そんでもって撫でてるパーシーも幸せそう。幸せ空間作りの匠と呼んでくれてもいいよ。


「えーっと、アジェル?僕ら君が帰ってくるのを待ってたんだよね。遠征終わりにリライヴェッジ研究所に寄るようにロイドからメッセージ送ってたんだけど、届いてる?」


「拙者を待っていた……?ああいや、実はマギホを遠征中に無くしてしまってな。メッセージの確認ができなかったのだ……すまないロイド」


「お前さんマギホ何台無くすんだよ……。まあとりあえず分かったからそれはいいや。なんでこんなに帰りが遅かったんだ?予定じゃ遠征は三日前に終わってた筈だろ」


ロイドの横に座り直した僕の言葉に、自分の疑問を飲み込んで答えるアジェル。

そういえばゲームでも、アジェルはよく物を無くすは壊すわでよくロイドやベルリアナから怒られていたな……と目の前の虎獣人エピソードを思い返していると、アジェルは申し訳なさそうな顔を騎士のそれに変えた。


「ああ。今回の拙者らの任務は『赤の都市(ロシェ)』にて大量発生した牛型モヴの征伐であったのだが……ゴズル大砂漠にてソウルレスが大量発生したのも確認したのだ。その対処で遠征が長引いたのでござるよ」


「はあ?マジか。今までロシェでソウルレスは確認されてなかっただろ」


「うむ。一応発生した個体は全て対処したが……異常な発生量だった為に恐らく近々観測隊が編成されるだろうな。」


難しい顔で難しい話をする騎士と研究者。聞き覚えのない単語が気になりながらも、口を挟まずに会話を見守る。


ゴズル大砂漠と言う地名はリリィの聖剣にも出てきたので知っている。魔法界に来たサーシャは元の世界に戻るために女神の声に従って各都市にある遺跡を巡り中に鎮座する遺物を集めるのだが、『赤の都市』ロシェの遺跡はそのゴズル大砂漠の中央にあるのだ。


過酷な環境ダメージに対処しながら前ステージに比べてかなり強い敵を倒し進まなくてはいけないあのステージは、リリ剣プレイヤー達に鬼門と呼ばれていたのを思い出す。


そんなゴズル大砂漠にて大量発生したソウルレスとは何なのだろうか。分からないが、ロイドが険しい顔で顎に手をやり考え込んでいるのできっと良くない兆候なのだろう。


これもサーシャが……勇者が現れる前触れの一つなのだろうか。魔法界の常識に疎い僕にはとんと判断がつかなかった。


「……まあそんなこんなで無事に戻ってこれたのは良かったのだが。実は……ここに来る途中に落とし物をしてしまったのでござる……」


どうやらロイドからのメッセージは見てないものの、研究所には用事があったので『紫の都市(ヴィオレット)』には足を運ぼうと思っていたらしい。


そのついでに昔からの友人であるロイドのその弟のパーシーがこの度王国魔導士団に内定した話も聞いたので、お祝いを言いに研究所に向かう前にロイドの家に顔を出そうと思ったようなのだが。


またもしょんぼりと耳を萎れさせるアジェル。その姿は飼い主に怒られ落ち込む犬のようだ。ネコ科だけど。


「何を落としてしまったんですか?アジェルさん」


パーシーがロイドの顔をマッサージしながらアジェルに問いかける。当然の疑問だが、しかし問いを受けたアジェルはびっくん!と体を跳ねさせた。


「ウッ……んん、その、えーっと、そのぉ……」


「なんかめっちゃ歯切れ悪いね?」


視線を彷徨わせて困った顔をするアジェルに首を傾げる。そんな言いづらい落とし物って何だろう。ロイドとパーシーと共にアジェルの言葉を待っていると、やがて意を決したようにアジェルがグルァ!と口を開いた。


「その!髪飾りをだな!落としてしまって……女物の……」


「え?女物?」


まさかすぎる落とし物に思わず疑問が口をついてしまう。アジェルが女物……女物……?


オレンジの体毛に可愛らしいフリルの付いたリボンを付けたアジェルが脳内で生成される。ゴリゴリに鍛え上げられた体躯を持つアジェルが内股で可愛らしくウインクした。


……僕は余りの映像にそっとアジェルから目を逸らす。

恐らくパーシーも同じような想像をしたのだろう。口元を抑えて呻いていた。


「ああ……ウン……いいんじゃないかな……そういうのは個モンの自由だし、ね……?」


「アジェルさん……いや……ぼ、ぼくは似合うと思いますよ……」


「ち、ちがっ!拙者がつけるわけではない!贈り物としてロシェで購入したのでござるよ!」


僕とパーシーが何を想像しているのかが分かったのか、必死に言い募るアジェル。

ロイドはというと、何か合点が言ったような顔をした後先程までの険しい顔はどこへやら、にやぁと意地の悪い笑みを浮かべた。


「おいおいアジェル~?お前さんパーシーの祝いもそうだけど、本命は俺に研究所についてきて欲しかったんだろ?ひとりで渡す勇気無いからって。なあ?」


「くう……」


『移動』で瞬時に向かいのソファーに移ったロイドがアジェルの腕を肘でつつく。なにやらロイドだけは事情を察したようだ。モンスターをおちょくる時の顔をしている。

おちょくられているアジェルは図星だったのか、非常に悔しそうな顔で膝に手をついていた。


パーシーと顔を見合わせる。

というか兄が他のモンスターと仲良くしている様子を見てパーシーがまたもや暴走しないか少し心配だったが、しかし流石にすでに顔見知りであるアジェルは大丈夫らしい。羊執事は「兄様が楽しそうで何よりです」とほっこりした顔をしていた。


「贈り物として買ったのに無くしちゃったの?どこで?」


「うう……リライヴェッジの前を通った時にはあったから、多分そこからこの家に向かうまでの間だ……」


「それならすぐ見つかるんじゃない?レードから研究所までほぼ一本道だし、一緒に探してあげようよ」


大事なものを無くした上にロイドに謎におちょくられるアジェルが不憫で、そう声を掛ける。


どうせパーシーとのお料理教室ももう今日は終わりだし、この後はいつもの流れながらお手製人生ゲームするか、テレビゲームでパーシーを僕とロイドでボコボコにするか、チェスとかオセロに似たボードゲームでパーシーと共にロイドにボコボコにされるくらいしかやることがないのだ。つまり暇なので外に出たい。


「そうだな。アジェルさんにはお世話になってるし」


「えー外出んの?寒いんだけど……はいはい冗談です。行きます行きますよ」


僕の提案にパーシーはすぐさま頷いたが、ソファーで肘置きにだらしなく体を預けるロイドは面倒くさそう顔をした。なのでにっこり笑って右手に紫炎を出す。おちょくるだけおちょくっといてさあ……君、心とかないんか?


「すまない……今日の夕餉は拙者が奢ろう……」


「あ、マジ?じゃあ俺ヴィオレット主要街にある高級バー行きたい……冗談だって!炎飛ばすなラウ!」


未成年もいるんだから酒飲む店行くわけねーだろうがこの鬼畜アンデッドぉ!














「ところで、その髪飾りってどんなの?」


「うむ。銀細工で、このくらいの大きさのものだ。小さな花があしらわれていて、小さい黄色の宝石がついている。一応自分でもロイドの家を尋ねる前に探しては見たのだが……はあ」


とりあえずアジェルが歩いた道を戻ってみようと、ロイドの家を出た僕ら一行。

雪道をサクサク歩く僕らはアジェルの言葉にうーんと首を捻った。


「カラスに持っていかれたかな?」


「カラス……ああガラス?確かにアイツら光物好きだからなぁ」


「あとは普通に雪に埋もれちゃってるとかですかねぇ」


まあ言っていても仕方がない。ひとまず雪道に注視しながら歩いてみよう。見通しのいい道だし、みんなで探していればきっとすぐ見つかるだろう────





────それは甘い考えであったと思い知らされたのは、一時間後の事だった。







転移門からリライヴェッジ研究所、そしてレードの町までの道と言うのは、基本的に一本道だ。

広大な雪原に雄大な山脈が両脇に控える並木道は非常に見通しがいい道で、まず間違いなく迷うことはない。


しいて言えば研究所からレードの町に向かう道すがら、並木道の行き止まりがT字路にはなっているが、それだってレードの町は右と看板が出ているので、余程のアホでない限り道を違えることは無いだろう。


であればあっちこっち探す手間など無かろうと、そう思って僕は髪飾りの捜索の手伝いを提案したのだが……僕は一時間前の自分の判断を大いに後悔していた。


「ねえアジェルさん?ヴィオレットの転移門からレードまで真っすぐ来たんですよねぇ?」


「……あ、ああ」


「それじゃ、この道ともいえぬ道のどの辺が真っすぐなのか教えてくれませんかねぇ……?」


「う、うう……」


どうやら余程のアホがいたらしいのだ。

並木道から外れ、雪をかき分けるようにして歩くアジェル落とし物捜索隊。

右を見ても雪原、左見ても雪原。ああレードの町が遥か彼方……何故僕らはこんなところにいるんでしょうか。

肩で息をし始めた僕らに、アジェルは小さくなって「すまない……」と謝った。


「アジェルさん……なんで並木道を歩かず雪原の方へ……?」


本当にマジでそれな、と、僕はパーシーの言葉に、大きく、それはもう大きく頷いた。






事件は捜索を開始してすぐに起きた。

レードの町を出て研究所までの並木道を捜索しようと歩き始めた僕らに、羊の獣人ゆえに僕らより嗅覚のいいパーシーが待ったをかけたのだ。


「研究所方面とは反対の道からアジェルさんの匂いがします」と。


最初は何言っているのかと思った。だってアジェルもえ?みたいな顔してたし、パーシーがふざけているのかと思ったのだ。

しかしパーシーの顔は真剣そのもので、並木道の終点……例のT字路で別の町に続く道の方から匂いがすると言って聞かず。


とりあえず僕らはパーシーの言う通り左の道に向かった。

そしてパーシーの先導の元歩くことしばし、鼻をひくつかせたパーシーは、突如道を外れて広々と広がる雪原に進路を変更した。


本当に何の冗談かと思った。可愛いパーシーのやることと言えども、困っているモンスターがいるの時におふざけは良くないと姉として叱ろうとしたのだが。


「……アジェルさん、これアジェルさんの持ち物じゃないですか?」


雪の中から何やら徽章のようなものを拾い上げたパーシーの一言によって、事態の流れが大きく変わった。


まさかと思いアジェルを見ると、青ざめた顔で騎士服の胸元をパパパッと素早く確認していた。そして数秒後「……拙者のでござる」と消え入りそうな声でそう言った。


何故レードへの道から外れた上で、さらに歩道からも外れた雪原の中からアジェルの持ち物が……?

その事実の示すところを察した僕は、恐る恐るパーシーに問いかけた。


「……ねえパーシー。変なことを聞くんだけど、アジェルの匂いってどっち方向に続いている……?」


「……………………」


パーシーは数瞬の逡巡後、そっと広大な雪原を指さした。

太陽の光に照らされ、キラキラと輝く積雪。……よくよく見れば、その積雪に何者かの足跡が刻まれているのが見えた。


僕と、ロイドと、パーシー。さんにんでアジェルを見る。

アジェルは気温に低いヴィオレットに居るとは思えないほどの大量の汗をかき、すごく、すごく気まずそうな顔をした後────てへぺろっと舌を出した。


「拙者、すごく方向音痴でござるっ☆」








いい笑顔で言い放ったアジェルに、僕の怒号とロイドの頭蓋骨攻撃とパーシーのため息が殺到したのは当然の話だったと思う。





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