表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/134

しょうもない兄妹弟の日常と来客

僕が魔法界に来て早くも1週間が経過した。

雪まつりの一件以来、僕は検査と訓練が終わり次第ほぼ毎日のようにロイドとパーシーの家に入り浸っていた。


と言うのも、フリント博士から仰せつかっている「リリィの聖剣ストーリー主要メンバーへの顔合わせ」も国王陛下を除いてもう残すところあとひとりとなってしまった為に、本格的に暇になってしまっているからだった。


そのあとひとりと言うのが、虎の獣人騎士アジェル。

彼はベルリアナが所属しパーシーが内定した王国魔導士団と対をなす王国騎士団に所属する騎士だ。丁度僕が目覚める三日前に『赤の都市(ロシェ)』で行われたモヴ大征伐遠征に出てしまった為会えず終いで今日に至る。


ロイド曰く予定ではもう遠征は既に終わっている筈なのだが、しかし『戻ってきたらリライヴェッジ研究所に顔を出すように』とロイドからメッセージを送っても返事が無いのだという。

特に予想外の緊急事態が起きて騎士団内で負傷者が出たという話もないそうなので、恐らく無事だとは思うのだが────心配なところだ。


ということで、ひとまずアジェルから連絡があるまでは待機となってしまった僕は、ある日はパーシーと(偶にロイドも混ぜて)ボードゲームやテレビゲームに勤しみ、ある日はパーシーにお菓子作りの極意を師事する毎日を送らざるを得ない状況だった。いやもう正直申し上げて非常に楽しいです。


初めは流石に毎日は迷惑だろうなと思い遠慮していたのだが、しかし行くと帰り際必ずパーシーが「あ、明日は何時にくる……?」ともじもじ聞いてくるのだから仕方ないよね!と入り浸っているのが現状だ。ロイドも家でパーシー愛でれるし一石二鳥だね!


ちなみに身体能力と魔法の掌握訓練は毎日午前中にロイドと行っている。今日も今日とてロイドの眷属にボコボコにされてきた。

身体能力はもう大体問題無さそうとロイドからお墨付きを頂いたものの、中々魔法の方で行き詰っている。遠隔で操作するのが難しいんだよ。


そんなこんなで、僕は一日の5~6割をロイド家で送るというハッピーモンスターライフを送っていた訳だが。


しかし今日のロイド家は、ここ数日感じていなかった緊張感に身を包まれていた。


「パーシー……本当に、やるんだね……?」


「…………ああ。止めないでくれ」


「……うん、信じてる」


ロイド家の台所にて。

僕は、深刻な顔で頷くパーシーの覚悟を受けて、両手を胸の前で組んだ。


喉がごくりと鳴る音は一体どちらのものだったのか────しかしその答えを僕が得る前に事態は動いた。


瞑目し集中力を研ぎ澄ましていたパーシーは、突如カッと緑の目を見開き全身に水色の魔力を漲らせながら両手で持ったフライパンを勢い良く振った。


「はああああっ!!」


フライパンの中で半生状態で待機していたハンバーグの種が宙を舞い、天井にビタァァーンッと叩きつけられた!1Hit!


「まだだっ!たああ!」


皿に除けられていた黒焦げのハンバーグが剛速球でリビングに飛んで窓に叩きつけられた!2Hit!


「最後ぉ!とやああ!!!」


ボウルに入った生ひき肉が僕の顔に渾身の力で叩きつけられた!3Hit!Nice Combo!!


「……僕、今日ほどモンスターに生まれ変わって良かったって思ったことないや……」


ボタボタと狐の半面から生肉を滴らせながら僕は穏やかな心情で思わず呟いた。

これニンゲンだったら致死ってる気がする。菌とかウイルスとか効かない体になっててよかったなぁ……。


「メエエエ!!す、すまんラウぅぅ!なんだ、なんて言ったんだぁぁ!?」


「ナンデモナイヨ。キニシナイデ。ちょ、痛い、パーシー大丈夫だから。顔ごしごししすぎ、凹む凹む」


僕に生肉をぶち込んだ張本モンパーシーが、狐面を顔にめり込む勢いでゴシゴシゴシッと拭いてくれるのを宥めながら止めた。


モンスターになって一週間がたった今日。

僕は料理が苦手だというパーシーの為に『ゴーレムでもできる!ラウ先生のお料理教室』を開催していたのだが……。


「うう……何故、何故僕はこんなにも料理ができないのだ……一流の執事は料理なんて軽々こなせて然るべきなのに……はぁ」


「多分料理はコックさんの仕事だと思うけどね。元気出してパーシー。まだ始めたばかりじゃんか」


台所の床で項垂れ崩れ落ちるパーシーの背中をよしよしと擦ってやる。しかしパーシーはどんよりと頭の上に曇天を浮かべてさらに落ち込む。


「お菓子作りはちゃんと出来るのに……料理は大雑把で豪快にした方が美味いと町長さんから聞いて練習を重ねてはいたのだが、この有様でな……。ぼくは大雑把が苦手なようだ。大雑把にしようとすればするほど肩に力が……」


「パーシー……」


「くっ何故だ……ラウはあんなに大雑把が上手なのに……羨ましい、大雑把で!大雑把羨ましい!」


「パーシー……?」


背中を撫でる手が止まる。もしかして喧嘩売ってる?褒めてるんだよね?貶してる訳じゃないよね?パーシーに限ってそんなこと無いよね?

ちなみにこれ言ったのがロイドなら多分もう今頃取っ組み合いの喧嘩始めてるよ?眷属とな。


「まあ豪快すぎちゃうって感じだよね。うん、確かにパーシーお菓子作ってるときは何ていうか……すごい、そう、綿密だもんね。多分そっちの方が性に合ってるんだろうね」


リビングのテーブルの上に鎮座する、とんでもなく精緻で豪華な装飾を施されたチョコケーキを横目に見ながら頷く。アレ作ってるときのパーシーすごかったもんね。プロの目だったもんね。

素人は黙っとれ……という声が聞こえてきそうなほどにプロフェッショナルな目をしていたパーシーを思い出す。


「うう……せっかくラウが教えてくれてるのに……不出来な生徒で申し訳ない」


「いやいや。僕もお菓子作りは惨敗してるし……お菓子作りがこんなに上手なんだから、パーシーの調理スキル自体はすごく高いと思うんだよ。まずは僕と一緒に料理への向き合い方から学んでいこう?」


料理への向き合い方なんて僕も知らんがな!

とりあえずそれっぽいことを言って、完全に自信を喪失しているパーシーを元気づける。パーシーは俯いていた顔を上げ、緑の瞳をうるうるとうるませた。


「ラウ……!僕はお前のような優しい妹を持てて幸せ者だ……!」


「パーシー……!多分僕がお姉ちゃんだと思うけどそう言ってもらえて嬉しいよ。多分僕がお姉ちゃんだけどね」


ガシッとパーシーと手を握り合う。ああ美しきかな姉弟愛……!

感動的な雰囲気を醸し出す僕とパーシー。しかしそんな僕らの仲を裂くような無粋な声が。


「おい、俺はお前さんを妹とは認めてねえぞ」


リビングのソファーの背もたれから嫌そうな顔を覗かすのは今日も今日とて頭蓋骨を侍らすロイドだった。ただし自宅だからか白衣は着ておらず、黒いパーカー姿だ。

ロイドの血も涙もない非常な言葉に口を尖らす。血が無いのは僕だけでいいんですよ。


「もういい加減認めてくれてもいいじゃーん。パーシーは認めてくれたよ?」


「そうですよ兄様。聞けばラウもフリント博士が父親だそうじゃないですか。ならば兄様の妹ですしぼくの妹ですよ」


「僕が姉だけどね」


「やめろ。あの変態博士を父と呼ぶくらいなら俺は舌を噛み切る」


過激すぎるよ。ちょっと前から思っていたがこのアンデッド両極端すぎるところあるんだよな。

自死も厭わないロイドの姿勢にドン引きする。


実はロイドの家に僕が入り浸るようになってすぐ、僕はパーシーに自分の境遇を伝えていた。

といっても全てを話したわけではない。『ニンゲン』と言う言葉に過剰反応する可能性を考えて、僕は狐のモンスターであること、そして僕の死体にフリント博士が未知のエネルギーを投与し新種のモンスターとして蘇らせたという『まるっきり嘘をついている訳ではないが全てを語っている訳でもない』内容で伝えることにした。


パーシーをパニックに陥らせるのは本意ではないし、町を氷漬けにするわけには行かないという判断の元だ。

それに、王国魔導士団への所属が決まっているパーシーの上司は国王陛下である。であるならば、実際にパーシーにどこまで話すか、どう話すかはその国王陛下と決めようとなったのだ。


色々とロイドと話し合ってストーリーを考えた甲斐あって、パーシーはすんなりと話を信じてくれた。

しかしその内勇者とかの話もしなくてはならないかと思うと気が重いな。とりあえず国王陛下との謁見及び対策会議にはパーシーはまだ呼ばない方がいいだろう。


っていうかもういっそ詳しい説明はロイドに丸投げしてもいいかなぁ……と遠い目をしていると、パーシーはふふん、と得意げに胸を張った。


「安心してください兄様。丁度昨日ベルから聞いたのですが、兄妹でも実際に血が繋がっていなければ大丈夫だそうですよ」


「何が大丈夫なんだ」


そして問題はもう一つ。僕はフリント博士の実験体でロイドはその世話係であると説明をしたにも関わらず、パーシーは何故か僕とロイドの仲だけは誤解し続けていた。

いくら説明しても『実験体とその世話係の関係で、そして兄妹でコイビトなのだな?大丈夫大丈夫ぼくわかってる』みたいな顔するのだ。何そのアブノーマルな関係。


そしてどうやら僕らが恋人関係を否定するのは、兄妹間では恋人になれないから……と悲恋劇さながらの悲しみの末と思っているらしい。

どっちかって言うと僕とロイドでパーシーの取り合いしてるんですけどね。血で血を洗う僕らのやり取りを見て何故そんな思考になるのだろう。


どうやら王国魔導士団の入団の件でベルに相談事があり昨夜電話をしたそうなのだが、その時にどうしたものかとベルに聞いてみたのだと嬉しそうに教えてくれた。ベル絶対面白がってるな?


珍しく胡乱気な眼差しでパーシーを見遣るロイドに賛同する。こんな鬼畜アンデッドはいくら顔が良くてもお断りです……あっぶねぇ頭蓋骨飛ばしてくんな!まだ口に出してないでしょうが!


「俺もお前さんはお断りかなぁ。食費がかさむ」


「おーん?やるか?表出ろや」


ナチュラルに僕の思考を読んだ上で失礼なことを言うロイドに拳を鳴らす。もはやロイドとの言い合いは毎日の恒例となっていた。にしたって気安く暴力に頼りすぎな気はするけど。だからパーシーに女子に馴れ馴れしくしてるとか言われるんだよ。出会って二日目くらいまでは生きてた優しさはどうした?


……いやまあ別にいつまでも変に優しくされても戸惑うだけだし、癪だけどこのやり取りも楽しいのでいいんですけどね。


「……あれ?でもお父さんが一緒なのに血縁じゃないなんてことあるのか……?お母さんが違うとしても半分は繋がっているものでは……ハッ!待て、となるとぼくも兄様と大丈夫ってこと!?メエエ!そんな、そんなことがあっていいんですか!?ぼぼぼぼくが兄様とコイビ……」


「待て待て待て、パーシーお前が待て。えらい方向に暴走するな。収集つかなくなる」


世界の深淵に辿り着いてしまったことにより宇宙に漂う羊となったパーシーが、最終的にとんでもない結論に辿り着きそうになったので兄がインターセプトした。

僕もそれ以上パーシーが宇宙羊とならないよう必死にロイドに続く。


「落ち着いてパーシー!ロイドは確かにパーシーにとって血縁関係のない兄様かもしれないけど、ロイドは兄様以外何者でもないよ!そんでもって僕は二人のソウルブラザーってだけだから大丈夫な関係になっても問題なし!」


「問題大有りだよ。ソウルブラザーってなんだよ」


「魂の姉弟。ということで弟さんを僕に下さい兄様」


「オーケーオーケー、もっかい死にてーみたいだな。表出ろや」


「ふたりともまた喧嘩して!やめてください!」


かかってこいや鬼畜アンデッド!今日こそ僕がパーシーの姉として一生を添い遂げることを認めてさせてやるぁ!

青筋の浮かんだ顔でペットの頭蓋骨達を荒ぶらせるロイドと、やる気十分で全身から紫炎を噴き上げる僕を止めようとパーシーが一生懸命仲裁に入っていると、不意に来客を告げるベルが鳴った。


「メ?誰か来たみたいだな……はーい」


ロイドの手によってギリギリギリと頭をカチ割られそうになっている僕を置いてパーシーが玄関へとっとこ走っていく。

そして玄関ドアが開く音とパーシーが来客に向かって誰何する声が聞こえた、と思った瞬間「メエエエエ!?」とパーシーの叫び声が家中に響いた。


「!?パーシー!?」


「えっ!?どうしたのパーシー!?」


喧嘩を止め、慌てて玄関へロイドと共に走り────目の前で起きている光景を見てポカンと口を開いた。


「ウッウッウッ、パーシー……王国魔導士団に受かったんだってなぁ……おめでとう、お前はすごい奴でござるよぉ……それに比べて拙者は…拙者はあああ!!」


「に、兄様~!助けてくださいぃ……」


開け放たれた玄関扉の外、雪の上でパーシーはオレンジ色の体毛を持つ何かに纏わりつかれていた。

パーシーの体に対して二回りは大きい体躯をもってパーシーを押し倒す『来客』は、頭の上にちょこんとのった虎耳をしんなりと萎びさせてパーシーの胸で泣いている。


うおおおん!と獣の咆哮のような鳴き声を上げる来客。その姿に見覚えのある僕は思わぬ出会いに目を見開き、ロイドは困惑声をあげた。


「アジェル……お前さん、こんなところで何してんだ……?」


そう、その来客とは。

リリィの聖剣において、サーシャと共に魔法界を巡る仲間となる主要キャラクターのひとり。

王国騎士団所属の騎士、虎獣人のアジェルであった。





ご覧いただきありがとうございます。

評価・ブクマ・感想よろしくお願いしますっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ