すれ違い兄弟チームVSゴーレムタグ被害者加害者チーム
後程もう一話投稿します。
「よーい、スタートぉ!」
子どもたちの元気な声がコートに響く。
兄弟チームVSゴーレムタグ被害者と加害者チームのスノーボールファイト試合は、僕の呼びかけが開幕の狼煙となった。
「おじさん!作戦通りよろしく!」
「はいはい……そらっ」
僕の呼びかけに答えたおじさんが、おもむろに地面に手をついた。同時におじさんの手を中心に黄色の魔法陣のようなものが浮かび上がる。
おじさんの魔力を通された周囲の雪がひとりでに動き出し、もごもごもごっと集まっていくのが見えた
瞬く間にゴールと同じ高さにまで蓄積された雪は、その形を二腕二足の人型へ形作っていく。
「なっ……ラウ貴様ー!!何してるー!!」
「あー……やっぱりなぁ」
ズモモモッと途轍もない威圧感を放つ雪山、否────スノーボールファイトキーパーゴーレムの目が赤く光り輝く!
彼は重たい足音を響かせて僕らの陣地のゴール前に仁王立ちした。きゃースノーボールファイトキーパーゴーレムかっこいいー!
その威容さにギャーギャーと抗議の声を上げるパーシーに、僕は高笑いした。
「はーっはっはっはっ!魔法使っちゃいけないとかゴール前に物置いちゃいけないってルール聞いてないもんねー!!審判たちー?これセーフだよねー?」
「んーまあ、確かに言われてないのでセーフです!もぐもぐ」
「ルール上問題なし、続行!もぐもぐ」
「あー!?アイツ審判懐柔してる!なんか食べてる!」
先程こっそり僕が買って渡しておいた熱々のから揚げを頬張りながら、僕の行為を見逃がす審判を見てパーシーが憤る。僕は更に高笑いした。
すまんなパーシーくん!これが大人の戦い方なのだよ!勝てばよかろうなのだ、卑怯だなんて言わないでくれよな!
必死にパーシーが雪玉を投げ続けるが、しかしゴールに入る前にゴーレムが振るう腕や体に阻まれ全く入る様子がない。
逆に僕らが投げ続ける雪玉はほぼほぼノーガードと言っても過言ではないパーシーたちのゴールに面白いように吸い込まれていった。
「くぅぅ、あのゴーレムさえいなければぼくの氷魔法でいくらでも点数入れられるのに……っ!」
「まあまあパーシー、ここは兄様に任せておけって」
悔しそうに歯を食いしばるパーシー。その肩を叩くのは彼が敬愛する兄、ロイドだ。
キーパーである筈なのに、次々投げ入れられる雪玉を止めるそぶりも見せないロイドに、流石のパーシーもその真意を測りかねて「兄様……?」と兄を見下ろした。
兄のことは尊敬しているし、すごいモンスターであるとは知っているパーシーだが、しかし彼の魔法では雪玉を止めることも、ゴーレムをゴール前から移動させることも難しいことも知っている。
しかし兄は余裕たっぷりの笑顔で、相手のチームを……厳密には、ゴール前に鎮座するゴーレムの足元を見つめるのだった。
「大丈夫、もう策は打ってあるよ」
「ふはははははっ!!我がラウ軍の攻守力は世界一ーーーィィィーーーッ!!点差が面白いほどに開いていくー!!」
「嬢ちゃん超調子乗ってんなー」
「アイツ今日寝てないからキャラ崩壊してるんだよ。多分そろそろ眠いんだと思う」
言い知れぬ万能感に、ゴーレムの肩に乗ってわーははは!と本日何度目とも知れない高笑いを響かせる。
何やらゴーレムの足元で敵同士であるはずのおじさんとロイドがコソコソ僕を見て言っているが知らんわー!!はーっはっはっはっ!
「さあ!パーシーよ!お前のその力をもってこの状況を打破して見せろ!!」
「くっ……」
「悪の組織の親玉のようなセリフだなぁ」
焦り、ぎりぎりと僕を睨むパーシーとは対照的にいつも通りのロイド。僕はロイドに向かって「見たかこらぁ!」と指をさした。
よくもここ二日間僕のことをボコボコにしてくれたなロイドぉ!今度は僕は鬼畜アンデッドをボコボコにしてやる番なのだ。弟の前で恥をさらすがいい!
「……ん?のわっ!?」
既に勝利を確信し、泣いて謝るロイドを想像してニヤニヤとしていた僕は、ふとロイドの足元が青く光っていることに気が付いた。
それと同時に、足場にしていたゴーレムがガクンッと体制を崩す。そしてゴーレムを操作していたおじさんの「おわぁ!?」という叫び声も聞こえた。
「な、何事!?」
「ちょ、嬢ちゃんやべえ!なんか来てる……うわああ!?ぎゃー!!」
「え、ちょ、おじさん!?」
雪玉攻撃を止め、尋常じゃない叫びをあげるおじさんの元へ駆け戻り────そしてゴーレムの足元に纏わりつくソレを見て悲鳴を上げた。
「な、な、なにこれぇ!!??」
雪で出来ているゴーレムの足を、ポカポカゴリゴリむしゃむしゃと殴り、削り、食べ進める小動物のような何かが大量発生していた。
雪のように白く、しかし雪とは違い硬質な何かで出来た謎の生命体は、途轍もない勢いでゴーレムの足の質量を奪っていく。ついでにおじさんにも十数体纏わりついており、ぽかぽかぽかっと殴られていた。
「イテテテッ!やめろ殴るな!脛は本当にやめろ!」
「ちょっとやめてやめて!ゴーレム崩さないで!なに!?なんか骨?みたいな……ハッ!」
引き剥がしても引き剥がしても波のようにゴーレムへ襲い掛かる謎小動物。おじさんとふたりギャーギャーと騒ぐ。
そしてその風貌から謎生命体の正体に思い至った僕は、相手コートをギッと睨みつけた。
「こらーーー!!ロイドぉ!!領土侵犯は反則でしょうがー!!!」
「あー?なんのことー?」
呆気にとられるパーシーをモフモフしながらすっとぼけるロイドに青筋が浮かぶ。
「しらばっくれんなー!これアンタの眷属でしょうがぁー!」
「知らねーなぁ。たまたまノームならぬスノーム達がたまたまお前さんの陣地内に現れて暴れてるだけだろー」
「こんな骨骨しい妖精いてたまるかー!!」
しかし言い合いの最中にも謎小動物……スノーム(?)達の猛攻は止まらない。燃やし尽くしてやろうかと魔法を発動しかけるが、しかし僕の炎魔法では纏わりつかれているゴーレムまで溶かしてしまうことに思い至り、今度は僕がギリッと歯を食いしばることになった。
ロイドはコートのポケットに手を突っ込んだまま、ニヤニヤと意地の悪い笑みで審判に声を上げる。
「いいがかりも甚だしいな。俺関係ないよなぁ?審判たち?」
「うーん、まあ確かに骨の兄ちゃんの言う通りだなぁ。ぺろぺろ」
「兄ちゃんの魔法である証拠がないため、無罪!続行です!コロコロ」
「審判懐柔してるーーッッ!!?」
「ばっちりやり返されてるじゃねえか嬢ちゃん!ぎゃーー!?」
棒キャンディーを舐め、飴玉を転がす審判役の子供たちに絶叫する。おのれ!手段を選ばなすぎるぞロイドぉー!!
阿鼻叫喚の僕らの様子をクツクツとわっるい笑顔で見ていたロイドが、ちょいちょいと上を指さした。
「ラウ、おじさん。……頭上注意だぜ?」
「は?」
言われるがままに上を見上げた僕は、ザァッと血液代わりの体内エネルギーを顔面から引かせる。
僕らのコートに大きな影がかかる。ゆっくり、ゆっくりと濃くなっていくその影の正体は────スノームの猛攻に耐え切れず、両足を削り切られ前のめりに倒れ込むスノーボールファイトキーパーゴーレムだった。
「「ぎゃああああああああ!?」」
ドッシャーーンッと、とんでもない質量の雪が抱き合う僕とおじさんの上に降り注いだ。
「よっしゃ、今だやれ!パーシー!」
「えっいや、あれ死……は、はい!兄様!」
言われた通りせっせと雪玉を作り続けていたパーシーは、ドン引きした顔で倒れ込んだ雪ゴーレムの成れの果てを見ていたが、しかし兄の号令に従って自らの氷魔法を発動した。
作り上げた大量の雪玉が氷でできた大砲に詰められる。間髪入れず「発射ーっ!」と相手ゴールに向けて砲撃を開始する。
邪魔者のいなくなったゴールに真っすぐ飛んでいく大量の雪玉砲弾。その勢いはすさまじく、ラウの投げ入れた雪玉の数を容易に上回り。
「────試合終了ー!!勝者、兄弟チームー!!」
「やったー!!兄様、勝ちましたぁぁ!」
カンカンカーン!と審判がゴングを鳴らす。パーシーは喜びのあまり兄をぎゅううと抱きしめた。
大好きな兄が齎してくれた勝利に、わーいわーいと大喜びするパーシー。その顔にロイドも「よかったなあ」と優しく綻んだ。
「……今日は、楽しかったか?パーシー」
「はいっ!はい、兄様!すごく、すごく楽しかったです……っ。兄様と一緒に居られて、ぼくすごく嬉しかったです!」
「……そっか、よかった。……また遊ぼうな」
ポンポンと優しく背中を叩く兄の言葉に、パーシーは目尻に涙を浮かべながら何度も頷いた。
すれ違っていた兄弟は、勝負を通して再びお互いの存在の大事さを痛感したのだった────。
「いや何良い話風に締めようとしてんの?圧死するかと思ったんだけど」
「俺は炎のドームの中で焼け死ぬんじゃないかと生きた心地がしなかったよ……」
「おー。無事で何より」
何とかゴーレムプレスから生還し、ヨロヨロとふたりに合流した僕とおじさんにロイドが軽く片手を上げた。
今朝も聞いた他人事なその言葉に僕は目を吊り上げる。
「何よりじゃないよ、死ぬかと思ったわ!ロイドの眷属のせいで!押し潰された僕らを助けにも来ないしさあ!」
「オレナニモシリマセーン。ゴーレムに潰される寸前にお前さんの魔法が見えたから大丈夫だなって判断したんだよ。先生は生徒を信頼してるからな」
「ふざけんなぁ!必死に制御したから何とかおじさんも僕も燃えずに済んだけど、一歩ミスってたらおじさん今頃焼きコウモリだったんだから!」
「ヒイッ!?やっぱり!?」
「……あの、ラウ」
ぎゃーすか文句を言う僕と、うるせーうるせーと耳を塞ぐロイド。そして九死に一生スペシャルしてたと怯えるおじさんの元に、おずおずとパーシーが歩み寄ってきた。
もじもじと言い辛そうに何事かを僕に言いかけるパーシー。僕はロイドに怒鳴るのを止め、パーシーの言葉を黙って待った。
「……その……失礼な態度取って、ごめんなさい……今日はありがとう。……楽しかった」
「パーシー……かわい……ン゛ンッ」
すらりとした体躯をしゅん、と縮こまらせるパーシーの姿に口を手で覆う。もこもこふわふわが所在なさげに揺れていて可愛すぎる。危うく口から色々出かけた。
咳払いをしてごまかした僕は、小さくなるパーシーの両手をぎゅっと握った。
「ねえパーシー。……僕ね、ひとりで暮らしてた時期もあったから料理はそこそこできるんだけど、お菓子作りが滅茶苦茶下手くそなんだよね」
「え?」
「ロイドから聞いたんだけど、パーシーってお菓子作り上手なんだよね?暇なとき教えてくれない?」
本当はロイドから直接聞いたのではなくゲームで得た知識ではあるが、今はそんなことどうでもいいのだ。
実はスノーボールファイト中、ずっと考えていた。
「寂しいと思えば僕を呼んで」とは言ったが、そうはいってもこの大人ぶりたい気遣いしいなモンスターは、いろいろ考えて僕を呼ばない選択肢を取る気がしていた。
でもそれでは、きっとまたパーシーはひとりで考え込んで、悪い方の暴走してしまうかもしれない。
しかし僕がパーシーの家に行くと主張すれば?パーシーの家に行く大義名分を作ってしまえば?
そうすればこの優しいモンスターはきっと僕の力になろうと家に呼んでくれそうだし、世話係のロイドもついてこざるを得ない。それなら多少なりともふたりが合う時間を作れると思ったのだ。
きっと王国魔導士団に入団したらパーシーも忙しくなって時間を取ることはできなくなるだろうけど。それまでの間だけでもできるだけロイドとパーシーを一緒に居させてあげたいと思ったのだ。
パーシーを見上げる。僕を見下ろす緑の目が不安げに揺れている。
「……ぼ、ぼくでいいのか?」
「パーシーにお願いしたいな。さっきも言ったけど僕今暇人だから……一緒に遊んでくれる人を探してたんだ」
ロイドとおじさんが、僕とパーシーの成り行きを静かに見守っている。
僕の提案に視線を彷徨わせ、助けを求めるように傍らのロイドをちらと見下ろしたパーシーだったが……次の瞬間にはその緑の瞳を柔らかく細めて嬉しそうに頷いた。
「しょうがないな……ぼくが教えてやろう」
「ふふ、ありがとう。パーシー」
満天の星空と鮮やかなオレンジのオーリライトが瞬く雪まつりの夜。
僕とパーシーは、長き戦いの果てに、お互いを認め合う「友人」になったのだった。
「………まあ確かに家に遊びに行くとは言ってたけど、早速次の日からくる奴あんまり見た事ないな」
そんな幕引きを経た次の日。
ロイドの家でお手製の人生ゲームをプレイする僕とパーシーを、ロイドはテーブルに頬杖をかいて苦笑い気味に眺めていた。
「早速暇だったもので。あっうそまた一回休み……?」
駒を進めながらぬけぬけと言い返す。
えーとなになに?ゴーレムに襲われ怪我して休み、と……どこかで聞いた話ですね……うっ頭が。
「兄様!ラウが教えてくれた遊びすごいです!すごい面白い!兄様もやりましょう!」
「うっ胸が……」
キラッキラな目で兄を見上げるパーシー。その純粋無垢な笑顔に本日もハートを貫かれるブラコン。
胸を苦し気に握って悶え昇天を堪えたロイドは、寂しさ等微塵も感じさせない笑顔で遊ぶパーシーの姿を見て一つ息を吐いた。
「……ま、いいか」




