モーフという牛型モヴの肉を煮込んだシチューです
明けましておめでとうございます。本日より複数話投稿です。後ほどもう一話投稿します。
パーシーは僕の提案を承諾してくれた。
まあ正直、彼としても公衆の面前で魔法をぶっ放すのは流石に無いと思っていたらしい。当たり前か。パーシーは年間数人しか合格しない王国魔導士団に入団が認められるくらいの実力を持つのだ。碌な制御ができない僕と違って大いに自分の魔法の可能性や危険性については熟知していてしかるべし。
こんなモンスターが沢山いる場所で魔法を行使してけが人でも出そうものなら最悪王国魔導士団の内定が取り消される可能性すらある。その危機感は正しい。
という訳で。
そんなこんなを経て、僕らはお祭り会場を練り歩き勝負をするに相応しい出店を探している訳なのだが……。
「それでねー……ひゃっ!?」
「ヒイ!?何事……?」
「ママ―!あのモンスター怖いよぉ!!」
「コ、コラッ!見ちゃいけません!!」
進行方向にて祭りを満喫していたモンスター達が僕らを見て焦ったように道を開ける。
否、厳密には僕らではなく────鋭い眼光で屋台やお祭りを堪能するモンスター達を値踏みする、僕ら一行の先頭を歩く羊獣人の顔を見てだ。
今にも犯罪でも起こしそうな程に剣呑な目つきに、睨まれたモンスター達は恐れ戦いていた。
「……はは。す、すみませーん……」
その後ろをぺこぺこ会釈しながらついて行く。すみません、この子ちょっと今果し合いの準備中でして……。
険しい顔の羊獣人……まあ言わずもがなパーシーの事なのだが、パーシーはまるで絶対に負けられない戦いに赴く武人のような佇まいで祭りの会場を騒がしていた。
いやまあパーシーの心境からして『絶対に負けられない戦い』であるのは間違いないか。そう苦笑いを浮かべていると、不意に肘辺りを後ろからくんっと引かれた。
「ラウ」
「どした?ロイド」
「……悪い、無理に付き合わんでもいいから。後で俺から言っとく。……いつもはあんな事いう奴じゃないんだが」
パーシーの耳に入らないよう、小さな声で僕に耳打ちするのは武人パーシーの兄であるロイドだった。
流石に先ほどまでのポンコツぶりは落ち着いたようで、兄として、そして僕の世話係としての顔で僕に謝る。
立ち止まった僕らのことなど気付いた様子もなくズンズン突き進むパーシーを視界に入れながら、僕はロイドの言葉にパチリと目を瞬かせた。
そしてしょうがないモンスターを見る目でふっと笑うと、申し訳なさそうな顔で見上げてくるロイドを手で制した。
「邪魔をしないでもらおうかロイド。これは君の弟と自称妹の仁義なき戦いなのだから……」
「自分で自称って言ってて悲しくないか?そんでまたキャラ変わってるぞ」
「ふふふ、まあ妹は冗談だけどね」
呆れるロイドのツッコミに笑いながらも、僕は心配いらないとロイドに頷く。
一体パーシーは何に思い悩んで『もう兄様は僕の事大切でない』という結論に至ってしまったのかは今のところとんと見当はつかない。
しかし、もうきっと赤の他モンスターである僕はもちろんの事。敬愛し当事者である兄の言葉ですら届かないほどに思い詰めてしまっているのだ。
頑なになってしまった心を解すためには、まずは何故頑なになってしまったのかを理解する必要があると思う。
そしてそれを引き出すには、きっと当事者では難しいのだ。
「……まあそれ抜きにしても、ポッと出のモンスターが大好きな兄の周りウロチョロしてたらうざいよねって話。排除しようってなるのは当然だと思うのよね」
「……」
「しかし、僕としても今ロイドのフォローが無くなったら正直申し上げて生きていけませんので。……すまんなパーシー、お前の兄もらうぜ……っ!」
「例えお前さんが勝ったとしてもお前さんの兄は名乗らねえぞ」
「もう!ロイドったらイケずぅ」
「……お前さん日に日にウザさが増していくな?」
「そういうロイドは日に日に鬼畜度が増していくよね」
へいヘッドロックカモン!今度こそ避けてやるぜ!と身構えるが、しかしロイドは僕の軽口を聞いているのかいないのか、ぼんやりした表情でパーシーの後ろ姿を眺めていた。
その表情を見ながら、僕は何となくパーシーと出会ってこの方感じていた違和感の理由に思い至った。
『リリィの聖剣』を通して、僕はロイドがパーシーへ向ける愛情を、パーシーがロイドに向ける敬愛を知っている。
彼らのエピソードはリリ剣内で沢山見てきた。お菓子作りが大変得意なパーシーがロイドの為に特大ケーキを作るため町を駆け回り大事件に巻き込まれたり、度々ソファーで寝落ちるロイドの為にパーシーが自らの体毛で毛布を作ろうとしてみんなに止められたり、働きたくないというロイドの為に自分が働きに出ると言って研究所を結果として荒らし回ったり……あれ?なんかパーシーが献身的なだけだな?そしてロイドが大分ダメだな……。
いやしかし、彼等は実に仲のいい兄弟で、そしてとてもお互いを信頼し合っていた。
しかし、実際に出会った彼等の間には────なんというか遠慮とか依存とか、そういうものを感じるのだ。
ロイドが離れてくのではないかと恐れ、来客もおざなりに兄にべったり依存するパーシー。
パーシーに遠慮して、ダメなことはダメと言えないロイド。
なんだか今の彼等の関係は、あえて悪く言うのなら……歪だ。
ゲームで見る限りは感じなかった歪みだ。きっとゲーム開始までには彼らの間にその歪を正す何かが起きて、彼らは真に仲の良い兄弟になるのかもしれない。
だが、じゃああと1年放置すればいいのか?きっと上手いこと解決するだろうと指を咥えてみて居ろというのか?
「……おいおい、ラウちゃんを舐めるんじゃない」
そんな馬鹿な話あるか。気付いたのなら見て見ぬふりなんてするか。
なんて言ったって僕は────リリ剣が、リリ剣で生きていたモンスター達が大好きなんだから。
大好きなモンスター達が困っているのに黙って経過を見守るなんてことはできないんだよ。
「……ロイド、安心していいよ」
「あ……?」
遠くでようやく僕らがついてきていないことに気が付いたパーシーが「おい!何をしている貴様!」と僕を手招きしているのに手を振り、一歩踏み出しながらロイドを振り返った。
訝し気に僕を見上げるロイドに僕は得意げに笑いかける。
「こういうのは第三者が首突っ込んだ方がなんだかんだ解決したりするもんだよ。僕に任せておきな」
「─────」
ロイドに手を差し伸べる。僕を最初に助けてくれたモンスターへ。
例え鬼畜で、ブラコンで、弟のことになるとポンコツになるダメダメな面を持つモンスターだとしても。
驚いたように目を見開くモンスターの手を強引にとり、パーシーの元へ走り出す。
────彼がくれた優しさを、僕はできるだけ返していきたい。
「それに屋台めっちゃ面白そうだし!何からやる!?」
「…………お前さん、それが本音だろ……」
パーシーの本音暴く前に僕の本音が暴かれたな。
「遅い!貴様、ぼくと勝負する気あるのか!?」
「ごめんごめん。ロイド口説いてた」
「はあああ!?な、なんて……?」
「僕をロイドの妹にしてくださいって。そして僕はパーシーの姉がいいですって」
「!?」
「違う。そもそも口説かれてねぇ。場を混沌とさせるな」
一つの出店の前で仁王立ちして僕を迎えるパーシーにてへぺろっと舌を出す。もう、父親は一緒なんだからいいじゃないですかぁ。
とりあえず話が進まないので、僕はひょっこりと彼の後ろの出店の上り旗を覗きこんだ。
「わんこモーフシチュー……?」
「そうだ!これこそ第一戦目にふさわしき勝負……っ!ルールは簡単、制限時間内により多くのモーフシチューを食べられた方が勝ちだ!」
待て待て、まずモーフシチューってなんだ。シチューはまだ分かるがモーフってなんだ。毛布?
疑問符を浮かべる僕の前で、タイミングよく一体のモンスターがモーフシチューなるものを一杯注文する。ドキドキしながら見守っていると、大鍋からトロトロに煮込まれた塊肉がふんだんに入ったとろみのある茶色のスープが器によそわれた。
「なるほどビーフシチューね……って、ええ!?あの熱々のシチューをわんこ形式で……!?鬼か!?」
「鬼族も風評被害に泣くなぁ」
「はーっはっはっはっ!どうだ怖気づいたか?負けを認めるのなら今の内だぞ!」
勝ち誇ったように高笑いするパーシー。しかし僕は腕を組んでハッと鼻で笑った。
「相当な自信があるようだけど、僕だってこの体になったことで胃袋の容量が激増ししているんだ。見せてやろう!僕の無限胃袋を!!」
「絶妙にだせぇな……」
「この体……?」
「なんでもない口が滑った。おじさんわんこふたり分っ!」
僕の発言にツッコミを入れる兄弟を華麗にスルーして、頂いたばかりの金一封を出店のおじさんに叩きつける。
威勢のいい姉ちゃんだなぁ、と笑う牛モンスターのおじさんは僕らの為に出店の外に長机と椅子を用意してくれた。
通行モンスターがなんだなんだと周囲に集まってくる中、ロイドが少し居心地悪そうにおじさんの隣に立っていた。
「おふたりさん準備はいいかい?制限時間は10分だ、最低5杯は食べてくれないと罰金だから気をつけてな。それじゃ行くぞ?……よーい、スタート!!」
「よっしゃー!」
「絶対、負けん!」
僕とパーシーは、同時におじさんが大量によそったモーフシチューの器をそれぞれ一つ引っ掴んだ。
湯気が立つ一口分くらいのシチューを匙で掬い、少しだけ息を吹きかけ冷まして口に入れる。
「!こ、これは……!」
トロトロに煮込まれた野菜、そして長時間火にかけられ続けた事で歯を立てずとも口の中でホロホロと溶けるお肉……!なんと素晴らしいハーモニーだ!
しかも肉から溶け出した油に臭みは一切感じず、むしろ甘みすら感じるそれがシチューをまろやかに仕立て上げている!
そして!くどくなりがちなシチューの味をサッパリとまとめ上げる爽やかな香り……僕にはわかるぞ、間違いない。隠し味にサワークリームが使われているな!
「美味しい!めっちゃサラサラいける!おかわり!」
次々と積み上げられていく空のお皿に、観客達がおおおっ!と歓声を上げる。
確かに熱いが、全然食べられない熱さではない!もはや冷ますこともせず僕は口に入れては高速で咀嚼し次の皿へ手を伸ばす。
いいペースだ。シチューをよそい続けるおじさんや観客の顔を見る限り、僕の食べる速度は全然悪くないのだろう。手ごたえを感じる!
さあ、そして件のパーシーは……?
「あちっ、はふ、あちちっ!ふーふーっ」
「猫舌ァー!?」
あんな自信満々だったくせにまだ一杯しか食べ終わってないじゃん!僕もうそろそろ20皿いくよ!?驚きすぎて吹き出しそうになったわ!
僕の視線に気づいたパーシーは、うわーんっと泣きながら弁明を始めた。
「もう大人になったから熱いものも食べれるようになったと思ったのにー!」
「やだ可愛い……っ。パーシー!舌の先が一番熱を感じるところだからできるだけ舌は口の奥に引っ込めて食べたほうがいいよ!」
「舌を……引っ込める……?」
首を傾げ、とりあえずペロリと舌を出してみるパーシーに悶える。何で出した!?天然か可愛い!
そしてハッとする。こんな可愛い光景、ブラコン兄が見たら尊死してしまうのでは……!?
そう思ってモーフシチューを食べ続けながら辺りを見回す。パーシーの足元で非常に安らかな顔でぶっ倒れてた。
「もう召されてるー!!?」
「はは……ミモザがよく言う尊いって感情が良く分かったぜ……」
「力尽きてんじゃないよ!!生きろ!」
死因:わんこモーフシチューを食べる弟でいいのか!!恥でしかないぞしっかりしろ!!
僕がロイドにツッコミを入れた瞬間、おじさんがどこからともなく取り出したゴングをカンカンカンカーン!と高らかに鳴り響かせた。
「試合終了ー!!勝者、狐の姉ちゃん!記録35皿!!」
ワァ!と観客が沸く。おじさんに拳を高く上げさせられた僕は「やったー!!」とぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「羊の兄ちゃんは最低数にすら達しなかったから罰金2000イェルな」
「はい……」
トボトボと肩を落として財布を出すパーシー。いや記録2皿って……マジでなんでこの勝負選んだの?
お会計を済ますパーシーの哀愁漂う後姿を複雑な顔で見守っていると、復活したロイドが僕に並んだ。
「食いすぎだろ。太るぞ」
「死にたいようだね?ロイドくん」
「その口調やめて。寒気しちゃう」
ゾッと腕をさするロイド。本当に博士嫌いだね……。いやまあロイドの成り立ちと半生を聞けば仕方のない話なのだが。
でも厳密には嫌い、ではなさそうなんだよな。苦手?違うな……関わり合いたくないが一番近そう。まあ正しい感情だな。
「ぐ、ぬ、ぬ……まだだ!まだ終わらんよ!……次はあれだ!」
わんこモーフシチューの出店から戻ってきたパーシーは、そんなどっかで聞いたようなうめき声をあげると次の出店を指さした。
ブクマ・感想・評価本当にありがとうございます!!めっちゃくちゃ嬉しいです!!めっちゃスクショしてます。
初詣で『モンテが有名になりますように……アニメ化しますように……』と神の御前で鬼のように頼み込んでたらおみくじで叶うと出たので勝ち確です。




