一撃必殺の弟、役立たずの兄、そしてキャラ崩壊の自称妹
とりあえずゴーレムタグの受付近くじゃ邪魔になると判断した僕らは、広場の隅っこでパーシーの話を聞くことにした、のだが────。
「おかしいと思ったんだ……確かに兄様は超の付く人気者だ。あの偉大なるフリント博士の右腕にして、この魔法界の技術革新の第一モン者!その上誰にでも分け隔てなく優しくするし、困っているモンスターがいれば見返りを求めることなくその慈愛の手を差し伸べる聖霊様の使いのようなお方だ!そして気さくでユーモアにも溢れるモン格者なんだ!そんなお方なら一同僚に優しくするのも何らおかしな話ではない。しかし……っ」
まるで神を称える讃美歌でも歌っているのかと思うような美辞麗句を並び立てるパーシーに、僕は隣のロイドに小声でそっと尋ねた。
「ねえロイド。パーシー誰の話してるの?」
「俺だろ」
「はは、今鬼畜の話はしてないよんぎゃああああノータイムアイアンクローやめてぇ!!」
ミシミシミシッと頭が割れる恐怖再び。
ロイドの腕を掴み顔面から手を剝がそうと必死に奮闘する。離せこの鬼畜アンデッド!!無言でやるなせめてなんか言え!
「そう!それだ!!」
「どれぇ!?!?」
アイアンクロー決めるロイドの腕をバンバンバンと叩きジタバタと暴れながら僕はパーシーの言葉に絶叫しながら問いかけた。っていうか助けてくれませんか!?
しかし僕の悲鳴をまるっと無視したパーシーは、ギッと僕を睨みつけて言葉を続けた。
「兄様は優しい方だ!そして大人だ!常にレディーに気を遣う紳士だ!そんな風に婦女子に手をあげたりしない……っ。なのに貴様には、なんだか……そう、すごく!すごく馴れ馴れしい!」
「ぐはっ!?」
突然の弟から『女子に馴れ馴れしくする男』のレッテルを貼られたロイドが撃沈した。
容赦ない評価を下され屍と化したロイドの手から抜け出した僕は、ピクリとも動かなくなったアンデッドを足でちょいちょいして生死を確認する。うーんダメそう。
一言であのロイドを沈めるとは……パーシー、恐ろしい子……。
次は自分の番かもしれないと戦々恐々とする僕だが、流石にロイドが哀れになって恐る恐るフォローの声を掛けた。
「あ、あのパーシー?助けてくれてサンキューではあるんだけど、ちょっと殺傷力が高すぎるというか……せめて気安いって言ってあげない?お兄ちゃんショック受けすぎて虫の息よ?」
「あの兄様がそんなに馴れ馴れしくする女なんて、僕にはひとつしか心当たりが無い……っ!」
「聞いてる?」
とりあえずもうダメそうなロイドを助け起こす。あっダメだ息してないや。
アンデッドモヴどころか死体に成り下がったロイドを抱えてひとり劇場を始めたパーシーを見上げる。彼はくぅっ!と涙を堪えて胸元をぎゅっと握りしめた。
「きっと、そういう行為が許される関係……そう、コイビト!貴様は兄様のコイビトなのだろう!?」
「違うが?」
斜め上どころか180℃事実とかけ離れているパーシーの言葉に思わず素で否定を入れる。
馴れ馴れしくしているから恋人理論が適用されるなら僕もうベルリアナとも恋人だわ。いやあれは馴れ馴れしいというか図々しいか……?「ラウ~アタシを家まで送りなさい~うぇっぷ」じゃないんだよ酒癖最悪ラミアめ。
「それだと俺がアブノーマルな趣向を持ってるみたいだからやめてくれ……え?パーシー俺の事そういうモンスターだと思ってたとかそういう話じゃないよな?ねえパーシー?違うよな?こっち見て??」
何とか復活したロイドだが、しかし今度は別方面からのダメージによって再び死にかけている。必死にパーシーに縋り付いてガクガクと肩を揺らしているが、パーシーは自らの言葉によよよっと泣き崩れるばかりで全く聞こえていないようだ。
面白兄弟劇を無視し、僕は顎に手をやってパーシーの言葉の真意を考え込む。
馴れ馴れしい……ロイドの趣味……ヘッドロック……鬼畜……────そうか!
思考の末、一つの結論に至りはっと息を飲む。
「……ロイド、実は僕のことが好きだったんだね……!?だからあんなに意地悪を……っ!?やだ、出会って三日じゃちょっとお互いのこと知らなすぎだから交換日記からでもいい?」
「くそっ、パーシーがいなけりゃボコボコにしてるのに……っ」
非常に悔しそうに歯を食いしばるロイド。君ね、仮にもお世話係がそんなこと言うんじゃないよ。っていうか午前中に僕のこと散々ボコボコにしたでしょうが。まだ足りないってか。
僕の冗談に本気で歯噛みするロイドにジト目を送る。
しかしパーシーとしてはその掛け合いですらも気に食わなかったようだ。
「……貴様と兄様は、ぼくよりも仲良さそうに見える。兄様の態度が、ぼくに対するそれよりも、ずっと……ずっと楽しそうだ」
「パーシー……」
接し方のジャンルが違うだけだと思うんだけど……。
傍から見て、いや傍から見なくともロイドがパーシーを溺愛しているのは一目瞭然だ。しかしそれが当の本モンスターに伝わっていないというのはなんとも皮肉な話である。
僕とロイドは仕事上の関係であると伝えることは簡単だが、しかし僕から言ったところできっと今のパーシーの心には届かないだろう。さてどうしたものかと心底困り果てていると、パーシーは俯いて震える声で続けた。
「でも……ぼくは、兄様が大好きなんだ。例え兄様がぼくのことを……っ、っ、っ、……そ、そんなに好きじゃなくとも!もう大切じゃないのだとしても!ぼくの大好きな兄様は貴様にはあげられない!僕と勝負しろっ!泥棒ネコ!」
「ええ……?」
涙目で僕を睨みつけるパーシー。思ってもいなかった要求に困惑の声が出てしまう。
返事に困って傍らのロイドにチラリと視線を送ると、ロイドは真剣な表情で口を手で覆い、そして頷いた。
「………………えっ、俺の弟可愛すぎ……?」
「黙ってろブラコン兄」
貴方自分の言動がこの騒動の発端だって分かってます?
きゅんきゅんときめいてるロイドを冷たく一瞥し「役立たずが……」と吐き捨てた。弟が絡むと途端にポンコツになるなこのアンデッド。
「……ふむ」
しかし、だ。
僕は生まれた疑問に腕を組む。たった数時間、僕とロイドの掛け合いを見ただけで『兄はもう自分のことは大切じゃない』とまで思い込むものだろうか?
もう一度言うがロイドのパーシー溺愛っぷりは凄まじい。そんな溺愛を一身に受けていたパーシーが数時間でそんな結論に辿り着くとは思えない。
いくらパーシーが少々思い込みの激しい性質だとしても流石にそこまで直情的ではないだろう。
であるならば、きっと別にパーシーが思い悩む要因となるものがあって、それが今回の僕とロイドの関係性を見て爆発したと考えた方が自然だ。
どうにも本モンスターも気付いていない本音がありそうに思えてならない。その本音を引き出さないことには解決は難しいだろう。
「………分かった。別に僕はロイドの彼女でも何でもないけど、その勝負受けてたとうじゃないか」
「……っ!」
涙が滲む目を真っすぐに受け止める。我に返ったロイドが「おい、」と心配そうに僕に声を掛ける。
流石に初対面のモンスターに対して弟が失礼すぎるとでも思ったか、ロイドは言い淀む様子を見せた。珍しく、と言えるほど長く一緒に居た訳ではないが、しかし僕が今日まで見た事ないほどにその表情は弱弱しかった。僕は心配はいらないと伝えるため、ロイドの目を見て頷く。
ロイドは僕の反応に僅かに視線を落とし、そしておずおずと口を開いた。
「ラウ……なんかキャラ変わってないか……?」
「心配するとこ違うんだよブラ兄……!静かにしていなさい……っ」
こっちは真剣にパーシーと向き合おうとしてるんだから笑わせにくんなや!ポンコツブラコンが!
あとキャラ変わってるのは自分でも自覚してるよ!徹夜ハイが抜けてないんだよ放っておいてください!
混乱しているのかポンコツが抜けないロイドを放って、僕はパーシーに向き直る。僕の視線を受けたパーシーはビクッと体を揺らした。
まるで小さな子供のような反応に、そういえばパーシーはリリィの聖剣の公式設定で20歳と紹介されていたことを思い出す。それはストーリー開始時の年齢だからきっと今は18、19歳くらいか。
モンスターの成年が平均25歳と言うことを加味すると、きっと身長は僕より高い大人のそれでもパーシーの精神はまだ少年のものなのかもしれない。
で、あるならば。
迷い、暴走する若者を導くのが年上の大人の役目だろうよ。
僕は広場を振り返った。お昼を回ったことでゴーレムタグに参加する前よりもモンスターの数は増えている。
「とはいえ、モンスターが沢山いるこの場でドンパチするのは良くないな。周りのモンスターに迷惑がかかる」
「……じゃあ、」
どうする、と閉口するパーシー。こんな思い込みの激しい羊だが、しかしその実力は超難関という王国魔導士団に入団が許されるほど卓越したものだ。
そしてその相手は魔法の制御も満足にできない、過ぎたる自信は身を……と言うかコートを亡ぼすと学んだばかりの生後三日の僕だ。迷惑を掛けない訳がない。
じゃあどう勝負をするのか。そんなの一つしかないだろうよ。
僕はパーシーとロイドにニヤッと笑いかけた。
「折角のお祭りなんだし、お祭りで勝負しようよ」
おっかしいな……ロイドくんはカッコいいヒーローのはずなんですけど……なぜこんなポンコツに……?パーシー恐ろしい子……




