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ロイド先生のモンスター学 魔法実践編

「そもそも何故モンスターが魔法を使用できるのかという話だが。それはニンゲンにはない『魔力を生成する臓器』が体内にあるからだ。俺たちはこの臓器のことをそのまま『魔臓』と呼んでいる」


そう言いながらロイドはキュッキュと快音を響かせながら、ホワイトボードに新たなフリント博士と髪の長い女の子の絵を描いた。どうやら女の子の方は僕を現しているらしい。


フリント博士の腹部に今度は『魔臓』という文字が書かれ、そしてその文字から青いラインが体中に伸びていく。


「この魔臓で作られた魔力は通常血液のように体中を循環し、そして魔法として体外に排出されている。だけどもお前さんの場合は少し違うんだ」


ホワイトボード上の僕の胸元にハートのマークが書かれる。心臓の位置だ。


「検査の結果、お前さんの場合モンスターへの変質の過程の中で新たに魔臓が作られた……という訳ではないことがわかった」


「え?違うの?」


てっきり魔法が使えるということは魔臓が体の中に出来たのだと思ったのだが。いやまあしかし知らない間に臓器増えてたよって言われてもそれはそれでも困るというか正直ちょっと気持ち悪かったかもしれない……。

ロイドは頷くとコンコンとペンでハートマークを叩いた。


「どうやら破損した心臓が、投与された『超エネルギー』によって魔力製造工業として作り替えられるようなんだよ」


「ええ……超エネルギーくん僕の体の中で好き勝手しすぎじゃないかな?なにがどうしてそんなことに……?」


「それが俺らにもさっぱりなんだよなぁ。恐らくモンスター化の原因にも関わってくる話だとは思っているんだが、何せ前例が無いから検証のしようもない」


そう、フリント博士率いる第零研究室が研究しているこの『超エネルギー』───実際には別の正式名称があるようなのだが、このエネルギーの特性は『修復』および『強化』。

今回そもそも僕に超エネルギーが投与された理由は、死んだことによりとても口にできない状態に損壊していた僕の体の修(・)復(・)を期待してのものであって、決してモンスターに『変質』させるために投与された訳ではなかったのだそうだ。


創造主たるフリント博士としても、僕のモンスター化というのは予想外の事態であったということだ。あのマッドは非常に喜んだそうだけども。


「しかも疑似魔臓として稼働しているどころか『超エネルギー生成工場』にもなっている可能性が今日の検査で示唆された訳で……。いやぁ謎すぎるなお前さんの心臓」


「君らが作ったんですけどね?」


「ただし、一つ問題が発生している」


ホワイトボードの僕の胸に書かれたハートマーク、つまり疑似魔臓とエネルギー生成工場を担う心臓から赤いラインが体中に行き渡るように伸ばされた。

次いで青いペンに持ち替えたロイドは、青いラインも体中へ伸ばす───かと思いきや、心臓付近にぐしゃぐしゃと線を書き殴った。


「生命維持エネルギーとして体を巡っている超エネルギーはともかく、魔力は本来ニンゲンに備わっていないエネルギーだ。その為にお前さんの体は魔力の循環のさせ方が分かっていない。今現状お前さんの心臓で作られた魔力は心臓付近でぐるぐるわだかまっている」


どうやら青いラインは魔力を、赤いラインは超エネルギーの流れを現しているようだ。

自分の胸元で渦巻く青いラインをじっと見つめながら嫌な予感を覚える。


「……このわだかまり、放っておいたらやっぱヤバい?」


「そうだなぁ。モンスターは基本的にウイルス系や細菌系の病気にならない。だけど免疫系というか、体内組織の異常みたいな病気には掛かる可能性があるんだ。中でも魔力過剰症という恐ろしい病気があってだな、体内で生成された魔力が上手く循環・排出できないと魔臓が破裂するっていう」


「僕の心臓がーーっ!!!!ロイド助けてぇー!!!」


にこやかに語るロイドにヒシッと縋りつく。なんか僕この世界に来てから四肢爆散とか内臓破裂とか怖い言葉聞きすぎだと思うんだけど!


「ということで、まずはお前さんの体の中の魔力を上手く循環させてやろう。心臓に負荷をかけ続けるのもよくないし、それにこのままだと魔力がまた暴走する恐れもあるしな。はい、じゃあ後ろ向いてー」


「え?あはい」


「背中触るぞー」


涙目の僕は指示されるままにロイドに背を向ける。その背中にぴとりと想像よりも大きい手のひらが触れた。

一体何が始まるやら、鼓動していない筈の心臓が未知への期待でドキドキと高鳴っている気がする。いや恐怖も多分に含まれている気がするけども。


「痛かったら右手を挙げてくださいね~」


「歯医者さんか」


思わずちょっとニヤけた。不覚。


ロイドが僕の背中に触れた数秒後。僕は自分の体に訪れた変化に「おおお!?」と声を上げた。


「なんか……心臓のあたりが暖かい?」


ロイドの手の温かさが伝わって、とか言う話ではない。明らかに体の内側から発生している熱に驚く。


「分かるか?これが魔力だ。まあ今お前さんが感じてんのは俺のものだけど」


「ロイドのものが……僕の中に……」


「御幣を招く言い方をするんじゃない。許容量以上にぶち込んで爆発四散させるぞ」


「ごめんなさいやめてください死んでしまいます」


心臓破裂を防ぐためにやっているのに爆発四散したら本末転倒が過ぎるんだよなぁ。

死因:軽口の危機を全力謝罪で回避しつつ、気を取り直して胸の熱に集中するように目を閉じた。


「うーん……やっぱりお客様凝ってますねー心臓。魔力がゴリゴリですよ」


「ロイドがふざけるのはいいんだ……」


「だって本当に凄いことになってんだもん」


だもんじゃないよ、だもんじゃ。可愛い子ぶるなショタおじ。


歯医者さんからマッサージ屋さんに転向した研究者だったはずのロイドに解せぬ思いを抱きつつ、胸全体に広がる熱に意識を向け続ける。


「はい準備オーケー。そしたら俺が誘導する通りに魔力を体中に循環させてみよう。まずは大きく息を吸ってー、そしてゆっくり吐く。吐く息と一緒に胸に広がってる熱を左肩、腕から手まで流すイメージだ。ゆっくりでいいぞ」


「ん、んん……」


言われた通り大きくゆっくりと呼吸を繰り返しながら、左半身へと熱が流れるのを想像する。


するとじんわりと熱は想像通りにゆっくりゆっくりと肩へと移動し始めた。

意識を集中させる。次第に熱は───魔力は左半身全体へと満ちていく。


「いいぞー。そしたら次は胸から右半身へ。同時に腹から足へも循環させる」


静かなロイドの声に呼吸で答える。徐々にスムーズに流れだす魔力。

呼吸を止めないように気を付けながら体へと魔力を循環させることしばし。ようやく全身に魔力を巡らせきったとき、自分の中でカチリと何かが嵌ったような感覚を覚えた。


「お。正常に流れだしたな。楽にしていいぞ」


「ふはぁ~~」


ロイドの手が背中から離れた瞬間、集中の糸が切れたのかドッと疲労感に襲われた。耐え切れずその場にぱたりと大の字に倒れ込む。

体全体がポカポカしている気がする。心臓あたりに意識を向けると、何かが留まることなく体全体を巡る不思議な感覚を感じた。


「これで魔法を使う前準備が完了だな。早速魔法の訓練と行くか」


「来たぁ!!」


ガバリとすぐさま起き上がる。待ちに待った魔法だ!わくわくそわそわと正座する僕に、ロイドは苦笑い気味に頷いた。


「まずは右手に炎を出してみよう。魔法はイメージが大事だ、何をどこにどうしたいかを明確に想像できないとうまく行使できない。右の掌に魔力を集めて、昨日見た火の玉を出すイメージをしてみろ」


「はいっ」


魔力はすぐに掌に集まってきた。

瞑目して炎~火の玉~出ろ~出てこい~と念じる。すると掌から魔力が空気中に抜けたと感じた瞬間、ボッと音を立ててメロン大の紫の炎が掌の上に浮かびあがった。


「うわーーーー!!!!でたーーーー!!」


「お。一発で成功か、筋がいいな」


大事に両手で掬うように持ち直す。ふわふわと手から数センチ離れて浮かぶ紫炎はほんのり暖かいくらいで熱さは感じない。


えいやっと指を炎に突っ込んでみるがやはりあまり熱くは……うそやっぱ熱い!なんだいきなりめっちゃ熱くなってきた!!あっつ!!でも火傷はしてない!うわーかっこいい!わーキレイ!なんか自分が出した魔法だと思うと愛おしさまで感じてき……ハッ!


生まれて初めての魔法の行使に、喜びのあまり無意識にクルクル回っていた。そんな僕をロイドは微笑ましいものを見るようなひどく生暖かい目で見ていた。

我に返った僕は、そっと紫炎を消した。


「……それじゃ、次は俺が指示した場所に炎を出してみようか」


「……はい……」


今目の前で起きた成年女性による奇行には一切触れず、しかし未だに生暖かい目でロイドは優しくそう言った。


やめてくれ……「うんうん分かるよ。嬉しいよね、踊っちゃうよね」みたいな表情されるのが一番堪える……。

居たたまれなくなった僕は、再び静かに正座の姿勢に戻った。


「じゃあまずは左手」


「はい!」


完璧にイメージを掴めたからか、難なく左手にも炎が浮かび上がった。

ふむふむと懐から出した携帯端末で記録をつけるロイドは、次々に指示を出していく。


「次、頭の上」


「はい!」


「右肩」


「とや!」


「右手と左手同時!」


「おりゃ!!」


「まだまだ行くぞ、両手両足!」


「そいやーーー!」









────そうして訓練を続けること30分。

気がつけば、僕は訓練室の床の上に再び沈んでいた。







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