最後の研究員
8~12ページを大幅に改訂いたしました。大まかな流れは予告通り変えておりませんが、世界観の説明が入ったり、ラウがフリント博士の娘になる経緯が大きく変わってたりしております。あとフリント博士の性格が大分悪くなっています。
「あ、……あの、ロイドさん……?なんか僕……体が……動かな……」
「魔力切れです。ちょっと休憩にしようか」
冷たい床に頬を押し付ける僕に、携帯端末をいじりながらロイドはなんて事なしにそういった。
おっかしいな……本当についさっきまで元気に「魔法同時5か所出し!」とかやっていたのに、突然電源切れたみたいに体が動かなくなった。
高熱が出た時の倦怠感というか、指一本辛うじて動かせられるかなというレベルに体が重い。なんだこれは。
「魔力量A、継続性C、発動速度A-か。変性は今後要検証として……うん。典型的な集中力がないタイプだな」
「すごく失礼なこと言われてる……」
「いやいやこれ凄いことだぞ。今日初めて使ったっていうのに魔力量が大体俺の五分の一程度ってかなり多い」
っていうことはロイドさんは初心者にしてはかなり多いはずの僕の魔力の、その更に5倍量の魔力持っているってことですか?さっきからこのモンスター度々凄いチート力見せつけてくるんですけど。
「っていうか……うう……あの、なんか急激にお腹が空いてきたんですが……何なら空腹すぎてちょっと気持ち悪いんですけど……うぷ」
「昼飯あるぞ。魔力切れは飯食わないと治らないからな。沢山食べろ」
ロイドのペット頭蓋骨の一体が良い匂いを漂わせるバスケットを咥えて持ってきてくれる。「アリガトウゴザイマス……」とスケルトンよろしく這う這うの体で受け取った僕は、震える手でバスケットの中に手を入れた。わぁいサンドイッチだぁ。
「うう……美味しい……美味しいよ……」
「俺も食べよ。魔力枯渇からの回復を繰り返すと効率よく魔力の最大値を伸ばすことができる。ってな訳で明日からも午前中は魔力枯渇するまで魔力捜査の訓練やっていこう。身体能力の訓練とセットで毎日な」
「……え?ま、毎日……?……鬼畜ですか?」
「鬼はまた別の種族だぜ」
この滅茶苦茶辛い魔力枯渇状態にこれから毎日させられる……?
卵サンドをもぐもぐ食べ始めたアンデッドに胡乱気な視線を送るが涼しい顔で無視された。
これが鬼じゃなくて何だと言うんですかね?
とりあえず一つ目のパンを食べ終わったところで上体を起こせるくらいにまで回復した僕は、ロイドの横に並び座って取り留めもない会話をしながらおかわりのパンを口に運んだ、その時。
「ロォォォォォォォイィィィィィィィくーーーーーーーーーーん!!!!」
突如背後の扉が、ドカァンッ!ととんでもない轟音と共に開け放たれた。
「おお?」
「んむぐっ!?」
扉が吹き飛んじゃないかと思うほどの勢いにカツサンドをのどに詰まらす。
「げふ、ごほっ!な、なにが……うごぁ!?」
咳き込みながら何事かと後ろを振り返ろうとするが、先に背中に凄まじい衝撃を受け僕の体は吹き飛んだ。
視界の端で鮮やかな黄色が躍る。僕の体と共にバスケットが宙を舞うのが見えた。ああ景色がスローモーションに流れている……。
いつの間にか退避していたロイドが、僕の背中に突撃してきた何者かに片手を上げた。
「ミモザじゃねえか。おはよう」
「おはようですロイくん!それで!それでニンゲンは!?ニンゲンちゃんはどこにいるんですか!?隠さないでくださいちゃんと私に見せて居たあああああああ!」
「痛あああああ!?」
僕の上の何者かは絶叫と共に突如僕の首に後ろから飛びついてきた。首を捻られ締め上げられ苦しさにバンバンバン!と床を叩く。ギブギブギブ!落ちる、落ちる!
「わああ!すごい!起きてる!えっちょっかわいっ!可愛すぎますぅ!目が二個ある!鼻は一個!口も一個!脚も腕もながぁい!着せ替えしたい!あれもこれもそれもどれもお着替えさせて鑑賞したぁい!あっそうだお部屋は見てくれましたか!?私が用意したんですけど気に入ってくれましたかぁ!?私ニンゲンちゃんには紫が似合うと思っていてぇ!」
「あー、えっとミモザ?興奮してるところ悪いんだけどさ……ラウ白目剥いてるからそろそろ離してやれ?そろそろラウ死ぬ。死んじゃう」
「え?きゃああああああ!!!」
遂にピクリとも動かなくなった僕の救出のため、ロイドが宙に放り出されたバスケットを片手に仲裁に入った。
甲高い悲鳴と共に背中に乗っていた質量が消える。
「ごめんなさい、ごめんなさぁい!生き返ってくださぁい!あっ心臓止まってるぅ!?大変博士に連絡を……いや待って、私知ってます!マウストゥーマウスでじんこーこきゅーてのをして気道の確保を……」
「やめろ!いいから回復掛けてやれ!」
「……ぅ……し、しぬ……」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ声とスパァンと何かをはたく音が響く中、僕は酸素不足で意識を落としたのであった。
花の香りが鼻孔をくすぐる。
嗅いだことのある匂いだ。森の中にいるような……甘さを感じない、爽やかないい香り。
何の花の匂いだったか。微睡みの中記憶を探っていると、ふと僕の前髪を誰かか優しく払った。
ゆるゆると目を開ける。
まず最初に視界に入ったのは、ふんわりと触り心地のよさそうな黄浅緑色の髪だった。
小ぶりながらも華やかな黄色の花がまるで冠のように髪を飾っている。
僕を見下ろす瞳と目が合った。聖母のごとく穏やかな瞳だ。何処からともなく舞い降りてきた黄色の花弁が、彼女の愛らしさを幻想的に演出している。
「……天使……?」
「まあ……。うふふ、ラウちゃんったら……」
嬉しそうにほほ笑んだ天使は、そっと優しく僕の頭を撫でた。
あまりの可憐さに呼吸を忘れる。天使の背後にさわさわと風を受けて揺れる新緑と雲の隙間から差し込む陽光が見えた。
これは……そうこれは、とっくの昔に忘れてしまった、包み込むような母の偉大な愛……!
「ママ……?」
「───いつまで何やってんだ」
突然ズゴンッと脳天に痛みが走り、僕は自分を包むぬくもりからべりべりと体が引き剥がされてしまった。
「べぬっ!?あ、あれ。僕は一体何を……」
乱暴に床に転がされたせいで顔面をしたたかに打ち付ける。本日何度目かの鼻強打でいい加減鼻が曲がりそう。
痛みに顔面を抑えながらキョロキョロと見渡した。なんて事ない、数時間前から滞在しているリライヴェッジ研究所の訓練室だ。
あれ?今見えた新緑は?陽光は?花弁は?幻覚?
「ああん、もうロイくんったら!何するんですかぁ!」
「こっちのセリフだ。お前さん今魅了の香使ってなかったか?ラウの目がヤバいことになってたぞ」
「そんなことしないですよぉ!ちょっと鎮静効果のある香を混ぜただけですぅ!気合入りすぎてちょっと量多かったかもしれませんがぁ!」
ロイドが僕を背に庇う姿勢で誰かに抗議をしているのが聞こえる。
ひょこっとロイドの肩越しから相手を伺い見る。そこには先ほどの黄浅緑色の髪の天使がむくれた顔でロイドと対峙していた。
まじまじと天使の顔を見て、あっと思わず声を上げる。
違う、彼女は天使じゃない────いや天使のようにかわいいのは間違い無いのだがそうではなくて。
彼女は『リリィの聖剣』に登場する主要メンバーの一人にして、このリライヴェッジ研究所第零研究室所属の研究員。
「み、み、み、ミモザぁぁぁぁ!?」
「うふふ。おはようございますぅ、ラウちゃん。お話は博士とロイくんから聞いていますよぉ。本当に私のこと知っているんですねぇ」
アルラウネのミモザは、天使のような笑顔で驚きの声を上げる僕にはんなりと手を振った。




