モンスターの努力を笑うものはモンスターに蹴られるのです
みなさんこんにちは⭐︎
新人アンデッドモンスターのラウです!
現在僕はリライヴェッジ研究所の訓練場にてロイド先生の指導の元、体を慣らす訓練中です。
リボンを巻いたスケルトンを捕まえるというシンプルな内容なんですが、いやーこれがまた難しくて……。
え?今の僕の心境?そうですね一言で現しますと────
「こんの……鬼畜アンデッドがあああ!!!!!!!」
「鬼はまた違う種族だぜ~」
「そういう話をしてるんじゃ、なわーっ!?」
優雅に頭蓋骨達に給仕をさせてお茶を嗜んでいるロイドに、僕はスケルトンからの攻撃を涙目で避け続けながら叫んだ。
訓練開始からかれこれ45分が経過したが、未だに僕は逃げるスケルトンからリボンを奪えていなかった。
それどころか妨害役として召喚された5体のスケルトンに行く手を阻まれているせいで、30分くらいその姿が見えていなかった。
四方八方から僕を掴むために骨の手が伸びてくるのを必死に避ける。捕まればボコボコリンチが始まるのはもう2度経験済みだ。涙目どころからもう半泣き状態です。
こいつら手加減はしてくれているが容赦がないのだ。パンチやらキックやらを食らっても怪我するようなことは今のところないが、普通にえぐいプロレス技とか決めてくる。バックドロップ決められたときはマジで死ぬかと思った。
ちなみにロイドは僕がバックドロップ食らった時泣くほど笑っていた。あのモンスター僕になんか恨みでもあるのかな?
「残り10分。早くコイツ捕まえないと終わらないぞ~」
「っ、っ!!!!」
座布団まで用意して茶を啜るロイド。射殺さんばかりの視線で返事をする。っていうかよく見たらリボンスケルトンさんロイドの横で休んでない?主従揃って僕のことバカにしてるなぁ!?
こめかみに青筋を浮かべながらリボンスケルトンに向かって足を踏み出した途端、正面から二体のスケルトンが掴みかかってくる。
ビビるな!と自分を叱咤しながらスライディングの要領で潜り抜けた。次いで右から蹴り上げようとするスケルトンの軸足を掴み上げ転ばせる。
跳ねるように立ち上がりながら左から迫る新たなスケルトンの顔面に拳を叩き込んだ。
ちなみにボコボコにされすぎてもう殴る蹴るの暴力を振るうことへの抵抗感は消えました。バイオレンスイズパワー!
すかさず後ろから抱き着くように……否、腰に組み付くように構えたスケルトンが飛び込んでくる。お前さてはさっき僕の事バックドロップした奴だな!?
「さ、せるかぁ!」
振り返り様丁度良い高さにある頭にニーキックを食らわす。骨なだけあって軽いスケルトンの体は、上がった身体能力のお陰もあって反対側の壁まで吹き飛んだ。
ニンゲンの体の時は30分以上休みなしでこんなに激しく動き続けていたら間違いなくすぐにバテていた筈だが、今は軽く息が切れる程度だ。だから────まだ走れる!
スライディングで抜けたスケルトン二体に追い縋られる前に再びリボンスケルトンに向かって足を踏み出した。もうとっくに体にも慣れたからわかる。この場合正しいのは前に走るというよりも斜め上に前のめりでスキップする感覚!大事なのは中途半端にならないようにいっそ振り切る勇気ぃーー!!
「おらああ!しねえええ!」
少なくともうら若き乙女なら口が裂けても言わないであろうセリフを叫びながら、休日のお父さんよろしく寝そべるリボンスケルトンに向かって飛び蹴りを敢行した。
それには流石のリボンスケルトンも驚いたのか慌てた様子で飛びのく。
隣に座っていたロイドも巻き添えを食らう位置に居たが、しかし彼は何も焦った様子もなく「お~?」とその場から姿を消した。
「チッ、逃がしたか……」
たたらを踏みながらもしっかり着地した僕に、音もなくすぐ横に現れたロイドが苦笑いする。
「今の飛び蹴りガッツリ俺にも当てる気だったな?」
「ソンナコトナイヨ。それにロイドなら避けられるって知ってるし。それで」
アンデッドレクスとして能力ではない、ロイドのもう一つの能力。それは先程見せた瞬間移動だ。
予備動作も溜めも必要ない、ノータイムで自分の座標を移動できる能力。
リリ剣では戦闘時しか使用していないようだったからなんらかの制約があるのかと思っていたが、昨日も僕を研究所に連れ戻すときに使っていたし、今も何の気負いもなしに使用しているところを見ると特に制限はないのかもしれない。
アンデッドレクスの能力といいチートすぎないかこのモンスター。
そしてこのチートモンスターをも何なく倒せる勇者恐ろしすぎる。
「あ、そうか。昨日見せたしそもそもお前さんは知ってるのか。なーんだこれ使っていたずらしようと思ってたのに」
「すごい能力なのにしょうもない使い方をしようとするな……」
残念そうなロイドに呆れた目を向けながら、パンパンと手を払う。
振り返れば妨害役の5体はすでに復帰しており、リボンスケルトンは遠くに逃げ込んでいた。
「体の扱いには大分慣れてきたみたいだな。すごいすごい。2、3日位はかかると思ってたんだけどなぁ。センスあるんじゃないか?」
「いやぁ、涙を呑んでスパルタ訓練を課してくれる先生のお陰ですよー」
にっこり笑いながらロイドを振り向くが、当のスパルタ先生は全く気にした様子を見せることなく携帯端末を振り振りタイマー画面を掲げた。
「あと7分。どうする?目標は達成できたしギブアップしてもいいけど」
「冗談。アイツ等にぎゃふんと言わせないと気が済まん」
「お前さん結構負けず嫌いなんだなぁ」
そりゃそうよ。そしていつか君にもぎゃふんと言わせます。
ひっそりと今後の目標を打ち立てながら僕は再び前へと踏み出した。
もういい加減慣れた加速の感覚。一切緩めることなくスケルトンたちに接近する。正面の一体がまたも僕を捕まえようと手を伸ばしてくるのがスローモーションのように見えた。
体を半歩横にずらす。そのまま避け────ない!
「どりゃあああー!!」
スケルトンの首に腕を叩きつける。スケルトンがガシャァ!と音を立てて床に転がった。
上手くラリアットが決まったと喜ぶ暇はない。すぐ右から新しい骨の手が伸びてくる。手首を取ってぐいっと引っ張ると、スケルトンの体はふわりと宙に浮いた。
「んんんんん!変則ジャイアントスイングーーー!!」
そのまま手首をガッチリ掴んだままスケルトンの体を振り回す。良い子は絶対にマネしないでね!
腰のひねりを入れて二度三度と回した末に、こちらへ迫り来る残りの3体めがけて投げ飛ばした。
まるでボーリングの玉とピンのようにぶつかり吹き飛ぶスケルトン共の脇を抜ける。背を向けるリボンスケルトンが見えた。
と、行く手を阻むように前方の床が青く光る。次いで床からずるりと這い出る骨の腕が見えた。その数は3本。発生速度が速い、腕だけ出して転ばせる気なのだろう。
「あ、まああああい!」
青く光る紋様の前で右足を踏切り、思いっきり上に跳んだ。ニンゲンの時はせいぜい数十センチが限度であった跳躍力も例に漏れず強化されている。今の僕の体は二メートル近く地面から離れたところまで跳ね上がっていた。
勢いでぐるんぐるんとブレる視界に酔いそうになるが、しかし絶対にリボンスケルトンから目は離さない。右足を高く振り上げ、リボンスケルトン目掛けて思い切り振り下ろした。
「おっらあああああ!!」
僕のかかとがリボンスケルトンの脳天に直撃した。ズドォッと音を立てて僕の足もろともスケルトンが床に沈む。
頭蓋骨にヒビが入ったスケルトンはピクリともしない。ふらりと立ち上がり足をどかすと、青いリボンがはらりと落ちた。しっかりと拾い上げる。
「や、やった......やったーーーー!!獲ったーーー!!!ロイドーーーー!!見たーーー!?」
勝鬨を上げながらロイドを振り返る。さぞ褒められるだろうと喜色満面であった僕だが、しかし目に映った光景に────言葉を失った。
「ぎゃーっはっはっはっ!へ、変則ジャイアントスイングっておまっ、うひーひひひっ」
床をバンバン叩きながら大爆笑しているロイド。すう、と喜びや達成感といった感情が何か違う感情に置き換わるのを感じた。
うーん、デジャヴ。僕のこの感情も含めて。
尋常じゃない何かを感じたのか、ロイドの周りの頭蓋骨達が慌てたように主人の周りに纏わりつき髪やらパーカーやらを引っ張っている。
「はー笑った笑った。あ?なに……げ、やべ」
ようやく僕の存在に気が付いたロイドが笑顔から一転、引き攣った表情を浮かべた。
蹲るロイドのすぐ後ろに立った僕は拳を鳴らし、屈伸をして、肩をぐるぐる大きく回した。
拳準備よーし、飛び蹴り用意オッケー。いつでも行けまーす。
「その身をもって生徒の成長を感じてくださいね?せ・ん・せ・い?」
「え、遠慮しまーす」
────リライヴェッジ研究所訓練室にて。
僕の鬼ごっこ訓練は、標的を変えてもうしばらく続くこととなるのだった。




