それはフリント・オールディス子爵と同じくらい世も末案件
本日より紫の都市編開始です。よろしくお願いします。
タイトルひっどいな!
───切り立った岩壁に囲まれた採掘場に、大きな振動が走った。
階段状に削られた採掘跡を晒す岩肌。過去無遠慮に削られた影響か、僅かに脆くなっている表面からパラパラと砂礫がこぼれる。
「あまり暴れさせるな。ここは崩壊の心配はなくとも崖崩れが起こる可能性はあるでござる」
そう静かに指示を出すのは、大きな両手剣を手に仁王立つ大柄の獣人だ。
騎士服を纏い一分の隙もなく戦場を睨む彼の声は剣戟と咆哮が響く戦場の中でもしっかりと部下に届いているようで、打てば響くように返事と報告が虎耳に嵌められた通信機を通して告げられた。
『二班より本隊へ。南側の群れは制圧が完了しました。負傷者はいません。本隊と合流のため移動を開始します』
『こちら一班、上空を旋回していた中型ワイバーンの捕獲に成功。これより帰還します』
『四班より報告。北側の群れと交戦中、もう間も無く制圧が完了します』
次々に上がる各班からの報告に、この戦場を仕切る虎獣人───王国騎士団第二部隊長アジェルはこの討伐作戦の終わりを察し、安堵を押し隠して頷いた。
『紫の都市』と『青の都市』の境にあたるこの鉱山地帯は、夏が終わり急激に気温が下がると上空に寒波が流れ込み気流が大きく乱れる。
気流が乱れれば空を飛ぶ生き物は多かれ少なかれ影響を受けるもの。この採掘場に住み着いたワイバーン達も例に漏れず飛行能力が大きく落ちる為、このタイミングで討伐命令が下されたのだが。
「……天気は保ったか」
谷のような岩壁に囲まれているせいで狭い範囲しか確認はできないが、上空には分厚い雲がかかっているのが見える。
今にも雨が……否、ここ数時間で急激に下がった気温からして恐らくもう間も無く雪が降り始めるだろう。
いくら敵が弱体化しているとは言え、悪天候の中の戦闘は予期せぬ事態を引き起こすことになりかねない。
早々に片を付けて王城へ帰還を───
『こちら三班より本隊!西側洞穴奥より特殊個体を確認!負傷者数名、応援願います!』
「!」
作戦エリアのあちこちに展開していた班の殆どから作戦終了の報告が上がる中、突如鋭い救援要請が走った。切羽詰まった声での報告に通信を共有している全員に緊張が走る。
特殊個体とは、通常のモヴよりも知能や身体能力の高い突然変異個体だ。本来モヴが行使することができない魔法を扱う個体も存在する。
またモンスターに害なすモヴでありながら限りなくモンスターに近い生物故、通常は各都市各街に張られたモヴ避けの結界すらも破って侵入することがある。モンスターを、国を守る騎士団として放置することはできない危険な存在だ。
事前調査では複数のワイバーンの群れが発生しているものの、その全ては通常種であり特殊個体の存在は報告されていなかった。調査隊に気付いて潜伏していたのか、はたまた───アジェルはため息を溢すのを堪えて「特徴は」と部下へと詳細を尋ねる。
『通常種に比べ体表組織が硬質化しているようです!斬撃、打撃共に有効打となり得ず、防戦一方で……ッ!』
通信機越しにつんざくような甲高い咆哮が響く。報告を遮るそれに三班の班長は息を呑んだ。
通常、このような討伐作戦は王国騎士団と王国魔導士団による合同部隊が組まれる。しかし今回の討伐作戦は諸事情により王国魔導士団の魔導士は参加しておらず王国騎士団第二部隊のみが現場対応に当たっていた。
翼が生えた大型トカゲと形容するのが一番近いワイバーンは、鱗はあるもののその肉質は柔らかく武器が届けば討伐は容易いモヴだ。気流が乱れている今、脅威である上空からの群れによる奇襲の可能性は低いと見積もり騎士団とオマケだけでも問題ないと判断したのだが、まさかこんな誤算があろうとは。
「魔導士不在の時に限って近接攻撃無効とな。これまた騎士団特効の特殊個体でござるなあ。流石はトラブルメーカー、ただでは終わらせてくれないでござる」
『そんなこと言っている場合ですかっ!これより二班は進路を変更して三班に合流……』
魔導士がいない状況で物理攻撃をほぼ無効化する相手との戦闘。ともすれば一時撤退し早急に魔導士を含めた討伐チームを再結成する必要すらあるというのにその判断を下す立場である部隊長は「はっはっはっ」とのんきに笑うのみ。
対して特殊個体に立ち向かっている三班は上空に逃げようとするのを阻止しようと必死だ。別班の班長が三班の阿鼻叫喚に負けじと声を張り上げ憤り、仲間を救わんと独断行動を起こそうと動き出す。
しかし、
「いいや、二班はこちらに戻ってくるでござる」
『は?しかし』
「物理無効だけなら問題ない。もう向かわせているでござる」
心配や焦りなど微塵も感じさせない、それどころか期待のようなものが込められた声で制止され今まさに西側へと赴かんとしていた班長は思わず閉口した。
何が、どこに向かって、どう問題がないのか───答えは数秒後、特殊個体ワイバーンの頭上に現れる。
「エイデル」
『がってぇーん』
翻訳機を通したゆるい返事とはまるで真逆の、聞いた者の心をへし折るような威圧を伴う低い咆哮が響く。
咆哮により通常種よりも二回りは大きい特殊個体ワイバーンの体は恐怖を覚えたようにビクリと震え、僅かに動きが止まった。
その隙を逃さず放たれた風の刃、風魔法『風刃』がその両翼をざっくりと切り裂く。
今まで剣も矢も通さなかった鋼の如し体に初めて傷が入り、痛みにワイバーンは甲高い悲鳴を上げた。
しかし相手は強靭な肉体と確かな知恵を持つ特殊個体だ。生まれてこの方感じたことがなかったであろう斬撃による痛みに怒り狂いながらもその場にのた打ち回るような無様は見せず、そして次の瞬間には叫びを咆哮に変えた。
ただ身体が硬いだけでは無い。知性の光を目に宿したワイバーンは、今の攻撃の出所と自分の負傷具合を冷静に分析し、本当の脅威へとぐるりと首を向ける。
ワイバーンを率いる王は、自分に傷をつけた不遜な輩を決して許さない。そして翼を持つ己が地を這わされ、羽を持たない矮小なものが頭上に立つ事も許さない。
忌々しい敵は鋼も切り裂くこの爪で完膚なきまでに叩き潰して───
「ァ?」
───怒り狂いながらも冷静に敵を迎え撃とうとしていたワイバーンの思考は、そこで途切れることとなった。
ワイバーンの王が最後に見たのは、羽もないのに遥か上空に悠々と佇んでいる大きな白い獣と宙に揺れる紫の波紋。
そして視界を埋め尽くさんとばかりに目前に迫る、紫の炎だった。
「お見事。流石でござるな」
花咲く紫炎に焼かれ、叫ぶ間もなくその身を灰にしたワイバーン。その前で白い大きな四足歩行の獣と戯れていた女は背後から投げられた称賛に振り返った。
珍しく高い位置で一つに纏めた長いこげ茶の髪が動きに合わせて揺れる。
師からの惜しみない賞賛に一度は顔を綻ばせたものの、部下を引き連れ歩くアジェルの悠長さにむっと顔をしかめた彼女は、恨み言の一つでも言ってやろうと口を開いた。
しかし何事かを言う前にアジェルの背後からカメラを担いだ多数のモンスター達がわらわらと現れ、まるで押し寄せる波のように自分に殺到する。
安全圏から一連の戦闘を見ていた……もっと正しく言うならば彼女の雄姿をカメラに収めていた者たちは、興奮した面持ちで押し合いへし合いマイクを差し向けた。
「素晴らしい手際でしたね!騎士団との討伐作戦に参加した感想は!?」
「英雄の名にふさわしい戦いでした!一言お願いします!」
あまりの勢いにびっくりしたように目を丸めたものの、その女───白い騎士服を纏った親善大使ラウは咳払い一つで気を取り直し、にっこり笑って勝利のピースを向けたのだった。
◆
『……せぬ事態はあったものの、無事騎士団の討伐作戦を終えたラウ親善大使は「大変有意義な経験をさせてもらった。最前線でこの国を守る騎士達の責任と覚悟を間近で見させてもらったことで、国防にも関わるおもてなし政策の重要性を改めて実感できたと思う」とコメントしました。また来週は王国魔導士団との合同作戦にも参加予定と───……』
「「「「かぁぁぁぁっこいいですわあああ~~~~♡♡♡」」」」
絢爛豪華に飾り付けられた大広間にニュースキャスターのハキハキした声と年若い令嬢達の感嘆の声が響き渡る。
その声に、会場の隅でコソコソと生ハム乗せコロッケを頬張ろうとしていた僕はギクリと身を強張らせた。
「大人気ねぇ、親善大使サマ?」
「ぐぬぬ……」
絶妙な位置取りで僕を周囲の目から隠してくれているベルリアナが、身を縮める僕をどこまでも楽しそうにニヤニヤ見ている。
普段であればうるせえと一蹴するところであるが、しかしながら今の僕は『ラウ親善大使(淑女モード)』であるためにそんな乱暴な口は利けない。フォークで小さく割ったコロッケを優雅に口に運ぶように見せかけながら小さく呻いた。
ここは魔法界屈指の学術都市として名高い『紫の都市』。その主要街の一等地に建つ名門貴族邸だ。
ロイドの家が20個は入りそうな大豪邸の大広間では現在『学術交流晩餐会』なる夜会が開催されており、政務に携わる貴族達を始め各都市有数の要人、名の知れた大商人、著名な研究者など高貴な方々が集っては未来の魔法界の発展について熱心に語りあっていた。
かくいう僕も今をときめくおもてなし政策の親善大使として、そして特別招待枠なるとんでも枠に招待されたくせに「え~面倒くさ~い。ラウどうせ行くんなら私の代理も兼ねといて〜」と参加を拒否ったクソ野……お父様ことフリント博士の代理として晩餐会に参加していた。
いやまあかれこれ僕も親善大使職を拝命してもうそろそろ半年。こういったきらびやかな場もいい加減慣れて参りましたよ。意識せずとも淑女らしい笑みを浮かべられるようになったし、日頃陛下にしごかれているおかげである程度レベルの高い政治や経済の話にもついていけるようになったし、綺麗な所作もベルからはなまる貰えるくらいには上達しました。
だが、そんな目覚ましい成長を遂げても社交界に顔を出すたび僕の心は重苦しくなる。ここ最近は特に。
何故ならば、
「ああ……素敵ですラウ様……剣を振るう凛々しいお姿も、政務に励む時の真面目な表情も、ベルリアナ様と戯れるときの少し幼いお顔も全て素敵……」
「動画を巻き戻してくださいまし!17分26秒の所ですわ!そうそこ!ほらここ!ここですわ!このワイバーンに向ける鋭い眼光をご覧になって!なんて格好良さですの!?スクショ!スクショを!!」
「はああ、本日のドレスもスタイリッシュでとてもよくお似合いですわぁ……うなじが特に……ああっ!ラウ様に抱かれたいぃ!」
「きゃああっ!見まして!?今ラウ様わたくしのことを見てくださいましたわ!」
「違いますわ!今ラウ様と目が合ったのはわたくしです!」
「ラウ様ぁ!ファンサを!こちらにもファンサをお願いします!」
これである。
チラリと視線を向けただけで大騒ぎな令嬢達に思わずげんなり。しかしながらそんな表情を馬鹿正直に表に出すわけにもいかず、引き攣りそうになる口元を叱咤して微笑めば令嬢たちの集団から「ギャアアアアッ!!」と悲鳴が上がった。死体でも見つけたか?
「英雄様にアタシのファン全員盗られちゃったわねぇ。妬けるわぁ」
「よく言うよ……」
仲が良さそうに見える角度で擦り寄ってきたベルの囁きに小さくため息をつく。
そう、一か月前に謎の組織『魘』がロシェ主要街で起こした一件を解決して以来、僕は魔法界の英雄として持ち上げられることになってしまった。
仕立て人ならぬ仕立てモンスターはもちろんあの玉座の上の黒狼だ。おもてなし政策の存在と意義を広く周知し国民に浸透させたいクロード陛下は、今まで手当たり次第と形容してよいほど僕を様々なメディアに露出させていたが、ロシェで英雄と担ぎ上げられたことを受けて路線を変更。キメラと戦った時の映像を色んな媒体に流し『世界を脅威から救う親善大使』としての印象を世界中に植え付けようと画策し始めた。
具体的には王国騎士団や魔導士団のモヴ討伐作戦に僕を参加させそのことを大々的に報道したり、街で暴れる犯罪者の捕縛に僕を向かわさせたり、各都市の憲兵隊とタイアップして防犯啓発イベントを行わせたりと、今までとは違う意味で体を張るような仕事ばかり回してくるようになったのだ。勿論親善大使の通常業務と並行で、だ。マジでいつか毛毟ってやるあの狼め。
しかし悔しいかな、陛下の狙いはバッチリと嵌り今やラウ親善大使はロシェの英雄を越えて魔法界の英雄として認知され始めている状況だった。
特に一部の層……例えば強い大人の女に憧れを抱いているらしい少女達なんかからは、まるでトップモデル魔導士ベルリアナが浴びるような熱狂的な視線を頂戴するようになってしまっている。
今日も夜会が始まるや否や、キャンキャンはしゃぐ貴族令嬢たちに逃亡犯よろしく囲まれ1時間以上も拘束されました。
たかが小市民でしかない僕がそんな濃いファン層を獲得するようになるとか誰が予想できたよ。最近は行き過ぎたファンがリライヴェッジの前で出待ちしたり、レードの街で待ち伏せしたりするんだぞ。怖いって。
どうしてこうなった。一体僕は何になろうとしているんだ……英雄か、英雄だったわ。ははは英雄ってなんなんだろ、僕親善大使じゃなかったっけ。あっはっはもうなんでもいいやどうにでもなーれ。
遠くを見つめ現実逃避を試みるも、件の集団からまたも『王国騎士団のワイバーン討伐作戦に同行する親善大使』のニュース上映会が始まり否が応でも現実に引き戻される。もういいってこれで10回目だよ、周りの皆さんも辟易してるじゃんかやめましょうよ。
っていうかいい加減社交しに行きなさいよ。令息令嬢にとって社交界は婚活の場でしょうが。年頃の御令息たちが放置されすぎて壁の花ならぬシミになってるよ。嫌だよ僕彼らに刺されるの。
「平均結婚年齢が下がったらアンタのせいねー……っと」
別の意味で痛い男達からの向けられる視線から顔を背けていると、何かに気づいたらしいベルにわき腹を小突かれる。
その合図に了解と返事をする代わりに空になった皿をウェイターに預けると、背後から「ごきげんよう」と静かな声が掛かった。
「ご歓談中失礼いたしますわ。ベルリアナ様、お久しゅうございます」
「まあ、ローザ様。こちらからご挨拶に伺うべきでしたのに足を運ばせてしまい申し訳ございません。お久しぶりですわ」
パッと社交界の顔に切り替えたベルの視線をそっと追う。
僕の背後に立っていたのは、どこぞのトップモデルに負けず劣らずな派手な美貌を持つご令嬢だった。
その造形はアジェルやパーシー達獣人のような動物的特徴もなく、ベルやミモザのような下半身が蛇のそれや花に置き換わっている訳でもない。
だが、赤紫色の鮮やかなドレスから覗く白い肌にはところどころ樹皮を思わせる節浮かんでおり、手首や胸元に華奢なアクセサリーのような細い枝が這っていることから、彼女がニンゲンのような存在ではなく植物系のモンスターであることはすぐにうかがえた。
きりりとした凛々しい目元とそれを中和する柔らかい雰囲気が素敵なご令嬢だが、最も目を惹くのはその艶やかな黒髪を飾る冠だ。細い枝を編んだような冠にはドレスと同色の大きな花が咲いており、それが彼女の華やかさに一役買っている。
花の大きさに差はあれど、誰かを彷彿とさせる花冠に目を奪われていると、ベルとの挨拶を終わらせたご令嬢が僕へと香り立つような微笑を向けた。
「ラウ、この方はあの有名なデンドロン家のご令嬢、ローザ様よ。ローザ様、こちらはおもてなし本部のラウ親善大使ですわ」
「ご紹介ありがとうございます、ベルリアナ様。ローザ・デンドロンと申します。お初にお目にかかります」
ベルリアナと知己であるらしいご令嬢はそう言って見事なカーテシーを披露してくれた。
この魔法界において王城で国王と共に政治を回すモンスターを貴族と呼び、貴族にはセカンドネームとして名乗れる家名と爵位が与えられる。加えて国への貢献度と家名の歴史の長さに応じて爵位は上がり、政界での発言力も上がるのがこの世界の貴族社会の習わしであった。
余談ではあるが、我が父フリント博士もああ見えて貴族位持ちである。あのオールディスなるセカンドネームは別に酔狂で名乗っている訳ではなく、魔法界の発展に大きく貢献した功績をたたえられて陛下より与えられた『オールディス子爵』という家名なのだ。
あんなマッドにも政治に口出す権利があるとか世も末だろうて。聞いた時は眩暈を覚えたわ。ちなみに僕は絶対に名乗るつもりはない。
さて、話を戻してデンドロン家だが、僕の記憶が正しければかの家は貴族位の中でも上から2番目の侯爵位を賜っていた筈だ。
つまりどこぞのなんちゃって子爵家と違い、デンドロン家は長い歴史を持つやんごとない名家であり、ローザ嬢は歴とした貴族のお姫様なのである。その気になれば僕なんて社交界出禁にすることなど訳ない権力者だ。万が一にも失礼があってはならない。冷や汗が止まらないぜ。
「ご挨拶ありがとうございます。おもてなし本部親善大使のラウです。この度はお会いできて光栄です、デンドロン様」
「ふふ、それはこちらのセリフでしてよ。わたくし今話題の親善大使様にお会いできる今日をずっと心待ちにしていましたの。テレビで拝見するよりもずっと凛々しくて素敵なお方ですのね。皆様が興奮されるのも納得ですわ」
「恐縮です」
口に手を当てころころと笑うローザ嬢。その可愛らしい様子に淑女の笑顔を保ったままじーんと感激する。
そうだよこれこれ、これこそ理想のご令嬢よ……!おいそこの親善大使限界オタク令嬢共!君たちはローザ嬢の佇まいを見習え!爪の垢を煎じて飲むんだよォ!
「あの、それで……ベルリアナ様?本日アルビジア様はいらっしゃらないのでしょうか。先ほどアルビジア侯爵と彼女のお兄様にはお会いできたのですが……」
「ああ……残念ながらいつものように欠席ですわ」
「そう……ですか」
未だにギャーギャー騒ぎながら社交を疎かにしている令嬢たちに念を送っていると、誰かを探しているらしいローザ嬢がもじもじそわそわとし始めた。
しかしベルが苦笑交じりに答えれば、目に見えて肩を落とす。
ガッカリ、という文字が頭上に見えるくらいの落胆ぶりだ。美女が落ち込んでる姿になんとなく罪悪感を覚え、思わず狼狽える。
お、お友達と会えなかったのかな?残念でしたね、まあそう気を落とさずに……。
ん?でもお友達の出欠席をわざわざベルに確認するのはなんでだろう?友達ならわざわざベルに聞かなくても自分で連絡とればいいだけの話だ。
なんだろう、なんだか自分よりベルの方が仲がいい相手の様子を伺ってる感じが……?
はて、と疑問を浮かべていると、ローザ嬢をなだめていたベルが眉をしかめて「アンタマジ?」と耳打ちしてきた。
そんな顔をされる心当たりが全くなくさらに首を傾げる。
アルビジア、アルビジア家……うーん?そんな家名記憶にないなあ。アルビジア様……いやわっからん。最近は貴族の方々ともおもてなし政策関係で取引してるけど、そんな家とは一切関わりは……
「ミモザのことでしょうが。あの子、アルビジア侯爵家のご令嬢よ」
「……………………………………はい?」
……………………はいいいいいいっ!?




