幕間【赤】聖女様、友達を知る 破
3部構成にしてますが、書ききれなかったらいつも通り其の一、其の二とかに変更するかもです。
トップモデルのみならず聖霊教会の聖女までもが親善大使執務室に突撃していったという話は、どうやらリライヴェッジ中に広まったらしい。
エレベーターを降りた瞬間現れたエントランスのモンスターだかりに僕は思わず「うわ」とうめき声を上げた。
出来る部下達によって大使室の前で張っていたモンスターは皆蹴散らされていたので油断していた。普段はそうモンスター通りの多くないエントランスには今やリライヴェッジ所属の研究員を始め職員来客その他諸々が有名モンスター達を一目見ようとひしめき合っており、僕らが現れるや否やざわっと色めき立ち始めた。
うう、視線が多い怖い痛い……。
「そういえばシエル、アンタお泊り用の荷物あるの?」
「後ほど教会の者が持って来てくれることになりました」
ビクビクしている僕とは反対に、衆目に晒されるのに慣れ切ってる当の有名モンスター共はこの密度に怯むことなく平然と会話している……いやシエルはまさかまさかの『憧れのベルリアナ様の自宅でお泊り』という緊急イベントに密かに目を回し動悸息切れを起こしているが、傍目から見れば平然といつも通り感情の薄い美貌を晒してベルと会話をしている。面の皮が厚いことで。
半年間職場兼自宅として暮らしていた為に顔見知りとなった研究員や受付のモンスターからの追及の視線を引き攣り笑いで躱しながらエントランスをきょろり。
おかしいな、滅茶苦茶薄いけど間違いなくここに気配はあるんだけどなぁ……。
「あれぇ?ラウちゃんとベルちゃ……えぇ!?せ、聖女様ぁ!?」
「お?」
と、探し人ならぬ探しモンスターの気配を追う僕とそれに追従するふたりの後ろから素っ頓狂な声が上がる。この間延びした可愛いきゃぴ声は……!
「ミモザじゃない」
「お久しぶりですね、ミモザ女史」
「はわ!?お、お久しぶりですぅ……?」
どうやら別棟から戻って来たばかりでベルは兎も角シエルが居ることを知らなかったらしいミモザは、困惑顔でありながらも律儀にぺこりと頭を下げた。その小動物じみた仕草にふっと僅かに表情を緩めたシエルは楚々と目礼を返す。
「先日の事件の時ぶりですね。聖霊教会を襲った事件の時は助かりました。改めてお礼申し上げます」
「へっ!?いいいいいえ!そんな私は何もぉ……」
「ご謙遜を。貴女とラウの筆頭補佐官の働きのお陰で大事にならずに済んだのです。聖霊教会を代表してお礼を」
「ひええぇ……」
恐縮しきっておろおろするミモザを目の保養だとほっこり観察する。ツッコミ疲れて荒んだメンタルに効くわぁ。今日はもうこのままお茶淹れてのんびり困り果てるミモザを鑑賞する会でいいんじゃないか?
しかし大衆の面前で聖女に頭を下げられるというとんでも事態にミモザは今にも死にそうらしく、助けを求めるような泣きの入った視線をビシバシ感じる。
放っといたら後でしっかり怒られそうだ。なので残念だがペコペコと頭を下げ合うシエルとミモザの間に割って入った。
「ミモザ、ロイド知らない?研究室にいなかったんだけど」
「え?ロイくんですかぁ?一緒に実験棟から戻ってきましたけど……って、あれぇ?」
「ほほう」
自分の隣にさっきまでいた筈の先輩研究員が忽然と消えたことに首を傾げるミモザ。それに全てを悟り全力で気配を探る。
ごった煮みたいな大勢のモンスターの気配の中、滅茶苦茶薄い青い気配がコソコソしながら非常用階段に向かうのを発見。『無拍子』でモンスター達の間を縫い、足早に階段を駆け上がろうとする見知った後ろ姿に一瞬で追いつき肩を掴む。
「どこに行こうというのかね?」
「なんで気配遮断してんのに気付くんだよ!」
何その技、僕知らないんですけど。便利そうだから今度教えてもらおう。
とりあえずジタバタ往生際悪く逃げ出そうとするロイドを羽交い絞めにして確保しベルたちの前に引き摺りだす。
「あら居たの」
「コソコソ逃げるからですよぉ」
「え、ええと……その……離して差し上げては……」
「甘いねシエル。ロイドを捕まえるときは絶対に手離しちゃいけないんだから。そんでこう首根っこを掴んで上から抑え込み制圧する感じで……」
「ひとを!野生動物みたいに!扱うんじゃねえ!」
そんなガルガルしてたら野生動物とそう変わらないと思いますけどね。何も食おうとしてる訳じゃないんだからそんな暴れなくともいいのにさぁ。妹がそんなに嫌いかね、僕はこんなに兄様を慕ってるって言うのに……。
ああ嘆かわしい、ため息をつきながらヘッドロックで拘束する。
「慕ってる兄にこんな仕打ちする奴がいるか!いててててバカ離せ!こんなキラキラ集団の関係者と思われたくないんだよ!」
「あのねー今日僕ベルの家にお泊りすることになったんだ。だから悪いんだけど晩御飯は冷蔵庫にあるものでお願いね。パーシーにも伝えておいてくれる?」
「その状態で話し始めるのですか……」
かつて聖敵と罵った為か少しロイドに対し気まずげであったシエルだが、だんだんと違う意味で気まずそうな顔になってきた。
ちなみにベルとミモザとリライヴェッジの皆様は僕とロイドのこの肉体言語による対話光景を見慣れているので誰も止めない。むしろ「おっ、今日はラウちゃんが優勢か」「最近ロイドくんやられること多くなってきたわよね」と囃し立てられる始末。日頃の行いだね。
っていうかベルとシエル、あとリライヴェッジの密かなアイドルミモザは兎も角僕は別にキラキラでは無いよ。多少名は知れたかもしれないけどキラキラとは別方向だって、あの美女美少女軍団に比べたら木端よ木端。吹けば飛んでく儚い存在だっての。
拘束を解きながらぶーぶー文句を言えば「なんでお前は未だに自分の見られ方への自覚が薄いんだよ……」と睨まれた。解せぬ。
「っていうか泊まりって博士に言ってあるんだろうな。無断外泊なんてしたら睡眠記録がねえって騒ぐぞ絶対」
「…………………………………………ウン、言ったヨ!」
「その間はなんだ。嘘ついてんじゃねえだろうな」
今度は僕が詰められる。しかし疑いの目を向けてくるロイドに心外だと僕は頬を膨らませた。
「嘘じゃないって!ちゃんとさっき言いに行ったよ!……言ったけどやだやだうるさいから最終的に面倒くさくなって殴って沈めてきちゃっただけで」
「なあそれ生きてんだよな?ちゃんと息あるの確認してあるんだよな?俺嫌だぞ研究室戻って最初にすることが死体の処理とお前の罪の隠ぺいとか」
「だ、大丈夫だって」
ゆさゆさ肩を揺さぶられ今度は僕が視線を逸らす。息は……多分してた、うん、してた……と思う。拳じゃなくて剣の柄で脳天殴っただけだから。ちゃんと手加減したし。たんこぶは出来てたけど。
当然のように僕の罪を隠ぺいするための算段を付け始めたロイドの手をええいっと引き剥がし、誤魔化すように仁王立ちしてはビシッと指を突きつける。
「て、てな訳で!今日は冷凍してあるカレー温めて食べてね!あと作り置きのポテジャサラダも食べきっちゃって!……あっそうだ、ちゃんと食器洗っておいてよね!パーシー居るから大丈夫だと思うけど、この間そのまま放置してたの知ってるからね!アインスがため息ついてたよ。あと洗濯物も……」
「あーはいはい分かった分かった」
誤魔化しの話題転換であったが、指示を出していく内に次々とやらなきゃいけないことを思い出しあれやこれやと追加で言い付ける。
そんな僕と適当な返事をするロイドの一連のやり取りを見ていたシエルが怪訝な顔で僕らを指さしベルとミモザへと視線であれは何事かと尋ねる。事情を知るミモザが頬に手を当てあらあらと可愛らしく微笑んだ。
「ラウちゃんはロイくんの家のシェフさんなんですよぉ」
「シェフ?何故」
「最初はロイドの弟に料理を教えに行ってたのよ。その内しっかり胃袋掴まれたあの兄弟がお願いして来てもらうようになったらしいわ」
「別にお願いされて行ってる訳じゃないよ。僕が勝手に行ってるだけ」
ただまあ最近はパーシーに「明日は何作る?」って聞かれるしロイドに至っては確定事項のようにご飯のリクエストが来るけども、半ば僕が無理言って押しかけてるのは今も昔も変わってないのだ。
何故かギクリと視線を泳がせるロイドの隣で訂正を述べればニヤニヤしたベルが肩に腕を回してきた。
「今日はアタシ達に自慢の料理を振舞ってもらおうじゃないの」
「はい?」
「ロイド、ラウの料理で一番美味しいのは?」
「ミートソース」
「即答かい」
「決定ね。材料買って帰るわよ。ミモザも来ない?アタシの家でお泊り会するの」
「いいんですかぁ!?行きます行きますすぐ準備しますぅ!」
「と、友達の手料理……!?どうしましょう、リストが凄まじい勢いで埋まっていきます……!」
「いや僕作るなんて言ってな……」
しかし僕の制止むなしく、3にんはキャッキャッと燥ぎながらエントランスを後にし。
残された僕の肩をロイドが「諦めろ。ベルは言い出したら聞かねえ」と労わるように叩くのだった。
◆
「…………こ、ここがベルリアナ様のお家……!?」
「そうよ」
ところ変わって、アルバストスの主要街。
帰路に着く仕事終わるらしきモンスターや、世界一の繁華街の夜を楽しもうとするモンスター達の波に乗って諸々の買い物を済ませた僕らは大量の買い物袋を手に主要街の一角、いわゆる貴族街と呼ばれる高級区画で一際高く聳える超高級タワーマンションを見上げていた。
「相変わらずとんでもない……」
「アルバストスの一等地のタワマンですよぉ。まごうことなく富裕層ですぅ」
「す、すごい……」
以前に一度泥酔したベルを送り届ける為に来たことがある僕とそこそこの長い付き合いらしいミモザはわかる、と呆然とするシエルに大きく頷く。
なんて言ったってこのマンション、滅茶苦茶広い敷地内に公園はあるわスーパーはあるわ医療院も美容院もドレスショップもあってひとつの街のようになっているのだ。
その上建物内にはフィットネスジムやプール、スパやマッサージサロンもあり、最上階にはラウンジやバーなんかも入っているらしい。ガチ富裕層の住まい所だ。恐れおののく気持ちもよくわかる。
「んでもシエルだって聖女じゃん。ここに住んで遊んで暮らせるくらいの給料はもらえるんじゃないの?」
「何を言いますか。聖霊教会のモットーは清廉節制ですよ。聖女といえども遊んで暮らせるようなお金なぞありません。そんなにお金があればベルリアナ様のグッズを集めるのに使いたいですし……そもそも私はお小遣い制です」
お小遣い制の聖女かぁ……世知辛すぎる事実。信徒が知りたくない聖女の秘密が今日だけで山ほど出てくるな。
憂いのため息をつくシエルを憐みの目で見つめていると、さっさと中に入ってしまったベルが「何してんのよ」と怪訝な顔をロビーから覗かせた。
ふかふかの絨毯とピッカピカに磨き上げられた調度品に気後れしながらベルの後を付いていく。わぁ、コンシェルジュさんがいる……みんな黒服だぁ……。
「あのぉベルちゃん?前々から気になっていたんですがぁ、ここのお家賃は実際のところぉ……?」
「家賃?」
豪華すぎるロビーを横切りエレベーターに乗り込むや否や、好奇心を隠し切れないミモザがおずおずとベルを尋ねる。確かに気になる、なにせこのエレベーターも全面ガラス張りだしシャンデリア付いてるからな……さぞ目玉が飛び出るような金額なのだろう。
わくわくとドキドキを綯い交ぜにベルの言葉を待つ。すらりとした指を顎に当てたベルは蛇の尾を揺らして「そうねえ」と斜め上を見上げた。
「管理費含めて……確か月30くらいだったかしら」
「さっ……」
「ヒッ……」
「へー」
ミモザとシエルの視線が僕に集まる。
え、なに、僕なんか変なこと言った?
「ラウ……?何なんですかその平然とした顔は」
「えっ」
「月30ってどういうことか分かってますかぁ……?30イェルじゃないですよぉ……?年でもないんですよぉ……?」
「ち、賃料月30万イェルってことでしょ?ちゃんと分かってるよ?ただこの設備でそんなもんなんだってちょっと意外……」
「「そんなもんんんんんん????」」
怖い顔をしたふたりに詰め寄られたじたじと後ずさる。
ななな何!?そんな変な話じゃないでしょ!?アルバストスの一等地だし100万とか200万とかすると思ってただけで……。
ビクビクとしながらそう続ければふたりはコソコソと小声で何事かを言い合い始めた。
「ミモザ女史、ラウの金銭感覚ズレてませんか?どういう教育をなさっているのです?」
「ラウちゃんってばこの世界に来てからずっと親善大使として大きい金額しか見てないからちょっとおかしいんですぅ。多分お給料も相当もらってますし前提が……そういえばこの間ロイくん『アイツ肉買う時必ず高い方選ぶんだよなぁ。美味いからいいけど』ってボヤいてましたぁ……」
「そういえば先程も高級食材を普通に手に取ってましたしね……なるほどロイドさんのせいでしたか。もう彼に任せておけません。私達で正しい金銭感覚を身につけさせましょう」
「あのぉ、丸聞こえなんですけど」
えっ僕って金銭感覚おかしいの……?確かに魔法界の価格相場って言われるとちょっと自信無いときあるけど、基本的には庶民的感覚しかないです、よ?あれ?違うの?お肉はスーパーの店員さんに聞いておすすめされたもの買っただけだし食材は鮮度が良いもの選んだだけだよ.…?
自分の価値観に自信が無くなってきてオロオロとベルを伺えば「そうねえ」と小首を傾げられた。
「アンタもここ住めば?セキュリティしっかりしてるからおすすめよ」
「そういう話じゃ……いやまあ確かに魅力的だけど一応僕実験体だから研究所からは離れられないかなぁ。今は職場も近いしねぇ」
「住めないとは言わないんですね……」
「余裕で払えるんですよぉきっと……親善大使怖い……」
ちょっと、僕をダシに仲良くならないでよそこふたり!キッと睨めば丁度エレベーターが目的階に到着したことを良いことにふたりはぴゅーっと逃げて行った。んもう、子供か!
「はい、鍵」
「はぁいですぅ」
カーペット張の廊下を進み、突き当りのドアにミモザが渡されたカードキーを翳す。するとドアの表面に魔力の波紋が広がり、次いでガチャンとドアから軽い音が鳴った。
自動的にドアが主人と来客を迎い入れるように開かれる。
「さ、入って」
「おじゃましまーす」
「ベルちゃんのお家久しぶりですぅ~」
「はあはあはあはあはあ、し、し、し、死ぬ……今日私は死にます……」
「何してんのよシエル。さっさと入りなさい」
何やら歓喜なのか絶望なのか分からない悲鳴が後ろで上がったが無視してミモザと共に部屋の中に足を踏み入れる。広々としたリビングは整然としており、モデルルームかと思うくらいお洒落だった。
「はあ〜……いつ来ても素敵ですねぇ」
「へええ、もっと汚いかと思ってた!」
「どういうことよ」
「ベルって掃除できなさそうじゃん。散らかってなくて意外だわーって」
「いい度胸ねアンタ」
口さがない感想にベルがにっこりと笑顔を浮かべる。なんだよ本当のことだろ、さっきもクッキーの屑やらゴミやら食い散らかしてそのままだったでしょうが。片付けないと僕がユリナに怒られる……おいやめろ氷魔法を展開するな!軽口に対して殺意が高すぎるでしょ!
まだ入室して一分経っていないというのに、僕とベルはギャーギャー取っ組み合うわシエルは玄関でぶっ倒れてるわで部屋はカオスもカオスな状況であった。ミモザが変態性を潜めて全面張りの窓の外をキラキラ眺めているのが唯一の救いか。
「戯言はいいから早く料理作り始めなさいよ。お腹空いてるのよアタシは」
「ふぁい……」
なんなのこの魔導士、僕にフィジカルで勝てるの訳わかんないんだけど……容赦無い右ストレートで腫れ上がった頬を抑えてシクシクしながらキッチンへ。
おや、こっちも綺麗に整頓されてる。まるで一度も使ってないのではと思うほど水垢も汚れもなく……何も……うん、何も……。
「……..ベルさんや」
「何よ」
「調理器具が新品の包丁とまな板とボウルしか無いんですが……?」
「そうだったかしら」
すっとぼけてんじゃないよこのラミアァ!!綺麗に掃除されてんじゃなくて一回も使ってないが正しいだろこれは!調味料も菜箸も計量カップも何もかも無いじゃんか!
おかしいと思ったんだよ!買い出しの時に僕がベルにアレあるかコレあるか聞くたびに「無かったと思う」「丁度切らしてる」って全然無いやんけって不思議だったんだよ!っていうか「切らしてる」じゃなくて「買ってない」だろうが見栄を張るな!
「くっ、フライパンも鍋もない……どう作れって言うんだよ……!」
「包丁とまな板とボウルで作るのよ」
「お黙り生活力ゼロラミア!ボウルに直火しろってか!?」
よくもまあ自分の家で料理作れって言えたもんだな!この後に及んでしらーっとしているベルに舌打ちをし、なんだなんだと集まってきたシエルとミモザを見比べる。
「ミモ、……………………シエル。悪いんだけど下のスーパーでフライパンと鍋買ってきてくれる?」
「その葛藤の間はなんです。いいですけど」
「いい?フライパンってのはこういう平べったくて大きな鉄皿みたいな形してて取っ手がついてる調理器具ね。お鍋はこう深くてスープとか作るやつ。わかる?」
「バカにしてるんですか?」
「分からなかったら店員さんに聞いてね。スーパーはエレベーターで3階まで降りれば正面にあるから。迷ったら連絡ちょうだい、迎えに行くからね」
「バカにしてますね」
だって世間知らず聖女にひとりで買い物頼むの心配なんだもん!!でもミモザには料理手伝って欲しいから残っててもらいたいしあの蛇はもう動く気なさそうで論外だし……!
僕の心配にむくれたシエルはふんっ!と鼻を鳴らして不満そうに腕を組んだ。
「フライパンと鍋くらい買えます。なんだったら買い出しの後お手伝いできるように私の分の包丁も買ってきます」
「あ、それは結構です」
「何故!!」
「さっき教皇様から電話あって『シエルリーファをよろしく頼む。くれぐれも料理はさせぬようにな、聖霊教会を半壊させた実績がある』って言われたから」
「ぐっぬ、ぬ……!!教皇様….!」
こればっかりは教皇様ナイス情報提供って思ったね。マギホに教皇様から着信入った時は超焦ったし『あのシエルリーファが友達とおおおっ!』って電話越しにおいおい泣かれた時は遠い目しちゃったけども。
「屈辱です……完璧に買い出しを済ませて貴女も教皇様もギャフンと言わせて見せますから……!」
「はいはい、くれぐれも気をつけてね。知らないモンスターに話しかけられてもついていっちゃダメだよ。あと変な友達が沢山できる壺とかモンスター付き合いが上手くなる幸運のネックレスとか売ってても買っちゃダメ。困ってるフリをして誘拐しようとする悪いモンスターが居るかもしれないからおかしいなって思ったらすぐ電話すること、それから……」
「大丈夫ですってば!」
プンプン怒りながら家を出ていくシエルの後ろ姿をハラハラと見送る。
本当に大丈夫かなぁ、心配だよ……。
「悪いモンスターに騙されて誘拐されたのはアンタでしょうに……全く、ラウも大概過保護よね」
「うふふ、いいお母さんになりそうですぅ」
───まさかソファーで寛ぐベルと手伝いのために裾を捲るミモザに、そんな評価を後ろで下されてるとは露にも思わない僕なのであった。
◆
大波乱の予感がプンプンで不安しか無かったが、豪語した通りしっかりをお使いをこなしたシエルと流石の手際を見せたミモザのお陰で無事にベルご所望のミートソースパスタを始めとしたイタリアン風料理は完成した。
普段から良いものを食べてるであろうモンスター達に手料理を振る舞うのは少し怖かったものの、意外にも誰ひとり文句を言うことはなく、それどころか皆んな美味しい美味しいと大満足の様子でひとまず安心。ピザやマリネなど結構な量を作ったが残すことなく平らげてくれ料理人冥利に尽きるなと皿を洗いのんびりと食後の時間を過ごすことしばし。
「さて、そろそろお風呂にしましょ」
そんなベルの何気ない言葉で新たな波乱が巻き起こった。
端的に言うとシエルがぶっ倒れた。
「きゃーーっ!?聖女様ぁ!?大丈夫ですかぁ!?」
「おおおおふふふふ、ろ?べ、べるっ、べるりあなさまと?は、はわ……ぶくぶくぶく……」
「いやもう怖いわ……誰も一緒に入るとは言ってないでしょうが。ベル先に入ってきなよ」
「うーん、そうねぇ……」
白目を剥いて泡を吹くシエルにドン引きしながら家主のベルに一番風呂を譲る。
しかしベルはミモザに鎮静の香を焚かれながら介抱されるシエルをニンマリと見下ろし、するりと僕の背後に回り首に抱きついてきた。
「寂しいこと言うじゃなぁい?折角お泊まりなのに一緒に入らないなんて、ねぇ……?」
「ひっ!?やめて耳元で囁かないでゾワゾワす……っておいコラなにワイシャツ脱がそうとしてんの!?や、ちょ、やめっ」
吐息混じりのアルトボイスにゾゾゾッと背筋を震わすのも束の間、その隙に両手首を後ろ手で拘束されシャツのボタンがプチプチと外され始める。
魔の手から離れようとジタバタ格闘するも蛇の尾が体に巻き付いて離れない。こんのぉ離せぇぇ!!
「ベルちゃん私にも参加させてくださいぃハアハアハアハアッ!!裸体!ラウちゃんの裸体!!」
「いやぁーーーーっ!?」
ド変態参戦。シエルをほっぽって飛び込んできたミモザの蔦によって拘束がさらにキツくなる。遂にろくな身動きも取れない状態にされシエルの隣に転がされた。
「げへへ……ラウちゃんの体隅々まで見るチャンスをずっと窺ってたんですぅ……念願叶いますぅ……ハアハア」
「良い体してるとは思ってたのよねぇ……。いいこと?美は共有して高みを目指すもの。みんなで高みを目指すの。ということで観念してその引き締った体をアタシ達に晒しなさい」
「嫌だ!こんな変態共と一緒に入れるか!僕はひとりで入らせてもら……いにゃあ!?バカやだどこ触って、やめてええ!」
抵抗虚しくあっという間に制服を剥かれ下着姿にされる。女だけだからって容赦なさすぎでしょ!?やだよぉ変態しかいないよぉ助けてえ!!
「……ハッ!わ、私は何を……」
「シエル!助けて変態に襲われてるの!」
「なんですって!?どう言う状きょ……」
目を覚ましたシエルが蔦に縛られベルにのし掛かられる僕を見てストンと表情を消した。
かと思えば無言で右手に司教杖を呼び出し、
「友達だと……っ!思ってたのに……っ!」
「おいおいおいおいおいどう言う思考回路でそうなった!?いや大体予想はつくけどもやめろこんなところで大魔法展開するな誤解ィーーーッ!!」
嫉妬に駆られ血の涙を流すシエルの後ろに儀典魔法もかくやな魔法陣が展開される。やめろーーーッ!誤解で死にたくないーーーッ!!
「やぁだ、勘違いするんじゃないわよシエル。みんなで入ろうって言ってんのにラウが抵抗してるだけよ」
「え?」
「そうですよぉ、聖女様もラウちゃん説得してくださぁい」
ふたりの言葉に我に返ったらしい。改めて下着姿で転がる僕と僕を拘束する蔦、そしてその上に乗っかるベルとはんなり息を荒げるミモザを見てうむ、と一つ頷き、己の醜態など何事もなかったかのように慈愛に満ちた微笑を浮かべた。
「全く、わがままを言うものじゃありませんよラウ。女同士だというのに何が恥ずかしいのですか。一緒に入った方が光熱費も水道も浮くでしょう。家主のベルリアナ様の負担を少しでも抑えようというただそれだけの話じゃないですか。それに私とは前に一度入ったでしょう。今更ですよ」
「その鼻血を止めてから言え……!!」
くそう、口調だけは理路整然としやがって……!恥ずかしいから嫌なんじゃなくて変態が変態するから嫌だって言ってんだよ!ベルの裸見てぶっ倒れるアンタを介抱すんのが面倒だって話だわ!
「大丈夫ですよ、私は聖女です。聖霊様にお仕えするものとして煩悩は捨てています。故に貴女の手煩わせることはありません。安心なさい」
「ラウちゃんの体は私が洗ってあげますからねぇ!」
「うーん、ただ黄金比には胸が少し足りないのよねぇ……特別にバストアップのマッサージ教えてあげるから来なさい」
「どいつもこいつも好き勝手いいおってからに……ヒイッ!?」
文句を垂れるが黙れとばかりに鼻先に司教杖の切先を突きつけられればそれ以上の抵抗などできようもなく。
結局、ベルとミモザのサムズアップに同じようにサムズアップで答えたシエルによって、僕は問答無用で浴室にへと連れ込まれたのだった……。




