アルマリオファミリー 其の十
◇
「おかえりなさい。……おや、随分と機嫌が悪いですね。何かいいことでもありましたか?」
「…………」
「まぁたダンマリですか?そろそろ心を開いてくれてもいい頃だと思うんですけどねえ。他の面々に比べたら私は貴方に優しくしている方でしょうに……まあいいですけど」
「では、最後の仕上げをしに行きましょうか。少々羽根が折れる作業で憂鬱ですが……仕方ありませんね。気張っていきましょう」
「なにせ、これはあの方が『勇者』の器を得るために必要なことですから」
◆
投入された大量のアンデッド軍団と戦意を取り戻したアルマリオファミリーの構成員達によって、蹂躙一方であった戦場はどうにか持ち直した。
いわば、第二ラウンドの開始。出だしは好調、反撃のターン……と思いきや、
「「うう~ん……」」
激化する戦闘から少し離れ対峙する敵の情報をアルマリオから聞いた僕らは、この状況に対し『芳しくない』と顔を顰め唸っていた。
「攻撃が通らない女花と、斃してもすぐに復活する小花……シンプルながら厄介だな」
「これがゲームなら同時進行で体力削っていってほぼ同時に撃破するのがセオリーだけどね。でもじゃあはいやってみて下さいって言われても現実問題難しいよねぇ」
「だが、その異常な回復力も無尽蔵って訳じゃァねェだろ。カラクリはどこかにある筈だ」
三者三様に自分の所感を述べて見るが、この状況を打開できるような案は出ず。どうしたものかと頭を捻る。
そのカラクリとやらの正体はアルマリオが以前見たというプロトタイプの噛殺花には無かった第三のモヴ因子にあるだろうことは間違い無いだろう。
しかし、じゃあそれが何なのかという話なのだが現時点では皆目見当もつかないというのが正直なところであった。
というか僕が持つモヴの知識などウェルデの郊外にガルムという種族が居るということと、エイデルみたいな特殊個体ってのが居るってことくらいだ。エイデル以外のモヴをしっかり見たのもクラーケン以来だし。こんな乏しい知識じゃ何の戦力にもなりようが無い。
つまり適材適所、そういう知識系は我らが頼れるインテリインドア鬼畜研究者ことロイドの役割である。
という訳で何か分かったことはあるかと戦場を鋭く観察していたロイドへと目を向ければ、彼は何かに納得したように瞑目し、一つ息をついた。
「よし、大体わかった。ラウ突撃して来い」
「そうだと思った!!よっしゃー行くぞ!!」
「待て待て待て待て、物理攻撃効かねェって言ってんだろうが。話聞いてたか?」
「勿論聞いてたよ。その上で叩いてみないと分からんということが分かった」
「バイオレンスは時にインテリジェンスを超えるんだぜアルマリオ」
「さては脳筋だなテメェら」
物知り顔でうんうん頷くロイドとやる気十分で肩を回す僕に「コイツ等に期待したの間違いだったかな……」と早くも自分の選択を後悔し始めるアルマリオ。
その反応に自他共に認める脳筋の僕は兎も角、研究職なのに脳の容量を疑われたロイドは心外だと言わんばかりのむっとした顔で反論した。
「違うって。現状正体を探ろうにも情報が少なすぎる。同じ物理でも別アプローチで攻撃した場合の反応も確認しないと何とも言えないだろ」
そう言って敵味方入り混じる中庭へと視線を戻したロイドは考え込むように腕を組む。
「今のところわかってんのは打撃は微妙、銃撃も微妙ってことくらい。傷はつくがすぐに回復される。対して斬撃は他の攻撃よりもやや回復が遅いか。まあ巨大化して凶暴になってると言っても所詮植物だしな……草は鎌で刈るもんだし。……となれば後は野焼き、とかか」
「は?野焼き?」
ロイドの観察眼に感心したように頷いていたアルマリオだが、その最後に付け足された言葉に素っ頓狂な声を上げる。
しかしそれを一切合切無視した青い目は、熟考の末突撃の準備体操をしていた僕へと向いた。
期待のこもった目にやるべきことを悟る。了解と言葉を返す代わりに身体強化を全身に掛ければ、満足気に笑んだロイドが指揮棒でも振るように指で進むべき道を指し示した。
「小花全部範囲に収めるのはむずいだろうから狙いは女花で。行けるな?」
「ユウキエネルギー活性率カウンターぎゅるんぎゅるんなんで余裕だね」
普段よりも魔力の巡りがいい。エネルギーが絶好調ですと喜んでいるようです。
そう、ユウキエネルギーが活性化し身体能力も魔力も出力が上がっている今この状態の僕にできないことなど無い……嘘だ、そこそこあるわ。モンスター生ゲームでロイドとベルを負かすこととか。
が、この技に限れば問題は無い。なにせ成功体験があるからな。本番には強いと定評がある僕ですので。
「ハナガタミ流、火剣───」
さあ行くぞ。気合いは十分だ。
抜刀術のように腰だめに剣を構え、足を大きく踏み込む。
同時に『無拍子』を発動。たった一歩、たった一瞬でトップスピードまで加速した体はアルマリオとロイドを置いて戦場の真っ只中に飛び込んだ。
着地の二歩目で地を蹴って更に目標へ近づく。王の指示で道を開けたアンデッド達の脇を駆け抜け、地面を割り砕く勢いで踏み込み跳躍、三歩目。
四歩目、『八艘』を発動し空を駆ける。振るわれた女花腕を掻い潜り、鍛錬により踏めるようになった五歩目で巨大な繊維質の女の真ん前へと到達する。
「コツコツと鍛錬したおかげでシラフでも成功8割まで持っていけるようになりました!喰らえ練習の賜物!」
剣に紫炎が纏う。火力上げてけ!と言わんばかりに轟々と燃え盛るそれに後押しされ、女花の中心目掛けて全力で振り抜く。
「───『火廻』!!」
剣戟により紫炎のマーキングを施し、マーキング対象を火に包んで火旋風を発生させる範囲攻撃がただ一体に発動する。
巨体故の緩慢な動きでは高速で動く敵の攻撃を退けられなかった女花は、胸部に入った横一文字の傷に硬直し、次の瞬間。
「ギ、イイイイイイィィィッ!」
ドブリと、傷から噴いた紫炎に飲み込まれた。
絶叫と共に長大な腕が滅茶苦茶に振られる。だが噴き上がる紫炎は獲物を逃がさない。掻き消されるばかりか勢いを強め、たちまち巨大な竜巻へと変貌しては繊維質の肌を舐め、焦がし、端から炭化させていく。
渦を巻いて立ち上がった火の蕾。それが巻き散らす延焼をもたらす火の粉、否、火弁とも言うべき燃え盛る花びらが周囲の小花の体も燃やしていく。
大火に包まれる女花と延焼にのたうち回る小花。流石に回復が追い付かないのか、大量に中庭に巣くっていた花達は凄まじい勢いで燃えその身を崩していくのが見えた。
「っしゃぁ有効打!!いっけぇフィナーレ!」
雑草がうざい?ならば根っこまで全部燃やしてしまえばいいじゃない!これぞダイナミック雑草駆除法!ただし行う時にはご近所さんへの配慮と安全対策は忘れずにね!火事になったらシャレにならんぞ!
女花と小花の苦悶の叫びに勝利を確信し、技の名の由来でもある炎の大輪を咲かすべく紫炎の制御に踏み切る。
───しかし、
「ギィィィイイ……ッ!」
木が軋むような鳴き声が戦場に木霊する。
それに呼応するように、紫炎は僕の意に反して突如その勢いを急激に弱め始めた。
「なっ!?」
女花が助けても求めるようにその両手を天へと突きだす。
その瞬間、目に見えて炎が小さくなった。
慌てて紫炎へと魔力を供給し竜巻を保とうとするも、まるで底が抜けた桶に水を注ぐように手ごたえが無い。
そのまま紫炎は抵抗もむなしく呆気なく消滅した。
「っ!!」
ぶわりと煙が広がるように女花を中心に赤い何かが放出される。顔の横を走った線状のそれに気を取られ息を呑むと同時に、視界の外から飛んできた蔦に横から打ち据えられた。
咄嗟に背筋を凍らせた悪寒に従って身体強化した腕を掲げ庇ったものの、勢いを殺せず体が吹っ飛ぶ。体勢を立て直そうにも視界がシェイクされ天地が判然としない。
不味い、このままじゃ背中から壁か床か噛殺花へと激突す───
「へぶっ!?」
全身に全力の身体強化を施し衝撃に耐えようとした刹那、ドガシャンッと何かに激突……違う、抱き留められる。
そのまま腹に回った腕は力強く僕の体を支え、風を切るような加速に頬を打たれた。後頭部を強かに打ち付けくわんくわんと星が回る中、ふらふらと己を抱えるものを見上げれば、
「えっ!?デュラハン!?」
「───」
頬をゴリゴリ削るのは近衛と同じようなデザインの黒い甲冑。本来鉄兜が収まる部分に何も乗せていないにも関わらず迷いなく馬を駆り僕を抱えて女花から離脱するのは、先程僕を4階から噛殺花諸共ぶっ飛ばしたロイドの眷属、首なし騎馬兵デュラハンだった。
感情を表現する顔が無い代わりに発するオーラで不本意を現わしながらも、僕の体をひょいと持ち上げて馬の背に同乗させてくれる。お、おま、おまぁ……っ!!
「はあああ最高か!?ありがとう本当にありがとう!なんだお前めっちゃ嫌な奴だと思ったけどすっごい良い奴じゃん見直しあぁあぁぁっっっぶねえええええ!?僕の首ごと斬ろうとするな!!」
バカじゃないの!?バッカじゃないの!!?あともう少し頭下げるの遅かったら僕の首ちょんぱっ!って飛んでたんですけどぉ!?
ハラハラと切られた髪の残骸が舞う。ヒイイマジで危なかった……オイコラこっち見ろバカデュラハン!!確信犯だろお前!!僕のこと殺したいほど嫌いか!?アンデッド的序列は僕の方が圧倒的に上だぞ分かってる!?
っていうかアンデッドモヴは思考する脳が無いって嘘でしょ絶対知性あるよねえコイツ!!?さっき4階から突き落としたのも絶対わざとだもんね!?
ギャーギャー抗議の声を上げるも、聞こえていないように無視して蔦をスパスパ切り落とし馬を繰るデュラハン。
何なのコイツムカつくんですけど!ってあー!?今「うるせーうるせー」みたいな感じでため息ついた!!顔無いけど分かる絶対ため息ついた!!もう怒ったどっちが上か教え込んでやるぁ!表出ろやコラァァ!!
◇
「……何してんだアイツら……」
全身から蔦を生やして暴れる女花の根本という危険地帯に居るにも関わらず、ここまで聞こえる気の抜ける言い合い(一方的)を繰り広げるラウと己の眷属にロイドは呆れたような声を漏らした。
あわや大怪我の危機であったというのに本当どこまでも緊張感が無い……いやもうこれ以上は何も言うまい。
ため息一つで内心を宥め、気を取り直して敵の異変に目を凝らす。
「なんだこれ……糸、か?」
どうやってか、ラウの紫炎を消し去ってみせた女花。戦場の中心で未だ苦しむキメラが体から発生させたのは、無数の赤い糸だった。
中庭中に張り巡らされるように現れたそれは、すぐ近くで焼け焦げ斃れた噛殺花にも伸びている。
恐る恐る触れてみれば、軽い感触に反して焼けるような熱と僅かに魔力が吸い取られる感覚を覚え、咄嗟に指を離す。
「ラウの火を消火すると同時に現れたように見えたけど……」
「違ェ、消火と同時じゃなく消火直後だ。中心から末端に掛けて熱を伝えるように出てきた。……蜘蛛系のモヴの因子でも取り込んでやがんのか?」
ロイドの言葉に被せるように訂正をしたのはアルマリオだ。
構成員達へと指示を飛ばし、近寄ってくる噛殺花に銃を撃ちこみ牽制しながらも、女花の異変を正確に観察していたらしい。ただのスケベオヤジでは無かったかと内心でこっそり眉を上げる。
そも、ラウの手前協力すると頷いただけでロイドとしてはアルマリオのことは一切信用していない。
ラウの誘拐事件には関与しておらず、むしろ被害者的立場であるとは聞かされているが、しかしそれを差し引いても警戒に値するモンスターであるとロイドは思っている。
なにせ、ラウのあの素晴らし……恥ずかしい格好は事情があったとはいえこの男の指示によるものだというし、なんか言動の端々に変態が垣間見えるし、自分を見る目が粘っこい気がするし、第一マフィアである。信用できる要素がない。
ただその頭の回転は早く、視野も広い。洞察力も高いようだし、部下への指示も的確だ。流石は反社会組織とはいえ巨大組織を纏め上げる頂点だ。
共同戦線を組むにあたっては非常に相談しやすい相手ではある。認め難いが。
そんなアルマリオが言う通り、この謎の糸は消火の直後に発生した。
これが一体何を示すのか……女花を起点に小花へと赤い糸が伸びる様はなるほど確かに蜘蛛の巣のようである。
しかし蜘蛛と深い関りを……それこそ自我を獲得した時から深い関係であり、何ならそれが最初に見たものと言っても過言ではないロイドは、目の前の糸はそうではないと理解していた。
「蜘蛛の糸は基本的に捕食の為に張られるもんだ。だから仲間と自分を繋いでんのはおかしいし、捕食や攻撃に使用していないのも違和感がある。それに蜘蛛の巣は掛かった餌を逃がさないよう通常らせん状で作られる。こんな一直線に繋ぐもんじゃないんだよ」
「なんだァ?やけに蜘蛛の糸に詳しいじゃねェか」
「………………………………………とにかく、あれは蜘蛛の糸じゃねえ。もっと別のもんだと思う」
分かっていてわざと言ってるのか、はたまた偶々か。やけにニヤニヤとしながらそう揶揄するアルマリオにイラっとした気持ちを抱きながらも無視して話を進める。
「多分、あれは捕食のためのもんじゃなくて……例えば……供給のためのもの、とか」
「供給?……あァ、なるほど」
独り言のような呟きであったが、アルマリオはそれだけでロイドの言わんとすることを理解した。合点がいったと、城中を這い回るそれをチラリと見遣る。
「どうりで、異様に根や蔦を建物中に這わせてやがると思ったぜ。寄生か」
「多分な。モンスターを捕食することで魔力や精力を補充し、この糸……恐らく菌類所以の菌糸を通じて供給しあっている」
ロイドとアルマリオの予測は、果たして正解であった。
ミコロードという菌類種のモヴがいる。
地中や樹木内部に菌糸を張り巡らせ他生物から魔力を吸収する寄生型モヴであり、主に『灰の都市』の山岳部に生息している。
その一番の特徴は女王個体を中心とした大規模な菌糸網を生成し、同一コロニー内で魔力を共有することだ。
末端個体が損傷しても女王個体から即座に供給を受け、逆に女王個体が損傷すれば末端個体から魔力を供給し損傷を回復させることが可能とされている。
恐らくだが、ラウの『火廻』の炎を消したのもこの魔力供給用の菌糸網によるものだろう。菌糸網で末端個体である小花に強制的に熱を送り込むことで女王個体の壊滅的な損傷を防いだのだ。
その証拠に、『火廻』の火旋風が撒き散らした火弁に触れていない個体もグズグズと体を焦がしているのが見える。程度の差はあれど、小花は皆体のどこかを燃やされ悶えていた。
「単体での戦闘能力は高くない。が、コロニー規模へ成長した個体群は一種の生態系として機能する為、殲滅難度は極めて高い……ってモヴの生態研究ガチ勢から聞いたことあるな」
「おいおい、イカれた殺意と食欲のバケモンにそんな生存特化キノコの特性を混ぜたってかァ?どこのガキが考えた『サイキョーの怪物』だってんだよ」
「キメラなんて作ってる奴らに道理を求めるのは無理だろ。……マフィア相手に道理を説くのもアレだけど」
「ハッ!違ねェ」
とはいえ、だ。
カラクリが解けたのならばやるべきことは一つ。
「ラウ!!この赤い糸が奴らの異常な回復力の種だ!片っ端から切ってくれ!」
「了解!」
未だにデュラハンと馬上の喧嘩をしていたラウだが、呼びかければすぐさま行動を始めた。
乗っていた馬の背を蹴って跳躍し、許容量を超えた熱によって赤熱化しその姿を現した菌糸を次々と斬って行く。
「お前等ァ!聞こえていたな!?やれェ!」
アルマリオも配下に同じように号令をかける。
ここで乗り遅れたら一生ラウとアルマリオにやんややんやと言われそうだ。苦笑いを浮かべたロイドも、負けじと近衛やデュラハンなど斬撃手段を持つ眷属へと同様の命令を下した。
だが、相手も自分の生命線とも言える菌糸が次々と断たれていくのをただ黙って見ている筈もなく。
「ギイイ、イイイイィィイイァァッ!」
半分程を切った所で女王個体である女花は不快な鳴き声を張り上げ、再び天へと両手を掲げた。
しかし今度のそれは助けを求めるためのものではない。
明確な意思を持って振り上げられたそれは、新たな動き。
断たれつつある生命線へのアプローチ、己を救えと、呼びかけるためのものであり───
「……っ!!ラウ!離れろ!」
「ッ!?退避しろッ!!」
手のひらが上ではなく下を向いていることに気づいたのは、同時だったか。
駆け抜けた嫌な予感に、ロイドとアルマリオがそれぞれの守るべきものへと離脱を叫ぶ。
その声に構成員達が悲鳴を上げてその場から離脱を始め、女花に一番近い位置にいたラウがハッと息を呑み、距離を取るために『無拍子』を、
「ギイィィイイイッ!!」
怒りの悲鳴と共に振り下ろされた両の手が地面を叩く。
自らの生命を脅かさんとするものを悉く叩き潰さんとする攻撃によって、中庭が跳ねた。
「うわっ!?」
「……ッ!」
石畳が砕け、さらに深くヒビが走る。蔦に侵され脆くなっていた城はその衝撃に耐えきれず、そこかしこを崩落させ始めた。
「く……っ!ラウ!ラウ……ッ!」
砂岩が崩れる凄まじい音と悲鳴が響く中、砂埃に巻かれながらロイドは在らん限りに叫ぶ。
ラウは女花から一番近い位置にいた。危険を知らせる声には気付いていたようだが、攻撃範囲から離脱できるようなタイミングではなかったし、『無拍子』が発動する前に攻撃に巻き込まれたようにも見えた。
まさか、と焦燥に駆られる。応える声は聞こえない。
嫌な想像に顔面から血の気が引いていくのを感じ、居ても立っても居られなくなったロイドはラウの名を必死に呼びながら飛び出……
「あっぶねええ!!九死に一生スペシャルッ!」
ボバッと音を立てて砂埃の中から何かが飛び込んできた。
何事かを叫びながら勢いそのままごろごろと地面を転がったソレは、両足両足の四点でしっかりと着地。今にも飛び出していきそうだったロイドの横でぶはぁっ!と息も絶え絶えに生還を噛み締め始めた。
「ひー、あぶな……死ぬかと思ったよぉ。ロイドありがいふぁいいふぁいいふぁい!なにふゅんのぉ!?」
「…………」
傷一つないその頬を摘んでむいむいと左右に引っ張る。素直にお礼を口にしようとしたのに礼を受け取られるどころか攻撃を受けたラウは哀れ、訳も分からず痛みに叫んだ。
「チッ、あのキモ花理性もへったくれもねェ攻撃してきやがって……おいそっちは無事……何遊んでんだよ」
「遊んでねえよ!」
くわっ!と吠えるロイドと赤く腫れた頬を抑えてえぐえぐ泣いているラウ。意味の分からない状況に晴れた砂埃の向こうから現れたアルマリオは怪訝な顔どころか胡乱な顔をし、そしてそれを隠そうともしない。
呆れたようにため息をついては、空気を切り替えるようにくいっと顎で何かを指し示した。
「んなことしてる場合じゃねェぞ。見ろ」
「……っ!?」
アルマリオの心底嫌そうな声に釣られるようにその先へとロイドとラウは揃って目を向け……広がる光景に絶句した。
地面に手を突いた女花。周囲には切られ接続先を失った菌糸がまるで彼岸花のごとく、或いはクラゲの触手のごとく所在なく揺蕩っている。
だが次の瞬間それは一本一本が意思を持つ触手のように蠢き、徐に地面に突き刺さった。
養分を注入するかのように脈を打ち始める菌糸。
嫌な予感に全員が顔を強張らせる中、菌糸が刺さる先の地面がもごもごと盛り上がり……
「「「「「ゴォォアアアアアアッ!!」」」」
「復活したぁぁぁッッ!?」
「冗談だろ……」
「生存特化ってレベルじゃねェだろうが」
しっかりと菌糸を接続させた無傷の噛殺花が雄たけびと共に這い出てきた。
そのあまりにも現実離れした生命力にラウがヒイイッ!と絶叫し、ロイドが疲れたようにため息をつき、アルマリオはもはや笑うしかないとばかりに遠い目をした。
「モタモタしてると復活するってか。……どうする?いよいよ打つ手無くなったけど」
「えええ……とりあえずもう一回菌糸切ってこようか?流石に無限ループってことは無いでしょ……無いよね?」
「……いや、」
終わりが見えない戦闘の予感にげんなりしながらも新たに生まれた噛殺花数十体の抑え込みにロイドがアンデッド達を向かわせ、ラウがもう一度特攻かけるべく体に身体強化を掛け直す。
しかし、ただひとり黙って花達を睨みつけて考え込んでいたアルマリオが静かな声でそれを制止した。
顎に手をやり何かを組み立てるように酷い有様の中庭を、次いでキャラバンサライの上階へと視線を向ける。
そして最後に怪訝な顔で自分を見上げるロイドを見て、ニヤァと笑みの形に顔を歪めた。
「ラウ、5分あの女花の意識を逸らせ。……考えがある。手伝えマブ」
「はい?」
「待ってマブって俺のこと??」
第二ラウンドは、まだ始まったばかり。




