アルマリオファミリー 其の九
◇
ロシェ主要街の外れ、堅牢な城壁に囲まれた砂岩造りのキャラバンサライ。
普段はその内に潜む者たちの素性から、夜通し篝火が焚かれるもののどこか粛然としているその城だが───三日月が不気味にオアシスを照らす今夜ばかりは、余りにも様相が異なっていた。
「ボスッ!!新しい花がっ!!」
「見りゃァ分かる……ッ!」
恐慌を起こし、助けを求めるように報告の声を上げた部下。何度目とも知れない舌打ちと共に銃を構えたアルマリオは、その背後に迫る蔦に向けて迷いなく引き金を引いた。
本来であれば空気を切り裂くような発砲音が響く筈だが、しかし銃が上げる凶悪な音はそれを上回る凶悪な破壊音と怪物の唸り声によって掻き消される。
部下を絡み締め付けようと忍び寄っていた蔦は放たれた銃弾によって風穴を開けられ、瞬く間に萎れた。
だがアルマリオはそれに歓喜することなく、むしろ表情に浮かべた忌々しさを強めながら肩に掛けたジャケットを翻した。
「準備できました!!」
「撃てェッ!!」
齎された報告に間髪入れず怒号を上げる。中庭に生えた巨大なソレへと標準を合わせていた部下たちは、その合図に一斉に指を引いた。
途端、大小入り混じった銃弾や砲弾がばら撒かれる。そこらのモヴの群れ程度であればひとたまりもない量の弾薬は、流石社会の裏を牛耳る反社会組織というべきものであったが。
「クソが!!これで何度目だと思ってやがるッ!!」
発砲音というよりも、爆音と称するべき凄まじい音共に標的へと殺到した弾。アルマリオファミリーの威信をかけた、構成員達の決死の銃撃は、間違いなく全てソレに命中していた。
だというのに、アルマリオは苛立たし気に吠える。彼の視線の先、もうもうと立ち上がる土煙の向こうに見えるのは───
「なんで……なんで倒れねえんだよぉ!!」
「ああ……お助けください、お助けください!聖霊様!!」
絶望の絶叫や、救いを求める嘆きがそこかしこから上がる。
あれだけの銃弾の雨を食らっても尚、悠然と立ち塞がるのは巨大な影。
6階建てのキャラバンサライの半分程の全長を誇る女の上半身を模したそれは、己の全身を穿った弾をまるで愛しむかのように両の手で撫でた。
しかし、その動きに女の色を認める者はこの場にひとりたりともいない。
無数の蔦を編み上げるように形作られた体は、女体めいた輪郭をしているというだけ。肌に見える部分は全て樹皮じみた植物の繊維だ。
筋肉のように赤黒い蔦が脈打つ様は見る者の生理的嫌悪を呼び起こす。
一瞬の内に銃創を塞いだソレの腰から下は無数の根が広がっている。根は中庭を好き放題に食い破り、その巨大な花を泰然と支えていた。
そう、花だ。
不規則に脈打ち軋むような音を立てるその異形は、首と形容できそうな部位の上から顔の代わりに巨大な花を咲かせていた。
分厚い花弁は黒に近い赤。腐った肉を思わせるその花の内側には肉食獣さながらの鋭利な牙が並び、粘つく粘液を糸のように垂らしている。
視界を得るための目がある訳でもないのに首を回し己を見上げるモンスターを睥睨するそのモヴは、牙を見せつけるかのように花弁を開き、咲き誇る───否、裂き誇った。
「───ヒ、イイィィィイイ……」
獣とも、女の悲鳴ともつかない……少なくとも植物が出す音ではない鳴き声が響く。背中を這う忌避感に顔を顰めると同時、先の銃撃により斃れたモノが蠢き始めた。
千々に切れた己の体を繋ぎ合わすようにボロボロの蔦を伸ばすそれは、通常サイズの噛殺花。巨大な女花と比べれば小花の如き、だがその実態は成年男性の図体を軽く上回る。
そんな決して小さくは無い小花は巨大な女花を取り囲むように、或いは侍るようにぐるりと配置されており、銃撃から女花を守るようにしてその殆どが倒れた筈だった。
だというのに。
「面倒くせえったらありゃしねェ!」
再び銃を構え発砲。逆再生のように体を修復して起き上がろうとする噛殺花へと再生を遮るように弾を撃ち込む。
アルマリオが放った弾は狙い違わず目の前の噛殺花を穿った。しかし、
「ヒィィィィ……」
再び響く鳴き声。次いで、ボロボロの噛殺花の体がドグリと脈打ち───女花を囲む小花は、その全てが何事も無かったように立ち上がった。
「ボス……ッ!」
「次の弾を用意しろ!コイツらの体力は無限じゃねェ!餌を与えず撃ち込み続けてりゃ勝ち目はある筈だ!」
震え、縋るような部下の声を跳ね除けるように怒号を上げ指示を飛ばす。同時に別の部下へとその凶蔦を伸ばす噛殺花へと連続して発砲した。
アルマリオは知っている、魘が持ち込んだであろうこのモヴの正体を。知っているからこそ『何故』と『どうやって』が脳裏を埋め、苛々と歯噛みする。
「魘のクソ野郎共……俺の城にキメラなんざ気色悪ィもん仕込みやがって……ッ!」
合成獣。
それは本来交わる筈の無い別種のモヴ同士を繋ぎ合わせ、その特性を無理矢理ひとつの肉体に縫い合わせる禁忌の構想。
かつての魔生物学の発展に寄与し得る『進化の可能性』として一定の注目を集めた研究であったが、生命を素材として扱うその研究は例えモンスターにとって害悪なモヴを素材にしているとしても余りにも悍ましいと生命倫理に抵触し、禁忌として封じられることになった。
魘は、そんな合成獣の創造を秘密裏に行っていた。
何ならアルマリオはその成果についてクマールから少しばかりではあるが報告を受けていたし、素材と費用の出資者にならないかと誘いも受けていた。
もっとも、合成獣は多数のモヴを強制的に統合させたことによる永続飢餓───即ち、複数の捕食衝動を抱えている為に、尽きせぬ食欲のまま敵味方の区別もつかずに本能のまま暴走する。
費用対効果が見込めない上、敵を食う前に見方を食い散らかすような怪物なんざむしろ金を積まれても飼いたくないと突っぱねたのだが。
「当てつけかァ?それとも」
口封じか。
そこまで考えてアルマリオは眉を寄せた。……恐らく、どちらも違うのだろう。
この用意周到な襲撃を見るに、魘は元々つけていたのだ。
用済みになったアルマリオファミリーを壊滅させる算段を。
「……ッ」
それに気づいた……気付かされたアルマリオは、苛立たしげに歯を剥く。
同じ土俵で戦っているつもりだった。
裏のルールに則り、取引に応じる姿を見て「コイツ等も裏世界の報復を恐れている」とたかを括って、そのルール内で手切れば渋々にでも納得するだろうと思いこんでいた。
なまじ話が通じるせいで気付かなかった。───魘の奴らに、ハナから裏のルールなんてものは通用しないということに、アルマリオは気がつけなかった。
魘への牽制も、ラウを使った手切れの演出も、全ては『こちらが主導権を握る為のもの』だった。
先手を打ったつもりだった。出し抜いてやったつもりだった。
だが実際には、それよりももっと前から魘はアルマリオファミリーを切る算段を済ませていた───読み負けていたのだ。
「許せねェなァ……ッ!」
奴らも、己も。随分とコケにしてくれたものだ。
考えれば考えるだけ忌々しく、吐き捨てるのをやめられない。
しかし、今は反省だなんだと悠長にしている暇はない。憤るのは後だ。
煮えたぎる怒りを堪え、アルマリオは再び目の前の敵を睨みつける。
この噛殺花もクマールの報告の中にあった合成獣だ。蔦を用いて獲物を狩り消化液で溶かし食う捕食花と、異常な狩猟本能と脳を収縮させるほどの飢えに支配された狼の因子を掛け合わせている。
そうして生まれたのが、この獲物を執拗に追い回し蔦で獲物を絡み取り魔力を食らう動く花。世の闇や汚いものを散々目にしてきたアルマリオをして醜悪と言える代物だ。
だが、記憶の中にある噛殺花はここまでの再生能力は有していなかった。
燃やせば斃れるし、一度斃れれば復活などできようもない。
となれば、何か別の因子も取り込まれていると考えるのが自然だろう。
噛殺花を従えるあの巨大な女花についても謎ばかりだ。
元々は中庭に咲いた巨大な花であったそれは、モンスターを捕食することで急激に成長を遂げ、今やその実態を知らないアルマリオが見ても『完全体に近いのでは』と危惧するほどに確かな形を持ち始めた。
とはいえ女花自体が積極的に攻撃に参加する訳ではない。己の手が届く範囲にモンスターが手を伸ばして捕獲しようとしてくるが、それだけだ。
その静けさが逆に不気味で仕方がない。
しかし近づこうにも無数の噛殺花が邪魔をするせいでその正体を掴むことはできずにいる。遠くから銃弾を叩きこんでも即座に回復するのだ、正直打つ手がない状況だった。
斃しても復活し、復活できないくらい痛めつけてもまた新たなモヴが生み出される。
噛殺花に絡めとられ、女花に食われ死んだ構成員の数は既に両手では収まらない数に上っている。このまま闇雲に銃撃を続けていればいずれ物資も尽きるだろう。
そうなれば、始まるのは花共による蹂躙だ。
終わりの見えない戦闘はじわじわと絶望をアルマリオファミリー内に侵食させ、壊滅へと追い詰めていく。
「…………ッ!」
積み上げたものを壊される痛みなど、今更だ。
裏社会に生きる以上、奪い奪われは日常茶飯事。
だが、自ら招き入れた狂人に内側から食い破られるなんて無様は、王であるアルマリオにとって如何にも認め難いものであった。
ここで敗北を認めれば、己の過ちに敗北したと同義。
しかしここで意地を張ればファミリーが死ぬ。
王である以上、部下の命より己の感情を優先する訳にはいかない。
アルマリオにはファミリーを守る義務がある。
金にも代えられない命。己の失態でそれを全て落とすなぞ許されない。
ならば。
「クソが……ッ!」
花と、己と、忌々しいあの組織へと悪態吐き、血を吐くような決断に踏み切る。
未曽有の事態に背を向け、敗北を認め、逃亡する───即ち、己の栄華の象徴ともいえる城の放棄を。
「クソがァッ!」
血が出るほどに拳を握る。砂岩城の王は凶悪な蔦によって至る所にヒビを入れた己の城を憎々しげに睨み、吠え、そして崩壊しつつある戦線に屈辱の旗を───
「────ぁぁぁぁぁぁあああああああっ!??」
「はァ?」
アルマリオの覚悟は、頭上から降ってきた叫び声によって挫かれた。
それは噛殺花の気色悪い蠢きの音でも、巨大な女花の背筋を這うような気味悪い鳴き声でもない。何なら野太いファミリーの野郎共の声でも無い、張りのある若い女の声だ。
それが何の前触れもなく、戦場に降ってきた。
何事だと思わず見上げると同時、4階の欄干からぽーんと大きな黒い影が飛び出した。
長い手足のようなものでジタバタと宙を掻くその動きは下から見上げていることもあって間抜けに見える。
だが笑っている暇は無かった。刻一刻と地上に、己らに迫るその影の正体は今も尚現在進行形で自分達を苦しめている忌々しい敵、噛殺花の巨体だったからだ。
「僕まで落とすんじゃねえこのバカデュラハンがぁぁあっ!!」
「───ッ!!退避しろォ!」
アルマリオの焦った命令と再び迸った女の叫びが被る。
同じく空を見上げていた周囲の構成員がその声にハッと我に返り、わあああっ!と蟻の子を散らしたように逃げ始めた。
アルマリオ自身も部下と共に空飛ぶ噛殺花の着弾地点から逃げる。
その最中、彼は見た───探していた女が、噛殺花と共に落ちてくるのを。
「……ッ!ラ……ッ!」
どことなくボロボロだが、未だメイド服の体をなしている衣装を纏ったその女は間違いなく数時間前に取引を交わした親善大使。どういった訳か彼女は噛殺花と共に宙を舞っていた。
ニーハイソックスを履いた足に絡みつく蔦は、せめてもの道連れにとでも言わんばかりにしっかりと絡みついて離れる様子がない。
あの高さから落下すれば間違いなく死ぬ。それは不味い。色んな意味で、今あの女に死なれたら困る。
即座にそう判断したアルマリオは叫び声を上げる女を拘束から解くべく咄嗟に銃を構えた。
が、細足に絡みつく蔦が駄々でもこねるように暴れるせいで照準が付けられない。ブレる的に舌打ちし、間に合わないと分かりながらも風魔法が使える部下に風のクッションを作れと命令を───
「死ぬ死ぬ死ぬぅぅうおおぉぉ死んでたまるかあああ!!超簡易版ハナガタミ流奥義ィ!」
泣きが入った絶叫が、ヤケクソ気味の気合いの声へと変換される。
足を掴まれていながらもぐるんと器用に宙で体勢を立て直した女は、右手に握った剣を構え、叫ぶ。
「───『オチザクラ』ッ!!」
瞬間、剣線が黒々とした闇夜を切り裂く。
走った銀の軌跡は一瞬の空白の後、細足に絡みついた蔦を断ち切り、花弁を裂き、巨体を真っ二つに叩き割った。
はらり、と。やけに呆気なさを感じる動きで断たれた噛殺花の部位が宙で崩壊する。
散り行く儚げな花弁のように細切れになったそれは、次の瞬間、ドドドドォッ!!と空爆のような凄まじさを持って中庭へと降ってきた。
その質量を持った噛殺花の雨に構成員達が悲鳴を上げて逃げまどい、地上で猛威を振るっていた噛殺花の何体かが下敷きになる。
「う、お、りゃああああっ!」
未だ宙にある最後の噛殺花の花弁の上で紫の波紋が広がる。裂帛の声と共に射出された何かが花弁と共に地上へと一直線に空を下り、そして、
「……あ、あっぶな……死ぬかと思った……心臓バクバクしてる……動いて無いけど……」
凄まじい音を立ててバラバラになった噛殺花と共に着地したのは、プリマフリルの代わりに狐面を装着したメイド。
緩衝材にした花弁の上、剣を突き立てた姿勢でぜえはあ荒い呼吸を繰り返す女は、噛殺花達すら沈黙する中庭で全ての視線を掻っ攫っていた。
「ふいー、成功してよかったぁ……やればできんじゃん流石僕……ってあれ?アルマリオじゃん。無事だったんだ」
「…………その言葉、そっくりそのまま返してやらァ……」
わざとらしく額の汗を拭ったところで、ようやくアルマリオの視線に気づいたらしいメイドは「やっほー」と道端であったかのような気軽さで手を振る。
とんでもない登場をしてのけたくせに平然と笑顔で挨拶してきた女の正気が信じられず、アルマリオの顔は盛大に引き攣った。
しかし、アルマリオの心痛はこれだけじゃ終わらない。
「おーい、大丈夫か~?」
「あっ!ちょっとロイドぉ!?眷属の躾がなってないんじゃないの!?死因:デュラハンになるところだったんですけど!」
「うーん……アイツなんかお前さんのこと異常に嫌ってんだよなぁ。普段そんな乱暴なことしないのに……もしかして餌勝手に食べたとかした?」
「アンデッドモヴに餌なんていらないでしょうがっ!!」
ラウと噛殺花が飛んできた欄干からひょっこりと顔を出したのは、やけに綺麗な顔をしたひとりの男。
一見女と見紛うほどに中世的で少年然としたそいつは、眦を上げるラウと気の抜けるような会話をしながら姿を消す。
かと思えば次の瞬間、音もなくアルマリオ達の目の前に再び姿を現わした。
「ッ!?」
「あ、ここの責任者か?どーも、うちのじゃじゃ馬が世話になったようで」
「じゃじゃ馬はあの首なし馬でしょ!!」
「世話になったついでに悪いんだけど、俺の不法侵入についても緊急事態っつーことで大目に見てくれない?ちゃんとあのキモイ花は片付けるし怪しげなもんは見て見ぬ振りするからさ」
「話を聞けっ!」
瞬間移動としか形容できない移動術を目の当たりにしてギョッと目を剥くアルマリオと周囲に居た構成員。それをまるっと無視してのんびりとそんなことを宣った男は、ギャンギャン吠えるラウをはいはいと片手間で宥めていた。
どうやら単身ここに乗り込んできた親善大使と既知であるようだが……と、そこまで考えたところでアルマリオの脳裏にある情報が蘇る。
まさか、と信じられない思いで目の前の男の素性に思考を巡らせるアルマリオ。だが当のモンスターはそんなアルマリオをよそにラウへと雑談混じりの状況報告を始めた。
「今ので4階のは全部だな。3階も今終わったって。残すところはこの中庭だけだ」
「おお〜、流石アンデッド軍団。仕事早〜い」
「いくら範囲攻撃持ちの巨体といえど、残機無限の数の暴力にゃ勝てねえってな。とはいえあそこまでデカい奴には面制圧は無理そうだけど……」
「そうだねぇ……そういえば前々から疑問だったんだけど、ロイドのアンデッド軍団って最大何体まで召喚できるの?」
「えー試したことないから分かんねえ。俺の魔力が持つまでじゃね?デュラハンとかデカいのは兎も角、スケルトンとかリビングデッドみたいな雑魚は別に地面の中に埋まってる死体を引っ張り出してる訳じゃ無くて、魔力で一から創造してるってのが正しいからなあ」
「なにそれ怖い」
未だ戦場の真っ只中だというのに繰り広げられる呑気な会話。
その呑気さもさることながら、会話内に散りばめられたとんでもない単語に冗談だろ、と己の脳内にある情報を精査していたアルマリオの顔がさらに引き攣る。
しかしてそれが冗談ではないことは、僅か数秒後に立証されることとなった。
「ボス!?城から大量のモヴが……っ!」
悲壮感漂う声で報告を上げる部下が指差す方を見れば、ゾロゾロ……どころか、どこに隠れていやがったと絶叫したくなるほどの量のアンデッドが回廊やら部屋やらから現れ、中庭に向かって集合し始めていた。
「あー悪い悪い、それ俺の。攻撃しないでくれ」
またしても目を剥き、現れた新たな脅威に対抗すべく銃を構える。しかしそれは飄々とした態度を崩さない男によって制止された。
無数のアンデッドを自分の所有だと言い切った男は、そのまま散歩にでもいくような気軽さで一歩前に出る。
そうすればまさしく軍勢と呼ぶべき数のモヴ達は、男の足元に一斉に膝をついた。
不死の軍勢がひとりのモンスターに跪くという異様な光景。しかし平然と、さも当然と言わんばかりに平伏するモヴを受け入れた男は、次いで視線を未だ暴れ回る噛殺花と依然無傷の女花へと向けた。
言葉のない命令に、最前で跪いていた大きなフルプレートアーマーの騎士数体が立ち上がる。
「アルマリオ、ここポーションとか回復アイテム的なの備蓄してないの?」
「あ、あァ……2階西側の倉庫に大量に貯蔵してるが」
「怪我してるモンスター多いし、それ使っちゃっていいよね?……よーし、手空いてるアンデッドは倒れてる怪我モンを2階に連れてって看病してあげてー!ドライみんなへの指示だしよろしくね!」
軍勢の内半分が戦場へと駆けて行った騎士の後を追い、もう半分がラウの呼びかけ通り中庭で倒れる構成員達の回収するべく動き出す。
下手をすればモンスターの組織よりも統率の取れたその軍勢の動きに、同じ統率者であるアルマリオは遂に乾いた笑いを上げた。
「……なるほど。これが当代のリライヴェッジ所長の秘蔵っ子かァ……噂に違わねェ厄介さだな……」
「有名モンみたいに言われて嬉し恥ずかしではあるんだが、俺をあのマッドの息子みたいに言わないでくれるか?アレの子供はコレだけだ」
「…………………」
「アレのコレがすげェ顔してっけど?」
「未だにあの時の判断ちょっと後悔してんだろうな……」
確かにあの魘が苦戦する訳だ。アルマリオは思わず喉を鳴らす。
それは魘の思惑が悉く外れていくことへの納得感。魘が用意した障害が容易くぶち壊されていくのに対する痛快さ。ざまあみろという嘲弄故───否、否。
アルマリオを掻き立てるのはそれだけではない。
ピースが嵌っていく。圧倒的に足りなかったものが、このふたりによって急速に埋まり、明確な形となっていく。
「……くはっ、面白ェ……ッ!」
そして、アルマリオは見た。
崩壊した戦況の中に勝ち筋を。
終わりかけていた盤面が音を立ててひっくり返るのを。
このクソッタレな状況をぶっ飛ばす手立てを───!
「…………ラウちゃんよォ。勿論あの取引、忘れちゃいねェだろうな?」
その言葉に、いつの間にか現れた首なし騎馬兵と取っ組み合いをしていたラウは嫌そうに眉を顰める。
そして不服さを隠そうともしない表情のままぷいっと顔を逸らした。
「忘れてないからここに居るんですけど?お陰で後でガチ説教コース確定だっての。後でちゃんと情状酌量の余地が認められるような証言してよね」
「そりゃ重畳。でェ?そっちの可愛いツラした兄ちゃんも、まさかここに来て尻尾巻いて逃げやしねェだろうなァ?」
「なんか急に元気になったなこのオッサン……ウチのじゃじゃ馬妹がアンタらを助けるって息巻いてるんでな、さっさと終わらせて連れ帰るためにもできる限りの手は貸すさ」
「いいねェ。褒美にこれが片付いたら盛大に可愛がってやるよ。ベッドの上でなァ」
「!?き、禁断の恋……っ!?」
「何それ新手の拷問?」
「俺ァ男でもいけるぜェ?その顔なら尚更」
「帰っていいか?」
世にも珍しいモン工モンスターでアンデッドモンスターである男がすこぶる嫌な顔をし、ラウがきゃっとわざとらしく口を手で覆う。
その余裕しか感じられないふたりを見てアルマリオの笑みはさらに深まった。
あの噛殺花とタイマン張って力負けしない突破力と、圧倒的な数による制圧力。
この場を支配するにおいて最も重要な力を得たアルマリオは、勝ち筋に目をギラつかせた。
───駒は揃った。
確信を抱き右手天高く掲げ、最後に残った一発の銃弾を夜空へと撃ち込む。
「───全員、聞け」
敵味方どころか、モンスターとモヴが入り乱れる戦場において、その発砲音は決して大きく響くものでは無かった。
その声は、忌々しい敵の声を掻き消すような勢いなどまるで無かった。
だというのに、戦場に立つ知性ある者達は傲然と立つこの場の支配者の姿に釘付けとなった。
「ここからは総力戦だァ。……取り返すぞ」
絶望に屈していたモンスターは、その言葉に込められた力にゆるゆると顔を上げる。
見上げる先は見慣れた背中。いつも自分達を導く、プライドと覚悟が、そこにあった。
崩壊寸前だった戦線に、僅かな熱が戻る。
誰も恐怖を忘れた訳ではない。
だが、群れを率いる頂点がまだ諦めていない。
膝を折るな、心を折るな。立ち上がれ、戦え、俺はまだ諦めていない。
己達のボスが、絶望を鼻で笑い勝利を掴み取るため立ち上がる。
アルマリオという頂点が率いるファミリーにとって、それは何よりも大事な、立ち上がる理由だった。
圧倒的な絶望の前に、しかし負けじと戦意を再び滾らせた部下に……家族に、アルマリオは不敵に笑う。
そして、高々と宣言した。
「俺らの城を好き勝手荒らしやがったクソッタレ共を一掃する。───天下のアルマリオファミリーの意地、叩きつけてやれェ!!」
おおおおっ!!と、野太い鬨の声が戦場に轟いた。
ちなみにデュラハンは可愛い乙女(首なし)
常に自分磨きを怠らない女子中の女子にしてレクス強火ガチ恋勢。得意料理はホーレソーの胡麻和え。
だけど最近現れた女が王に馴れ馴れしくしてるのを見てジェラシー募らせてる。王の周りチョロチョロしやがってこの首ありがぁ……!
というわけで隙あらばヴァルハラに連れて行ってやろうと画策している。漢女。多分エイデルと気が合う。
ちなみにアンデッドレクスの眷属について補足説明。
レクスの眷属は大きく分けて3種類
・近衛
→特別な眷属契約を結ぶことにより、常に王から魔力を供給され侍ることを許された特別な眷属。コイツらが存在する限り王は魔力を常に消費する。
とはいえ待機電力ならぬ待機魔力はロイドの魔力総量の0.何%って感じなので無きに等しい。
・眷属
→契約を交わし、消失(=完全なる死)しないよう時間を消失前で固定された眷属。普段は非顕現、実態がある時まで時間を戻すことで顕現できる。大型モヴが多い。デュラハンちゃんはここ。
・その他大勢のアンデッド方
→作中のロイドの説明通り。
そしてその序列ですが
ロイド(王)>>>>>ラウ(モンスター)>>>越えられない壁>>>近衛>>>>>>眷属アンデッド>>>>>>雑魚アンデッド
なので、デュラハンちゃんが王に娶られるためには滅茶苦茶頑張って下剋上する必要がある。っていうかまずはモンスターとモヴを隔てる壁をなんとかしなくてはいけない。種族違うからね。
あと首の有無。




