アルマリオファミリー 其の八
大変お待たせしました。
アルカナシャドウのビジュにやられてたんプリ見始めました。ジェット先輩メロすぎんか?
って思ったらうちにも似たような属性のやついたわ。癖の業が深えなぁ〜
「ロイド!?なんで!?本物!?嘘でしょ!?どうやって!?え!?幻覚!?極度のストレスに晒され続けてバグった脳が見せてる幻覚なの!?いや本物の訳ないよね偽物か!?僕を陥れる為にロイドの偽物まで用意したのか魘んんんっ!?」
「ぎゃーっ!?なんだこの痴女!?やめろ俺には心に決めた弟がいるんだ、そんな見え透いた痴女メイドトラップに引っ掛かるか!今忙しいんだよ離せ!!」
「誰が痴女だコラァッ!!」
不可抗力じゃ!好きでこの格好してんじゃないんだよ!
っていうかなんだこの偽物!ロイドの口の悪さそっくりそのままトレースして凄い再現性じゃん!めっちゃ失礼!ムカつくぅ!
修羅場の真っ只中であるのも忘れてロイドの(推定)偽物の肩を怒り心頭で揺さぶり格闘していると、ふと尻の下から呆れたような思念が飛んでくる。
そして次の瞬間、今の今まで尻に敷いていたフルプレートアーマー騎士の姿が突如姿を消し───否、浮遊する頭蓋骨姿へと戻った。
「わっ!?」
「あ?」
体が床に落ちる。そのまま頭蓋骨は僕を引き剥がそうと奮闘するロイドの元へと飛んでいく。何かを伝えようとするように上下に揺れる頭蓋骨にハッとしたロイドは、むいむいと顔を押し返す手を止め驚愕に目を見開いた。
かと思えば目をすがめてはじーーーっと難しい顔で僕を凝視し始める。視線が下から上に登り、一瞬足に降りてから頭上のウサミミへと探るように向けられた。
「………………………………もしかして……ラウ、か……?」
「は?何言って……ハッ!!」
何を当然のことを、と言いかけてようやく気が付く。今の僕にはウサミミプリマフリルの認識阻害がかかっている。クマールさんや七番は何故か看破出来ていたようだが、普通は今の僕はメイド服を着た別モンに見えているのだった。
話が噛み合わない訳である。慌ててプリマフリルをむしり取ってコクコクコクッと頷いてみせた。
「そ、そう!僕です!ラウです!!親善大使です!」
「ええ……?なにその格好、まさか趣味……?」
「んな訳あるかぁ!」
い、いいんじゃない……そういうのは個モンの自由だし、ね……みたいなドン引きと困惑と僅かな称賛が入り混じった生暖かい目線を向けられ更に憤慨。これは変態に変態された末の不可抗力なんだってば!決して自主的なアレソレじゃない!
しかしそんな僕の弁明の声は、彼のパーカーのポケットから響いた可憐な声に遮られた。
『ラウちゃん!?ラウちゃん見つかったんですか!?ちょ、ロイくん早くテレビ通話モードにしてラウちゃんの無事な姿を私達に見せてくださうぇええええ!?かっ可愛い!えっちょ可愛い!?メイドさん可愛いいいいぃ何ですかそれけしからんえっちすぎヒィイ可愛いいいい!?!!?』
『大使!良かった、無事だったんです……きゃあっ!?ミモザさん!?なんで突然鼻血を!?きゃあああ鼻血が噴水みたいに!』
カオスすぎるて。
何かが盛大に噴射される音とユリナの絶叫が静かな最上階の回廊に響き渡る。
突然の変態の大騒ぎに何て言えばいいか分からず助けを求めるようにロイド見れば、ロイドもすごい変な顔をして僕を見ていた。
うん……疑ってごめんね。本物だねこれ。こんな偽物いる訳ないもん。居たら怖いもん。再現性が高すぎて。
「ごほん、えーっと……それで、なんでロイドがここに?」
僅か5秒で場を混沌に陥れた変態アルラウネと哀れな被害者補佐官との通話を無言で切ったロイドが本物と分かったところで、改めてここに居る理由を尋ねる。
いや理由は勿論僕の救助なんだろうけど、聞きたいのはどうやってこの場所を特定したかということだ。
僕の位置情報を発信できるものは全てクマールさんに取り上げられたか破壊されている。なのにどうしてここがわかったのだろう。
「……博士がお前さんの狐面に、っていうかあの親善大使専用瞬時収納システムに位置情報発信器を仕込んでたんだ。それを追ってここまで来た」
「あ、そ、そうなんだ……こんな所までわざわざすみません……ありがとうね……」
博士……僕の位置情報色んな手段で把握してるんだ……ちょっとキモ……いやまあやりそうだしそうでしょうねって納得感もあるけども。
もはや体にマイクロチップ埋め込まれてましたってなっても驚かないよ。でもやっぱり嫌だから帰ったらロイドに確認してもらおう。
己のプライバシーの無さにげんなり。実験体の辛いところですね……と項垂れていると、その間に改めて僕の体を検分し怪我も無いことを確認していたロイドがはあああ、と盛大にため息をついた。
「全く、フラグ回収が早すぎるんだよ。マジで俺を心配で禿げさせるつもりか?」
「ご、ごめん」
憎まれ口を叩きながらもほっとしたように表情を緩めるロイド。その様子に安心感が一気に押し寄せてきた。
思わず涙腺が緩みかけ、ぐっと口を引き結ぶ。そんな僕を気遣ってか、浮遊頭蓋骨もといアインスが再び全身顕現して手を差し出してくれた。や゛さ゛し゛い゛……。
「とりあえずここ危ねえからさっさと出よう。なんか下大騒ぎしてるし、そこら中ヒビ入ってるし……っていうかお前さん、なんで外から飛び込んできたんだ?その恰好も意味わかんねえし」
「え?あ、ええっと、その……っ!?」
ロイドの言葉に我に返り、そうだったと自分の身とこのキャラバンサライに迫っている危機を説明しようと口を開く。
しかしまたも僕の言葉は遮られる。
───突如、目の前で床が爆ぜたのだ。
「は!?なんだ!?」
「……っ!まさか!」
僕が吹き飛ばした扉の向こう、豪奢なベッドが置かれたアルマリオの寝室が轟音と共にぶち抜かれる。ガラガラと凄まじい音を立てて瓦礫が吹き飛び、部屋中に砂礫が舞った。
突然の衝撃に僕らを庇うように近衛たちが前に出る。その背から向こうを覗き込めば、床に開いた大穴から毒々しく脈打つ赤黒い蔦が這い出して来るところだった。
肥大したそれはずるりと根を生やすように床を這い、軋むような音を立てて重たい体を持ち上げる。
穴から現れたのは、やはりと言うべきか僕を散々追いかけ回したあの噛殺花だった。
「しつっこい奴だな本当に……っ!」
「うわ気持ち悪……なにあれ、ここのペット?」
「アルマリオの趣味が最悪なのは否定しないけど、流石にあれをペットにするほどではないかな!」
どうやら最上階へ行く手段が見つからず、業を煮やして強行突破したらしい。絶対の獲物を逃さないその執着の本能は異常でしかない。
「ゴルルルァァァ……」
蔦を以て立ち上がった巨大花が牙が並ぶ口から粘液を垂らす。
その唸り声は、一度は逃した獲物を見つけた歓喜か、新たな餌を前にした昂揚か、それとも追い詰めた獲物へ向ける勝鬨か。
いずれにせよ、噛殺花は元が花とは思えない獣じみた感情を真っ直ぐに僕らへとぶつけてきた。
どこまでも僕を餌としか見ていない───そう理解した瞬間、何かが僕の中でブチッと音を立てた。
「何が何だかさっぱりだが……とりあえず、や」
余りにも凶悪で理性の欠片も見えないそれに、よく分からないまでも正面の生き物を脅威と見做したロイドが無言で近衛たちに排除を命じようと片手を上げる。が、
「フィフ、それかして」
「は?」
今現状全身顕現している近衛は大剣を構える一番目、大楯を持つ四番目、そして大槌を担ぐ五番目の三体。
その内、僕は自分の身の丈ほどもある大槌を持つフィフへと手を差し出した。
僕の突然の行動に近衛に命令を下そうとしていたロイドが素っ頓狂な声を上げ、名指しされたフィフが『え?これすか?』みたいに大槌を指さした。そうそう、そのハンマー貸して。
「えっちょ、ラウ?ラウさん?何する気ですか?」
獲物を寄越せと言われオロオロするフィフと顔を引き攣らせるロイド。しかし投げられた疑問と困惑をまるっと無視してはよせい、とくいくい手を招けば、フィフはおずおずと柄を差し出してきた。
ちょうど良い重みだ。軽く振って握りを確かめる。うんうんいい感じ。
「ちょっと下がっててね。アインス達も」
いやね、ただの私怨じみたもので申し訳ないんですが、僕もう本当~にイライラが限界なんすわ。
なんてったって訳の分からない動機で誘拐されるわ、変態山羊にコスプレ強要されるわ、好き放題触られまくるわ、何故か目の敵にされてキモイ花差し向けられるわ、それにめちゃくちゃ追われるわ……もういい加減限界も限界よ。
「ふふ、ふふふ……確かにね?確かに自業自得の部分もあるかもだけどさ、でもここまで追い詰められる謂れは無いよねえ……?」
「おいなんだその構え、嘘だろ?流石のお前さんの馬鹿力でもそれは無理じゃ……」
焦るロイドの声を聞こえていないふりで躱して大きく振りかぶる。
噛殺花も目の前の餌が放つ殺気のようなものに気付いたのか、ギチギチと威嚇のような音を発しながら鞭のようにしなる蔦を振り上げた。
叩き潰さんと迫る蔦を真っ向から見据え、片足をあげ、限界まで体を引き絞り───
「よくも追い回してくれたなこのキモ花ぁ……ぶっっっ、飛べぇっ!!」
溜めた全体重を叩きつけるように一気に大槌を振り抜く!
全力のスイングによって空気が悲鳴を上げる。そのまま勢いを殺さず、思い切り噛殺花の胴体部分へと大槌の打撃面を叩きこんだ。
ドグォンッ!なのかボガァンッ!なのか形容し難い重い音が響き渡る。柄を渾身の力で握り凄まじい衝撃を抑え込めば、衝撃は余すことなく巨体に伝わり大槌をめり込ませる。
一瞬の撓みの末、赤黒い茎のような胴体がくの字に折れ曲がり背後の大窓へと吹っ飛んだ。アルマリオの素性的に耐衝撃に特化した強化ガラス製であろう窓がまるで紙の如く軽々と突き破られる。
叫び声も上げられずにガラスの破片と共に外へと錐揉みして行った噛殺花。キラキラとした輝きを纏って空中を舞った奴は、地面に落ちる前に体を走る大ダメージに耐えきれず自壊するように爆散した。
「…………ふう」
静寂が戻った部屋の中心でゆるりと残心を解く。いつも剣でするように大槌の柄で肩をトントン叩き、汚ねえ花火を打ち上げた爽快感に満足を覚えて振り返る。
そして何やらやけにビクビクしてる近衛と全力で守られてるロイドへにっこり笑ってサムズアップ。
「うん、スッキリした!」
「……ヨ、ヨカッタデス、ネ?」
カタコトでそう答えたロイドの顔は何故かすごく引き攣っており、その体は化け物でも見たかのように震えていたのだった。
……あれ?そういえばロイドさん、さっき僕のこと馬鹿力って仰いました?
◆
「……で、いい加減何が起きてんのか教えて欲しいんだけど?」
「え、あ〜……」
『いやその違くて、別にバカにした訳じゃなくて、その〜え〜とそう、頼り甲斐のある怪力だけど流石にあんな大物相手じゃ分が悪いんじゃないかって心配してのことでな?決してバカみたいな怪力って思ってるとかそういうのじゃなくてね?』としどろもどろの弁明の甲斐あり、ロシェ主要街空の旅(爆散付き)刑は免れたロイドは、狐面と制服を探す僕へとそんな至極真っ当な問いを投げかけた。
噛殺花のせいで滅茶苦茶になった(一説によると噛殺花が現れる前から割と滅茶苦茶だった)アルマリオの部屋の中、結構な無茶をした自覚のある僕は言葉を濁しながらこっそり渋面を作る。
なんせ、誘拐事件の背後を探るためと言って悪の組織の本拠地に単身乗り込んだのだ。それどころか悪の親玉に危険な取引を持ちかけ、誘拐犯に対峙までする始末。
冷静に考えたらド説教ものである。これが可愛い可愛いパーシーにやりましたと言われたら僕だって怒る。
でも怒られるのは嫌だ……滅茶苦茶心配かけたのだから怒られてしかるべきなのは理解しているが、しかしロイドと陛下のお叱りは本当に怖いのでできれば回避したい。なんていうかこうメンタルを直接壊しに来るっていうか、うん……。
ならば誤魔化すしかあるまい。バレたら例の恐怖刑:締め落としからの猫包囲刑を言い渡されるのは間違いないだろうが、僕はそこに微かにでも希望があるのならば最後まで抗う……っ!
ビシバシ刺さる追及の視線を「あ〜制服だけ見つからないな〜困った困った〜」と捜索に精を出す振りで躱しながらそう心に決める。っていうか本当に制服ないな。あの花と一緒に吹っ飛ばしちゃった……?
ただまあ相手はやけに察し能力の高いロイドである。白々しい僕に何かを感じ取ったのか、無言で近寄ってきては徐に僕の肩にポン……と静かに手を置いた。
「ラ・ウ・ちゃん?」
「うっ……」
何かやったな?何した?洗いざらい吐けコラ。
言葉は無いものの、発するプレッシャーを以てそう追い詰めてくるロイドに冷や汗がダラダラ流れる。
い……いや!まだだ!まだ終わらんよ!始まってもおらんよ!ぶっちゃけ怖すぎて体が震え始めてるけどまだ目はある筈だ!そうだ誰か僕に味方してくれればまだワンチャンある!
そう思って一緒に捜索してくれている近衛たちにへるぷみー!と視線を送るも一斉に顔を逸らされた。おーいっ!?
「正直に話した方が身のためだぞ」
「ひっ!」
刻一刻と重くなるプレッシャーに耐えかねて恐る恐る振り返る。にっこりと、にっっっっこぉりと笑うロイドの後ろには般若みたいなのは浮かんで見えて……
「隠さず、全部……説明、な?」
「……はひ」
遂にはミシッと鳴りだした己の肩に恐怖を覚えた僕は、一切抗うことなく白旗を上げたのだった。
5分後。
「……ってわけでぇ……変装してアルマリオとクマールさんの取引現場に参加したんですけどぉ……」
「はい」
「結局最後まで魘が僕を狙ってる理由は分からなかったんでぇ……その七番ってモンスターを追いかけて問い詰めてぇ……」
「はい」
「でもやっぱり教えてくれなくてぇ……それどころかアイツこの城壊すためにさっきのあのキモヤバ花いっぱい出して逃げましおぉんっっ!!?」
「このばかたれが」
脳天に強烈なチョップが突き刺さる。
正座させられていたせいで避けることも衝撃を逃すこともできなかった。頭蓋骨が割れたと錯覚するほどの痛みにんおおおっ!と床をのた打ち回る。
しかし高そうな椅子にふんぞり返って座って僕を見下ろすモンスターの溜飲はそんなもんじゃ下がらないらしく、出来立てほやほやのたんこぶにぐぐぐ……っ!と親指めり込ましてきた。アッそれすっごい痛いです!
「逃げ出せる状況だったのに逃げるどころかひとりでこんな所に乗り込んだ?反社の親玉の女のフリ?危ねえ一味のメンバーに直談判しただと?何してんだコラ。向う見ずにもほどがあるだろ。やっぱりお前さん脳みそねえアンデッドモヴか?おいなんとか言え」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいやめてたんこぶぐりぐりするのやめてああああ痛い死ぬううううっ!」
容赦ない制裁に悶え暴れるが近衛に取り押さえられ逃げられない。なんかこんなやり取り数ヶ月前にもしたような気がしまイテエエエ!!!
「このまま穴開けて本当に脳みそ入ってるか確認してやろうかな……」
「すみません本当に勘弁してください!!!」
めっちゃ怒ってる!いやそりゃそうだろうし反省もしてるんだけど流石に頭蓋骨に穴開けるのはやりすぎでは!?多分めっちゃグロいしポーションでも治らなそうだからやめとこ?!!
とんでもないことを言いだしたロイドからの攻撃にギエエエッ!とうら若き乙女とは思えない本気の絶叫をあげる。
するとようやく少し怒りが鎮まったか、散々たんこぶを抉っていた手が離れた。そしてその手は涙目で脳天を抑える僕の肩に乗る。
盛大に、それはそれは深いため息をついたロイドはほとほと疲れた様に言葉を絞り出した。
「……本当に心配した。万が一があったらって思ったら生きた心地しなかった」
「ロイド……?」
まさかそこまで心配してくれていたとは思わず、オロオロと目の前で項垂れるロイドに狼狽える。
確かにロイドは優しいし、面倒見もいいから凄く心配させてしまっていただろうが……仕事上の関係、というか面倒見てる実験体でしかない僕をそこまで案じてくれていたなんて、と驚いてしまう。
大事に……少なくとも心の底から無事を祈られていた。その事実を飲み込んだ時、誘拐されてからこの方ずっと心を占めていた焦燥や苛立ちが溶けてなくなるような心地を覚えた。
自分を操っていた異様な感情が消え去る。最後に残ったのは純粋な罪悪感と感謝の念だった。
「……ごめんなさい」
心からの謝罪は驚くほどするりと口から付いて出た。肩を掴む手を取れば、ようやくその手が少し強張っているのに気づく。
「……なんか、今にして思えば誘拐されて目覚めてから僕、冷静じゃなかったかも。なんかずっと焦りみたいなのがあって……」
ここ数時間の自分を振り返る。やけにイラついては暴力にすぐ頼ってしまったのも、それを必死に宥めようとするのも、今考えれば少しおかしかった。誘拐されたのだから平静でいられないのは当然だろうけど、それを差し引いてもいつもの自分じゃないような……掻き立てられるような焦燥に支配されてた気がした。
───あの方の責め苦は……
「……」
こんなおかしな状態になったきっかけを考えた時、ふとクマールさんの言葉が蘇った。夢がどうだと。
七番もそんなこと言っていた。夢、夢と、魘のふたりはしきりに───
「っ!ラウ!」
「ぇ、っ」
思考に沈む僕の手をロイドが思い切り引く。飛び込むようにロイドに抱き留められ、その背後で一瞬前まで自分が居た床が轟音を立てて抜け落ちた。
穴からはうぞうぞと赤黒い蔦が這い出し、瞬く間に床を、壁を侵食し始める。咄嗟にロイドの体を抱えて部屋の外へと飛び出した。
「くそ、あの花が好き勝手ぶっ壊してんな……崩落するのも時間の問題だ。ここから脱出するぞ」
「脱出……」
差しだされた手を見下ろす。きっとロイドの『移動』でここから出るという事だろう。
そうだ、もうここに僕が留まる理由は無い。ロシェで起こっていた誘拐事件の真相も判明したし、僕を襲う組織の正体も知れた。
最低限知りたかった情報は得られたのだ。これ以上ここに居ても得られるものは無い。こんな危険な場所、一刻も助けに来てくれたロイドと脱出するべきで。
───するべき、なのに。
「……ごめん、ロイド」
「は?」
差し出された手を取る代わりに狐面を顔にあてがう。きゅっ、と慣れた手つきで紐を結べば、白い花紐飾りが右耳の上で踊った。
「まだ逃げれない。……アルマリオと約束したの」
轟音は、まだ響いている。悲鳴も、怒号も。
この城を崩壊させんと這いずり回る蔦は、今もここに居たモンスター達を襲い続けている。
このままじゃこの城は……アルマリオファミリーは壊滅する。
それは───約束不履行だ。
「どうしようもない変態だし、救いようもない悪党だ。多分このまま壊滅した方が世の為かも。でも……僕アルマリオに協力してくれたら助けてあげるって約束したんだ。このままじゃその約束を破ることになる」
逃げるのが正しいのは分かってる。ロイドの優しさを踏みにじる行為であるのも、また心配をかけることも。
それでも、間違ってると分かっていても、このままここから去るという選択肢は取れない。
右手に呼び出した剣を柄をしっかりと握る。随分と久しぶりに感じる感触に場違いながらも奮い立つような馴染みを覚えた。
「……それに、このまま逃げたらアイツらから逃げたみたいで嫌なの。だから、その……」
無言のロイドがどんな顔をしているのか確かめるのが怖い。折角助けに来てくれたのに、舌の根が乾かぬうちにこんなこと言うなんて最低と罵られても仕方がない。ぶっちゃけ罪悪感で今にも死にそうだ。
それでも一歩、前に踏み出す。───壊滅の憂き目にあう彼らを救うのは、僕にしかできない事だと信じて。
「助けに来てくれたのに本当にごめん。後で土下座耐久でも締め落とし猫包囲でも甘んじて受ける。……だからロイドは先に脱出して」
僕のことは置いていってくれと、そう言外で告げた顔は恐らく申し訳なさと恐怖でへなちょこだっただろう。
でも、それでも逃げない。
息を吸って、吐いて、怖気を振り払───
「は゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛~……」
「ヒイッ!?」
滅茶苦茶渋いため息にビックーンッ!と跳ねる。沸き上がる怒りを抑え込むようなその深くて重い音の発生源は当然ロイドだ。
いやそうよね、怒ってますよね!!そらそうですよ何舐めたこと言ってんだテメエって話ですよね!いやはい重々承知しています!
怒られる覚悟ではありますがいざ本当に怒られるとなると怖くのなるのは当然でして、いややっぱり猫包囲だけは勘弁してくれませんか?だめ?そこをなんとか……
「……ま、少しは余裕が出て来たってことなのかもな……」
「へ?」
怒髪天を突く怒声が響く、と思いきや。
どこか達観というか、呆れ混じりでありながらも成長を喜ぶような響きを含んだ声が返ってきて、思わず恐る恐る後ろを振り返る。
そこに居たのは鬼の形相のモンスター……ではなく、聞き分けのない妹のわがままを仕方ないと聞く兄のような顔をしたロイドだった。
怒っては……無さそう?呆れてはいそうだけど。え?それだけですか?
正直『王命』による強制送還すら有り得ると身構えていただけに拍子抜けしてしまう。
そんな僕にロイドはギロリとわざとらしく怖い顔を作っては、もう一度ため息をついて見せた。そのままポケットから取り出したマギホをスイスイと操作し始める。
「……あー、もしもし。俺……」
『ロイくん!?一方的に切るなんて酷いですぅ!そうやって可愛エロメイドラウちゃんひとり占めしようって魂胆ですかぁ!?最低!最低ですぅ!見損ないましたぁ!』
「ちげえよ。お前さんが変態だからだ。シリアスな空気をぶち壊すな」
そう間を置かず、というかほぼノータイムで繋がった通話。どうやら再び第零に通話を繋いだらしい。ミモザのギャンギャンとした怒りの声と、ユリナの『まあまあ……』と宥める声が聞こえる。
ハウリングせんばかりの勢いで響く抗議に今度こそロイドは嫌そうな顔をしたが、次の瞬間その口から信じられない言葉が飛び出した。
「悪いんだけど捜索チームへの報告と各所への救援要請頼む。俺とラウはここに残って要救助者の救助と発生したモヴの討伐に向かう」
『『はあ!?』』
「はい!?なに言ってんの!?」
通話向こうのミモザとユリナの素っ頓狂の声と、僕の驚愕の声が重なる。
ままままてまてまて!え?今ロイドも残るって言った?なんで?こんな危ないところになんで残る!?逃げなさいよ早く!
自分のことを棚上げしてワタワタ焦り倒す。制止するミモザ達を無視して通話を切ったロイドはそんな僕を見てふん、と鼻を鳴らした。
かと思えば、突然結構な力で僕の背中をバシンッとぶっ叩いた。
「!?!」
「……自分の命最優先。危なくなったら強制帰還だからな。ちゃっちゃと終わらせんぞ」
「は……」
呆然と隣に立ったモンスターを見下ろす。
それは、無茶を止める言葉ではなく───最後まで付き合うという意思表示だった。
後ろに庇って守るのではなく、強引に手を引いて逃すでもなく、並びたって一緒に戦う。
そのロイドの言葉は、僕の力が十分に戦力たると認めているというのと同義で。
それに気づいた瞬間、飛び跳ねたいくらいの喜びと感謝と、若干の気恥ずかしさが胸に溢れた。
途端勇気が湧いてきて、無意識のうちに丸まっていた背中が伸びる。
「……そうだね、これ終わったらミモザとのご飯再セッティングしないとだし。酔わせてアジェルとのあれそれ根掘り葉掘り聞くんだから」
「えーなにそれ面白そう。俺も行く」
なんてこった、こんなチートモンスターが一緒に戦ってくれるなんて怖いものなんて何もないじゃないか。
そして僕はそんなチートに認められた最強モンスターと。向かう所敵なしだな。
剣を切り払って峰を肩に乗せ、ニヤリと笑う。自信満々やる気満々な僕をチラリと見上げたロイドは、ふっと息を抜くように笑った。
「まだ最強には程遠い。そこそこくらいだな」
「心読むなし」
いざ行かん、アルマリオファミリー救出!
ラウ「ぶっ飛べ!」(スカートひらり)
ロイド「(……赤!!)」
しかし変態ヤギと違って口にすれば窓から外に放り出されると理解しているので弁える。




