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アルマリオファミリー 其の六


 予想だにしていなかった取引の反故に、クマールさんは言葉も出ない様子だった。


 何かを発しようとするも、その口は戦慄くばかりで意味のある言葉は出てこない。静かにテーブルに広げられた書状とアルマリオの顔を視線で往復し、体を支える手は怒りに震えている。


 部屋の隅でひたすらに気配を消していた犬獣人も、この展開は予想外だったのか僅かに目を瞠った。次いで、憤りを露にするクマールさんをチラリ見遣る。

 

 魘の一味であろう彼もこの手酷い裏切りに同じように憤りアルマリオに食って掛かるのではないか。そう思ってアルマリオの膝の上で動向を伺うも、予想に反して彼は小さく嘆息しただけ。そのまま何も知らぬと言わんばかりに腕を組み、静かに瞑目した。


 仲間にしてはやけに淡泊……というか、興味がなさそうな様子に内心で首を捻る。仲間がこんなに憤っていたら宥めるなり同調するなりしそうなものだが。ウェルデで見た彼はもっと攻撃的な輩みたいな感じだったから、余計に静観の構えを取る姿には違和感が募って仕方がない。

 

「……いささか、それは乱暴な結論では?アルマリオ様。その程度の損失、我々ならば補填が出来ます。その街が一番生産量が多いと言うだけで、カッカオは別の街でも栽培しているのですし」


 クマールさんの同行者の様子を観察していると、語尾を震わせたクマールさんが何とか体裁を整えた言葉を吐き出した。ひくりと引き攣る口の端で辛うじて笑みを継続させながらアルマリオを睨みつける。


 アルマリオは自室で悠々自適に寛いでるかのような余裕を持って、その視線を受け止めた。


「だァから、言ってんだろ?俺ァ愛妻家だってよォ」


 クッと喉を鳴らしたアルマリオは、タバコの灰を灰皿に落としながら続ける。


「利益ってのは金だけじゃねェ。俺に取っちゃ妻の願いを踏みにじるのも大損なのさ」


 腰に回る太い腕に抱き寄せられる。胸板に触れる頬を通して伝わる自分以外の体温に悲鳴を上げそうになるが、絶対にここでそんな声を上げる訳にはいかないと鋼の自制心で唇を引き結ぶ。

 いいや、それすら間違いだ。今の僕はアルマリオの妻、故郷を出てでも追いかけた大好きな旦那様に抱き寄せられ、しかも自分のお願いの為に取引相手を裏切ろうとしてくれているのだ。ここは嬉しくてしょうがないという顔をしなくては……おええ。


「お前は愛、愛ってうるせェけどよォ……その辺理解できねェんじゃ、その御大層な愛も底がしれてんなァ?」


「───チンピラ風情が。これがどれほど崇高でこの世界にとって必要な行いかも解さない輩如きが、私の愛を語るな」


 すとんと、怒りすらも消した無表情でそう告げたクマールさんの威圧に、気持ち悪さにのた打ち回りたい気分が一瞬で吹き飛ぶ。

 底冷えするような目の温度に身が強張り、無意識の内に縋るようにアルマリオのシャツを掴んだ。

 

「親善大使を、あの元ニンゲンを絶望の底に堕とす。これは何にも代えがたい『絶対』。その為の手足だ。私も、お前も」


 うわ言のような呟きは止まらない。

 親善大使を、僕をなんとしてでも絶望させると言い切った男は今まで保っていた慇懃無礼さをかなぐり捨て、理解に乏しい者へと訥々と説教でもするかのように静かに言葉を並べたてる。


 何故、僕をそこまで狙うんだ。

 理解できない淀んだ熱意に怯む。


 真っ黒な目の奥にはここに居る誰も映ってはいない。ただひたすらに、どこまでも不気味に『誰か』を見つめている。


「この世界を創り直すあの方の手足。それは、そうであれという命は至上の喜びである筈だというのに、何故理解しない?」


 クマールさんは無表情のまま、苛立ったようにガリガリと頭を掻き毟り始める。


「『あの方』の命とその愛とも呼べないひとりよがりな感情を天秤に乗せるなぞ、不遜も不遜。信じられない許せない意味がわからない。『あの方』からの命(愛)の前には全て等しく跪くべきだろうが」

 

「ククッ、化けの皮が剝がれてるぜ?俺ァそんな顔も見たことねェ女に殉じるほど暇じゃねェんだ」

 

 小さく震える僕を宥めるように、ツインテールに結われた髪の毛先を指で弄ぶアルマリオ。

 その顔には狂信を前にした怯えは無い。静かに、沼の底のように静かに怒りを発するクマールさんと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上の怒りの炎を内包する彼は、「それに」とその炎が燃え盛り続ける訳を遂に口にした。


「今回の件を降りる理由はそれだけじゃねェ。最近、ファミリー内がおかしくてなァ……。どうやら誰かに悪い夜遊びを教え込まれてるようでよォ、俺の言う事を無視してほっつき歩いてる奴らがいんだ。今日もアンポンタンが悪いことをして折檻した所だ」


「───」


「お陰で家出する奴が続出で困ってるんだよ。大損だ。……そォいや、家出する奴の中にはお前みてェにしきりに親善大使がどうのって言ってた奴らも居る。まるで悪い夢に魘されてるみてェに、執拗にな。俺は親善大使なんてほっとけって言ってるんだが聞かねェんだ。なんでだろうなァ?」


 コッ、と書状を指で叩く音が響く。


 大きく煙を吸い込み、吐き出す。ただそれだけの動作にも拘わらず獰猛な肉食獣を想起させる気迫を滲ませるアルマリオは、コッ、コッ、と机を叩き続けた。


「俺は今、重大な損失を払わせられている。───分かってくれるな?」


 構成員が消える理由が魘であることは分かっている。そう言外で告げ、その上で『あくまで契約違反をしているのはそっちである』と強調し、この取引を降りる理由を叩きつけるアルマリオ。

 ともすれば報復に出ることも辞さない。そんな覚悟を持って群れに害為す不届き者を見据えるアルマリオに、クマールさんは閉口した。


「ここでお前を殺さねェのは俺の慈悲だ。お前らにゃ何だかんだいい思いもさせてもらったしなァ。そもそもを言えば俺の見る目が無かったっつー話でもある。……もっとも、ここまで言ってご理解いただけねェならそれまでだが」


 徐にアルマリオがソファーの肘掛けを撫で、革靴で磨かれた床を軽く叩く。その行為を見たクマールさんは目を上げ、部屋の隅で気配を消していた犬獣人が腕組みを解いた。

 僅かに立ち上がった警戒の空気にアルマリオは息を抜くように笑う。


「この部屋がどんな部屋か分かってんだろ?なァ、ワンちゃん?」


「……火薬とアンタの匂いで鼻が曲がりそうだよ。ニンジャ屋敷か、ここは」


 水を向けられた犬獣人がそう吐き捨てる。そして視線をソファーの背もたれ、アルマリオの足元、壁、天井と巡らせた。

 その視線に口の端を吊り上げるアルマリオ。僕はギョッとその顔を仰いだ。

 

 アルマリオが自分の執務室ではなく、わざわざこの部屋に足を運んだ理由。

 獣人が顔を顰めるほどに充満する火薬の匂いと、アルマリオのファミリーの実情を知る魘のふたりが警戒を露にすることから察するに───この部屋は、気に食わない者を殺すための重火器が大量に隠されている仕掛け部屋だ。


 この部屋にクマールさん達を通したということはつまり、最初からアルマリオは魘との交渉が抉れたら交渉役のクマールさんを殺すつもりだったのだ。

 この、外から一切中が見えない部屋で交渉役のクマールさんを秘密裏に処分してしまえば、魘からの報復も知らぬ存ぜぬで躱せる……ということだろうか。

 それとも、それほどまでに構成員への手出しが腹に据えかねていたのか。

 あるいは両方なのだろう。


 契約書があるにも関わらず愛妻家なんて設定まで持ち出して丁寧に裏切りの算段を付けていたくせに、最終的にはこんな過激な幕引きまで考えていたとは……。

 

 いや違う。それこそあれはアルマリオなりの保険であり、慈悲だったのだ。

 『ここが分水嶺である』と、『ここで引かないのならお前の命を奪う』という一線。

 アルマリオの主張を認めて引くならば見逃してやる。それでも踏み込んでくるのなら、その先はもう交渉ではない。そういう最後通告だった。

 

 必要とあれば命を容赦無く奪う。その選択肢が生まれることに、その姿勢に背筋が凍る。はっきりと、この男の思考は自分が住む世界とは違うものだと悟る。

 

 そしてその姿勢は、思考は、これがただの脅しではないと魘のふたりに理解させるには充分だった。

 

 瞑目したクマールさんはどさりとソファーに掛け直し、長く細く息を吐く。

 その表情は項垂れるように俯いてるせいで伺えない。固唾を飲んで次の言葉を待ち構えた。


「……ええ、分かっています。ここが引き際ですね」


 長い沈黙を破った言葉は、ぽつりと部屋の中に落ちた。

 

 アルマリオの言葉を肯定するような言葉。だが、それはアルマリオに向けられたというよりかは、別の誰かと話しているかのような奇妙な違和感を抱かせた。

 そしてその違和感は僕だけでなく、傍らのアルマリオも覚えたようだ。その返答に喜色を浮かべるでも、鷹揚に頷くでもなく、ただじっとクマールさんを伺っている。


 やがて、クマールさんは顔を上げた───場違いなほどに、目を爛々に輝かせて。

 

「七番。首尾は」


「…………もう、じきに終わる」


「重畳」


 劇的な表情の変化に息を呑む僕らを置いて、クマールさんは犬獣人……七番と呼ばれた男に振りも返らず声を掛ける。

 端的な返しに輝かんばかりの笑顔を浮かべた彼は、もうここには用はないと言わんばかりに軽やかに席を立った。

 

「ええ、ええ。こうなればもう仕方がない。この茶番もそこそこ楽しかったのも事実ですが、まあ、貴女様がそうおっしゃるのならそれもまた一興というもの。いやまあ結局こうなるのかと思わないでもないですけど……いやはや、七番を連れてきておいてよかったですよ。お陰でロス無く仕事に掛かれます。気まぐれな貴女様の思考を先回りするのは大変ですが、それが一の臣下である私の役目とも思えば」


「おい、クマール」


 万感の喜びを顔に滲ませ、アルマリオの脇を横切り部屋を出ようとするクマールさん。

 呆気ない態度と意味不明な言葉にぽかんと呆けていると、アルマリオが剣呑な目で扉に手を掛けたその背中に待ったを掛けた。


「テメエ、一体何を……」


「ご安心を。ご要望通りあの街からは手を引きます。……貴方との商人ごっこは楽しかったですよ、アルマリオ様。個モン的にはもう少し続けたかった所ではありますが……まあ、あの方が仰るので、ね」


 そう言ってアルマリオを振り返ったクマールさんは、そのまま視線をアルマリオに抱かれる僕へとズラした。

 纏わりつくような目で舐められる。流石に表情を保てずに強張らせれば、気味悪く口の端が吊り上がった。


「頑張って切り抜けてくださいね。また会いに来ますから」


「───ッ」


 ラウ大使、と。

 最後に僕の名前を口にした男は、呆気に取られる僕に微笑みかけ、そして派手な長衣を翻しては従者のように付き従う犬獣人を連れて部屋を出て行った。


 ふたり分の足音が沈黙立ち込める部屋にやけに響く。

 音は遠ざかり、小さくなり、やがて階下に降りたのか、聞こえなくなった。


 完全にふたりの気配が無くなる。

 ふと、大きなため息をついたアルマリオは背もたれに体を預けた。

 

「あ゛ー、疲れた。……相変わらず何考えてんだか分かんねェ気味の悪ィ奴」


「…………ハッ!!」


 正体がバレていたことにやはりという納得と、最後の言葉の意味について思考に耽っていた僕は、気怠げな声にようやく我に返ってバッとアルマリオの膝の上から飛び退いた。


「こんの変態……ッ!!ひき肉にしてやるぁっ!!」


 よくも撫でくり回してくれたなこの野郎!数々の変態的所業に怒りに打ち震えながら拳を握る。

 しかしアルマリオはフッと笑うと、


「おういいぜ、バッチこい」


「きっっっっっもい!!」


 待ってましたとばかりに両手を広げられた。まだ見ぬ痛みに陶然とするその変態性に何度目ともしれない悪寒が体を走り絶叫を上げる。

 

 なんて爽やかな顔してやがる……!あまりの気持ち悪さにガルルッ!と全身で威嚇をしていると、愉快そうに体を揺らしたアルマリオはスーツの身頃に手を入れマギホを取り出した。


 どうやら部下に来客が帰ったことを伝えているらしい。「敷地内から出るまで見張れ」とそう言伝するのも忘れない。

 アルマリオとしても、あの早すぎる身の変わりようと意味深な言葉に警戒しているのだろう。納得して出て行ったように一見見えたが、あの得体の知れなさは僕らに一切の安心を与えてくれない。アルマリオの念の入りようも納得だった。


「……ねえ、あの七番ってモンスター……しょっちゅう来てたの?」


 一先ず危機がさったことに安堵するべきか、一応同じ敵を見据えていた同志としてアルマリオと勝利を分かち合うべきか、それとも用は済んだとさっさとここを出るべきか、殴るべきか……手持ち無沙汰になったことで己の身の振り方に悩み、とりあえず湧いた疑問をぶつけてみる。


 部下に指示を飛ばし終え、耳からマギホを離したアルマリオへそうおずおずと切り出せば、アルマリオは「あァ?」と柄悪くテーブルに足を乗せた。


「いや、あのガキは毎回は来ねェな。3、4回に一度くらいの頻度か?まァいっつもあんな仏頂面だわな」


「そう、なんだ……」


 まるで意思あるモンスターには相応しくない名前の男を思い出す。何もかもどうでもいい、みたいな顔はウェルデで僕を悪しき様に罵った顔とはやはり同じには見えなかった。


「……」


 クマールさんは、僕を拉致する餌として連れてきた少女のことを『八番』と呼んでいた。

 あの男に連なる名前は、果たして偶然のものなのか。

 意志が薄い、にんぎょうのような少女の顔と男の表情が被る。

 『あの方』への歪んだ愛を理由に動くクマールさんと違い、七番と八番は、まるで自分の意思でそこに立っているのではなく、命令に従っているだけというかのような態度に見えた。


 果たして彼らは望んであの組織に居るのだろうか。何かやむを得ない事情があって従っているだけなのではないか。だとしたらそれは、僕の敵なのか。───言葉にできない引っ掛かりはモヤモヤと胸に靄をかける。

 

 加えて、この対話で魘が僕を狙う目的を知ることができなかったのも霞が払えない一因であった。

 クマールさんの言葉から魘が僕に抱く執着の強さは理解できたものの、目的が分からないのでは危険を承知であの場に同席した意味がない。

 やけにあっさり引いたのも気になるし、なんとかしてその真意を聞き出したいところだ。


 ───いや、聞(・)き(・)出(・)さ(・)な(・)く(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)。(・)

 

 だが、クマールさんを追いかけるのは考えるまでもなく無し。危険すぎるし、素直に答えてくれるとも思えない。



 ならば───


 

「まァ、とりあえずはもう平気だろ。ってな訳で……なァ、無事乗り切った祝いとして俺の部屋でしっぽり友好を深めようじゃねェ……か?」


 諸々の指示を出し終え、マギホを放り出したアルマリオが期待に輝く目で背後を振り返る。

 しかし、そこにはお目当てのウサミミメイドの姿はなく、チャイナ服の妻達だけがあらまあ、と曖昧に微笑んでいた。


 その視線は、今し方元取引相手達が出て行った扉へ。

 しっかりと閉められていた筈の扉は、何故かモンスターひとり分の隙間が開いていて───


 

「……どこ行きやがったァ!!あのウサギィーーーッ!!」



 全てを悟ったアルマリオは、一言も告げずに出て行った恩知らずなウサミミメイドに怒りの咆哮を上げたのだった。



 


 ◆




 


「それでは、あとは頼みましたよ。七番」


 3階のエレベーターホールに、弾むような声が響く。

 ここに来た時とは打って変わって上機嫌に指をくるくる回すクマールは、軽やかな音で到着を告げたエレベーターから出ていく背中にそう声をかけた。


「…………」


 クマールに見送られるのは七番と呼ばれた犬獣人の男。彼は言葉を返すことはなく、チラリと肩越しに振り返っては僅かに顎を引くだけで返事とした。


 じっとりとした目には諦観と嫌悪、そしてほんの僅かに憎しみが滲んでおり、明らかに喜び勇んだ承諾では無いことは一目瞭然。

 だというのに、その態度にクマールは満足したように頷き、ひらりと手を振った。


「準備が完了したら呼んでください。迎えを寄越します」


「……いらねえ。自分でなんとかする」


「ははあ、上司の厚意を無碍にするとは良い度胸ですね。まあいいですが」


 嘲笑でもするように顔を歪めて笑ったクマールは、それだけ言ってさっさとエレベーターの扉を閉じた。


 エレベーターの現在階数を表すランプが階下へと向かっていく。

 やがて階数表示は1階にエレベーターが辿り着いたことを示すように点滅し始める。

 七番は何かを考えるように、あるいは何か覚悟を決めるかのようにしばらくその点滅を見つめ続けていたが、やがて疲れたように嘆息すると静かに踵を返した。

 

 先程まで大勢の構成員がいた筈なのに、今(・)や(・)こ(・)の(・)階(・)の(・)回(・)廊(・)に(・)は(・)何(・)の(・)気(・)配(・)も(・)な(・)い(・)。

 不気味に静まり返る回廊。不自然極まりないその状況に、しかし七番はなんの疑問も畏れも抱いた様子を見せずに迷いなく一歩踏み出す。

 

 その顔は余計なことなど考えまいとするように、真っ直ぐ行くべき道だけを見据えている。

 覚悟を鈍らせないようにと、ただひたすらに。


 

 ───だから彼は、気付けなかった。


 

「待ぁてぇやぁコォラァぁぁああ……」


「あ?」


 誰もいない筈の廊下に、自分の息遣い以外の音が聞こえた。

 

 やけに荒い呼吸混じりの声だ。まるで井戸の底から這い上がる怨霊のようにおどろおどろしく響くそれに、ぶわりと毛が逆立つ。

 

 しかし慌てて後ろを振り返るも、そこにはやはり誰もいない……


 いや違う。音は後ろではなく、上から───?



「先日は、よくも、事業の邪魔を……してくれましたねぇぇえ……?」

 

「ヒッ、ギャアアアアッ!?」


 天井と壁の境に手と足を踏ん張って、ニンジャよろしく張り付く一つの影。長い焦茶の髪を垂らし、血走った目で己を見下ろすのは、この世のものとは思えないほどに恐ろしい怨霊……ではない。アレは


「し、し、し、しんぜんた「ラウちゃんアターック!!」ごぐぁぁっ!?」


 自分を見下ろす怨霊の正体に思い至った七番が答えを口にする前に、女は謎の技名と共に壁を蹴り、両手をクロスに組んで突っ込んできた。

 突然の攻撃に避けることもできず女の腕が喉に直撃する。

 予想外の攻撃に肺の酸素全て吐き出されられ、七番は痛みに悲鳴をあげながらもんどりを打った。


「ようやく捕まえたぜぇ……一階に先回りして待ち伏せしようと全力で階段駆け降りたのに、降りてきたのクマールさんだけだったから超焦ったよ。お陰で全力で階段駆け上り大会でしたわぁ……」


「───ッ」

 

 床に倒れた七番の胸倉を掴むのはフリルたっぷりのお袖留に飾られた手。

 汗を滲ませた顔でニィ、と笑んだ女───先程までこの城の主の膝の上で大人しく微笑んでいた親善大使(メイド)は、まるで別モンスターのように獰猛に歯を剥き、混乱する七番に馬乗りになって宣言した。


 

「さあ、アンタらの目的、狙い、これからの予定、ぜーんぶ吐いてもらおうか……魘所属の七番くぅん?」

 

 


 

 

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