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アルマリオファミリー 其の三

なんかすっごい難しかった……説明回でもすぐネタに走ろうとする悪癖が邪魔するんじゃ



◆



『アルマリオファミリーをコケにした組織を潰すために手を貸せ』


 そう言って場を隣の執務室に移したアルマリオは、テーブルを挟んだ向かい側でどっかりとソファーに腰掛けていた。


「『魘(エン)』……それがアイツらの名前だ。夢に魘されるという意味の単語だとよォ」


「魘……」


 革張りのソファーにふんぞり返るアルマリオ。その服装はあのやり場に微妙に困るバスローブではなく、無駄に着崩したスーツ姿である。

 僕との対話を『商談』と認識したらしい彼は、わざわざ仕事着に着替え美女達を寝室に置いてきては、自分の手でタバコに火を付けて大きく煙を吸った。


「魘の組織構造は詳しくは知らねェ。窓口は必ずあの悪魔族のクマールで、どうやら奴にゃ忠誠を誓う女がいるらしい。その女が色々と指示を出したり情報を流してるらしいが、ウチに顔を出したことはねェ」


「……どういう目的でクマールさんは……魘はここに出入りしてたの?」


「そりゃ勿論、取引のために」


 テーブルの上で軽やかに氷を鳴らす茶器に手を伸ばす。

 

 先程、部屋の外で伸びているであろうアンポンタンとは違う構成員が無言で置いていったお茶だ。

 正直何が入ってるか分かったもんじゃないが、しかしまあ仮に毒が入っていても僕の体じゃそう大して効果は出ないだろうと口をつける。うーん冷たくて美味しい〜沁みる〜。


「取引?……誘拐したモンスターの処遇について、とか……」


「まずはそこらへんをハッキリさせとく。俺らァ聖霊隠しだなんだと騒がれてる誘拐事件にゃ一切関与してねェ。ありゃ全部魘の仕業だ」


 突如意識を朦朧とさせたモンスターが、まるで聖霊に魅入られ連れて行かれたように忽然と姿を消す聖霊隠し。

 そんな不可思議な現象に見せかけた誘拐事件は、やはり予想通りアルマリオファミリーによる犯罪ではなく、アルマリオファミリーという大組織を隠れ蓑にした魘の犯行であったらしい。


 そう語るアルマリオは、酷く白けたような、面白くないと憤っているような表情をしていた。


「憲兵隊と騎士団に目撃情報流してんのも魘だろォよ。自分らに捜査の目を向けさせねえためか、俺らを潰してェからかは知らねェけどな」


「でも、アンタらと魘は取引相手なんでしょ?取引相手潰すってそんなの何の為に?」


「知るか」


 部屋にタバコの匂いが立ち込める。

 お茶を啜る僕を何故か上から下までじっくり眺め回したアルマリオは、どことなく自虐が滲む顔で小さく笑った。


「……魘が接触してきたのは今から約半年前……3月くらいか?『数ヶ月後に親善大使に就任する女を手に入れたいから協力して欲しい』って何の前触れもなく現れた」


「───は?3月?」


 思わず茶器から口を離す。

 

 だって、それはおかしいだろう。

 僕がこの世界でモンスターとして目覚めたのは5月だ。

 5月の半ばに目覚めて、6月の初旬に陛下と騎士団長・魔導士団長を交えた勇者侵攻対策会議を行なって、その直後に親善大使に任命されて───


「な……え、嘘でしょ?3月?本当に?」


「……」


 動揺する僕の問いに、アルマリオは静かに口の端を釣り上げることで肯定した。

 

 3月はまだ僕は目覚めていない。恐らく古城付近に現れた僕の死体に博士がユウキエネルギーを投与した頃だろう。───何故、僕が目覚める前から僕が親善大使に任命されることを魘は知っている?

 

 そもそも僕がモンスターとして蘇ったのは『ユウキエネルギー』を投与した博士ですら想定外の事態だったのだ。

 そんな存在すら想定外な僕を認識し、更にその未来まで予測していた?

 

 そんな馬鹿な、ありえない。

 そんなの、まるで未来が見えてるとしか───


「……まさか」


「そのまさかだ。アイツらは未来予知じみた芸当ができんのさ。気味悪ィだろ?」


 灰皿にタバコの灰を落とす音がやけに部屋に響く。


「まァ俺も最初は気狂い集団の妄想だと思ってたんだがよォ、その後も奴らは未来を言い当ててみせた。アルバストスやグリエルで大規模な地盤沈下が起きるとか、各地で異常気象が頻発するとかな。……ああ、あとはゴズル大砂漠で妙なモヴが大量発生するってのもあったなァ。アレはいい稼ぎの物種だった。騎士団相手に大量にポーション売り捌いてよ」


 地盤沈下、異常気象。それは侵攻対策会議の時に話に出てきた勇者発生の前触れの事象であろう。

 ゴズル大砂漠でのモヴ大量発生については、アジェルと初対面した時に話題になった件だと思われる。牛型モヴの討伐に向かったらソウルレスが大量発生し、結果として遠征が長引いたと。

 アルマリオ達はその予知に便乗し、予想外の遠征延長で物資が不足していた騎士団相手に商売をしていたらしい。

 

 まさに未来予知だ。そんなことまで先回りして知覚できるなんて、魘という組織は一体何を知っているんだ?


 そして、そんな組織が僕を狙う理由とは何なのか。

 皆目見当がつかなくて思わずアルマリオを見上げれば、彼は肩をすくめた。

 

「お前を狙ってる理由は知らねェ。だが、ただお前を欲している訳じゃないらしいぜ?」


「え?」


「女ひとりくらいさっさと誘拐でも何でもしちまえよって言ったこともあるんだがなァ、それじゃダメだってよ」


 当時のクマールさんを真似てか、胡散臭い笑顔を浮かべたアルマリオは行儀悪くてテーブルに足を乗せて続けた。


「『心を折って折って折りまくって、絶望に叩き落として、すべてを諦めさせる。徹底的に孤立させ、希望もなにもない暗闇に突き落としてからじゃないとダメなんです。それがあの方の望みですから』……だってよォ」


「……っ」


 ───全身に鳥肌が立った。

 

 クマールさんのあの恐ろしい目が脳裏に蘇る。狂信的なまでに何者かへの愛に沈み、僕をその何者かに献上しようとした、あの目が。


「とんでもねェ執着心だったなァ、何したんだお前?」


「……知らないよ」


 おもてなし政策の失敗ではなく、僕というひとりのモンスターを絶望させ、貶めようとする理由なんて分かるはずもない。

 薄寒さを覚えて二の腕をさすると、対面のアルマリオは愉快そうに体を揺らした。


「お前を絶望させるために奴ら色々と策を練ってたみたいだぜ?お前の行き先を未来予知しては先回りしてでけェモヴけしかけてお前諸共街をめちゃくちゃにしようとか、ブライテッドだっけか?気色悪ィもん大量に作って教会襲わせたりなァ」


「……」


「ま、その親善大使サマとその周りがあまりにも一筋縄でいかないせいで計画は上手くいってなさそうだがなァ」


 いい気味だと言わんばかりに笑うアルマリオに疑問を覚えながらも思考を巡らせる。

 

 今の話が本当であれば、僕らが反政策派と呼んでいた一派はイコール魘で間違いないだろう。

 そして魘は僕を絶望させるために事件を起こして被害を出し、国民の不安や猜疑を煽った上で「一連の騒動は親善大使を発端とするもの」だと国民感情を煽動しようとしていた。

 諸悪の根源とされた親善大使は見に覚えのない罪によって孤立し、味方がいない状況に絶望する。それが魘の描いている筋描きということなのだろう。


 なるほど確かに、水上パレードで僕がクラーケンに特攻せず街に残って避難誘導などにあたっていれば、親善大使を狙うクラーケンはウェルデ主要街を滅茶苦茶にしていたはずだ。

 

 聖霊教会でのブライテッド襲撃事件もそうだ。もしシエルリーファ様を置いて地上に出る選択をしていれば、シエルリーファ様を見殺しにしたと、そして最悪ブライテッドを地上に溢れ返らせたと非難を受けていただろう。


 一歩間違えていれば、きっと今頃僕は魘の策略に嵌って魔法界から爪弾きにされていた。紙一重で回避できていた最悪の事態を想像して肝が冷えた。


「……誘拐事件もその一環?」


 そうすれば浮かぶのは一つの疑問。ロシェで起きている偽親善大使事件はともかくとして、聖霊隠しに偽装した誘拐事件は一体何を目的としているのか。


 流石に民衆も頻発する聖霊隠しを親善大使と結びつけるのは難しいだろう……いや、聖霊の怒りを買ったとかそれっぽい理由をつけることはできるだろうが、しかし先の事件に比べると親善大使へなする罪としては弱い気がする。

 

 ならばこの事件に関しては別の思惑があるのではないか。そう思ってアルマリオを伺えば、クッと喉で笑う音が聞こえた。


「いィや、誘拐事件は別の目的によるものだ。アイツらはお前を狙う傍らでモンスターを集め回ってんだ」


「モンスターを、集める……?」


「バラして中身売る為でも、成金親父とか変態ババアに売る為でもねェ。アイツらは誘拐したモンスターで私兵を作ってる」


「はあ?戦争でもする気なの?」


「さァてな。これはクマールから聞いた話じゃなくて俺の部下に探らせた情報だからアイツらの真意は知らねェ。……だが一つ言えるのは、その私兵は普通の兵じゃァない」


 大事な雰囲気に心が逸る。目で続きを促せば、ソファーの背もたれに腕を回し、己の角を中指でコツコツ鳴らすアルマリオはまたあの白けたような顔をした。


「お前はよく知ってんじゃねェの?聖霊教会を襲ったあの大量のブライテッドの大群。アレをもう一回作る為に誘拐してるんだよ。まあそれ以外にも使い道があるんだろうけどよォ」

 

「な……っ!?」


「おっそろしい事するよなァ。昏睡状態にした上でジワジワと穢していくんだとよ。あんまりにも恐ろしすぎて、その現場見た部下はもう可哀想なくらい怯えちまって怯えちまってよォ」


「っ、なんで止めなかった!?」


 わざとらしく怖がるフリをするアルマリオにテーブルを叩いて詰め寄る。

 

 コイツらは知っていたのだ。誘拐されたモンスターの末路を。あんな悍ましい存在に罪もないモンスターが堕とされるのを黙ってみていたという事だ。


 何でそんなことができる?コイツらなら助けられたはずなのに、なんで、なんで止めなかったんだ。誘拐に関わっていなかったとしても、黙認していたらそんなの同罪だろうが!


「ふざけないでよ……!ブライテッドがどんな存在かなんて知ってる筈でしょ!?なんで助けてあげなかったの!?助けられるのはアンタらだけだったのに……」


「助ける?……おいおい、なんか勘違いしてねェか?」

 

 湧き上がる怒りのままに吠えれば、対峙する昏い目が細められた。

 

 ハッキリと嘲笑が込められたため息が落ちる。

 しばらくの沈黙の後、ゆっくりと背もたれから上体を起こしたアルマリオは、皮肉げな笑みを浮かべては額を突き合わせるように顔を寄せてきた。


「俺ァ、『悪いヤツ』だぜ?」


「……っ」


「取引相手のやることなすことに一々ご意見申し立てるようなマメな性格に見えるか?利益もねェのに?」


 アルマリオの手が僕の顎を掬い取る。

 決して大きくない声で己を『悪』だと断じた裏社会の頂点の声には、明らかな嘲りと落胆が含まれていて。


 やはり正義感だけだったかと、愚かな勘違いをしている小娘に現実を教えてやろうと言わんばかりに指の力を強めた。

 

「そもそも、ウェルデのクラーケンの件と聖霊教会の件だって俺らは直接関与してねェだけで、ちゃァんと一枚嚙んでるぜ?」


「は……」


「魘の未来予知には偏りがあるからな、その穴を俺らの情報が埋めてやるのさ。例えば……海から来るモヴを弾く結界の場所や憲兵隊の見回りタイミングを教えてやったり、教会騎士団を教会から遠ざける為にちょっとした騒ぎを起こしたり、なァ?」


 

 

 この男は今、なんて言った?


 

 目の前の男からの告発をすんなりと飲み込めず、二の句が継げなくなる。

 

 ウェルデを壊そうとしたクラーケンを引き込むために情報を流した?

 教会騎士団がシエルリーファ様の、カルベンの危機に駆けつけられないように妨害しただと?


 何十、何百のモンスターが死ぬかもしれなかった事件の手引きを、コイツらがしていた?


 何の躊躇いもなく言い放たれた言葉の意味を理解した途端、腹の奥がぐらりと揺れて怒りと嫌悪がこみ上げる。

 

 利益があるかないか。それでしか物事を計らない。利益にならないモンスターの命なんて、いくら消えても構わない。

 そんな考えを持つこの男が、自分と同じモンスターと思えなかった。


「外道が……っ!」


 吐き捨てた言葉に、アルマリオは愉快そうに口の端を上げる。

 

 僕の目を覗き込み、笑みを深めた男の手が顎から首に滑る。気道を潰すように大きな手のひらが首を覆い、そしてグッと力が込められた。


「俺らのせいにすんなよ?全てはお前のせいなんだからよォ。お前が魘に目を付けられたからこんな事件が起きてんだろ?」


「───え?」


 呼吸も忘れて目を見開く僕の首から手を離したアルマリオは、肩をトン、と押した。

 

 軽い力だったのにまるで思い切り張られたような衝撃を受け、思わずよろめく。

 その拍子に足がテーブルにぶつかり、茶の入ったグラスが倒れた。


 しかしそんなことすら気付けないほど、アルマリオの言葉は僕の胸に楔となって突き刺さった。

 

「僕の、せい?」

 

 僕が居たから、僕がウェルデに、カルベンに行ったからあの事件が起きた。ロシェに来たから……僕が、現れなかったら、あの街は平和なままだった……?


 全ては、僕が、この世界で目覚めてしまったから?

 

 考えないようにしていた事実を突きつけられ、呆然と立ち竦む。

 怒りが急速に冷えて、逆に氷を飲み込んだように体の芯が冷えていく。


 フラフラと視界を揺らす僕にアルマリオは笑って、そして言葉を続けた。


「それに、外道っつーならお前も大概だろうがよォ?」


 アルマリオは咥えたタバコに火をつけ僕を見下ろす。くゆる紫煙の向こうから昏い目が僕を見据える。

 

「俺、聞いちまったんだよ」


 ゆっくりと、静かに煙が天井に昇っていく。

 嫌な予感を覚え、アルマリオの言葉を遮りたいのに、口が動かない。

 

「なァ?」


 三日月に歪む口元が、言葉を紡ぐ。

 

「元ニンゲンの」


 ほんの僅か、声を落として───

 

「シノハラ ユウちゃん?」










 

 

 ────気が付けば僕は、目の前の男の首に剣を突きつけていた。

 

「───ッ」

 

 勝手に早くなる呼吸を必死に宥め、剣を持つ手の震えを堪えるように柄を強く握る。


「おーおー、血気盛んなことで。そんなにこの名前が嫌いかァ?ユウちゃん?」


 剣を突きつけられているというのに余裕の態度を崩さないアルマリオを、荒れ狂う感情の波を抑え睨み返す。


「…………なんで、その名前を知ってる」


「決まってんだろ?魘だよ。アイツらが聞いてもねェのに教えてくれたのさ。『親善大使は元ニンゲンだ』ってなァ」


 ギリッ、と歯を鳴らす。

 視界が揺れる。目の前のアルマリオの顔と、赤く染まっていくコンクリートとチカチカと点滅する。


 何故、という疑問が、思考が、フラッシュバックする光景に飲み込まれそうになる。

 覚(・)え(・)の(・)な(・)い(・)映像に何故か呼吸が苦しくなる。


『私は人間だって。モンスターの敵』


 誰かの声が耳にこびりついて離れない。胸が痛みを発し、膝が震える。


『あの日、篠原優(私)を殺したのは誰でしょう?』


 聞き覚えは無いのに、確かにいつか掛けられた問いが頭蓋に木霊して呼吸が乱れる。


『優、おかえり』

『どうだ仕事の方は。楽しくやれてるか?

『ヨーヨーありがとぉ、おねーちゃん』

 

 懐かしい記憶が、捨てたはずの思い出が、殺した筈の篠原優(私)の記憶が溢れ出しそうになる。

 

 ギュッと目を瞑って、耐えて、……耐えて、



 右耳の上で結んでいた留め紐が誰かの手によって解かれる。

 ───カツン、と、狐面が音を立てて床に落ちた。


 

「あーあ、この情報が外に漏れたらどうしようなァ?ニンゲンとの和平を目指していた親善大使サマが実はニンゲンそのものだった……なァんて世間様にしれたらいよいよ魘の思う壺な状況になりそうだ、なァ?」


「…………」


 素顔を晒す僕をじっくり観察していたアルマリオが、小さく鼻を鳴らす。


「だが俺は優しいからよ、お前が助けてくださいって言うんなら助けてやるぜェ?魘にもその情報を流さねェように言ってやる。それ相応の見返りはもらうがな」


 慈悲でも与えるように言葉を重ねては頰を撫で、髪を指で弄ぶ。


 その言葉に、僅かに首から刃が離れる。

 優越と落胆を見せながらも、頰を撫でていた手で再び顎を掬い───




「───調子に乗るなよ、この外道ヤギ」


「───」


 顔に触れる手を掴み、握り潰さんばかりに力を込める。


 僅かに目を張ったアルマリオを、胃が掻き回されるような感覚を覚えながらも睨みつけた。


「乙女の秘密知って燥いでるの?だっさ。……吹聴してみろよ。その時は僕諸共あの国王に粛清されるだけだ」


 異様なまでに惑乱する心を押さえつける。血の味がするくらいに唇を噛み締めて、大きく息を吐いて、吐いて───そして、見せつけるように親善大使の笑みを浮かべてみせた。


「もし僕と一緒に死にたいっていう告白だったらごめんね。タバコ臭い浮気性はお断りなの」

 

 しっかりしろ、動揺しすぎだ。シエルリーファ様にだってバレてんだから今更でしょうが。


 喝を入れるようにもう一度だけ大きく息を吸い込む。

 そうすれば心を支配していた恐怖や焦燥は消え、ノイズがかったフラッシュバックや幻聴も無くなった。

 すう、と心が落ち着いていくのを感じる。


「はああ……全く、魘って組織は僕の情報をどうやって集めてるんだか……怖い通り越してもう気持ち悪いんだけど」

 

 そんでもってコイツも嫌な突き方してくる。確かに僕を狙って魘は事件を起こしてるんだろうけど、それは僕のせいではないだろうが。事件を起こす方が徹頭徹尾悪いに決まってる。

 危ない危ない、怒りで脳みそ沸騰してると全部間に受けてしまうものなんだな。気をつけよう。

 

 ようやく自分が酷く、違和感を覚えるほどに取り乱していたことに気付いてため息をつき、剣を消してアルマリオの手をぺいっと放る。


 すると、薄皮だけ切られた首を撫でたアルマリオが大きく表情を変えた。

 

「…………へぇ。いいなァ……」


 今まで浮かべていたどこか投げやりさも含んでいた笑みとは違う、心の底から面白いものを見つけたと言わんばかりな笑みを向けられゾワッと鳥肌が立った。


「……な、なに?なんか寒気すんだけど……」


「いやァ?クックッ……」


 またも寒くなった二の腕を摩りながら狐面を拾い上げる。

 どうやら僕の正体を知っていたアルマリオにはハナから狐面による認識阻害は効いていなかったようだ。

 じゃあもういいか、と開き直って狐面を再装着することはせずそのままソファーに座り直した。

 

 アルマリオは何が面白いのか、手で顔を覆っては気持ち悪く笑い続けている。

 やだこわぁい……壊れちゃった……?実は剣突きつけられて怖かったのかな……?ごめんねカッとなっちゃって……。

 

「あ゛ー、面白え……最高だなァユウちゃんよォ」


「その呼び方やめて。次そう呼んだら問答無用で叩き切る」


「ククク……分かった分かった。もう呼ばねェよ。俺と今話してんのはラウちゃんだもんなァ?」


 爆笑手前の雰囲気でそう改めたアルマリオは、おもむろに両手を上げた。


「分ァかった。お前の秘密は誰にも話さねェ。お前のことも保護する。魘には渡さねェ。魘のアジトの場所も後でちゃんと教えてやるし、誘拐したモンスターがどこに連れ込まれてるかも教えてやる。───だからよォ親善大使」

 

 爛々と輝く目で僕を見つめるアルマリオは、僕の要望を全て飲むと宣言し、そして、

 

 

「やっぱり俺の女になれ。悪いようにはしねェからよ」

 

 

 そんな己の要望もキッチリと口にしやがったのだった。



 

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