シルクハットに隠された本性が勝手に暴かれる(頼んでない)
「信じられない……後もうちょっとで3分だったのに……多分」
「いつまで怒ってんだよ。お詫びにアイス買ってやったんだから許せって」
「このアイスはお詫びじゃなくて約束の品ですぅー!!お詫びの品は後で別途請求しますうー!」
「がめつすぎる……あ、その味ちょっと味見させて」
「どうぞ」
アイスを差し出し、代わりにロイドの持つアイスへとスプーンを伸ばす。
華やかなショーの傍、やいのやいのと子供じみた喧嘩を繰り広げながらもオアシス地帯を後にした僕らは、次にメインストリートに展開されるバザールへと足を運んでいた。
ロシェ主要街の目玉と言われるだけあってバザールの活気は凄まじい。
食べ物、香辛料、布や装飾品、珍しい色の陶器……節操なくごちゃごちゃと様々な商品が所狭しと並んでおり、そこかしこから自分の商品を売りさばこうと店主が声を張り上げ、買い物客はその声に惹かれるように商品棚に首を伸ばし商品を吟味する。
一度立ち止まれば食べ歩き用の串を持った売り子のお兄さんに声を掛けられ、カラフルな服を着たお姉さんに冷たい飲み物を押し売りされそうになる。もしくはひしめき合う買い物客に足を踏まれるか。
こんな喧騒はどことなく静かなヴィオレットじゃまず見ない光景だ。ウェルデの水上パレードよりも騒がしい。
露店に並ぶキラキラしたアクセサリーや美味しそうな出店の食べ物に後ろ髪引かれながらも、なんとかロイドと逸れないように必死に足を動かす。
「さっき事件が起きたとは思えない活気だね」
つい数時間前に親善大使(偽)が暴れていたと聞いていたのに、バザールの空気はどこまでも溌溂としている。騒がしさに圧倒され、領主邸を出てからずっと羽織っていた認識阻害ローブのフードを少し引き下げた。
「度々起きてるって言ってたからな、もう正直慣れてんだろ。あとロシェの気風」
「金にならない事いつまでも引きずっててもしょうがないってか……商売の街だねえ」
勝手に名前を使われている当事者としてはとてもそんな割り切りできやしないが、だがまあその気風のお陰で偽物による風評被害もそこまで広がっていなさそうと考えれば結果オーライか。
そもそもロシェは、もっと言うなればとりわけ主要街は、物資やモンスターの出入りが激しい都市であるため余所者が多く少々素行の悪い者も多い。
街に暮らすモンスターとしては憲兵隊が出張ればすぐに収まるようなトラブルなんて日常茶飯事なのかもしれない。
とはいえ、最近のロシェはやはりどこか治安の悪さが否めないと評判だ。偽物親善大使のことを抜きにしても、何やら裏社会を取り締まってるマフィアがどーのこーのとか、女子供の誘拐が絶えないだとか……お陰で心配性を爆発させたユリナが騎士団長を僕の護衛につけようとしていたのを必死に止める羽目になった。
というわけで、諸般の事情によりロシェに向かう僕の護衛は腕の立つモンスターでないと不安ということでロイドに着いてきてもらったのだ。なにせ、そんじょそこらの荒くれ者なんかよりも遥かに強いチートモンスター故に。
申し訳ないとは思いつつ、しかし僕の秘密を知らないモンスターに警備されるよりもずっと気楽なので助かっているのが正直な気持ちである。
「まあでも、そろそろお前さんの世話係も終わりかな。もういい加減こっちにも慣れただろうし、ユリナがちゃんとした警備体制敷くって息巻いてたしな」
「あー……そっか。そうだよね」
確かに、僕がこの世界で目覚めてもう半年だ。ロイドの言う通り魔法界に生きるモンスターとしての常識もある程度身についたし、右も左も分からないという状況でももはや無くなった。
ロイドも本来忙しいモンスターだ。今でこそ僕の世話係ということで通常業務の一部は免除されており、本モンスターとしても「合法的にサボれるの最高」とか言っているが、しかし彼が所属する第零研究室は非常に重要な研究を担っている部署だ。いつまでも主戦力であるロイドを僕にばっかり付け続ける訳にはいかない。
ただまあ、理解はしていても改めてそう言われてしまえば何となく寂しさというか心細さを感じてしまうのも確かで。
だってロイドとは僕が目覚めてからこの方、ほぼ毎日のように行動を共にしてきたのだ。多分誰よりも僕のことを分かってるモンスターが傍に居てくれるというのは知らずの内に安心感を覚えさせていた。
世話係でなくなったとしても別に会えなくなる訳ではないし、なんなら第零に行けばいつでも会えるし、恒例のパーシー料理教室と晩御飯の為にロイド家に行くのは止めるつもりは無いから、今までと変わらないと言えば変わらないのかもしれないけど……。
心境が声色に出たか、少しだけ暗くなってしまった僕の返事にロイドは僕を見上げ目を瞬かせ、そしてにやぁと悪い笑みを浮かべた。
「えーなになに寂しい?生後半年のラウちゃんはまだまだ俺がお世話しないと悲しくなっちゃうの?なあなあ」
「うっざぁい……」
ニヤニヤ、ニーヤニヤと腹立つ顔で突かれて思わず罵りが口からまろびでる。その通りだけど素直に認めたくはない。
あまりにもウザいので、宙から僕らのやり取りを眺めている近衛頭蓋骨へコレを止めろと顎をしゃくる。
しかし全力『王命』以降、なんとなく意思疎通ができるようになった近衛頭蓋骨達から返ってきたのは『王が楽しそうで嬉しいです^^b』的な思念だった。使えないぜこのレクス強火担共。
「……おや?そこにいらっしゃるのはロイド氏ではございませんか?」
「ん?」
うざすぎアンデッドの頭を鷲掴み割らんばかりにミシミシ力を込めていると、ふと背後からそんな声が聞こえた。
振り返った先に居たのは、線の細い優男風のひとりのモンスター。
ロシェ特有の派手な服を着た彼は、解放されたロイドの顔を確認するや否やぱっと表情を明るくした。
「やはり!いやぁお久しぶりでございます!元気にしてらっしゃいましたか?私は次はいつ呼んでくれるのかと期待に胸を膨らまし、羽根艶を整え、首をそれはしては長くして待っておりましたよ!」
「お、おう……え?待て、アンタまさか……」
満面の笑みでロイドの手を握りブンブンと大きく上下に振る優男からは、旧知の友に会えたような嬉しさがこれでもかと滲んでいた。背中から生えた蝙蝠のような羽根がぴこぴこと連動して上下している。
ロイドの知り合いだろうか。声を出さぬままそっとロイドの顔を伺えば、優男の顔を困惑したように見上げていたものの、突然何かに気づいたようにハッと息を呑んでその青い目を見開いた。
そして信じられないものを見たと言わんばかりに口を戦慄かせ、震える手で優男を指差す。
その反応に好感触を得たか、優男の顔がさらに明るくなった。
な、なんだその反応。ただならぬ様子にごくりと生唾を飲む。
まさか因縁の相手とか生き別れた(?)家族との感動の再会───
「いや、どちらさま?」
「分からないんかい!!」
怪訝そうに眉を顰めるロイドに思わず大声で突っ込む。優男もまさかの反応に「ええ……」と愕然としていた。ショックを隠しきれていない。
そりゃあんなに思わせぶりな顔しといて「どちらさま?」なんて言われたらそんな顔にもなるよ。あまりにも可哀想すぎる。
「いやーこの間アジェルと飲み行った時に仲良くなった隣の席の兄ちゃんかと思ったんだけど、モンスター違いだったわ。あの兄ちゃん悪魔族では無かったし」
「その程度の認識でよくもまああんないい反応できたね!?」
「悪い悪い、あっはっはっ」
悪びれもせず笑っとるけども結構今気まずいよ!?友達だと思ってた相手に覚えられてなかったって滅茶苦茶悲しい事態を相手に起こさせてるよロイドさん!
どうしよう、代わりに僕が謝ったほうがいいかな……あまりにも静かになってしまった空気に耐えきれず、恐る恐る優男を振り返る。
さぞ鎮痛な表情であろうと覚悟したものの、しかし何故か友に存在を忘れ去られていた(と思われる)彼は、想像とは真逆のキラキラした目で僕を見つめていた。
思わず「え?」と間抜けな声をあげれば、今度は僕の両手がガッシリと握り込まれる。
「そのお声は……!ラウ大使殿!ラウ親善大使ですよね!?お久しぶりです、私です!!」
「ッスゥーー……」
条件反射的に笑顔を貼り付け鼻から息を吸う。
おいおいおいおいその展開は想像してなかったぜ。え?嘘でしょ僕の知り合いでもあんの?マジ?誰?やっべー全然覚えてない……。
ウェルデの水夫さん?にしてはガタイが細すぎるな……。どっちかっていうとどっかの都市庁舎の職員か聖霊教会の聖職者っぽい。リライヴェッジの研究者なら『ロイド氏』だなんてよそよそしい呼び方しないだろうから多分違う。
うわーやばいどうしよう全然分からない。気まず過ぎるどうしよ。こうなったらギャルマインド降臨させて「イエーイマジ久しぶりじゃーんウェーイ★」ってテンションぶち上げでゴリ押すか……!?
しかし仕事関係のモンスターだった場合この対応は不適格、最悪死!かといってロイドがどちら様した上で僕もどちらさま?は不味いだろう。どうしよう。
必死に脳を巡らせこの状況を打開する一手を探す。うーん、無いです。
「えっ…………とぉ、あの、そのー……」
「あ!すみません、うっかりしてました!いつもお会いするときはこっちなので分からないですよね!」
色々考えた末、もう正直に「ごめん誰?」って聞こうと重たい口を開きかけた瞬間、優男はぽんっと何やら納得したように手を叩く。
こっち?と優男の言葉にロイドと共に首を傾げた瞬間、突然優男はボンッ!という音と共にどこからか発生した煙に巻かれてしまった。
「改めまして、お久しぶりですお二方───呼ばれて乞われれば何処でも、夢のようなひと時を先導いたすエンターテイナー!モンスター呼んで夢劇場の案内者!」
目を白黒させる僕らの前で煙を切り裂いて現れたのは派手な服を着た優男……否。
手品師のようなシルクハット、沁み一つない白いスーツ、マイクを持つ右手の小指をぴんと立て。
初めて聞く者をドン引きさせるような超・ハイテンションな口上と共に僕らの目の前に登場したのは、まさかまさかのお馴染みモンスター、
「クマールッ!でェェェェすッ!」
パチン☆と華麗なウインク一つ、浅黒い肌に良く映える白い歯を見せつけるようにニカッと笑う、シルクハット司会者であった。
思えば彼、シルクハット司会者ことクマールさんとの付き合いは、僕の短いモンスター生において長い部類に入る。
一度目は目覚めて三日目に行ったレードの雪まつりのゴレームタグ会場、二度目はウェルデのゴンドラレースデモンストレーション大会、そして三度目はゴンドラレース本選───……。
大きなイベントのたびに顔を合わせていた彼だが、どうやら流石にプライベートでも常時あの超ハイテンションという訳では無いらしい。
僕らが知る姿からかけ離れた、まともな……失礼、普通のモンスターっぽい佇まいにドギマギを隠せないでいると、どうやったのか瞬時に私服に戻ったクマールさんは恥ずかしそうに頭を搔いた。
「いやぁすみません。実は私、マイクを握るとだいぶ性格が愉快になってしまうんですよねぇ。びっくりしました?」
「あはは……まあ、少し……」
「会う時はいつもあのテンションだからまるで結びつかなかったなあ」
僕の苦笑いとロイドの感想に「恥ずかしいっ!」とクマールさんは手で顔を覆う。
彼はロシェに拠点を構える大商会『リズウェル商会』の商会員であり、その中でも商会の名を広げる広報を担っている。
あの司会業も言うなればリズウェル商会の広報の一環であるらしく、リズウェル商会をよろしくと宣伝するために魔法界中のイベントに司会として参加し回っているのだ。中々愉快な仕事である。
にしても、マイク握ると性格変わるひとって本当にいるんだなぁ。司会の依頼で電話した時も「ンご依頼ッ!ありがとうございまァアァァスッ!!!」って感じだったからてっきりもうそういう性格のモンスターなんだと思ってたや……受話器ってマイク扱いなの?
「ところで本日はどうしてロシェへ?何かご入用ですか?」
「いえ、今日はロシェ領主様とお話がありまして」
知り合いという立場をフルに活用し、買い物だったら自分の商会で用立てようかと抜け目なく提案しようとするクマールさん。商魂たくましい姿勢に感心半分で否定すれば、彼は更に目を輝かせてずいっと顔を寄せてきた。
「まさか!新たな事業ですか!?どんな!?今度は何をされるのですか!?」
「ええっと、まだ正式に決定した訳ではないので今の時点では何とも……近い内に商業組合に詳細が降りてくると思いますので、少し待ってくださいね」
「ははあ!楽しみにしております!物入りでしたら是非、是非とも!リズウェル商会に一番にお声がけくださいね!」
「ははは……」
前のめりすぎる。背中を逸らして迫りくる顔を避け苦笑いで誤魔化す。
リズウェル商会は、商業の街であり商会が数多くあるロシェにおいても有名な商会だ。食料品の取り扱いも多いと聞くので間違いなくバレンタイン事業の打診を受ける。
しかし今回の事業に参加する商会相手に何をどう割り振るかを決めるのは恐らく僕ではなく商業組合なので、ここで下手に約束を取り付けてしまうのは良くない。明言は避けてのらくらと躱す。
僕のその態度に今はまだ攻め時ではないと理解したか、にっこりと笑ったクマールさんはあっさりと身を引いた。助かった、とほっと小さく息を吐く。
「失礼しました、まずはギルドからの詳細発表を待つことにしましょう。……それでラウ大使殿、ロイド氏、別件なのですが」
「はい?なんでしょう」
きょとん顔を晒す僕らにクマールさんは改まったようにえへんと咳払い。そして大変遺憾であるみたいな表情を作っては、またしても僕らに迫ってきた。
「その、『悪魔』族って呼び方ですが……良くないと思うのですよ。ね?」
「は、はあ……?」
脈絡のない言葉に呆けるのも束の間、ゴゴゴ……と効果音すら聞こえてきそうな程の圧を纏うクマールさんの顔にロイドと共に震えあがる。
浅黒い肌に蝙蝠の羽根、そしてよくよく見れば両こめかみから小さな角を生やす悪魔そのものな風貌を持つ彼は、僕の肩をガッシと掴んだ。
「おかしいでしょう?魔力なんてモンスター全員持っているというのに我々だけ『悪い』『魔力持ち』略して『悪魔』なんてどうかしていると思いませんか?いい風評被害だと思うのですよ。私のどの辺に悪要素があるというのでしょう。確かに私の魔法属性は『闇』ですがそれは悪と断じられる要素にはなり得ませんし、他の同族達は『闇』以外の属性を持つ者がほとんどです。別に我々の種族が特出して犯罪者を輩出しているという訳でもないのに何故このような不名誉な種族名がつけられたと思います?不思議ですよね。きっと先祖の馬鹿がひねくれた感性を持っていたせいでしょうね。後々の子孫が迷惑を被るという発想は無かったのでしょうか。お陰で商談の際にも信心深いモンスターからは良く誤解を受けましてね、いやもう本当にいい迷惑というか」
「や、病んでる……」
「わー!!ごめんなさいごめんなさい!!確かに悪いことしてないのに『悪』呼ばわりは嫌ですよね!そ、そうだこれを機に悪魔族からデーモン族って呼び名に変えるのはどうでしょう!?ニンゲン界では悪魔と呼ばれる存在をデーモンと称することもりましてね!?」
目から光を失いながらも笑顔を絶やさず、そして息継ぎもなく自らの不遇を訴えかけるクマールさん。怖すぎるって!
この状況を脱するべく恐怖に涙しながら必死の提案に種族名変更を提案すれば、彼はぴたりと動きを止めた。
そして口の中で何度も「デーモン、デーモン……デーモン……?」と呟き、やがてぱああっ!と今日一番の笑顔を浮かべる。
「デーモン族!なんと素晴らしい響きでしょうか!ありがとうございますラウ大使殿!今後は悪魔族改めデーモン族として名乗ります!同胞たちにも教えなくては!!」
「よ、よかったです……」
ひゃっほう!と踊りだしそうな程に大喜びする悪魔改めデーモンにぐったりする。
あまりにもテンションがジェットコースター……正直ついていけません。疲労困憊です。
なんで僕の周りのモンスターってみんな個性的というか変わり者っていうか一筋縄じゃいかない奴らばかりなんだ……武装狂いのゴンドラ乗りとか怪文書系ヤンデレ聖女とかさあ……。
「ええっと、それでは僕らはそろそろこれで……事業が本格的に始動した際には是非よろしくお願いしますね」
「あ!ラウ大使殿、待ってください!」
「ひえ!」
飽きてバザールに並ぶ商品を眺めているロイドの首根っこを掴み、この場を辞そうとクマールさんにじゃっと片手を上げる。
いい加減疲れたよ、まだ戻ったら書類仕事も残ってるし今日の所はこれで勘弁してくれ。
そそくさ帰路に着こうとするも、しかしまたもクマールさんに呼び止められた。
まだ何か……?戦々恐々としながら振り返れば、先ほどの有頂天ぶりを潜ませた彼は少し困ったように口を開いた。
「ロシェに住む私が言うのはなんですが……最近のロシェは少し様子がおかしい。重々気を付けてください」
「……それは、親善大使を名乗る者が犯罪を犯しているという件ですか?」
まさかの忠告に思わず問を返す。その件なら知っていると言外で告げれば、しかし彼はうーんと腕を組んだ。
「ご存じでしたか。ですがそれはまだそこまで深刻な話ではないのでいいのですが……最近ですね、聖霊隠しが多発しているのですよ」
「聖霊隠し……?」
何やら聞きなれない単語に首を傾げる。すると黙って会話を聞いていたロイドが怪訝そうな表情で話に入ってきた。
「最近多発してるのは誘拐事件って聞いてるけど?聖霊隠しじゃ少し意味合いが変わってくるだろう」
「……そうですね。恐らく正しくは誘拐事件です。しかし誘拐にしては少々妙というか……」
言い淀むクマールさんの様子にロイドと顔を見合わせる。
恐らく話の内容的に聖霊隠しとはニンゲン界でいうところの神隠し……つまりは神に連れ去れたかのように、何の痕跡も残さないまま忽然と姿を消してしまう事象のことだろう。
確かにそれはロイドの言う通り誘拐事件とは少し毛色が違う話のように聞こえる。どういうことかと先を促せば、クマールさんは声を潜めて続けた。
「お二方、『アルマリオファミリー』というマフィアはご存じですか?」
「いえ。ロイド知ってる?」
「まあ……世界中に股を掛ける反社会勢力で、いわゆる裏社会の顔役ってやつ?」
「そうです。なんでもやるヤバイ組織なんですが、その拠点はこのロシェにあるのです。それもあってこの都市は他の都市に比べて治安が悪いというのもあるのですが……そのアルマリオファミリーがその誘拐事件に関与している、というのが憲兵隊と王国騎士団の見解なのでして。ですが、その……」
そこで一度言葉を切ったクマールさんは、きょろきょろと辺りを見回し誰にもこの会話を盗み聞かれていないかを念入りに確認した後、「これは取引のある商会から聞いた話なのですが……」と更に声を潜めた。
「なんでもその誘拐の被害者は、誘拐される数日前から少し様子がおかしくなるようなんです。夢現というか、ぼんやりして心ここにあらずな状態になるというか。そしてその後……忽然と姿を消してしまうそうなのです」
「────」
「薬でも盛られているのではないか、と商売モンの間ではもっぱらの噂でしてね。ラウ大使殿達も裏通りなどは極力使わないように気を付けてくださいね」




