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幕間【黄】「いつもおしごとありがとう」 其の四

 水上パレードを目一派楽しみ、諸々の用件も終えてさてそろそろ……と空を見上げた時には、もうすでにとっぷりと日は暮れオーリライトが星と共に瞬いていた。


 流石にこれ以上遅くなったらロイドが痺れを切らして怒りそうだ。パレード終わりの混雑に巻き込まれないよう一足先に転移門広場へと戻った僕らは、今日のハイライトを振り返りながらヴィオレットへと転移した。

 

「たっだいまー」


「ただいま戻りました。兄様居ますかー?」


 夏とは思えないほどに夜風が涼しいレードのウッドハウス。その玄関扉をまるで我が家のように開け家の中に呼びかける。

 しかし中から返事は無い。まるで持ち主の心情を表すかのように乱雑に脱ぎ捨てられた靴はあるので、誰もいないということは無い筈なのだが。


 だがまあ返事がない理由は何となく察せるというもの。あれ?と首を傾げるパーシーと共にリビングのドアを開け放った。


「帰ったぞ変態兄貴。弟と妹の帰還に悦び頭を垂れよ。嬉ションしろ」


「何言ってるんだお前は……兄様起きてますか?遅くなってすみません……兄様?」


「……………………おかえり」


 のっそりとソファーから起き上がり、背もたれからじと……と湿度高い目で僕らを睨むロイドは滅茶苦茶ふてくされた顔をしていた。

 流石に女装は解いているが、その後ふて寝でもしていたのか髪はボサボサだ。まさか敬愛する兄が令嬢になってまで自分を監視していたとは知らないパーシーは、置いていってしまった負い目か困ったように眉を下げながらその髪を梳き始める。


「すみません兄様、寂しかったですよね。ちゃんとお昼ご飯は食べましたか?」


「食べてない」


「拗ね方が子供すぎる……ちゃんと位置情報は発信してあげたでしょうが」


 年甲斐もなくつーん、と口を尖らせるロイドにため息をつく。

 僕の左の二の腕に巻かれたアームバンドは、特定の端末へと僕の位置情報を送信することが出来る。ロイドを撒いた後から僕はそれをリアルタイムでロイドの端末へと送信し続けていた。

 

 勿論そんなことをした理由はあのままストーカーされ続けていたらウザすぎてキレ……パーシーの目的が達成できなくなる可能性を危惧した為だ。心配性が暴走しないよう『ちゃんと位置情報とパーシーの写真送るから心配しないで家で待ってて』とメッセージを送ったこともあり、ロイドはちゃんと言われた通り家に帰って待っててくれたようだ。

 まあ正直それで素直に帰るとも思えず追撃で『あんまりべったりだと嫌われるよ』とも送ったので、それが効いた可能性もあるが……。


「許せねえ……俺を差し置いてパーシーと楽しくお出かけなんて……」


「んもう、面倒くさい兄様だぜ全く」


 しかし愛しの弟を僕に取られた恨みはショッピングを楽しむパーシーの写真如きでは晴らせなかったようだ。手負いの獣のようにガルガルしている。ミモザと喧嘩してる時のエイデルか。

 

 折角パーシーの過去の話を聞いて見直したところだったのに。優しくて格好いいモンスター像のまま居続けてはくれないらしい。

 まあそれがロイドなんだけどね、と諦め半分苦笑半分でさっさと機嫌を取るべくパーシーを肘で小突いた。このままじゃ最終的に嫉妬に狂ったロイドにまた技を掛けられかねない。

 

「ほらパーシー、ちゃっちゃと渡しちゃいなって。僕の命がある内に」


「あ、ああそうだな。あの、兄様……今日はですね、これを買いに行っていたんです。受け取ってもらえますか?」


「え?」


 店の名前が刻印された紙袋から黒い長方形の箱を取り出したパーシーは、もじもじとしながらそれをロイドへと差し出す。

 まさか紙袋の中身が自分宛のプレゼントとは露とも思っていなかったらしいロイドは、不機嫌を忘れて目を見開いた。

 

 動揺を隠せない様子で手の中の箱とパーシーを見比べていたロイドは、まるで助けでも求めるように僕を見上げる。それが面白くて思わずニヤニヤしながら今度はロイドを肘で小突いた。


「さっさと開けて感想言ってあげなよ~。パーシーがこれ選ぶのに何時間かけたと思ってんの~?」


「ラウ!余計なこと言わなくていい!」


「あ、ああ……」


 照れた顔で僕を叱りつけるパーシーから逃げる。そんな僕らの騒々しさの傍らでロイドはゆっくり箱を開けた。

 

 中から出てきたのは黒とシルバーのペンだ。ウェルデでしか売っていない万年ペンで、水魔法由来の『水潤』の魔術が施された魔道具でもある。

 インク掠れしにくく書き心地も抜群で、ペン先が紙に触れた瞬間ごく薄い青の波紋が一瞬だけ浮かぶのが美しい逸品だ。

 

 一見真っ黒なだけの軸は光が当たる角度によって透かし模様が浮かぶさり気ない偏光加工がされており、シンプルながらも見るからに質の良さそうとわかるペンだ。それに気付いたか、ロイドは僅かに目を瞠った。


「どうしたんだ、これ」


「勤業の日のプレゼントだって。魔法界じゃこの勤業の日は働いてるモンスターをいつも頑張ってくれてありがとうって労う日なんでしょ。はいこれ僕からね」


 言葉を失うロイドについでに買った自分の分のプレゼントも押し付ける。

 

 どうやら今日は私(・)が暮らしていた国にもあった、所謂『勤労感謝の日』に相当する日らしい。

 つまり今日のお出かけは本当にデートでも何でもなく、日頃博士の暴挙に耐えながらも働いてパーシーを養っているロイドへと労わりと感謝を伝えるためのプレゼント探しだったのだ。

 

 今まで仮入団という形で魔導士団に所属していたパーシーは今月から無事本入団を果たしており、先日初めて正式に給料が支給された。この初給料はロイドへのプレゼントに使いたいと前々から考えていたようだが、中々いい案が思い浮かばず僕に相談してきたという訳だ。全く健気な話である。


 プレゼントに囲まれ呆然とするロイド。そんな兄へパーシーは柔らかく、疑いようのない親愛と敬愛を込めた笑みを浮かべて目を合わせる。


「兄様、いつもお仕事頑張ってくれてありがとうございます。兄様があの時ぼくに声を掛けてくれたから、ぼくはこうして働いて給料をもらえるくらいにまで育ちました。兄様のお陰です。本当にありがとうございます。……兄様の家族になれて良かったです」


「パーシー……」

 

 自分を救ってくれた恩モンスターへと、家族がいなかった自分と家族なってくれた兄へと、惜しげも無く愛を注いで育ててくれた家族へ届けと、パーシーはそっと寄り添った。

 そして自分はこんなに大きく育ったのだと、見せつけるかのように兄の手を自分の手で包む。

 

 その緑の目をロイドは無言で見返し───突然ぶわっと涙を浮かべた。

 想定外の反応にパーシーと共にギョッと慄く。


「えっちょ、兄様!?嫌でしたか!?これ気に入りませんでしたか!?」


「……違う」


 流石に涙を零すのは不味いと思ったか、ぐっと堪えたロイドは暫くして万感の思いを込めた息を吐きだした。

 

 そして何かを……パーシーと暮らしてきた日々を思い出すように目を伏せ、そして愛しい弟へとその愛が余すことなく伝わるようにと顔を綻ばせた。


「ありがとう。大事に使わせてもらうよ。……大きくなったな、パーシー」


「兄様……」


 素晴らしい兄弟愛に、傍観者に徹していた僕はやれやれと小さくため息をついた。

 

 頑張った甲斐があったというものだ。何せロイドの女装から始まり、ロイドの妨害を潜り抜け、ロイドからの逃走し、尋常じゃない量の買い出しの手伝いをし、プレゼント何にするか悩みすぎて明後日の方向に駆け出してしまいそうなパーシーを宥め……いや今日マジで頑張ったな僕。これ僕にもご褒美あってよくないか?ない?嘘でしょ?


「っていうかロイドさーん?僕もプレゼントあげたんですけどぉ?お礼は?」


「あざーす」


「この野郎……っ」


 パーシーからのプレゼントは涙ながらに受け取ったくせにコイツ……。いやまあ確かにパーシーの便乗と言われたらそれまでですがそれでもちゃんと感謝の気持ちを込めてプレゼント選んだのに!

 余りにも軽すぎるお礼に眦が吊り上がる。しかしロイドは素知らぬ顔でペンが収まった箱を大事に大事にしまい直していた。

 

 いいもん、プレゼントとして買ったチョコは自分で食べます。全部食べてやるんだから。

 ぷりぷりしながら帰りが遅くなる僕の代わりに台所で料理をしてくれていたアインスと変わるべくエプロンを掛ける。

 どうやらサラダと汁物は作り終わっているようだ。流石アインス、完璧な出来栄えである。


「ありがとねアインス。あと僕が……あん?」

 

 僕のお礼と賞賛にアインスがサムズアップと『とんでもないっす』的な思念を飛ばしてくるのと同時に、エプロンの結び目がくんっと引かれる。

 何事かと振り返れば、いつの間にかロイドが背後に立っていた。


 なんだ、まだ文句かと口を尖らせる。そんな僕の様子に少し気まずげにぐぬ、と顔を歪めた彼は、しかしどこか困ったような、悔しそうな、でもどことなく嬉しさと照れも滲む複雑な表情で言った。

 

 

「うそ。ありがと」


 ドッッッ





「………………………………ういたしまして」


「なんか今変な音しなかったか?」


「してない。全然、一切、何も、無音」


「お、おう。そうか」


「うん、はい、どういたしましてこちらこそいつもありがとうね。はいパーシーとあっちでイチャイチャしててね。すぐご飯作りますからね」


「はい……?」


 疑問符を飛ばしまくるロイドの背中をぐいーっと押してリビングに戻す。

 その小柄な背中がソファーの向こうに消えたのを確認し台所に戻り、昨日の内に仕込んでおいた冷蔵庫から手羽先とゆで卵の煮込みを取り出す。

 鍋に入れ直して温めつつナスならぬナースーを煮浸しにすべく皮を剥く。


 ピーラーをナースーに当てて引いて───なんで、無心でやろうとしてるのにさっきから胸が苦しくて顔が熱いの。


「〜〜〜〜〜っ」


 何これ何これ訳わかんない。相手ロイドなんですけど。女装も甘んじて受け入れる変態ストーカーメンヘラブラコン鬼畜アンデッドなんですけど。え?何この体の反応意味わからないんですけど。ユウキエネルギーくんちょっと反応おかしくない?おい心臓動いて無いくせに何ドキドキしてんだよ止まれ。いや待って嘘だよ、違うって。これは違くて、そんな乙女的なドキドキじゃ無くてね。少女漫画的感情では無くてあのそう、その~~~え~~~っと、ほらあれ、そうあれ……そう!!


「『王命』への恐怖心がぶり返してきただけだから!!ね!?アインス!!?!」


 そうだきっとロイドのやつ今ちょっと『王命』使ってたんだ!いやー参っちゃうね!全くどんだけ僕の事メイドさんにしたいんだか!そうこれは一種の防衛反応!!恐怖へのドキドキ!恐怖政治万歳!いや万歳じゃないわこの絶対王政め!はー困る!!めっちゃ困るわー!!


 必死にそう自分へと言い聞かせる僕にピーラーを突きつけられ両手を上げたアインスは、非常に怯えた雰囲気でこくこく頷いていた。



 

 

 ……怯えと同時に呆れたような雰囲気も感じた気がするが、それはきっと気のせいだろう。






 



 ◆



 






「え、パーシーの後見ってベルのお父さんだったの?」


「俺が成年するまでなー。今は俺が後見」


 恐怖による身体反応を何とか落ち着かせ、夕食の食器も全て片付けた食後の時間。

 テーブルの上にプレゼントの一つとして買って来たチョコを広げた僕は、対面に掛けるロイドがもたらした情報に驚いた声をあげてしまった。


 ちなみに購入したチョコはドルニカさんおすすめの水紋チョコレート。その名の通りウェルデの運河を模した模様が表面に描かれた薄く繊細なチョコで、割るとひんやり感が口に広がる不思議なお菓子だ。一緒に買ったお酒にとても合うということで買ってきた。

 

 疲れてソファーで寝落ちしているパーシーの分を取り分けつつ、別のプレゼントの包装も開ける。その様子を頬杖つくロイドはぼけーっと眺めていた。


「そもそも俺自身あそこの家に育ててもらったようなもんだしな。博士からは言語とか計算式とかそういう研究に必要なもんは教えられたけど、モンスターとして大事なもんは何一つ教えてもらってねえ。全部ベルの親からだ」


「マッドェ……」


 期待を裏切らないマッドがマッドしている過去に思わずげんなり。

 まあどうぞ、と荒んだ目をするロイドへと青いグラスをすすすと差し出す。


「綺麗だな。これ酒とセットのグラスなのか?」


「そーそー。波紋グラスっていうの。これ凄いんだよ、見てて」


 青いラインが走る細身のシャンパングラスへとこれまたプレゼントとして購入したスパークリングワインを注ぐ。すると泡と一緒に水の波紋のような模様がグラスの表面に広がった。

 音もなく、とめどなく波紋が広がり続けるその様はまるで静かな雨の日の運河の水面のように綺麗だ。ロイドも思わずという風に感嘆のため息をついている。


「……本当にこれお前さんが選んだのか?パーシーとか店員じゃなく?あの美術力0モンスターが……?」


「失礼だな本当に……あくまで僕が苦手なのは自分の手で作る芸術だけですう。美的感覚は普通ですよ」


 何だその目は。言いたいことがあるならはっきり言え。名状し難い表情をするロイドをギロリと睨みつけながら「で、」と話を戻す。


「そう考えるとベルとの付き合い滅茶苦茶長くない?」


「まあもう家族みたいなもんだよなーとは思う。アイツの前では絶対言わねえけど。……あそこの家族にはだいぶ世話になったよ」


 乾杯、とパーシーを起こさないように静かにグラスを合わせる。


 彼が話す所によると、ベルとの馴れ初めはパーシーと出会う更に10年前まで遡る。


 博士の実験によってモンスターとしての生を受けたロイドは、生まれて数年は今の僕と同じようにリライヴェッジに部屋を与えられて生活していた。

 かくして世にも珍しいモン造モンスターとして生きる羽目になったロイドだが、博士から研究に必要な知識を与えられるその傍らで、モンスターをモンスターと思わない実験の実験体としても扱われていた。

 

 その実験は主に魔力関係のものだったために身体的なダメージはなかったそうだが、常に枯渇状態みたいになって気持ち悪いわ拒絶反応が出て辛いわ痛いわ苦しいわで散々だったらしい。

 しかしそれを言語化するような感情や情緒とかも当時は育っておらず、ただなんとなく疲れたという感覚だけでリライヴェッジを抜け出してぼーっとレードへと続く道から山を眺めていたらベルに声を掛けられたのだとか。


「そん時アイツなんて言ったと思う?『暇そうねアンタ。アタシの荷物持ちしなさい』だからな。初対面のモンスター相手にとんでもねえよ」


「いやその前に博士がとんでもないよ。なんなの?あのモンスターやっぱアンデッドが倒すべきラスボスなんじゃないの?」


 これだからマッドは……その研究のお陰で時間魔法の習得はすぐにできたらしいが、それで許される話ではないだろう。ロイドが今あっけらかんとしてられるのが不思議すぎる。


 ベルもベルだけどね。流石天下のベルリアナ、幼少期からブレなさすぎる。尊敬するわ。


「ベルの親が良いモンスターでなぁ。ベルが無理矢理連れ帰った俺に驚いてはいたが、事情を知るや否や『モンスターを何だと思ってるんだー』って博士に直談判しに行ってさあ。結局最終的にはある程度の年齢になるまでは普段の生活はベルの家が面倒見るって話がついて、毎日リライヴェッジとベルの家往復してたよ。いやー今思うとすげー修羅場だったなアレ」


「す、凄まじいね……でも、立派なモンスター達だね」


「ああ。あの家族に会えたのが俺の一番の幸運だよ。……ベルには感謝してる」


 チョコを口に放り込みながら感慨深く目を伏せるロイド。

 パーシーから聞いたふたりの出会い話の中で、衰弱したパーシーを運び込んだ先がリライヴェッジでは無くベルの家であったことが疑問でロイドへ尋ねたのだが、まさかそんな事情が絡んでいようとは……。

 ゲームでは一切語られていなかった事情が聞けて嬉しい反面、博士が今より倫理観なくて恐ろしいわで心が落ち着かない。

 

 博士が表面上とは言え今僕に優しくしているのはロイドという先例とベルの家族による叱責のおかげということだ。いやはや頭上がりません。レードにお住まいだというベルのご家族へと手を合わせた。


「という訳で、当時パーシーを拾った俺はそんな信用ならねえマッドの元ではなく、まともなベルの家族の元へとパーシーを運んだという訳だ」


「すごく納得しました……」


 そしてロイドが担ぎ込んできたパーシーすらも温かく受け入れたベルリアナ一家は、ロイドが成年しパーシーの養育権を持てるようになるまできちんと親としての責務を果たしてくれた、と。まるで聖人君子だ。懐が広いご家族なのだろう。


 パーシーもベルのご家族にはよく懐いており、家が離れた今も偶にふたりで顔を出しに行くくらいには良好な関係が続いているらしい。

 どこか誇らしげに語るロイドに尊敬してるんだなぁ、と思わず笑みが漏れてしまう。


「にしても……はあ〜〜〜パーシーでっかくなったよなあ~~~昔はこんな小さかったのになあ~~~」


「それは豆粒では」


 人差し指と親指で当時のパーシーのサイズを再現されるが、親指姫でももう少しデカいと反論する小ささで思わず苦笑する。

 兄というよりかは親のような目でパーシーを眺めるロイドに、僕は今日のお出かけの裏の目的を口にした。


「パーシーね、ちゃんと立派になったってお兄ちゃんに思ってほしかったみたいだよ。ちゃんと働いて給料もらって、ロイドが居なくてもひとりでちゃんと物事判断できるようになったって、そういう姿見せたかったみたい」


「……そうか」


 プレゼントの万年ペンが収まった箱をそっと撫でるロイド。その顔は寂しげではあったが、子供の門出を祝う喜びのようなものも滲んでいた。

 全く、度の過ぎたブラコンもこれで少しは大人しくなってくれるといいんだけど。

 

 そう思いながら困った兄のグラスに追加の酒を注ごうとした瞬間、ロイドの目からどおっ!と滝のような涙が溢れた。


「うわああ!?ちょ、今泣くんかい!!」


「うっうっ……パーシーぃぃ立派になったなぁ~~~でもまだお前を嫁には出さんぞ~~~結婚は早すぎる~~」


「えっ待って酔ってる!?このお酒そんなアルコール高かったっけ!?」


 どうやらメンタルに引っ張られて酔っぱらったらしいロイドが面白いこと言い始めた。とりあえずティッシュを差し出してやる。

 セリフがまんま娘の結婚式前夜の父親だ。兄の筈なのに。この調子じゃパーシー離れはまだまだできそうにないな……。

 

 まあ、彼がそこまでモンスターに愛情を持てるようになったのもベルのご家族のお陰なのだろう。本当に立派なモンスター達だ。

 一応泣き止んだっぽいロイドのグラスに改めてお酒を注ぎながら呟く。


「良いご家族だね」

 

「ぐず……ん。まあそうだな。あそこの家族に育ててもらってなけりゃ、多分俺はパーシーのこともみて見ぬ振りしてた。恐ろしい話だな。……そんな他者との関わり方を知らない俺をまともにしてくれたのはあの家族と、あと……」

 

「……?」


 ふと、ロイドの口が止まる。グラスの表面で踊る波紋を静かに見つめる彼の表情には、懐かしさと、寂寥感、諦観と───ほんの僅かな恋情のようなものが覗いていた。


 何を……誰(・)を(・)、思い出しているのだろうか。

 そう思った時、小さな痺れのような違和感が胸に走った。


 

「……ベルの両親と兄さんはいいモンスターだよ。なんでアイツはあの家族のもとで育ってあんな暴君になったんだろうなあ……」


「うわー、それベルに聞かれたら殺されるやつだよ。録音しとけばよかった」


「やめろ」


 言い淀んだ事など無かったように、ロイドは平然と会話を続ける。


 僕も、何も気づかなかったように冗談に乗って笑った。

 

「会ってみたいなあ。今度紹介してね」

 

「その内な」



 


 ───最後のチョコレートは、やけに口の中に残る冷たさが強かった、気がした。



お読みいただきありがとうございます。これにて『黄の都市』幕間終了です。


次話より『赤の都市』編突入になります。クズ+ド◯ヤギさんと◯◯◯コスプレラウちゃんが出てきます。書くの楽しみぃ〜。


そして新編突入にあたり、数話ストックを作りたいので二週間ほどお休みをいただきます。(更新ペースを上げたい……!)

次回更新は2/9 17時頃を予定しています。どうぞよしなに!

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