↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/155

幕間【黄】「いつもおしごとありがとう」 其の一

明けましておめでとうございます。今年もモンスターテールをよろしくお願いします。


 ───それは、いつも通りロイドの家で夕食を作って食べ、食後のデザートを口に運んでいる時のことだった。

 


「ラウ、明日暇ならぼくとデートしてくれないか?」


 

 食器を洗うパーシーが何気なく放ったその言葉は、まったりとした空気流れるリビングにとてつもない衝撃を与えたのだった───











 

 


 聖霊教会襲撃事件及び、聖霊教会とおもてなし本部による前代未聞の同盟の締結が陛下によって大々的に報道されたことにより、被害を最小に留めた救世主にして同盟締結の立役者たる『ラウ親善大使』の名は一躍有名となった。


 今までは名前ばかりが先行し、実際に事業の恩恵を受けた『緑の都市(ウェルデ)』以外の国民にとっては、ポッと出の、大きな後ろ盾を持つだけの得体が知れないモンスターという印象しか無かったラウ親善大使の名だが、ニンゲンに対し特に頑なであったあの聖霊教会に政策へ全面協力を引き出すという快挙を為したことでようやく目に見える肉が付き、どことなく不明瞭であった親善大使の役割や政策の重要性が国民に知れ渡るようになった。


 政策に対する考えも、モンスターの導き手であり守り手であると公言する聖霊教会が認めた政策であるのならきっと悪いことにはならんだろうと、またウェルデでの成功例もあって、今まで懐疑的で消極的であった国民の態度も少しずつ軟化してきており、今魔法界各地では沸々と、静かにではあるが、ニンゲン文化を取り入れようとする動きが見えるようになってきた。


 そうなれば必然的におもてなし本部や親善大使執務室への問い合わせや打診が増える。

 やれあんなことしてみたいだの、補助金はいくら出るだの、あっちだこっちだと魔法界中を駆けずり回る羽目になり、政策に携わるモンスター達は皆阿鼻叫喚……もとい、嬉しい悲鳴を上げていた。


 そしてこの状況の発端となった当の僕はと言えば、各地から挙げられる要望に対してニンゲン文化知識をこねくり回しては最適な形になるようアレンジを加え、時に魔改造も施すことで必死に捻り出しつつ、必要があれば親善大使として現地に赴き「これからもよろしく」と要職につくモンスターと握手を交わし、メディア媒体でこれからの展望を語り、著名モンスターと対談し、バラエティー番組に出て、食レポをしてと忙しく……あれ?親善大使ってなんだっけ?

 


 そんな訳で親善大使という役職の内訳に首を傾げながら、そして自分の肩にのしかかる重責に怯みながらも、新しく得た友が教えてくれた矜持と師から借りた誇りを胸に気持ち新たに死に物狂いで舞い込む事業打診に取り組むこと一ヶ月。

 ようやく落ち着いてきた状況に小休止を取ろうと、久しぶりに取得した休日を前にウキウキとロイドの家に晩御飯を食べに行った───のだが。

 


 

「……………パーシー」


「う、うん」


 新たな障害を前に頭痛が加速。片手で眉間を揉み、もう片方の手で首を絞めてくる腕と格闘しながら僕は盛大なため息をついた。


「君はもう少し凶暴なブラコンを飼っているという自覚を持とうか……」


「ごめん……こんなことになるなんて……」


 ギリギリと、万力込めて僕の首を絞める笑顔のブラコンにもはや抵抗の意志を見せることすら疲れ、首に身体強化をかけてせめて折られまいと耐える。

 そんな僕からパーシーは凄まじく気まずい顔で目を逸らした。

 

「大丈夫だパーシー、兄様がお前にたかる虫は全部叩き潰してやるからな」


「おいおい遂に僕のこと虫扱いし始めたよこのアンデッド。イカれてやがる」

 

「な、なんでこんなことに……さっきまで仲良くアイス半分こしてたのに……」

 

 いっそ感心すら覚える早業で僕に技を掛けるロイドは、凄く使命感と慈愛に満ち溢れた声でそう宣った。

 ヤバすぎるよこの兄、ノータイムで襲いかかってきた。無言で技かけてきたんだけど。戦国時代だってもう少し慎み深いと思います。


 そりゃこんな弟溺愛マジ卍男の前でデート行こうなんて言ったらこうなるに決まってる。自分の言動が及ぼす影響というものをそろそろ学ぼうねパーシーくん。身体強化してなかったらこれマジで首折れてるからね。

 

 爽やかな顔で弟を狙う不届き者(誤解)へとヘッドロックをかけ続けるロイドと、もはや諦めの境地でとりあえず首だけ死守する僕。パーシーはそんな僕らを引き離そうと奮闘している。

 一瞬にしてカオスになった場を収集つけるべく、僕は斜めった姿勢のまま「ていうか」とロイドにしがみつくパーシーに胡乱な目を向けた。


「デートって何するか知ってんの?パーシー」

 

「ふたりで遊びに行くこと?」


「違うわ」

 

「可愛いかよ……」

 

 パーシーの情緒は正直ニンゲン換算で中学生……いや下手すると小学生並みなので、デートなんて何するのか知らないんじゃないかと思ったが案の定だ。ほら見たことかとため息をついて弟の純粋な返事に相好を崩す兄の腕をタップする。


 おら離せブラコン、とっとと早とちりしたことを頭を垂れて謝罪しやが……っ!?コイツなんて澄んだ目で技をかけ続けてやがる……っ!?

「今後の脅威になるから今殺っとくか」とか恐ろしいこと抜かし始めたんですけど!バカじゃないの!?

 いよいよ身の危険を感じ全力で拘束から逃れようと藻搔く。うおおお外れねえぇ!!


「パーシー、そりゃ誰の入れ知恵だ?」


「ベルがそう言って誘えばラウは喜んで付いてくるって教えてくれたんです」

 

 ジタバタ暴れる僕を意に返す様子もなく、モンスターひとり締め落とそうとしているとは思えないほど平然とした声でパーシーへと疑問を投げかけたバカは、その返答に治安悪く舌打ちした。

 

「アイツパーシーに悪影響しか与えねえな。そろそろシメるか……」

 

「その前に僕の首絞めるのやめろや……っ!!」

 

 いい加減苦しくなってロイドの鳩尾に結構本気の肘鉄を入れる。クリーンヒット、苦しげに呻いて床で身悶えるロイドをせせら笑う。

 はんっ!自分が教えた護身術で撃退されてちゃ訳ないぜ!無様無様ァ!


「んで?デート云々はともかくとしてお出かけしたいの?」

 

「ああ、ちょっと協力して欲しくて……」

 

「うん?」


 こいこいと僕を手招くパーシーに寄っていくと耳に口を寄せられる。みぞおちを抑えて恨めしげに僕を睨むブラコンの視線が突き刺さるが無視してコソコソと耳打ちしてくるパーシーにふんふんと頷く。

 

「……は、…………で、……なんだ」

 

「ふーん、魔法界にもそういうのあるんだ」

 

「うん。それで……だから、……と思ってて」

 

「なぁるほど?」

 

「おい、俺にもわかるように話せ」

 

 意味深な相槌に痺れを切らしたロイドが口を挟んでくる。

 とは言われてもねぇ。パーシーに目線で伺うと困った顔でぶんぶん首を振られたので、近寄ってくるロイドにNOと牽制の手のひらを突きつけた。

 

「ロイドはあっち行ってて。お呼びじゃないって」

 

「はああ?おいパーシー、ラウに言えて俺に言えない話ってなんだ。兄様に隠し事するのか?」

 

「えっと、その……」


「そのセリフ面倒臭いメンヘラ彼女みたいだよロイド。引くわー……危ねえ!!ドライ投げるのやめろ!」


 豪速球で飛んできた殺傷能力の高い棘だらけの頭蓋骨をリンボーダンスの要領で避ける。近衛を投擲武器にするな!しかも一番殺傷能力が高い恐竜型の頭蓋骨(ドライ)を!投擲武器にされたドライの気持ち考えたことある!?

 

 鼻先を掠めた棘に動いていない心臓をドキドキさせながら目を回してふらつくドライを抱えて抗議の声を上げる。

 しかしロイドはパーシー以外一切眼中にない顔で訥々と説得をし始めた。


「パーシー、兄様はお前が心配なんだ。外には危険がいっぱいだし、ラウは変態なんだよ。用件も行き先も告げずに変態と一緒に危険な外に出るなんてダメだ。そんな悪い子に育てた覚えはないぞ俺は」


「まだ言うかこのメンヘラモラハラブラコン兄貴……」


「出掛けたいなら俺が付いてくよ。明日は俺も休みだし、久しぶりにふたりで買い物しよう。な?」


「いや……あの……」

 

 全力の『王命』を食らって動揺し思わず口走ってしまった発言を一か月以上経った今もまだ掘り返すロイドにこめかみがぴくぴくする。

 

 嫉妬ゆえかやけにふたりでを強調して僕を除け者にしようとするロイド。大変ムカつくのでその後ろから青筋浮かべて「ガツンと言ったれ」とパーシーにジェスチャーで伝える。

 しばらく僕らに挟まれオロオロとしていた彼だが、しかし自分の今回の目的を達成するためにはやはり兄には一緒に来てもらいたく無いと結論を出したか、非常に苦しげな表情でわっと大きな声を上げた。

 

「に……兄様には関係ありませんから!!放っといてください!ラウと行きます!」

 

「!!?!!!!???!?!!?!」

 

 まさか愛する弟にそんなハッキリと拒否されるとは思っていなかったか、ビシャァァンッと雷に打たれた様に体を強張らせたロイド。

 哀れ、彼はショックのあまり砂となってサラサラと風に飛ばされたのだった……ざまぁ!








 



 さて、過保護で狭量なブラコンが弟の一撃によって砂となったあれから一夜明けた午前10時頃。

 ベルから借りている聖霊教会巡礼者ローブを身に纏い目深にフードを被った僕は、ウェルデ主要街の転移門広場でひとり待ち人ならぬ待ちモンスターが現れるのを今か今かと待っていた。


 今日は奇しくも二度目のパレード開催日であり、転移門広場には多くのモンスターで賑わっている。

 今回のメイン開催場所は主要街ではなく少し外れたエリアであるが、それでもそこかしこに出店が出ていて主要街は開催場所に負けず劣らずの賑わいだ。

 楽し気な来場客や商魂たくましい出店の売り子。数カ月前とは打って変わって騒がしくなったウェルデの姿に、発案者として思わず笑みが零れる。


「ラウ!すまん、遅くなった」


「おはよパーシー。大丈夫だよ、そんなに待ってない」


 パレード開催エリアまでの行く臨時魔導バスに多くのモンスターが乗り込むのをニヤニヤして見ていると、遂に本日の待ちモンスターであるパーシーが緑色の光と共に転移門に現れた。慌てた様子で駆け寄ってくる涼し気な格好の彼に気にするなと手を振る。


「兄様がな……玄関で駄々こねて……」


「いい歳したモンスターが何してんねん」


 あのモンスター今年で28歳とか言ってなかったっけ?もうおじさんに片足突っ込んでる男が10歳下の義弟を困らすんじゃないよ。

 やだやだと年甲斐もなく駄々を捏ねてパーシーに縋りつくロイドがありありと思い浮かんで朝からドッと疲れる。実際に縋りつかれたパーシーも疲れた顔を……いやよく見たら疲れた顔ながらも兄の愛を目の当たりにしてどこか嬉しそうだった。全く相思相愛ブラコンどもめ。


 

 せっかくのパレード日ではあるが、今回の僕らの目的は観光ではなくショッピングだ。パレードを見に行くのは後で時間があったら、と早速目当ての物を探しに行くべく転移門広場からメインストリートへと移動を始めたのだが。


「ラウ、お前それ暑くないのか?9月とはいえまだ日中は気温高いぞ」


「あっつい……」


 ジリジリと焦がすような残暑の陽光と長い丈のローブによって蒸し焼きにされながら、隣を歩くパーシーの言葉に素直に頷く。


 ウェルデは王都を含めた7都市の中でも比較的四季がはっきりしており、6月から9月くらいまでは夏らしい暑さに見舞われる。流石に砂漠の都市であるロシェには負けるが、それでもこの季節は猛暑と呼んで差し支えないくらいちゃんと暑い。すれ違うモンスター達も皆しっかりと通気性の良さそうな涼しい服装で暑さ対策をしている。


 しかしながらどんなに暑くても僕はこのローブを脱ぐ訳にはいかない。未だ己がある意味インフルエンサーという自覚等ありようもなく、一般庶民的感覚のままの僕自身の意識は兎も角として、ラウ親善大使の顔は今や魔法界の誰もが知るところなのだ。こんな大勢のモンスターが居る場所で顔を出せば色んな意味で騒動になる可能性がある。


 そんな訳で、目を合わせてしっかり会話したりしなければ何となく薄らぼんやりとした印象しか抱けなくなるこの認識阻害術式付きのローブは最近の僕のお出かけマストアイテムとなっている。

 本来は巡礼中のトラブル回避とかのための魔術なので悪用して申し訳ない限りではあるが。


「まあ僕命狙われてる説もあるしね……面倒くさいし死ぬほど暑いけど変装はせんと」


「た、大変だな……」


 せめてもの足しにと持ってきた手持ち扇風機で汗だくの顔にぬるい風を当てる僕を心底気の毒そうに見下ろすパーシーは、歩きながらふと何かを考えるように虚空へと視線を投げた。

 どうした?と首を傾げると、徐に彼は僕の持つ扇風機をひょいと奪い取り、


「『氷結』」


「お?」


 詠唱。すると短い呼びかけに反応したパーシーの魔力がパキパキと音を立てて扇風機の羽を薄い氷で覆い始めた。

 何事かと目を見張る僕の目の前で繊細に魔力を操るパーシーは、最後に「『保存』」と仕上げを施しては扇風機をポンと返してくる。


「これでいくらか涼しくなるんじゃないか?」


「え!?うわ冷たい風出てくる!なにこれ!」


 稼働するや否や、先程とは比べ物にならない位涼しい風を生み出すようになった扇風機。羽は全て氷で薄らと覆われており、裏面の風を取り込む部分には小さな宝石のような氷塊が取り付けられており冷気を放っている。

 羽を回す機構には一切干渉しないよう細心の注意が払われた完璧な仕事にすごいすごい!と大興奮すると、パーシーは穏やかに表情を緩めた。

 

「本当は氷でネックリングでも作って直接冷やせるようにしようかとも思ったんだが、肌に直接氷当て続けると低温火傷するしな。一先ずはこれでしのいでくれ。メインストリートに着いたら冷たい飲み物でも買おう」


「ええ……ちゅき……ありがとう……」


 僕じゃ逆立ちしてもできそうもない繊細な魔力操作による超絶技巧と、まるでお手本のような紳士的対応にハートを撃ち抜かれてメロメロになる。

 やだぁなにこのジェントル羊惚れちゃうよぉ。どこぞの鬼畜アンデッドに爪の垢煎じて飲ませてやりたい……。


「………………」


「ん?どうした?」


「いや……」


 パーシーの爪の垢を煎じた茶なら喜んで飲みそうだな、なんて業の深い兄を思って遠い目をしたその時、視界の端に良からぬものが映った気がして思わず足が止まる。

 

 まさかなと思いつつも嫌な予感が拭えず、首を傾げるパーシーの横でキョロキョロ。出店の並び、通行モンスターの間、建物と建物の隙間、と視線を巡らせて。


「…………………………………」


「ど、どうした!?物凄い形容しがたい顔してるぞラウ!」


「いや、ん、うんん……」


 信じられない光景を見つけて眉間を揉む。嘘だと思いたい。いや多分見間違いだよ。そうだようんきっとそう。最近マフォコンのモニターばっか見てたから目が疲れてるのカナー。

 ざわめく心を落ち着かせるためまずは大きく深呼吸。首を回して緊張をほぐし、頭痛を和らげるように眉間をマッサージ。よしよしオッケー今なら何が起きても平然としていられ……


「る訳無いだろうがなんちゅー格好してんだよ兄様……っ!」


 建物の影からこちらを観察する見慣れた───いや、見慣れた男の面影のある見た事ない可愛い女(・)の(・)子(・)を発見してしまい、くらりと目眩を覚える。

 そう、遠くから僕らをギリギリと複雑な感情が入り混じった目で睨みつけていたのは、絶世の美少女に擬態した僕らが兄ロイドであった。


 フリルがふんだんにあしらわれた水色のワンピースに、同色のヘッドドレスで長(・)い(・)薄茶色の髪を纏めた彼……女は、モンスターを選びそうなロリータファッションを見事に着こなしてそこに居た。

 少し幼い容姿故か、女装していてもその佇まいにあまり違和感はない。それどころか似合いすぎてて通行モンスターが通りがかりに「エッ可愛い」とか「わっ!にんぎょうかと思った」とか驚きの声を上げている始末だ。

 

 なんでここに……いや後を付いてくるのは想定していたけどもあの格好は何だ。変装のつもりか?逆に滅茶苦茶目立ってんぞ。

 近衛達が敬愛する王の変わり果てた姿に愕然としている雰囲気までも感じ取ってしまい、驚きやら衝撃やらからなんだかやるせない気持ちに感情がシフトする。


 なんであのアンデッドパーシーのことになるとここまでポンコツになるんだろう……。どうツッコめばいいのか悩んでいると、据わった目とバチッと視線がぶつかった。

 まあこっちを観察してるモンスターを凝視していれば必然的に向こうも僕が気付いたことに気づく訳で、しかし距離がある為大声で会話する訳にもいかず、どちらからともなくボディーランゲージによる対話が開始される。


 スッ、スススッ、くいくいっ

『何でここに居んの?っていうか何その恰好。パーシーに言っていい?』


 ササッ、ササササッ

『パーシーが心配だったからに決まってんだろ。あと絶対言うな言ったら殺す。絶対パーシーの視線こっちに向けさせるな』


 可愛い格好に似つかわない殺伐とした表情で首を親指で掻き切って下に向けるジェスチャーで対話が締めくくられる。なんて野蛮なんだ……可愛い格好しているのに。過保護もここまでくれば病気だな。

 とりあえずマギホで隠れるロイドを撮影しいつか強請るためのネタとして確保しつつ、パーシーに女装した兄が付いてきているというショッキングな事実を悟られないよう誘導しようと振り返って、そこでようやく僕は傍らにパーシーが居ないことに気が付いた。

 

「あれ!?パーシー!?」


「ラウ、こっちだ」


 まさか早速逸れたかと大慌てで周囲を見回せば、モンスター混みから頭一つ高い位置に羊耳が見える。細身の体でするするモンスターの間を抜けて駆け寄ってきたパーシーは、両手にストロー付きのカップを持っていた。


「大丈夫か?顔色が悪かったから暑さで気分が悪くなったのかと思って飲み物買って来たんだ。飲めるか?」


「ぱ、パーシー……っ!!」


 心配そうに僕の顔を覗き込むパーシー。余りの優しさに口が戦慄き手で抑える。後光が……後光が差して見えるよ……っ!女装ロイドと殺伐としたやり取りをした後だから余計にパーシーの優しさが身に染みて仕方がない。


「ありがとう、ありがとう……っ!」


「そ、そんな泣くほど喉乾いてたのか……?」


 乾いていたのは喉では無くて心だよ……。感涙する僕に少し引きながらも片方のカップを差し出してくれるパーシーに感謝申し上げながらありがたく受け取る。

 

 そうだよ、もうあんな女装ブラコンの事なんて忘れてこの優しいパーシーとの時間を大事にしよう。折角の休日なんだ、変態なんかに構って時間を消費するのは勿体ない。さっさと買うもん買って残った時間はパーシーと水上パレード観に行こう。

 この都市の新しい名物であるティラミスはパーシーが生みの親と言っても過言ではない。前々から独自に進化したウェルデのティラミスをパーシーも食べに行きたいと言っていたし、色々食べ歩きしながら散策しようそうしよう。


「パーシー、もう買うものアレでいいんじゃないかな。あの謎の置物。多分喜ぶよ」


「なんでお前いきなり適当になったんだ……」


 なんだかそう結論を出したらもう早く買い物を終わらせたくなって、メインストリートに立ち並ぶ雑貨屋の店頭に置かれた謎の四足歩行の生物を模した置物を適当に指さす。なんだあれ……カバ?カバっぽいな。なんかちょっと禍々しいペイントがされた上に頭がガクガク揺れてて見てると不安になるけど、うん多分アレもらったら喜ぶんじゃない。もうアレでいいと思う。

 

 しかし僕の投げやりさはしっかりと伝わってしまったのか、ジトっとした目で却下されてしまう。ちぇーっと口を尖らせていると、その雑貨屋の隣に気になるのぼりを見つけた。

 

「わ、リンゴ飴じゃん。懐かし~」


「リンゴアメ?これはリップル飴だぞ」


 パーシーを伴ってスススッと寄ってみれば、串に刺さった赤い飴がキラキラと並んでいる。

 果実飴を売る出店を前に思わず懐かしい名前を口にすれば、首を傾げたパーシーに訂正された。なるほど、こっちではリンゴのことリップルって呼ぶのかと脳内でメモしながら、僅かに上がったテンションのまま店主に「一つください」とお金を差し出す。

 食べ歩きに丁度良さそうな小ぶりのものを選んで、そのままはい、とパーシーに差し出した。


「昔からこれ好きなんだよね。一口どうぞ」


「メ?いいのか?じゃあ……」


 折角のお祭りだしね。時間もたっぷりあるし、美味しいもの食べて楽しみながら行こうじゃないか。

 そんな気持ちでパーシーの口元に差し出せば、パーシーも少し気になっていたのか何の抵抗もなく齧り付こうと頭を屈める。


 遠慮がちに開いた口がリップル飴に触れる───寸前、突然視界の端から水色のものが猛スピードで飛び込んできては僕の首に強烈なラリアットを繰り出してきた。


「グファァァァッ!?!」


「ラ、ラウーッ!?!」


 首に走った衝撃に悲鳴を上げながら水色の物体諸共地面に転がる。そのまま息をつく間もなく僕の体は何者かに引っ掴まれては路地裏へと引きずり込まれた。

 何事かと目を回しながらも顔を上げる。その横をダァンッと壁を破壊する勢いで手を突かれ逃げ場を塞がれた。


 そんな乱暴なことをするモンスターなど、ひとりしかいない。


「おいこらラウぅ……」


「こ、この鬼畜アンデッド……っ!なにすんねん、首折れたかと思ったわ……っ」


 やはりと言うべきか、僕とパーシーの仲睦まじい「あーん」を邪魔するべくをラリアットかましてきたのは女の子にしか見えない完璧メイクを施したロイドであった。

 青筋立てたニッコリ笑顔で胸倉を掴み上げられる。


「何パーシーとふしだらな行為してんだコラ。詰められてえかここで。あ゛?」


「ねえやめてその顔でそんなドス効いた声出さないで脳壊れちゃう。裏声でしゃべって」


「テメエぶっ飛ばすぞ(裏声)」


「ぶひゃひゃひゃひゃっ!」


 マジでやるのやめてよ、女装してる事実も相まって面白すぎて笑い死んじゃう。キレてる癖に謎にノリのいいロイドにひーひーと笑い殺されそうになりながら、直接話せるなら丁度いいと今日の行動の真意を尋ねる。


「うくく、ふふ、げほっ……はあ、死ぬかと思った。で、なんでそんな恰好してんの?趣味?」


「んな訳ねえだろ。ミモザに相談したらこうなった」


「ミモザェ……」


 僕のことは勿論だけど、ロイドもほとんどニンゲンと同じ容姿だからニンゲンの造詣大好きなミモザからすればロイドも大好物なんだよね。

 そしてミモザはどちらかというとニンゲンの女の子の造詣の方が好きだから、変装ならばこれ幸いとロイ子ちゃんと創り出してしまったと……弟のお出かけを監視する為ならば女装も受け入れる兄と、同僚に女装をさせることに何も抵抗ない変態花。どちらの方が業が深いんだろうね。どっちもか。


 受け入れど羞恥心はあるのか生温い目で自分を見つめる僕に頬を染め歯をギリギリ鳴らしたロイドは、恥じらう美少女の顔でキッと眦を吊り上げた。


「俺のことはいいんだよ。いいか、少しでも如何わしいことしたら締め落としからの猫包囲の刑だからな」

 

「はいはい分かった分かった。お兄様が心配になっちゃうようなことはしませんて」


「半径5メートルは離れて歩け」


「それはもはや偶々行き先が同じな他モンスターの距離でしょ。普通に歩かせろ」


 弟のことになると見境なくなる兄からの無理難題に、本日何度目になるか分からないため息をつく。

 そろそろ戻らないとパーシーが心配してしまう。ロイドもこの格好パーシーに見られるのは嫌だろうしさっさと戻るかと、汚れたローブの軽く叩いて立ち上がり……しかしやられっぱなしは少々癪だなと僕は仁王立ちするロイドを振り返った。


「ロイド」


「あ?何……」


 マギホで内カメラを起動し、サッと隣に並んでシャッターを切る。カシャーッというシャッター音が鳴り響き、上目遣いカメラ目線のロイ子ちゃんとのツーショットがマギホに保存された。


「なっ、バッ、テメエラウゥゥッッ!!!」


「わーははははッ!!」


 強請るネタはなんぼあってもいいのさ!!ブチギレて絶叫するロイドを置いて高笑いしながら路地裏から飛び出す。

 ばーかばーか悔しかったら追いかけてみやがれ!今追いかけてきたらまず間違いなくパーシーにバレるがな!!


 ロイドが報復に出られないことを良いことにパーシーの元へと戻る。リップル飴片手に僕を探し回っていたらしいパーシーは、全力ダッシュで逃げてきた僕を見つけては「あっ!」と声を上げた。


「ラウ大丈夫か!?さっきの子は!?」

 

「ごめんごめん、無事だよ。さっきの子は道に迷っちゃって困ってたんだって」


「そ、そうか……その割にはすごい勢いだったな」


 まあ迷っていたのは道では無くて今後のライフプランの方向性かもしれんがな……なんて鼻で笑いながらへらりと嘘をつく。

 とりあえず諸々終わったらロイ子ちゃん写真パーシーに見せてやろ。いや逆にパーシーに見せるぞってロイドを脅すのもいいなぁ……。ベルに売りつけるのも面白いよねぇ。どーしよっかなぁ、ふふふ。


 今日のお出かけが終わった後も楽しくなりそうだと、メインストリートを改めて進みながらクックッと悪どく笑う。パーシーはそんな僕を見て首を傾げるのだった。

 

 

 


大概主人公も外道。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。