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聖霊教会大聖堂 地下大図書館 其の八

前話、微妙にラストが変更になっています。

 突きつけられた司教杖の切先が首の皮を突き破り、僅かに血を滲ませるのにはっと息を呑む。

 その音に驚愕から我に返ったロイドは、空いている手を上げながら引き攣った声を上げた。


「あー……一応どういう思考回路でそういう結論が出たか教えてもらっても?聖女サマ」


「アレはお前の配下と同じ不浄なモノです。そんなモノを誰にも悟られず、しかもあんなに大量にここに配置できる者等、あの摩訶不思議な移動術を持つお前にしかできぬ芸当でしょう」


「俺の能力を高く買っていただいて大変恐縮だが、残念ながらコレそんな万能なもんじゃねえんだわ」


 音もなく景色が切り替わる。司教杖の拘束から逃れる為僕諸共アジェルの隣に『移動』したらしい。だがそれでも聖女が放つ圧は依然としてこの場を支配しており、物々しい雰囲気に思わずロイドの白衣を掴む。


「そんでもって俺にここの祭壇を壊すメリットもねえ。そもそもラウから連絡来るまで図書館の奥にそんな重要施設があるのも知らなかったしな」


「口では何とでも言えましょう。あんな不浄なモノを操れるなんて、不浄なモノの王たるお前以外にいるとでも?」


「面倒くせえ……」


「ろ、ロイド。下ろして」


 ようやく我に返った僕は仲裁に入るべくロイドの肩の上で小さく身動ぎした。

 ロイドはそんなことしない。彼の言う通りメリットが無いし、理由も無い。僕が時の祭壇が破壊されたと報告したときも「時の祭壇?」と疑問の声を上げていた位だし本当に知らなかったと思われる。あれが演技だとは僕には到底思えない。


 そもそもアレは、ブライテッドはアンデッドとは違う。全く異なる存在なのだ。でもこの感覚は恐らくアンデッド(僕)だから分かるものだ。ならば僕が説明するのが一番納得してもらえるだろう。

 それに何より、ロイドがそんな魔法界の存続に関わるような破壊行為をする筈がない。知り合って数ヶ月だけど、たったそれだけの時間しか一緒に過ごしていないけど、そんな酷いことをするモンスターじゃないって僕は分かっている。


 なんとか僕がシエルリーファ様を宥めなくてはとロイドの背中をペシペシ叩く。

 しかし彼は何故か下さず、僕の訴えをまるっと無視して弁明を続けた。

 

「アレは『成れの果て(アンデッド)』じゃねえ、『穢れた果て(ブライテッド)』だ。俺らとはまるっきり違う存在だよ」


「何が違うというのです。出自が違えどどちらも正しき輪廻の輪から外れ地を穢すモノでしょう」


「結果としては同じかもしれねえけど、出自が違うってだけで十分俺の管轄外なんだよ。多少言うことを聞かせるのがせいぜいだ。俺には生きてる者を堕とすなんて芸当はできねえよ。むしろそれはそ(・)っ(・)ち(・)の(・)専(・)門(・)だろうが」


「……教会を愚弄するつもりですか?」


「愚弄も何も本当のことだろ。記録だって残ってるんだ、なにせ教会から出た不始末の尻拭いを最終的にしたのはリライヴェッジらしいからな。アンタらとしては消したい恥の記録だろうが」


 何の話をしているのかは分からないが、どうやらロイドの言葉はシエルリーファ様の琴線に触れたようだ。ギリッと歯を噛んだシエルリーファ様が放つ圧が重くなる。

 しかしロイドは一切たじろかない。真っ向から睨み返す彼に、いよいよ一触即発の空気を感じて更に背中を叩いた。


「ロイド!下ろしてってば!」


「うるせえ大人しくしてろ」


「大人しくできるか!シエルリーファ様!本当にロイドの言ってることは本当なんです!アレは僕らとは、アンデッドとは違うんです!知識不足で何が違うかは説明が難しいんですが、確かに違くて……」


 必死に声を張る。魔力枯渇のせいで力は入らないし、眩暈すらしてきたがここで黙ればシエルリーファ様と僕らの間に取り返しのつかない溝ができてしまう。そんな事絶対にあってはならない。

 

 僕の訴えに僅かにシエルリーファ様は押し黙った。聞こえているのだとほっとする。

 僕のことをちゃんと見て、アンデッドモンスターとアンデッドは違うものであると認識を改める必要があるって言ってくれた彼女だから、きっと分かってくれる。

 

 そうだ、シエルリーファ様ならきっと分かって……


「…………アンデッドの言うことが、信じられるとでも?」


「────」


 捻り出したような言葉に、喉が引き攣った。


 二の句を告げず呆然とする。信じていたものが目の前でぐちゃぐちゃに踏み躙られた気がした。お前達とは、所詮死者であるアンデッドとは相容れることは無いのだと断言された気持ちになって、それ以上の言葉が紡げなくなる。


 肩の上で項垂れた僕にロイドは盛大に舌打ちした。


「そのアンデッドに助けられたくせに良いご身分だな。……これ以上話してても埒あかねえから帰らせてもらう。」


「…………っ!待ちなさい!」


「待つわけねえだろ。現場検証やらで大使様の証言が必要ならリライヴェッジを通してくれ。アジェル行くぞ」


「あーその、ロイド。あのー……」


 忌々し気に吐き捨ててこの場を去ろうとするロイド。待って、と止めようにも口が上手く動かない。体の奥底から沸いてくる感情を持て余していると、一番後ろで静観していたアジェルが僕の目を見ては凄く気まずげな顔で小さく手を上げた。


「んだよ、もう話してても意味ねえだろ。これ以上何話せって」


「いや、そうではなくでだな」


 アジェルの制止に苛立たし気に振り返ったロイド。そんな彼に困惑……というか若干引いたような顔をして、アジェルは僕を指さした。


「ラウがブチギレてるでござる」


「は?どわっ!?」


 ロイドが素っ頓狂な声を上げるのを合図に、足裏に『(・)八(・)艘(・)』(・)を(・)展(・)開(・)す(・)る(・)。拘束された状態から抜け出すべく思いっきり紫の波紋を蹴り、ロイドの体を蹴倒す勢いで空中に飛び出した。

 心臓がやっちまえと言わんばかりに熱を発してなけなしの魔力を沸き上がらせる。余すことなく全て『八艘』の展開に回し宙を駆ける。


 駆ける先は、傷ついたように苦々し気に顔を歪めていた聖女。司教杖を胸の前で握りしめていた彼女は、突如目の前ちょっと上に現れた僕に驚いたように目を見開いた。


「こ、ん、の……ッ!!」

 

「は……はっ!?」

 

 大きく息を吸って、怒りのまま腕を振り上げ、


「バカ聖女ーーーーーーッ!!」


「痛ああああっ!?」

 

 渾身の叫びと共にその額に思い切り手刀を振り下ろす。

 ドガァッ!!と痛そうな音と共にクリーンヒットした跳び蹴りならぬ跳びチョップによってひっくり返った聖女と共に床に倒れ込んだ。


「ラウーーーッ!?大丈夫でござるか聖女殿---ッ!?」


「うわあああテメー何してんだ魔力枯渇してたんじゃねえのかーーッ!?」


 背後から男子ふたりの絶叫が響くが構わずマウントポジションを取り、目を回すシエルリーファ様の襟ぐりを掴み上げる。ぐらっぐらに視界が揺れぶっ倒れそうになるが、根性で耐えてその体を揺さぶった。


「見損ないましたよシエルリーファ様!なんですかそのにっっっがい顔は!それ本当はア(・)レ(・)が(・)ア(・)ン(・)デ(・)ッ(・)ド(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)っ(・)て(・)わ(・)か(・)っ(・)て(・)る(・)顔ですよね!?」


「っ」


「は?」


 ギクリとばかりに顔を引き攣らせるシエルリーファ様へ額を突き付けんばかりに迫る。どうやらロイドは本気でシエルリーファ様がアンデッドとブライテッドの区別もつけずに一方的に断定していると思っていたらしい。間抜けな声をあげている。


 いや、なんだったらその方が遥かにマシだったかもしれない。そうであれば理解頂けるまで拳でもなんでも使って説得するまでだ。

 だがそうではない。彼女は───聖女シエルリーファは、教会を守るため、最も度し難いことをしようとした。


「アンデッドじゃないことは分かってる、けど貴女はあえてアンデッドのせいにしている───モンスターの拠り所である聖霊教会を守るためには内部犯の仕業にするわけにはいかないから、だから都合がいいロイドのせいにしようとしてるんでしょ!?」


「ぐ……っ」


「な……っ!?」


 図星を突かれた顔をしたシエルリーファ様に更に怒りが沸き上がる。


 ふざけるな、ふざけるな!そんな事許すか!許せるか!!


「無実のモンスターを、例え聖敵だとしてもこの場を救ってくれたモンスターにそんなことしちゃダメだろうが!」


 陛下の遣いである僕や聖女が儀式の間に入ってきたタイミングで事を起こしたこと、聖霊教会のネットワークを使用できなくしたこと、そして詳細は分からないが教会と切っては放せない存在であるらしいブライテッドをこの場に召喚したことから、この事態を引き起こした者が教会内部の……それもかなり上位の者であることは間違いない。


 それが外部にバレれば、そしてその内部犯のせいでモンスターの最後の砦であった時の祭壇が破壊されたと知れれば、教会に非難が殺到するのは目に見えている。非難の目が向けば教会はその威光を貶めることになり組織力の弱体化は免れない。そうなればきっとこの事態を引き起こした者の思う壺だ。

 そうならないように彼女はロイドという外部犯を仕立て上げようとしたのだ。聖敵として分かり易い彼を犯人に仕立てあげ、非難の的を逸らそうとした。


 その判断は聖霊教会の上位として、モンスターを守る聖女として正しいものなのかもしれない。

 だけど、それは象徴たらんとする彼女の高潔な意思に反しているのはその表情から火を見るより明らかだ。嬉々として行っている訳では無い。むしろ罪悪感で今にも死んでしまいそうな顔だ。


 だから僕は怒っているのだ。───恩を仇で返す行為に、そして僕に誇りを語った聖女シエルリーファがその誇りを自ら貶めようとすることが。


「ふざけるな、僕に象徴としての覚悟を語ったくせに自分で自分を貶めようとするな!貴女はそんな事を良しとするモンスターじゃない筈だ!」


「で、も……」


 誰かが僕を止めるように肩を引くが、その手を払ってなおもシエルリーファ様を揺さぶる。苦々し気な顔をするシエルリーファ様へ怒りをぶつける。


「そもそもここまで用意周到に教会を壊滅の危機に陥らせた相手が、そんなちゃちなスケープゴートを許すとでも!?それすら逆手にとって何の罪もないモンスターを悪者に仕立て上げたと流布してさらに教会に非難を向けようとするでしょうよ!っていうかロイドはおもてなし本部所属のモンスターですよ!?そんなこと陛下が許す訳ないでしょう!?王城と全面戦争でもする気ですか!?」


 きっと焦っていたのだろう。ひとりで何とかしなくてはいけないと追い詰められていたのだろう。

 それでもそんな事しちゃいけない。ましては貴女が。モンスターを守る象徴が、そんな悪いことに身を落としちゃいけない。そんなこと許さない。


 息を切らす僕の目の前で静かに俯くシエルリーファ様。唇を戦慄かせ、顔を青くするが、しかし次の瞬間キッと前髪の向こうから鋭い眼光が僕を刺した。余りの気迫に思わず唇を引き結ぶ。

 

「……じゃあ、どうすればいいと?」


「……」


「もう憲兵隊も騎士団も動いているのです。貴女の部下も。カルベンの民は避難までしている。あの時の指示が間違っていたつもりはありませんが、しかしここまで大事になれば何事もありませんでしたと闇に葬ることはできません。正直にすべて公表しろと?───モンスターの拠り所である聖霊教会が裏切り者によって無様にも壊滅の危機に陥り、守るべき民を危険に晒したと!?冗談も大概になさい!!」


 吠えたシエルリーファ様が僕のシャツを掴む。怒りを込めた瞳が真っすぐに僕を射抜く。

 震える手で揺さぶる彼女は尚も聖女として叫んだ。


「どうすればよいと言うのです!!敵の目的が分からない以上、聖霊教会の影響力が弱体化することは何としてでも避けねばならない!例え無辜の民を悪に仕立て上げたとしても!そうしないと我々はモンスターを救う力を失うのです!」


「その悪に仕立て上げたモンスターだって教会が守るべき存在でしょうが!冗談言ってんのはどっちだ!」


「───っ」


 そこでそんな顔しちゃうようなモンスターが、「聖敵なのだから構わないだろう」と切り捨てられない、無慈悲になれない優しいモンスターがそんなことしないでくれ。

 祈るような言葉が口から出ないように歯を噛んで、代わりに高速で脳を巡らせる。

 

「どうすればいいって?思考を止めるな、使えるものは何でも使うんだよシエルリーファ様。僕らが今もここに残ってる状況を使え」


「は……?」


「この事態を引き起こしたのは教会内部の者じゃない。親(・)善(・)大(・)使(・)の(・)命(・)を(・)狙(・)っ(・)て(・)る(・)奴(・)ら(・)だ」


「!?」


 呆気に取られるするりとシエルリーファ様の手が襟ぐりから離れる。背後で誰かが息を呑む音がする。

 しかし構わず脳内でパズルを組み立て続ける。


 やることはシエルリーファ様がやったことと同じだ。この事態を引き起こしたのは教会内部犯ではなく外部犯であると公表する。

 しかしその犯人はロイドではない、新たに作り上げる。全く存在しない者ではだめ、嘘っぽくなってしまう。話を作る時には本当のことも少し混ぜる必要があるとは腹黒陛下の言だ。

 ならば丁度お誂え向きの連中がいるのだからそれをありがたく使わせてもらおう。


「おもてなし政策に異を唱える一派が……ウェルデ水上パレードの時にモヴ避けの都市結界を破壊し、クラーケンを親善大使に嗾けた一派が今度はカルベンと事業を行おうとするのを阻止するために聖霊教会に不法侵入したことにしましょう。今も憲兵隊や騎士団の捜索を潜り抜けている連中です、聖霊教会の警備セキュリティも抜けたとしてもそこまで荒唐無稽って話では無いでしょう」


「何を、言って……」


「そして僕らが始祖聖霊様に祈りを捧げるタイミングを見計らって大量のブライテッドを召喚し、僕や事業に賛成したシエルリーファ様を亡き者にしようとした。何故ブライテッドを召喚したのかと言えば教会の仕業に見せかけたかったとか……まあその辺はブライテッドがどういう存在か正直僕は知らないので後々詳細を聞いてから詰めるとして、あと……」


「っ、待ちなさい!そんな話にすれば貴女に非難が向くでしょう!」


 ぶつぶつとひとりで呟く僕を止める為シエルリーファ様が僕の手を掴む。焦るその薔薇色の目と言葉にきょとんと目を瞬かせた。


 ロイドに非難が向くようにしようとしたのに、僕に非難が向くのは危惧する。余りにも矛盾した考えに、その考えが産まれた理由に、そして聖女らしからぬエゴに塗れた発言に、ようやく沸き上がる怒りが鎮まっていく。


 なんだかそれがおかしいような嬉しいような気分になって、息を抜くように笑えば彼女は怪訝に目を細めた。どうやら自分の言っていることの意味が分かっていないらしい。全くツンデレなんだから、とその温かい手を握り返した。


「助けてくれたモンスターが悪者になって、仲良くなれたモンスターが罪悪感に苛まれるよりもずっとマシです」


「───っ」


「ひとりで何でもかんでも抱えようとしないでください。僕だって力になってくれたシエルリーファ様の力になりたいんですよ」


 ひとりで突っ走るからそんな考えになるんだ。ひとりで考えるからどうしようって不安になって焦って、責任感に押し潰されそうになって、だから魔が差す。でもそんなのは高潔なシエルリーファ様には似合わないだろう。

 折角傍に居るんだから頼ってくれ。僕だって貴女のことをそ(・)う(・)思っているんだから。


 言葉にせず、でも伝われと微笑めば、驚いたように見開かれた薔薇色の目に涙の膜が浮かぶ。ぎゅうっと握られた手が震え、唇が戦慄く。


「それに、その辺に関してはあんまり心配していませんよ」


 確かにシエルリーファ様の言う通り僕に向く非難は有るだろう。おもてなし政策なんてものを聖霊教会に持ってきたからこんな事態になったのだと、諸悪の根源は親善大使だと後ろ指を指す者は間違いなく現れる。

 だが後ろ指を差される覚悟はもう出来て……いると言い切れる程固まっている訳では無いが、しかし悪しきざまに言われる可能性はもうとっくの当に承知しているのだ。

 

 そしてこと今回の件に関しては、解決というか緩和する策は頭の中に浮かんでいる。

 それを行うためにはこの目の前に居る聖霊教会上層部の枢機卿であり、影響力の強い聖女の力が必要であるけども、きっと今の彼女なら嫌とは言わない筈だ。


「仲良くなった聖女様が……友達が、庇ってくれるって信じてますから」


「……っ、……ご、めんな、さい……」


 震えるシエルリーファ様の頭を撫でる。すると今までのツンはどうしたという勢いで抱き着いてきた。おおう、とシリアスが霧散し思わず口から情けない声が漏れ出る。


 すると背後から突然ぺふぺふぺふと拍手のような音が聞こえた。


「うっうっ……美しきかな友情……拙者こういうの弱いでござる……」


「……友情物語とか不良映画とか好きだもんなお前さん……」


 肩越しに振り返れば一連の流れに感極まって号泣するアジェルと、その隣でなんだか名状しがたい表情でそれを見上げるロイドが見えた。なにしてんだあの虎……と呆れた目を向けていると、ふとロイドとバッチリ視線がぶつかる。

 そう言えばさっき蹴っ飛ばしてしまったのだった、と今更恐ろしい事実を思い出し再びざあっとエネルギーが顔面から引く。


 やばい絶対怒られる。いやでも下ろしてって言っても下ろしてくれなかったロイドが悪い……バカ野郎そんな事言ったら余計怒られるわ!

 すわ説教かと身構えた瞬間、何故か彼はとんでもなく酸っぱいものを口に詰められたような謎の表情を浮かべた。


 え、何その顔。


「はあ……良いものを見せてもらったでござる。さて、話も纏まったことでござるしそろそろ戻るでござるか」


「っ!あ……」


 僕らに手を差し伸べるアジェルに、ようやくシエルリーファ様は状況を思い出したのかパッと顔を上げた。

 そして涙の跡が残る顔でアジェルを見上げ、僕を見上げ、そして僕の背後のロイドに視線を向けた彼女は不安げに瞳を揺らしてはおずおずと頭を下げた。


「……大変、申し訳ございませんでした。助けに駆けつけてくださった貴方に、あんな言葉を……お許しください」


「え、あ、いや……」

 

 心底申し訳なさそうなシエルリーファ様にギョッと目を剥き、たじたじになって首を振るロイド。「お、俺も結構なこと言っちまったし……」と所在なさげに視線をさ迷わせるその様が珍しくて噴き出した瞬間───緊張の糸が緩んでぐわんと視界が回った。


「あ」


「きゃ!?」


「うおっ!?大丈夫でござるか!?」


「無理矢理動くから……っ!」


 全身から力が抜け、そのままぶっ倒れる。僕の体を支えきれず諸共倒れたシエルリーファ様が短く悲鳴を上げた。頭上でワタワタ慌てる気配と、何か僕をののしる声が聞こえる。


「あ゛ー……し……ぬ……」

 

 流石に魔力枯渇状態で無理矢理『八艘』を使ったのが祟ったのか、遂にぴくりとも体が動かなくなる。倦怠感ヤバい、なんだこれ体重すぎる。エイデルに圧し掛かられてもここまで重くないぞどうなってんだ……しかも眠くなってきた。でも気持ち悪い、うう吐きそう……うえぷ。


「ちょ、起きなさい!親善大使……ラウ!ここで吐いたら流石に殺しますよ!?ちょっと!?」


「慈悲も……な……い……うえっ」


「きゃあああああっ!耐えなさい!!ラウ!!」


「わあああバカ絶対吐くな!!耐えろ!!誰か魔力ポーション持ってねえのかよ!?」

 

「は、早く地上へ連れてくでござるううう!!」



 

 ……あれ?今シエルリーファ様僕の事名前で呼びました?


 その疑問はちゃんと言葉になったかどうかも判然としないまま、積み重なった疲労と倦怠感と全身の痛みによって僕はすこんと意識を手放した。

 

 

 

 

 

 


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