聖霊教会大聖堂 地下大図書館 其の六
一応公式設定で昨日(12/1)ロイド氏の誕生日だったのですが本編が全然それどころでは無いので、カルベン編が終わったらブラコン尊死の幕間をあげます。
ハナガタミ流火剣『火廻』は、紫炎を纏った剣で対象を斬ることによりマーキングを施し、マーキングした対象を中心に火花を拡散させる火の渦を発生させ、最終的に巨大な花を模った炎を地面に咲かせて周囲の敵を焼き殺すという凶悪極まりない中範囲攻撃だ。
その名の通りハナガタミ流属性技の一つであり、僕が唯一扱える剣技である───と言っても、あくまで自らの魔法属性的に使用できる技、というだけであってハナガタミ流を習得した後ロイドと特訓した時には一度も成功させることができなかった曰くつきの技でもある。
そもそも剣に炎を纏わせられなかったり、マーキングの紫炎がすぐに剥がれたり、炎の渦が持続しなかったり、最終段階にこぎつけられても炎の花が歪すぎて範囲攻撃の体を為していなかったり……なまじ『八艘』が割りかし直ぐに成功した為に、その落差も相まってロイドに「これは酷い」と言わしめたくらいこの技の習得には難航した。というか習得できなかった、のだが。
「ユウキエネルギー様々だわな……」
実は耐久力を向上させ、炎を纏っても破損しないように強化する魔術が施された魔道具だった剣を肩に担ぎ手を握る。
本番に強いなんて言えば聞こえはいいが、残念ながらこの成功は僕の魔法の制御が突然上達した故のものではなく、この体に流れるエネルギーのお陰である。
僕の生命の危機に応じて身体能力の上昇や魔力の総量を増やすユウキエネルギーは、どうやら拙い魔力の制御もフォローしてくれるらしい。難なく剣に魔力を纏わせることができているし、訓練の時とは比べ物にならないくらい紫炎の制御が容易い。
本当に得体の知れないエネルギーだ……。自分を生かすエネルギーの凄さと気味の悪さに嘆息する。
「ま、とはいえ使えるもんはなんでも使っていくのが親善大使執務室のモットーなんでね。ありがたく恩恵は受けますよって」
肩に担いだ剣に再び紫炎を纏わせる。術者自身には熱も延焼も及ばさない魔法の炎は、どうやら僕を包囲する彼らにとって警戒すべきものとして認識されたようだ。一向に縮まることのない包囲網にふむと思考を巡らせる。
策を要することも戦術を練ることもなく、一心不乱に僕に向かって腕を伸ばすだけだから碌な意識など無いと思っていたがどうやらそう言う訳でも無いのだろうか。少なくともあの動きはこの炎は脅威であると判断しているが故のものだろう。
やはり一応王の命令を聞くくらいの知能はあれど基本的には餌であるモンスターに向かってくるだけのアンデッドモヴとは違う。アンデッドモヴは僕が紫炎出しても怯えたりしないし、多少の炎であれば問答無用で特攻してくる。
デュラハンさんなんて体に紫炎が引火しても気にせず僕の首狙ってくるからな。色んな意味で怖すぎるんだよあのモヴ。
まあしかし、それならばこちらから掛かるだけだ。
警戒して動かないのなら好都合、と再び『無拍子』で特攻しようと構えた───その時だった。
背中が粟立ち、半ば無意識的に顔を仰け反らせる。背中側から放たれた一閃は狐面の頬部分を削り取り、目と鼻の先を割れた仮面の破片と鈍く光る錆びた刃が通り過ぎた。
まさしく殺気と呼ぶべき気迫に、その正体を脳が認識する前に体が脅威を退けようと動き出す。跳ね上げた右手で紙一重で躱した剣を弾き、すぐさまその場から飛びずさった。
「────ッ」
一瞬の間に起きた命のやり取りに遅ればせながらドッと汗が噴き出る。
あの一撃を躱せたのは奇跡だ。ユウキエネルギーが活性化していて気配とかそういったものにいつもよりも敏感になっていたから気付けたというだけ。直前まで全く兆候がつかめなかった。
普段の自分であれば振り返る間もなく後頭部を突き刺されていたであろう攻撃に、戦闘開始からこの方自分の思うように事を進められたことで生まれていた余裕が一気に消える。
「……はは。多勢に無勢だけならず強敵も投入ってか」
あまりにも殺意の高い布陣に涙が出ちゃいそう、なんて軽口も強張った声で呟けば虚勢にもなりやしない。
振り返った先に立つ、群れを成すソレ達とは毛色の違うふたつの影───襤褸というには綺麗すぎる法衣を纏う聖職者と、聖霊教会のエンブレムが入った錆ひとつない剣を差し向ける騎士が放つプレッシャーに思わず喉を鳴らした。
まさかのここにきて武器持ちの登場。しかも強そう。そんでもってあの聖職者も絶対魔法使うだろ。ふざけるなよただでさえ圧倒的な数の差があるのに戦力増強とか反則すぎる……なんて状況を分析することで冷静さを取り戻そうと試みるが、目につく違和感のせいでうまくいかない。
違和の正体は分かっている。例にも漏れずこの二体の体も黒い何かに侵されており、焦点の合わない目に光は無い。だが、それでも大群で襲ってきたソレ達に比べるとどこか理性的というか、まだそこまで壊れていない感じがするのだ。
確かに苦しげに呻いているし、時折悶え苦しむような動きをするが、大群と化している奴ら程狂っていないというか。なんとも難しい感覚だが、しかしその理由については彼らが纏う装備からしてもなんとなく察しがつく。つまり、
「その状態になって、まだ日が浅いってこと……?」
────口からついた疑問への回答は、顔面へと迫る一閃だった。
瞬きの間に眼前へと迫っていた剣の切っ先に息を呑む。突き刺さる寸前に必死に顔を振って避けるも、すぐさま突きから横一文字に斬り払いへと移行した剣筋が首を刎ねんと追ってくる。
情け容赦一切ない刃の軌道に自らの獲物を割り込ませ、ギャリギャリと刃と刃が擦れ削れる嫌な音を立てつつも逸らして間一髪防ぐ。
早すぎる。いつの間に肉薄された?油断なんてしてなかったというのに、気が付けば一瞬で詰められていた。
距離を取るべく『無拍子』で後ろへと飛退く。しかし安心するのも束の間、騎士の後ろで分厚い本を片手に立つ聖職者から無数の銀の矢が猛スピードで飛んできた。
余りの密度に迎撃は不可能とすぐさま判断を下し『無拍子』を連続使用、範囲から逃れる。
「づぁぁいっ!?」
遠距離攻撃を凌げば再び殺意マシマシの剣戟が襲い掛かってくる。首、胴、腿を狙う三連撃を上体を逸らして避け、体を捻って避け、苦し紛れに剣で弾く。
だが騎士の猛攻は止まらない。仕切り直しなんてさせないとばかりに頭をカチ割ろうと上段から脅威が振ってくる。切り降ろしの刃と迎撃の刃がぶつかり硬質な音を立て、そのまま十字に交差しギチギチと拮抗する。
「ぐ、ぅ……っ!ふざけ……っ!」
重すぎる剣に悪態が口から零れるも、言い切る前に足元が黒く明滅し始めた。嫌な予感に全力で騎士の胴を蹴り飛ばして無理矢理距離を取れば、一拍後僕がいた場所にどこからか現れた巨大な十字架が床をぶち抜いた。
飛び退いた先にも無数の銀矢が飛来し、転がるようにして回避する。いつの間にかまたしても迫ってきていた騎士が床に這いつくばる僕の頭を串刺しにせんと上から下への突きを繰り出す。
跳ね起きるように上体を起こせば目の前を剣線が走った。次の攻撃が来る前に『無拍子』で全力の後退をする。
「───ッ」
はっ、と止めていた息を吐きだす。プレッシャーと恐怖と息をつく間もない猛攻に噴き出た汗が頬を伝う。
───やばい、やばいやばいやばい!この状況は不味い、本当にダメだ。勝てない!
危機的状況に頭の中でバチバチと閃光が走るような感覚を覚える。数合打ち合って分かった、あの騎士には勝てない!腕力も、剣の技量も、素のスピードも何もかもが僕を上回っている。余りにも力量差が隔絶としすぎていて、勝てるビジョンが何も浮かばない。恐怖に喉が引き攣る音を立てる。
辛うじて『無拍子』を使用したときのトップスピードは僕の方が上のようだが、しかしだからと言って『無拍子』を常に発動させることは不可能。僕はこの技を完璧に習得できている訳では無いし、連続四歩までの踏み込みを加速した所で逃げ切れる気がしない。
それに『無拍子』は言ってしまえば身体強化魔法の重ね掛け、多少なりとも魔力を消費する。連続四歩を何回も使用すればいずれ魔力が枯渇する。枯渇して動けなくなればあの剣の錆にされることは明白。むやみやたらに使うわけにはいかない。
そして後ろに控える聖職者も本当に嫌なところを狙ってくる。騎士の攻撃の隙間を埋めるように放たれる遠距離攻撃が滅茶苦茶厄介だ。シエルリーファ様の銀矢と同じであれば石の壁すら穿つ威力のものを、大量に、面攻撃で放ってくるのだ、脅威でしかない。
迎撃は無理、避けるしかないが回避行動に専念すればまた騎士が襲ってくる。なんてコンビネーションだ、本当に意識無いのか?
いや、それよりも今この場をどう切り抜けるかだ。どうする、どうすればいい?全力でアジェルの元まで逃げる……?ダメだ、コイツらが僕のことを追ってきたら『儀典魔法』の詠唱に入っているシエルリーファ様にも危険が及ぶ。アジェルに助けを求めるのも同様の理由でダメだ。
ならば『火廻』は?……アレもどちらかというと範囲攻撃だ。あの動きの素早い騎士に避けられたらおしまいだし、予備動作も大きい。聖職者の遠距離攻撃で邪魔されたら発動どころじゃ……。
敵を見据えたまま思考を巡らせたその時、何の前触れも無くそこかしこからおぞましい叫び声が、悲鳴が、狂笑が響きだした。
まさか、と頬の筋肉が引き攣る。今の今まで様子見に徹していたソレの群れが何故か皆一様に苦しむような様子を見せ、そして脅威など忘れた様に一斉に僕へと向かって走ってきたのだ。
それだけではない、まるでオーディエンスを得て絶好調とばかりに剣を構えた騎士も地を蹴って僕へ駆け出し、聖職者が自身の背後に大量の銀矢を生み出し始めた。
「うっそでしょ……っ!?」
───絶体絶命。そんな言葉が脳裏に過った。
◇
「……なんでござる……?」
ひたすら聖女へと向かってくるソレを切り捨て続けていたアジェルは、自らの預かり知らぬところで状況が変化した空気を感じ取りその虎耳をピクリと揺らした。
背に庇う聖女は変わらず聖句を唱え続けている。
厳かな光の中、玉の汗を浮かべながらも鬼気迫る表情で『儀典魔法』を練り上げる様は一刻も早く魔法を完成させてやるという気迫がひしひしと伝わってくる。
現に今聖女を取り巻く光の帯───聖霊を崇め、奉り、祈りを表する聖句が可視化された魔力の言霊とでもいうべき帯は今や何重にも重なり、光の奔流ともいうべき光景を織りなしている。
過去に一度教会との共同戦線の折に見た聖職者5名によって発動した『儀典魔法』となんの遜色もないほどに放たれる威圧感に頼もしいと思いつつも、しかし胸を騒がせるモノは彼女所以のものではないと視線を外した。
そして悟る。今し方切り捨てた者……己の友が従えしアンデッドに近しくもそれよりも悍ましい、命のあり方を歪められし存在『ブライテッド』の亡骸から黒い靄が噴き出る。
この短時間で幾度となく見た光景のその向こう、自分や聖女へと絶え間なく殺到していたその後続が、何故か皆踵を返して儀式の間へと戻り始めた。
何事かと目を見開く。
何故ブライテッドが最大の脅威であるはずの聖女を差し置いて戻っていくのか、のろのろと足を動かしこちらへと手を伸ばすだけだったモノが、何故焦燥や恐怖を狂った表情の中に滲ませて儀式の間へと駆け出したのか。
何故?何があった?理解の範疇を超えた事態に呆気に取られる。
だが、それでもアジェルは理解した。これは危機的な状況の変化であり、そしてその渦中にいるのはブライテッドが向かう先───
「ラウ……ッ!」
まずいと、儀式の間へと単独駆けて行った彼女の元へと参じるべく足を踏み出す。
しかし儀式の間へと続く道は大量のブライテッドによって塞がれている。邪魔くさい、と焦燥感に狩られるままその身に魔力を漲らせ、足裏から地面が宿す『地』の魔力を吸い上げて自身の膂力を強化する。
何かの罠では無いのか、そう冷静な自分が警鐘を鳴らす。
しかしだからと言ってラウを見殺しにするという選択肢は無い、と無視して一歩踏み出す。
だが罠であった場合、自分があの戦場に飛び込んだ瞬間を狙ってようやく最終段階に入った聖女の『儀典魔法』の発動を阻止すべく後ろから攻撃される可能性がある。この事態を引き起こした者はこの状況を作るためにかなり周到に用意をしている。ならば今この瞬間も我々の隙を伺っているのではないか。離れた瞬間に儀式の間へと向かって行ったブライテッド共がまたもこちらへと向かってきたら。
葛藤し、思わず二の足が止まる。焦る思考の中で色んな可能性を検討する。しかし、しかし、しかし───
「アジェル」
──思考巡らせる彼の肩にふと軽い衝撃が走り、そしてここに居ない筈の男の声が聞こえた。
「聖女の方頼むわ。───俺が行く」
脇を抜けて行ったそのモンスターは、思わず目を見開いた自分へとすれ違いざまに金青の一瞥を投げかけ、そして目の前で忽然と姿を消した。
◆
儀式の間は、乱戦という言葉すら生ぬるい状況へと陥っていた。
「ッ、らあ゛ッ!!」
心臓を狙う一突きを強引に剣の腹で受け流し、そのままの勢いで懐へ飛び込む。
鎧に刃を当てた所で大したダメージは与えられないのはここまでの打ち合いで分かっている。狙うは隙間、ブレストプレートとフルフェイスの隙間へと切先をねじ込むように叩きつける。
しかし向こうが剣を引き戻す方が早い。騎士剣の腹で受け止められた切先がガリガリと傷を作る。早すぎるんだよ、と焦りと苛立ちと死への恐怖で煮立つ脳で罵りながら追撃。しかし振り降ろした剣すらも弾かれる。
攻撃を弾かれたことで硬直する僕に向かって剣線が走る。無理矢理上体を反らして躱す。崩れた姿勢のまま苦し紛れに繰り出した蹴りは当たらずも相手を後退させることに成功する。
遠距離攻撃くる。体勢戻せない、致命傷になり得るものだけ弾け。端的な状況把握と思考ともいえない脳からの断片的な命令だけを頼りに剣を握る腕が動く。ドガガガッと硬質な音を立てて何本もの銀矢が軌道を変えて床に刺さった。
しかし捌ききれなかった銀矢により頬に線状の傷が走り、左の二の腕が切り裂かれる。痛い、だが止まるな。止まったら死ぬ。攻撃から目を離すな。
「あ゛ぁあ゛っ!」
騎士に庇われる聖職者目掛けて剣をぶん投げる。高速で戦場を駆け抜け騎士の脇を抜けて行ったその行く末を見届けることはせず、背後から迫りくるゾンビもどきの顔面へ振り返りざまに拳を叩きこむ。
怯んだ隙にそのぼろぼろの襟を引っ掴んで騎士目掛けてぶん投げた。その後ろ諸共巻き込んで盛大に吹き飛んでいく。
「邪魔ァッ!!」
剣を右手の中に再転送。際限なく僕へと襲い掛かってくるモノを斬り上げて、袈裟切りして、突いて、斬り下ろして、薙ぎ払って、柄で殴る。
雑魚は一撃で仕留めろ、コイツ等に思考は裂くな。剣をぶん投げて数体纏めて串刺しにし、首を折る勢いで手当たり次第蹴って殴る。
今までの比にならない密度と猛攻の連続でもう体力も魔力も尽きかけている。『無拍子』も『八艘』も使えない、使ったらこの戦線を辛うじて持ち堪えてる要である身体強化が切れる。剣と徒手空拳でしのぐしかない。
体にのしかかる疲労感と尋常じゃない倦怠感に膝が笑う。っていうかどこもかしこも傷だらけのボロボロじゃないか。ジャケットはもう服としての機能を為さなくなったのでとっくの昔に脱ぎ捨てた。白かったワイシャツは僕の体から流れた血色のエネルギーによって真っ赤だし破けてるし裂けてるし、なんでこんなことになってるんだろう。ここに何しに来たんだっけ僕。
「はーっ、はーっ!」
必死に酸素を取り込む。痛い、苦しい、だが止まるな。止まれば死ぬ。身体強化だけは切らすな。ただそれだけを考えて体を動かす。
ワイシャツが掴まれ裾が千切れる。掴む腕を切り落とし肘鉄を打つ。振るった剣の柄尻を反対側から迫るソレにぶち込む。ふらついたその体ごと後ろの奴の心臓部に剣を突き刺す。
手の中で瞬時に剣を再転送し逆手に持ち換え背後を切り払う。倒した端からまた襲ってくる。止まるな、まとめて薙ぎ払う。
戦闘開始してからどのくらいの時間が経った?儀典魔法はまだか?まだ教会騎士団は到着しないのか?あああなんで騎士も聖職者もまだ動くんだよふざけんな。なんで一向に数が減らないんだバグか?難易度調整がクソすぎる誰だよゲームデザイナーはクリエイターを出せ謝罪会見をしろ。ヤバイ頭おかしくなってきた。
「……ふっ、くく、ふはははっ!あははははっ!」
馬鹿じゃないのゲームじゃないから死にそうになってんでしょうが。あーダメだ頭おかしいぶっ壊れてんじゃないの。死にそうな目にあってんのに笑うとかおかしい。でも笑いがこみ上げてきて仕方がない。何この状況、ふざけるなよ。
そうだ死にそうなんだ僕。なんで?どうして?何故か僕のことを目の仇にして襲い掛かってくるアイツ等のせいだわ。なんでこんな死にそうな目にあってんだよ許せない。死にたくない死にたくない死んでたまるか。
僕が死ぬ前にお前が死ね。
「ッ、あああああっ!!」
心臓が熱を発した。それと同時に少しだけ回復した魔力をすぐさま『無拍子』の発動へ回す。
立ち上がって剣を構える騎士の脇を抜けて、先の一撃で殺しきれていなかった聖職者へと肉薄。まずはお前だチクチクチクチクずっと遠くから刺してきてむかつく、絶対殺す。
ぶん投げた剣は当たりはしていたようでその胸には抉れたような傷が残されている。そこ目掛けて全力で剣をぶち込むべく右腕を引き絞る。
銀矢の雨が聖職者の頭上に展開され、同時に足に何かが巻き付きその場に拘束される。無理に動けば足の肉が裂けそう。知るか馬鹿それでも動け。
歯を割れんばかりに噛みしめて無理矢理前進。勢いの止まらない僕から聖職者を庇うように有象無象が割り込んでくる。
「だったらっ!纏めて死ね!!」
長い刀身が立ちふさがるモノを全て巻き込んで聖職者の胸へと突き刺さる。剣を通して紫炎を燃え上がらせれば、一瞬の間に紫炎に巻かれた数体は聞くに堪えない絶叫を上げて悶え苦しみだした。
再転送。左肩に担ぐように剣を構え、火だるまと化したソレらの首目掛けて剣を薙ぐ。
轟々と唸る紫炎の中、最後に「あ゛」とだけ呟いた彼らは───ゴロリとその体から首を落とした。
「……ッ、は……っ」
発動寸前だった銀矢の魔法が霧散し、聖職者が持っていた分厚い本だったものが床に落ちる寸前に塵と消える。
それを見届けると同時に膝から力が抜けた。がくりとその場に膝をつく。
視界が霞む、足首が燃えるように痛い、力が入らない、重い、気持ち悪い、苦しい。
紫炎によって熱せられた空気を必死に肺に取り込もうと口を開くも、疲労のせいで喉が開かない。まるで岸に揚げられた魚のように喘ぐ。
剣が手から滑り落ちる。手を離すな、何も状況は終わっていない、まだ戦わないと死ぬ。立て、立て!!
「ぐ、がっ!」
震える腕で立ち上がろうとするも、無数のソレによって押さえつけられ床へと無理矢理引き倒される。身動きが取れない。
だめだ、まだ、まだ終わるな。全て倒せ、死にたくない、立て、早く立て、戦え!
「────ッ!!」
今にも途切れそうな意識の中、残った魔力全て使って紫炎を噴き上げる。
まるで消える寸前のろうそくの火のように膨らんで燃え上がった紫炎はのしかかるモノを燃やし尽くすが、しかし長くは続かない。
魔力切れによってすぐに紫炎は消失し、再び殺到したモノによって拘束される。抜け出そうと必死に藻掻くがもう体のどこにも力が入らない。内臓を圧迫する重さに呻く。
まだだ、まだ終わってない、立て、立て───そう脳が命令するも、魔力どころか体力すら残っていない体は拘束を解くことができない。
明滅する視界の中に鉄靴の尖った爪先が入り込む。ガシャガシャと音を立てて自分の同胞を殺した敵の眼前へと立った騎士は、その騎士剣の切っ先を下へと向けた。
「……っ……や……だ……」
鈍く光る切っ先を見て、恐怖に思考が支配される。
死にたくない。こんなに頑張ったのに、死にたくない。
取り落した剣へと手を伸ばすが、それすらも取り押さえられる。
頭上からガシャリと甲冑が鳴る音がする。誰かの足音がする。自分を取り押さえるモノの呻き声と、嗤い声が聞こえる。
嫌だ、やだ、怖い、いやだ
「死にたく、な───」
誰でもいい、だれか、
「助け」
「はいストップ」
突如体に圧し掛かる重みが消えて、霞む視界の中で白色が翻った。




